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エセ仙術使い  作者: 墨人
第四章 城塞都市ウーハン
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水中の魔物

「森の中では仙術の使用を控えてくれ。小火ぼや程度なら俺達で消し止められるが、あまり派手にバラ撒かれると手が回らなくなる」


 森に入る直前、火属性持ちの導士に向けてフェイフォンが言う。

 隣に立つもう一人の導士も頻りにうんうんと頷いていた。

 彼らは珍しい水属性仙技の持ち主。森林火災が発生したら即座に消火活動に当たれる稀有な人材であるが、長射程・広範囲な仙術であちこちに火がついてしまったら流石に消火が追い付かなくなる。


「ま、相手は十かそこらだ。基本的に近接戦でいけば良かろう」


 ウラヤが纏めると「そうだな」と同意の声が方々から返ってきた。

 こちらは導士が十六人。仙技や仙術に頼らずとも十分に相手を圧倒できるだろう。


 さて、近接メインとなれば鉈の出番はここで終了だ。腰の鞘に戻し、代わって木刀を手にする。私が木刀を使う件について、文句を言ったり苦言を呈したりする人はいない。仙導力を流せば木刀であっても魔物相手に戦える。導士ならそれを承知しているからだ。ただ「風呂焚きは打撃か……」という声は聞こえてきた。

 声の主は昨日も私を風呂焚き呼びした若手の導士だった。

 今日の風呂焚き呼びには昨日のような侮蔑の色は無く、それどころかいくらかの親しみが籠っていた。愛称みたいな感じで定着してしまいそうな雰囲気だ。私は娼館での風呂焚きを特に恥とは思っていないから、こういう感じでなら風呂焚き呼びされても構わない。


 風呂焚き呼びは構わないが、打撃扱いは否定させてもらおう。


「私も斬撃『メイン』ですよ」

「めいん?」

「あ、いえ、主に、斬撃です」

「? いや、木刀だろ。斬れないじゃないか」

「それはですね、こうするのです」


 ――天音流剣術『気の刃』、仙導力バージョン!


 木刀に似非仙導力を流し込み、更に流し込んで意図的に溢れ出させる。そして溢れた似非仙導力を収束させ、木刀を芯材とした幅広の刀身を形成する。木刀の厚みが邪魔をして刃に十分な鋭さを持たせるためにはこれくらいの幅がどうしても必要になってしまうのだ。重みは木刀分だけで変わらないから取り回しに違和は生じない。この世界において、私が天音流剣術を遺憾なく振るえる唯一の武器がこれだ。


「これで、斬れます」

「そ、それも仙技なのか?」

「仙技……とはちょっと違うかもしれませんね。仙導力をそのまま固めているだけですから」

「仙導力をそのまま? そんな事ができるのか?」

「できるのかって……こうしてできてるじゃないですか」


『気の刃』を見た若手の導士は目を円くして、そして助けを求めるように他の導士達へと視線を巡らせた。「こんなのできるか?」との問いかけには誰もが首を横に振って応えている。


「それもオウカの自己流だ。その技、シスイと一緒に教わったんだが……結局俺にはできなかった」


 過去に修得を試みているウラヤが情けなさそうに言う。

『気の刃』は武器のリーチ延長もできるし、『鬼の手』のようにサブ武器の鉈さえ失ってしまった後でも肉体を武器化できる。『止水』と同じくらい有用だとしてウラヤにも教えたけれど、とうとう習得には至らなかった。仙技や仙術で力を放出するのには慣れているからか“溢れ出させる”のは簡単にできたのに、その後の“収束させる”という感覚がどうにも掴めないそうだ。


 ちなみに、『気の刃』を似非仙導力バージョンで使っているのにはちゃんと理由がある。

 この方が気の運用効率が良くなるからだ。

 例えば『気の刃』に必要な気の量を五十とする。

 似非仙導力バージョンで必要になる似非仙導力も同じく五十だ。

 そして似非仙導力は気と魔力から成っているので、似非仙導力バージョンで消費する気は半分の二十五となる。実際には混合時に多少のロスが発生しているのだが、大まかに言えば気の消耗が半分に抑えられ、その分を他のステータスアップ等に振り分けられる事になる。節約できるのは高が知れた量ではあるけれど、限られた気をどれだけ効率良く運用するかが気功スキルの要だ。僅かと言えども余裕が生まれるのは喜ばしいし、実戦においてはその僅かな違いが大きな差を生むこともある。

 薪採取依頼みたいに危険が無い場面では普通に気で、今みたいな状況では似非仙導力バージョンで、と使い分けることにしていた。


「なあ、それ教えてくれないか?」

「別に独占しようとか思ってませんから構いませんけど……やっぱりお金を貰った方が良いんでしょうか?」


 若手導士含めた数人から頼まれた。『止水道場』で一儲けしているウラヤの手前、ここで『気の刃』を無料放出するのも如何なものかと思いお伺いを立ててみる。「ふむ」とウラヤ。


「それはオウカの技だ。広めるも広めないも、広めるとして対価を得るか否かもお前が好きにすると良い。だが……」

「なんです?」

「俺としては無料タダでってのは勿体無いと思う。それにお前、薪拾いと風呂焚きはどうするんだ? お前が風呂を諦めるとは思えんし、暫く薪拾いは止めるのか?」

「それは……」


 問題である。

 私の日常は薪拾いと風呂焚きを中心にルーチン化していて、そこに『気の刃道場』が入り込む余地は無い。

 だったら……。


「ごめんなさい。教えるのはナシにして下さい」

「おい! そりゃあないぜ!」

「そうは言っても薪拾いもお風呂も止められませんから」

「謝礼なら出すぞ!?」

「いえ、これはお金の問題ではありませんので」


 お金の問題だったら『気の刃道場』を開いた方が遥かに稼げる。

 でもこれはお金だけの問題じゃない。

 お風呂を諦める?

