卑怯者め
「とにかく!月の花を手に入れた者が勝ちだ!」
バンデュラ、見事な切り替え&開き直り。
「じゃあ、俺の勝ちだ」
なんと!どさくさに紛れて、ルークが月の花の木の下にいる!
やったね!
あとは、木登りして、ささっと月の花を採っちゃえばいい!
「貴様!卑怯な!」
バンデュラが怒鳴った。
いや、別に卑怯でも何でもないでしょ。
ん?
ちょっと!
何すんのよ!
「離しなさいよ!」
「うるせえ!」
バンデュラのバカが、私の首に腕を回して拘束した。
目の前には小刀。
「卑怯なのはどっちよ!あんたにプライドはないの!」
「黙れ小娘!男の勝負にノコノコ着いてきたてめえが悪りいんだ!」
バンデュラの胸も腕も、まるで鋼のように固かった。
ナッツの力だと、びくともしない。
バンデュラは、ルークを睨み付けた。
「月の花から離れろ!この小娘がどうなってもいいのか!」
私の顔に小刀が押しつけられた。
ちょっと、本当にひどい。
でも、もっと傷つくのは。
ルークは落ち着き払っていた。
もっと言うなら、何とも思ってないような。
月明かりに照らされて、ルークは怖いくらい平静に見えた。
ドキドキする。
でも、うれしいドキドキじゃない。
「てめえ、俺は本気だぞ。この小娘がどうなっても」
「仕方ない」
「ああん?」
「好きにしたらいい。勝負に負けて、魔術師ルークの名に傷がつくのは正直困る」
ひどすぎる。
優しくしといて突き落とすのって、一番罪深いと思う。
悲しいドキドキっていうのもあるんだね。
ナッツは泣きたくなりました。
所詮、使役される小悪魔だもんね。
バンデュラにも私の悲しみが伝わったのか、拘束する腕の強さが少し緩んだ。
ルークと目が合った。
静かな濃紺の瞳。
冷たさもない。そんな感情さえ動かない。
なんて薄情な魔術師。
…あれ?
何でかな?
こんなルークの目に、なぜだか見覚えがある。
あ。
突然、耳の奥にルークの声が再生された。
ナッツ、ポーカーフェイスだ。
勝負の時は、感情を読み取られたら不利になる。
切り札は、ポーカーフェイスの後ろで展開するんだ。
ナッツの胸の奥が、カッと熱くなったよ!