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水中洞窟の大探検!潜れ鬼業!

「僕は、山中やまなか りゅう。恐竜学者を目指している高校生です」


 鬼業らよりは、ちょっと若いか。


「僕の家は、山中湖から徒歩10分くらいのとこにあって、地元の人間なんです。それでよく湖にも来ていました」


 全員が、竜の話を真面目に聞いているわけだが。イメージして欲しい。人間一人を容易く制する事の出来る集団に、じっと見られる一高校生の心理を。


「そ、それで。あいつを見つけたんです」


 さあ。話の要点は、ここからだ。


「僕だって、初めは疑いました。ラジコンだろうって。でも、違ったんです。あいつ、僕が昼寝をしている岸に上がって来て、僕の隣で甲羅干しを始めたんです」


 なんと。


 流石にこの情報には、全員色めき立った。


 つまり、あの首長竜とは、仲良く出来るかも知れない。


「そうしたら、もっと大きな首長竜が出て来て。ちょうど、今のあいつくらいでした。そいつが、あいつを連れて帰って。その時も僕は襲われませんでした」


 その大きいのは、恐らく親。


「ここからは、僕の想像になります。彼らは、湖深くに生息しているのだと考えています。もしも生息圏が湖のみなら、いくら何でも、僕以外に今まで見つかっていないはずがない。そして、この湖にあれだけの巨体を維持出来るだけの魚、魚介類は居ない。恐らく湖底から別のエリア、川なのか海なのか、別の湖なのか。何処かへと繋がっているのだと思います」


「やはり」


 河川も、同じ事を考えていた。地下水脈が存在するのか。



 更に竜から聞いた情報を元に推測を進める事が出来る。


 首長竜は、甲羅干しをする。生まれてこのかた地下暮らしなら、そんな真似は出来ない。日焼けでひどい怪我を負ってしまうだろう。太陽光に対する耐性など、一億年にも渡る地下生活で、既に持ち合わせていないはずだ。


 だから、日焼けを物ともしないと言う事は、彼らは日の当たる場所に、日常的に出ていると言う事。地上もしくは水中の何処かに、別の出入り口が存在する。



 ここから更に調査するためには、ロボットカメラを用いなければならない。水竜がゴロゴロ居るかも知れない場所に、人間を送るのは、自殺行為。そして当たり前のように事故が起こり、あいつらは駆除されてしまう。


