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妖怪現る!?調べろ鬼業!

「妖怪を見ました」



 2月の初め。


 こたつを愛する武力外交官見習い達は、今日もぬくぬくテレビを見ていた。


 楽しい格闘実技、辛く苦しい勉強。そんな日中の疲れを癒やす楽しいひと時に、放たれた一言。



「妖怪???」


 珍しい、鬼業の頓狂とんきょうな声。



「はい。妖怪を、見たんです」


 春風は、冗談を言っている風ではない。本気で喋っているっぽい。



 春風の持って来てくれたみかんに舌鼓を打っていた所、この発言である。


 押しも押されぬ以無鬼業と言えど、動揺を隠しきれなかった。




 妖怪・・・・?戦えるのか?妖怪と?



 ・・・この男に、常識的な反応など期待出来るはずもなかった・・・。



「あれは、1月の最後の日。私がいつも通り、深夜の徘徊を行っていた時です」


 春風の趣味は、散歩であり、視察だ。そして視察とは、あらゆるものの観察。


 今回は、富士山の様子を見て来たらしい。そう、先の騒動以来、立入禁止となっている区域だ。


 請け負った仕事でもなく、武力外交官見習いとしての本分でもない。


 ただの趣味として、春風は警戒厳重な富士に侵入、プレシオサウルスと遊んで来た。



 鬼業は、そんな春風の趣味を、それとなく聞いていた。春風は鬼業と敵対する事を望んでいるわけではないのだ。教官には告げずとも、鬼業や寮の仲間達には話して遊び回っていた。


 万が一、ミスって、外国のスパイとの嫌疑をかけられれば、鬼業と戦う羽目になる。そうなれば流石に日本には居られない。いかな春風忍と言えど、死んでしまう。


 だから、悪意、敵意が無い事を説明してから好き勝手していたのだ。



「ヤッシー達の健康状態を見てから、こちらまで駆けていた時」


 当然、足は自分の足だ。春風が出歩くのは深夜。電車も動いていないからな。


たけ、10メートルはあったでしょうか。ちょっとしたビルくらいの、人間が居たのです」


「ほおお」


 いわゆる見上げ入道、もしくは、だいだらぼっち。実在するなら、是非とも戦ってみたい。


「場所は都会の中心部。戦うには不味い場所と思い、おびき寄せるために鎖鎌くさりがまを打ち込みましたが、その瞬間に、姿を消したのです」


「ふむ・・・」


 さっぱり分からん。妖怪なら、すぐに消えても、何の不思議も無いが。


「皆に周知しておいた方が良いでしょうか?」


「だな。知っていれば即応出来る。それに戦える場所も、皆で探しておこう。おれ達が市街地で、そのままヤるわけにはいかない」


「はい」


 教えると言う事は、春風の趣味もそのままバレる。だから、仲間内の話に留める。



「強そうだった?」


 鬼業の部屋に集合した皆に、改めて春風が説明。そして河川が口火を切った。


「どうでしょう・・・。消えた後の道路を見てみましたが、へこんだ跡などは見当たりませんでした。重量は、見たままではないようです。そして神出鬼没。弱くはないでしょうが、警戒するほどのものでも」


 問題点は、倒せない事。だが、被害も出ていない。ニュースにもなっていない。怪盗ホワイトの件で持ち切りとは言え、巨人が現れれば、一大事のはずだ。


「立体映像とかじゃないのか?」


 南部が、思い付いた事を言ってみる。


 春風から逃げ出せる足は、ホワイトでもなければ無理だ。そしてあんなのが何人も居るとは考えたくない。


「いえ。私は、確かに存在を感じました。あそこに居た、そして私の目の前から、一瞬で消えた。それらは事実のはずです」


「ふむ」


 応えたのは鬼業だけだが。全員が、春風の言葉を疑っていなかった。こと感覚に限って言えば、春風は鬼業より上かも知れない。その春風が居ると言い切った以上、間違い無く、居るのだ。



 翌日から、皆の生活には張りが出た。普段の生活も、もちろん楽しかったが、今度は妖怪と来た。


 誰もが戦ってみたいと思える、新鮮なときめき。皆、ドキドキしながら授業後の警備に出ていた。



 そして二日が過ぎた。



「出ねえかなあ」


「ですねえ」


 鬼業は街をうろつきながら、1人ごちた。それに春風も適当に答える。


 毎日、誰かしら街に居るように、ローテーションを組んでいるのだ。今日は、鬼業の番。そして春風はほぼ毎日。


 皆、狙っている。妖怪とやらとの手合わせを。


 誰かが戦えば、まず妖怪は死ぬだろう。だから、誰もが自分が先んじると考えていた。



フワ



「来たか」


「ですね」


 ほんのわずかな気配だが。この2人になら感じ取れる。


 ここから南西。場所は・・・。


ゴ!


 考えるより先に鬼業が走り、春風が追いかけた。




 現地には、大勢の人だかり。皆、巨人を見て・・・は、いない。お祭りっぽい。この寒いのに、沢山の人が車が、デパートに入って行く。何かのセールかイベントか。


 鬼業、春風はその喧騒を眺められるマンションの屋上に下り立った。



 居た。巨人は、デパートの屋外駐車場で、ぼうっとしている。


 はっきりと鬼業が見たのは初めてだが。巨人の外観は、まるで普通の人だった。全高10メートルほどの高さを除けば、実際問題、そこらを歩く普通の人にしか見えないだろう。鬼業、春風も、巨人が人間サイズで歩き回られれば、もう見分けは付くまい。それぐらい、常識的な格好なのだ。


