お客さん?
そんなこんなで、ポーカーして盛り上がってたら、突然、大きな音がした。
ドカッ、バタッ、キー、ドカドカドカドカ
ん?音が近づいてきた。
バタンッ
「先日はよくもコケにしてくれたな!」
すごい勢いでリビングのドアが開いた。
と同時に、大柄な男が現れて、叫び上げた。
「この間はしてやられたが、負けて終わる俺様ではない!」
頬に大きな傷跡があって、やや伸びた黒髪は後ろに流されていて、野性味あふれる男だった。
尊敬する美悪魔アゲハお姉さまが、得意とする分野の男だな。
男は興奮して、一人でまくし立てた。
「仲間が大勢捕まった。俺は山賊頭として捕まるわけにはいかず逃げ延びた。俺は復活を誓った。しかし、業界内で俺は噂になってしまった」
男は目頭を押さえた。
何この一人芝居。
ナッツ、ついていけない。
「『雇われ魔術師の下らない魔術にやられた、だっせえ山賊バンデュラ』」
こいつバンデュラっていうのか。
あ、本気で泣いた。
「お前さあ、魔術にもいろいろあんだろ?なんで普通のにしてくれなかったんだ」
うわー…
ルーク、何やった?
私は、手に持ったままだったトランプをテーブルに置き、ルークを見た。
あ。
ルークのこの顔は。
バンデュラは涙を拭って、ルークを指差した。
「俺は不名誉を消し去り、今一度、山賊業界に返り咲くのだ!そのためには貴様を一度、乗り越えねばならない!時は来た!」
ルークもテーブルにトランプを置いた。
「あの」
「何だ!」
バンデュラの目が血走ってる。
あーあ。お気の毒。
ナッツには、このあとの展開が読めます。
ルークが切り出した。
「どちらさまでしたっけ」
「誰が」
「あなた」
「は?」
「バンデュラさん、どこで会いましたっけ。忘れたみたいで。あははは!」
バンデュラ、真っ青通り越して、白くなってる。
分かるよ、その気持ち。
あ、でも何か、ちょっと不安になってきた。
私はルークに聞いてみた。
「ねえ、ルークはさ」
「ん?」
「ナッツを解放したら、ナッツのこともすぐ忘れちゃうのかな」
「なんで?」
ルークはきょとんとして私を見た。
私は口をとがらせて言った。
「だって、バンデュラのことも忘れたんでしょ?」
「ナッツのことを忘れるわけないだろ」
ルークは当然という顔で言い放った。
ドキッとした。
なななな何それ。
「どうして?ルーク、忘れっぽいじゃん」
「バカだな。ナッツみたいな小悪魔、一回会ったら忘れないよ」
ニコッ
ルークに優しく笑いかけられて、ナッツ、頭の中が爆発。
何それ。
ナッツみたいなってどういうこと?
可愛いってこと?
そうだけどさ。
私の顔はきっと、真っ赤だよね。
困ったな。
ドキドキが止まんないよ。
「ふざけんなあああああ!」
あ、存在忘れてた。
バンデュラがぶちぎれてる。
「てめえら、いちゃいちゃいちゃいちゃしやがって」
「え、そんなんじゃないよ!別にいちゃいちゃなんて」
「うん。ナッツの誤解を解いてただけで」
「でもさ、私まだ信じられない」
「どうしたら、信じるんだろう」
「(やだ。また、そんな優しい目で)」
「(クスッ)」
「してるだろうが!言ってるそばから、今やってるのがそれだ!ゾッとする!いちゃいちゃいちゃいちゃ、うぜえんだよ!」
バンデュラは本気でお怒りのご様子です。
早口でまくしたて始めた。
「説明してやろう!3か月前、南の峠で警備隊による山賊狩りが行われた!お前は雇われてそれに参加した!珍妙な魔術を使い、百戦錬磨だった俺たちを倒した!俺は、間違いなくお前の顔を見ていった!お・ぼ・え・て・ろとな!」
「あー、何となく、そういうこともあったような、なかったような」
ルーク、それは思い出せてない顔だな。
バンデュラは、ルークをビシッと指さして言った。
「勝負しろ!魔術師ルーク!逃げることは許さない!」
「うん。いいよ」
ルークはあっさり引き受けた。
バンデュラは勢いをそがれて、ちょっと戸惑い顔だ。
気まずそうに指を下ろしましたよ。