花が咲く!
月の花が咲くというガリガリ山の中腹、向こう側が崖になっている小さな草原につきました。
草原の真ん中に、木が一本立ってるよ。
わー、月が近い。
まんまるぴかぴか、きれいー。
ピギャー!
「ほら、あそこに見えるのが月の花が咲く木だよ」
「百合みたいなの想像してたけど、違うんだね」
「うん。木の上にナッツの手のひらくらいの真珠色の花が、たくさん咲くんだ」
「早く見たいな」
ギョワー!
「もうちょっとで時間になる」
「楽しみ」
「一斉に咲いて、本当にきれいなんだ」
「ワクワクするよ」
グギャー!
「どおりゃあああああああ!」
あ、とどめを刺した。
翼竜型の魔物が、ドウッと地に落ちた。
ぜいぜいぜいぜい。
バンデュラが息を切らして膝をついている。
終わるまではと思って隠れて見てたけど、もう草原に出てもいい感じ。
ルークと一緒にバンデュラの方に歩いて行くと、バンデュラが荒い息の下でブツブツつぶやいているのが聞こえた。
「おかしい…こんなはずでは…なぜここにこれほどまで魔物が…」
世の中、知らない方がいいこともあるものです。
「月が昇った!咲くぞ!」
ルークのうれしそうな声が響いた。
私は木を見上げた。
大きなまん丸の月を背景に、木は立っていた。
あ。
まるで、月の雫が舞い降りたように。
「きれい…」
真珠色の花が、パアッと花開いていった。
それはとても幻想的で。
「貴様ら…こんなに早くここに辿り着くとは」
夢のような光景を無視して、憤怒の表情をした鬼が立ち上がった。
傷だらけのバンデュラ。
めっちゃ怒ってる。
いや、この勝負をもちかけたの、あんたですから。
ふざけた罠に怒ってんのは、むしろこっちだ、こんにゃろう。
「俺の罠に加え、あれだけの数の魔物相手に無傷…さすがだな、魔術師ルーク」
魔物とはまったく戦っていないのだが、伏せておこう。
話題を変えるついでに、嫌味の1つも言ってやるか。
「あんなバカみたいな罠、イノシシだって引っ掛からないよ」
「何だと!俺がどれだけ…」
バンデュラが歯を食いしばってる。
…
…
ふいに、ナッツの頭の中に、いろいろなバンデュラの姿が浮かんでは消えた。
大岩を一生懸命押し転がすバンデュラ。
竹ヤリを一つ一つ仕上げるバンデュラ。
必死に穴を掘るバンデュラ。
…
…
何だろう。物悲しい…
なんか、悪いこと言っちゃった?