 無人潜水艇を借りられれば、何とかなるが。


「恐竜の大絶滅。あの時代、日本近海の首長竜は何らかの原因で、この湖周辺の水系に閉じ込められた。あるいは、生き残る方法を得た。そして現在に至る」


 これが山中竜の結論。



「それで。奴らは人を襲うのか」


「分かりません」


 鬼業の疑問に、竜は答えられない。


 ただ、今に至るまで被害報告が無かった事から、恐らく無いと断言して良いはずだ。そうは言える。


 しかしそれならば。


「何故、さっきは遊覧船の動いている時に、首長竜が出たのか」


 南部が議論を進める。ウィークポイントを詰める。ここを解決出来れば、鬼業達も武力を用いる必要は無いのだ。


「地下で何かが起きた、のだと思います。それであいつは移動出来なくなって、エサを取れず湖に出るしかなくなって」


 そんな所だろうな。


 だが、それは不味いルートだ。地下水脈の工事。それをやるためには、まず工事関係者の安全のために湖の水を抜かなければならない。水没してしまうからな。


 そして当然、あの巨大生物は日干しになる。


 鬼業らなら、捕縛出来る。そして動物園だろうが水族館だろうが輸送に協力出来る。例え、研究機関であろうと。


「お前、どうしたい」


 だから鬼業は聞いてみた。政府の命令を受けていない今なら、鬼業らは超越した特権を振りかざせる。絶対に水族館に連れて行って、飼うのだ!と言い切れる。


「あいつらが、自由に伸び伸びと生きていけるのが、僕の夢です。僕は、その光景が見たい」


「飼われるのは嫌か」


 鬼業の問いに竜はうつむいた。


「人を襲っていない今なら、どうとでも出来る。でも、何か起きれば見て見ぬふりは、おれ達には出来ないんだ。いざとなったら、覚悟を決めておいてくれ」


 瀬古が竜に語りかける。


 武力外交官見習いの鬼業達は、既に特権を得ている。


 つまり。既に義務も課されているのだ。まだ国内限定ではあるが、危機には立ち向かわなければならない。


 猛獣が人を襲っている。当然、動かなければならないシチュエーションだ。


「あいつ。あなたの言う事は聞くの?」


 河川が問うてみた。


「ちょっとだけなら。あいつ、僕の前にだけはちょこちょこ出て来たんです。それで僕も、魚を持って行ったり。もちろん、行っても会えたり会えなかったりですけど。他の人が現れた時、隠れろって言ったら、ちゃんと隠れたんです」


 まさか日本語を解するわけではないだろうが。身振り手振りで理解したのだろう。思ったより、知能は高そうだ。


「お前の理想としては、自然保護区でも設けて、奴らを放し飼い。そんな所か」


「はい!」


 再度の鬼業の問いに、今度は、良い返事。


「土地をどうする?」


「教官に相談して、用意してもらえるでしょうか」


「適当に、ゴルフ場の建設予定地でも買収して作ってもらおうぜ」


「そこまで自由は利かないでしょう・・・」


 瀬古、河川、南部、春風。各自意見を出し合うが、ここからは難しい話になる。


「なあ・・・」


 今まで黙って聞いていた木の実が口を開いた。


「あいつ、このままここで暮らしていけないのか?湖周辺に金網張って、ここ自体を動物園みたいにしてよ」


「ふむ・・」


 鬼業が思考する。


 不可能ではないが。


「まあ、他所の土地に移すと、体調を崩す恐れは有りますね」


 河川も乗って来た。


 だが。


「問題は、地元住民の意見だ」


 南部が絶対的な点をつく。


 ここを自然公園にする以上、遊覧船の関係者一同には転職が要求される。その他、売店、付近の自然公園になるであろう土地の所有者、宿泊所職員全て。そうした人々全てに、「退け」と言わなければならなくなる。もちろん移動にかかる費用は政府から出る、それに再就職の当ても多少なら融通を利かせてくれるだろう。


 だが、山中竜と同じく昔からここらに住んでいた人達に向かって、トカゲのために他所に移り住めと言い切れるのか。


 南部がわざわざ「ゴルフ場の建設予定地」と言ったのは、最初から誰も住んでいない土地だからだ。権利者に金さえ払えば問題はゼロ。



「もう一回聞くぜ。あの水竜は、どうしたら良いと思う」


 鬼業が意を込めて、竜に問う。


「僕が説明します。僕が事情を話します。ここに取っても、決して損じゃないんです。生きた首長竜の居る地域なんて、地球上でここ山中湖だけです。絶対、皆の誇りに出来ます。一時的に面倒な事を押し付けるのは悪いと思います。でも、絶対に、絶対に、良い事なんです」


「違う」


 竜は、かなり熱意を込めて、自分なりに懸命に説明を全員にしてみたが。鬼業は一言で切り捨てた。


「あいつは、移っても平気で生きていけるのか。それとも、ここに居ないとダメか」


「分かりません。でも、今まで生きて来れた生態系を捨てるのは、リスクしか有りません。動かすのなら、もっと彼らを知って、それからにした方が。そのために、動物園か水族館の人達にも協力願って」


「分かった」


 鬼業はやはり一言で了承した。


 そして鬼業の一言で、このチームの方針が決まった。


「おれ達は、お前の意のままに動く。そうする事が、あの竜を生かす近道のようだ」


「ですね」


 春風も即座に同意。そして皆に異論は無かった。




 無論。鬼業の真意は、生きた恐竜と戦う事。そのためにも、恐竜の数を増やす手伝いをしたい。




 即時、実行。


 鬼業は外務省武力外交官養成所に連絡。


 首長竜の国を上げての保護に取り組むべし。それは神速を要する。放置すれば必ずや売買の対象となり、日本国は動物一つ守れぬ無力な国として恥をさらす事になろう。それは狙われやすさに繋がる重要事態である。