 そして、巨人はまるで人が多すぎて、身動き取れないようだが。まさかな。踏み潰すなり、透過するなりすれば良いのだ。この世ならざるモノなのだから。



 そう出来ないあいつは、なら、現世の者かよ。


 ちょいとガッカリした鬼業は、即効突っかけた。



ブン


 常人が食らうと身体の何処であろうと引き千切られる回し蹴りを、巨人頭部に放った。例え巨大生物であろうと、爆砕は免れない。


 正直、やり過ぎであり、場所を移そうと言う自身の提案もサッパリ頭から抜け落ちていた。ただ怒りに任せて、殺しにかかっただけ。


 だが。鬼業の蹴りは当たらなかった。感触が全く無い。


「なるほど」


 その様子を遠目からじっくりと観察していた春風には、おおよその全貌ぜんぼうが掴めた。


 蹴りを放ち終え地上に着地した鬼業に合流。春風は鬼業に、自分の意見を伝える。


「へええ」


「だと、思います」



 では、本体は。


 いや、春風が既に察知しているらしい。流石だ。


 ならば。


「力づくは」


「不味いでしょうね。相手は、未成年のようです」



 春風が来てくれていて、本当に助かった。



「それに、叱りつけるほどの事もないでしょう。ラジコンを飛ばすぐらい」


 これが、真相。



 ガッカリした鬼業はともかく。このような真似が可能な事を知れた春風は満足しながら、鬼業を連れ帰った。



「どう言う事なんだ?」


 寮に戻った春風は、今日は待機していた南部らにも説明をする。


「つまり」



 ラジコンの飛行機を飛ばす。そしてその飛行機に載せたプロジェクターから映像を出力。


 地上の人々からその映像が見えないのは、角度が違うから。


 「虹」が立ち位置によって、見えたり見えなかったりするように、あのだいだらぼっちも、普通の高さからは見えない。


 最初に目撃した春風。そして追いかけた鬼業、春風。どちらも、ビルやマンションの屋上から目撃したのだった。ある程度の高さからでなければ、見えないのだろう。もっと言えば、モノは飛行機なのだ。ホバリング出来るヘリコプターではない。映像をその場に維持し続けるのは、難しいだろうな。ヘリコプターを選択しなかったのは、揺れを最小限にするためかな。


 そしてそれを操っていた者らをも、春風は発見していた。複数人でチームを組み、立体映像に仕上げているようだ。しくも、南部のげんが正解だったな。



「何かの実験なのか、楽しい趣味なのかは分かりかねますが。放置して良いでしょう」


 害の無いイタズラと判断した春風は、鬼業を引きずって帰って来たのだった。


 もちろん、マンションやアパートの住民で、たまたま見れる角度に居た人は驚いただろうが。そこまでの問題だ。もしも学生がやっていたのなら、叱られるかも知れないけれど。それで良い。武力外交官見習いが実力で阻止する類の話ではないのだ。


 更に言うなら、春風と鬼業が目撃出来たのも、ある種、偶然。わずかな飛行時間、わずかの映写時間に居合わせた奇跡。


 この話は素敵な思い出で、オシマイ。



 最初に鬼業や春風が察知した気配とは、気流の乱れ。鬼業ら、ビル街を縦横無尽に走り抜けるような超人達は、当然のようにそこにある気配を覚えている。だが今回、ラジコン飛行機とそのプロジェクターで、その空気の流れにほんのわずかな差異が生じた。突風でも強風でもない違和感。鬼業らが感じ取ったのは、ソレだ。



 なーんだ、と言うオチに皆で笑い合いながら、その夜は更けようとした。




 その夜。深夜2時。




ズシン





 ぐっすりと眠りこけていた鬼業は、部屋のノック音で目覚めた。


「・・・鬼業さん。起きて下さい」


 春風。何だ、火事か?


 ドアを開けると、そこには寝間着姿の春風。廊下には他の皆の姿も見える。


「どうした?」


「地震です。次も来るかは分かりませんが。一応、起きておいて下さい」


 このメンバーなら、家屋の倒壊程度、素手でどうとでも出来る。ただし、意識が有ればの話だ。眠ったままならば、どうしようもなく死ぬ。窒息ぐらいはするのだ。鬼業なら数トンの瓦礫がれきに埋もれても平気で生きていそうではあるが。念のためだ。




ズシン




「なるほど。デカい」


「しかし」


「ええ」


 鬼業が地震の大きさに感心していた時。河川と春風は別の事に気付いた。


「この振動・・。まるで、誰かが歩いているような」


「確かに。人の足の踏み下ろしのパターンに、よく似ています」


「へええ」


 河川と春風に対しての瀬古の適当な相槌。それは南部、鬼業の総意でもあった。パターンて。分かるものなのか、そんなん。




ズシン




「なら、こいつは、人為的なものなのか?」


「かも、です。もちろん、こんな大音量。常人には不可能」


 ならばと、春風の答えに頷いて見せた鬼業は、飛び出して行った。瀬古、南部も続く。


 考えるより、探すのが早い。


 あるいは、ここの者達にも匹敵するような怪物を。この音の原因を。



 とは言え、何も考えずに何かが出来るほど、甘くない。河川が電話を取り、虎星教官に連絡を入れる。春風はテレビを付け、現在の地震情報に目を光らせる。



 その頃、鬼業らは、それぞれ別方向から地震の源と思しき地点に赴いていた。退路を断つために。


 今度のは、どうやら実体の有る何者か。それが何か分からない以上、油断せず詰める。



 そして。


「へええええ・・・・」


 鬼業、感嘆す。




ズシン




「よう。だいだらぼっち」




ズシン




「おれと、遊びに来たのか?」




 そこには200メートルほどの高さの人間のような何かが居た。


 当然、鬼業は戦いを所望する。

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