 有り得ない。私自身がお風呂に入りたいだけでなく、今となっては娼館通りの皆さんにも期待されている身なのだ。

 ならば薪拾いを止めるか?

 それも駄目だ。ウーハンの薪不足を憂えて献身しているティエレン達に申し訳が立たなくなる。

 断りの理由を説明すると、若手の導士は「ぐぬぬ」と唸っていた。私にだって譲れない部分はある。悪いとは思うけれど諦めて欲しい。


 *********************************


 口を動かしながら足も動かしていたからもう森の中だ。薄暗くジメっとした感じがするけれど……まあ朝方の森なんて大抵こんなものだろう。魔界の侵食なんて恐ろしい想像をしてしまったせいで少し構えてしまっていたけれど、踏み込んでみれば至って普通の森だった。心配していた異臭も土と緑の匂いに紛れていてそれほど苦にならない程度になっている。


「あ、魔物発見」


 ここにきてようやく私の『止水』にも魔物の気配が捉えられた。思わず声を漏らしたら周囲の導士から「え? 今更?」と驚かれた。「風呂焚き……確かにお前の立場は無いな」とは未だに隣を歩いている若手導士の言。判っているのだからわざわざ言う必要は無いのに。


 私の索敵範囲に入ったという事は、魔物は約百メートル先にいる。その辺りはなんだか明るく見えていて、木が生えていない広い空間があると示していた。微かに水の流れる音も聞こえてくる。川だ。

 魔物もある意味では普通の生き物。生きていくには水が必要で、集落を作るなら水場の近くになりがちなのは過去の例が示している。今回もそれかと思いつつ、魔物の動きに注意しながら足を進めた。魔物の気配は相変わらずだ。じっとしている者、ゆっくりと動き回っている者と様々だが、こちらに気付いた様子は無い。

 やがて森が途切れ、緩い斜面を下った先に水面が望めるようになった。

 北壁上から見た川の蛇行している部分。カーブの外側が今私達の居る場所だった。


「ありゃ? いないぞ」

「水の中か?」


 土と草に覆われた川辺には魔物の姿は無い。

 索敵反応は川縁の辺り。ただ位置が低い。場所と高度を合わせると水中という事になるが。


「水の中に住む魔物なんているんですか?」


 ウラヤに見せて貰った『魔物図絵』に水棲の魔物はいなかったと思う。『魔物図絵』を見ていた時には『あちらの世界』の魔物と共通していることに興奮していたから見落としたのかもしれない。そう思ってウラヤやフェイフォンに訊ねてみたのだが、二人からは「俺も知らない」と異口同音に否定された。二人だけでなく、他の導士達も知らない様子。『あちらの世界』の記憶に照らせば一つだけ水棲っぽいのに心当たりがあるにはある。でもその心当たり――海魔――は小さな虫みたいなもので、今感じているような気配にはならないだろう。


 淵になっているようで水深は結構ありそうだ。流れる水の透明度はそれほど高くなく、斜面を半ばまで下りて目を凝らしても魔物の姿は見えなかった。


「どうしたもんかね」

「水に住む魔物なら放っておいて良いんじゃないか?」

「水から出られない魚みたいな奴ならそうだろうが、蛇みたいな奴だったらどうする? 放っておけないぞ」

「しかしなあ……どんな奴かも判らんのに水に入る訳にはいかんだろ」


 いかに導士の身体能力が高くても水の中は勝手が違う。相手が水中では手が出せない、さりとて放置するのもどうなのか。完全な水棲なら放置するのも手だ。でも両棲だったり、陸棲の魔物が偶々水に入っているだけだったら放置はできない。相手が見えなければ結論の出せない言い合いに、ビシリと解決の一手を示したのはウラヤだった。


「俺がやる。俺の仙術は雷だ。水の中にいても効くだろう」


 言って、誰の返事も待たずに仙術の準備に入るウラヤ。剣を収めて両手を川面へ向ける。ウラヤの仙術武器『虎皮の篭手』の獣毛が一斉に逆立ち、パチパチと紫電を纏い始めた。


 ――両手……フルパワーでやる気だ!


 普段のウラヤは左手だけで仙術を使う。森の外での殲滅戦でも右手に剣を持って近接戦に備えつつ、左手で仙術を放っていた。でも『虎皮の篭手』はもともと格闘用の篭手だ。左右一対になっていて、右だって立派な仙術武器、ただの飾りではない。

 即ち、ウラヤの仙術武器は両手で使ってこそ真の威力を発揮する。


 紫電が“パチパチ”から“バチバチ”へと強まり、さらに“バリバリ”と鳴り始めたところで、ウラヤは一杯に伸ばした腕を一度左右に広げ、体の前で勢い良く打ち合わせた。

 何かが破裂するような音と共に、まっすぐに前を差した合掌の先端から稲妻が迸った。


 一瞬遅れて大きな水柱が噴き上がり、水面を放電が広がっていった。


「す、凄え……」


 素直な賞賛の言葉は誰が発したものか。

 噴き上がった水が雨のように降り注ぐ水面にはプカリプカリと腹を見せた魚が次々に浮かび上がり、少し遅れて暗緑色の塊が幾つも姿を現していた。

 ぐったりとして動かないそれの数は十。

 一網打尽だった。

今回で戦闘シーンに入る筈が……届きませんでした。

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