 翌日までには湖周辺に自衛隊、警察が待機。近隣町村は元より、近県に至るまで警戒網が張られ、持ち出しを防ぐ絶対的な警備体制がかれた。


 そして国と山中湖周辺との協議が始まった。その席には、首長竜との親交が有った事を武力外交官見習いに保証された山中竜の姿も。



 元々、政府も首長竜を即座に調査及び保護するつもりであった。本物であるなら、何百億円突っ込もうが惜しくない、超歴史記念生物だ。




 そして鬼業達は、更に動く。


「行けるか」


「おう」


「はい」


 海パン姿の鬼業、ダイビングウェアに身を包んだ瀬古、河川。


 今から、湖に潜るのだ。



 政府が動き、警備が働いてから一週間。武力外交官見習い達は、ダイビングの練習に勤しんでいた。


 湖からの首長竜の移動経路を探るために。


 無人潜水艇を差し向ける提案は、議論の末、却下された。まず、現地の地形が全く分からない。である以上、高低差のある水場にいきなり落ちれば、その場で破損。撒き散らされた破片は、下手をすれば水竜が間違えて飲み込み、怪我をする。ウルトラ天然記念物である首長竜には、かすり傷一つ付けたくないのだ。


 ゆえに、単独で行動可能且つ生存可能な人間を差し向ける。


 即ち、武力外交官を。


 諸外国に赴任している現職を呼び戻しても良いが、虎星教官が見習い達でも可能と太鼓判を押した。


 そして鬼業達は、訓練に入った。



 一週間と言う日数。まだまだ一人前とは言えないが、潜って息をするだけなら出来るようになった。



「リミットは24時間。気を付けろ!」


「応!」


 待機チームリーダーである南部からの励ましに、鬼業が応える。


 春風もまた、いつでも出られるように準備している。


「じゃあ行って来る!水竜との触れ合い、お先にやらせてもらうぜ!」


 鬼業が飛び込み、瀬古、河川も続いた。


 最も動きやすい格好をした鬼業が、全員の予備ボンベ、食料、衣服などを背負っている。


 何故なら、鬼業は身一つで潜れるからだ。


 これもまた気の応用。死の淵にあった木の実を蘇らせたアレ。


 気とはエネルギー利用の一形態。常人が体温維持や筋肉の発達修復に使っているのと同じ、そのエネルギーを外部へ放出。無論、体内でよく練り込んだ上で、だが。


 その活用によって、ダイビングスーツより上の防護性能を確保しつつ移動も足ヒレより軽快にこなす。どうかしているレベルの能力だが、操るには才能と実力が要る。生身で音速を超えて走るような実力が。


 そして鬼業の素の身体能力として、水中での30分間の呼吸の確保。肺活量もまたケタが違う。


 そうした体を引っげて、3人はボートから湖に飛び込んだ。




 透明度は、かなり高い。これなら然程苦労もする事無く見付けられそうだ。


 鬼業らは最初に首長竜を発見した場所へ潜っている。そこが出入り口に近いのではないか、そう考えたのだ。


 そしてその考えは、間違っていなかった。



(行くぜ)


(了解)


 湖底に開いた、かなりデカい穴。鬼業が触れてみると、それは岩に泥がこびり付いてはいるものに、それなりに堅い岩盤のようだった。


 一旦、呼吸を確保しに水面に戻り、ボートの待機要員とも連絡を取り合う。そしてゴー。


 鬼業を先頭に瀬古、河川が注意しながら進む。万が一、瀬古と河川のボンベに故障が発生すれば大問題だ。2人は水中では10分程度しか持たない。それまでに呼吸可能環境に行けるかどうか。



 湖底通路は、案外短く済んだ。丸みを帯びたトンネルと思いきや、その実は崩れた岩盤の重なり合った、箱型迷路。


 だから、今まで見つからなかった。上から積んだ形になった岩が、フタの働きをしたのだ。そのため、一旦底の底まで潜らなければこの入口は見付けられない。更には、どれだけ透明度が高かろうと、周囲の泥、こけが一体化している以上、どうしても見にくい。


