勝負スタート!
約束の時間、ガリガリ山の登り口にやって来ましたよ。
バンデュラは松明を持って、不敵な顔で笑っている。
バンデュラってね、獣の牙がジャラジャラついた首飾りを下げて、カーキ色のシャツのボタンは全開、腹筋見せびらかした格好をしているんだけど、こういうシチュエーションだと似合うね。
家の中だと正直、浮いてたけど。
それにしてもこいつ、絶対に悪巧みしてる。
顔に書いてあるよ。
「小娘を連れてくるとは、余裕じゃねえか」
「小娘じゃねえよ」
「ナッツは、俺と離れて生きていけない体だから」
ボボボボボッとナッツの顔から火が出た。
ちょっと、ルーク!ななななんて言い方してんの!
「お、おう…」
ほら!バンデュラでさえ、何も言えなくて引いてるじゃん!
「私のこととかどうでもいいから、早く始めなよ!」
「その通りだ!もう知らん!勝負開始じゃあ!」
バンデュラの雄叫びで、月の花争奪戦が始まった。
あいつ、足速えええ。
夜の山道を駆けのぼる速度としては、四足の魔物レベルだよ。
さすが、警備隊の山賊狩りを逃げ切っただけのことはある。
あの背負っている大剣、あれだけでも重い気がするんだけど。
「行くぞ、ナッツ!」
ルークもやる気を出して走り出した。
ルークが走ると、ランプ代わりの魔術である光玉も、ルークの頭の上を飛んでついて行く。
ナッツは夜目がきくので、そいういうのなくてもいいんだけどね。人間は不便だ。
私とルークは、山道を駆け登った。
踏み固められていて、わりと歩きやすい道だね。
ピギャー!キュエー!ギョー!
さっきから聞こえてくるのは、魔物の声。
たぶん、バンデュラが片っぱしから叩きのめしているんでしょう。
すでに、道のあちこちに、魔物が転がってピクピクしている。
「ルーク、遅れを取ってるよ?勝てるの?」
「月の花は前にも取ったことがある。そこまでの道もおぼえているし、すぐに追いつくよ」
「…道、おぼえてるの」
「俺、そんなにあれもこれも忘れたりしないって」
ルークの基準、分っかんねえ。
ん?
何の音?
ゴロゴロゴロゴロ
山道の先を見上げると、ちょっとちょっと、大岩が転がってくるよ!
「ルーク!(ベタな)罠だ!」
道の全部をふさぐような大岩が、前からゴロンゴロンと勢いよく転がり落ちてきた!
「ナッツ、危ない!」
え?
ナッツ、地面から持ち上げられましたよ。
「てい!」
「きゃああああああ!」
ルークが私を放り投げた!
おい!
ガサガサガサッて、ひどい音。そして、枝やら葉っぱやらが、ナッツにグサグサ来るんですけど!
私は山道脇の樹冠に、頭から突っ込んでいた。
「いってええええ!」
「ふう。危なかった」
「嘘つけ!」
大岩はゴロゴロ…と山道を転がり、遠ざかって行った。
あれだろ?このトラップが成立するためには、逃げ道がないこと必須だろ?
この山道だと、横に逃げ放題なんですけど!
「ルーク!私を投げた後に、自分も大岩を避ける余裕があったんだよね!?」
「うん」
「私を投げる必要あった?」
「なかった…かな?あははは!まあ、足止めはされちゃったね。早く行こう!」
チッ。
勝負に負けるのはイヤだから、急ぐけどさ!
締め上げていたルークの襟首を離してやった。
だけど、ナッツ、怒ってますから。
ルークもそうだが、バンデュラ、くだらねえことしやがって。あいつ後でとっちめてやる。
小悪魔なめんな。