 通路を行く事、10分。陸上とは比べ物にならないほどのゆっくりとした速度だが、鬼業の「感覚」も有り、突破は難しくはなかった。




 ゆっくりと水面に上がる。天井が5センチしかありませんでした、と言う事も十分に考えられるのだ。だがそれは杞憂だった。十分な広さの陸地が在る。そして鬼業が気の防御膜を解き、呼吸。ガスが発生していれば、これで死ぬが。その心配はしていない。


 この通路を、彼ら水竜が使っているなら、人間と同じく呼吸をしているはず。そこに特段の毒性は無いと見て良い。


「ふうう。空気が美味い」


 30分、酸素を取り入れる事無く動けると言っても、疲れる事は疲れるのだ。


 瀬古、河川も一度、休憩を取る。と言うか、陸上通路が続くようだ。


「すごいな」


「うん」


 地下空間である以上、そこは真の闇。人間の目では、何も見えない。ヘッドライトの明かりを頼りに見る、暗黒の世界。


 だが、そこは、その明るさでも良く分かる、非現実的な世界だった。



 広い。



 今まで鬼業達が通って来た水路は、最も広い幅でも横に20メートル程度。水竜が2匹横並びになると、キツいだろうな、と思われる広さだった。


 だがこの地下は、明かりが届き切らない。恐らく、横幅100メートル以上はある。



「今まで以上に気を付けろよ。こんな広いって事は、崩れやすそうな箇所も平気で残ってるからな」


 鬼業の言葉に頷く2人。


 皆で、鬼業の荷物からヘルメットを取り出す。ヘッドライトをヘルメットに装着し直してから、かぶる。3人共、数トン程度の岩塊なら粉々に打ち砕くなり無力化するなり簡単に出来るが、そのカケラですらが、危険なのだ。出来ればゴーグルもかけたい所だが、それでは視力が少し落ちる。武術家は、目を大事にする。可能な限り、視界の確保は優先したい。無論、それで怪我をしては元も子もないのだが。



 そして鬼業の発言通り、もろい箇所もそのまま残っているのだろう。だから、あの水竜は湖で目立つ真似をしてしまった。


 しかし、堅い事は堅いはずだ。地震大国日本で、今の今まで通路が閉じていないのだから。大地震も、人間の知るより遥かに多かっただろうに。



 ここから先は、今までとは比べ物にならない迷路だ。まず迷わない事を重視する。


 荷物から、自動車に積まれ事故などの際に置く三角表示板、を取り出す。これで目印になる。暗闇でも、こちらのヘッドライトが当たれば光を反射してくれるからな。


 これを曲がり角ごとに置いて行く。10個持って来たが、無くなれば次は蛍光塗料だ。赤、青、黄で順番にペイントして行く。色ごとに距離が分かるように、そして道順が合っている事を確認するためだ。



 道は、複雑を極めた。上り、下り、潜り、浮上。上り、下り、潜り、浮上。その繰り返し。それを複数の穴ごとに繰り返し、閉鎖通路にバツマークを書き込み、新しいルートを開拓。


 いかな鬼業と言えど、2人の友が居なければ、退屈の余り天井を破壊、途中でこの探索を投げ出しただろう。それだけ根気の要る道のりだった。



 しかし。人間である鬼業らですら飽き飽きして来る道を、どれだけ賢いか知らないが、水竜が辿たどっただと。


 もしや、道を間違えているのか。水竜は、別の道を常用しているのか。


 そんな不安も、3人の頭の片隅には有った。口にしても仕方の無い事だが。



 ここでの鬼業らの不安の一端は、誤解によるものだ。思い出して欲しい。水竜の体長を。少なく見積もっても人間とは10倍以上の差がある。当然、道のりの距離感もそれ以上に大きいのだ。


 人間に取って、途方も無い距離であろうと。水竜には散歩道だ。



 だから、いつかは着くのだ。




 その光は、3人にかつて無い感動を引き起こした。


 何十番目かの水路を通っている時だ。


 水中が、明るい。ヘッドライトの光じゃない。


 太陽の光だ!

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