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エセ仙術使い  作者: 墨人
第四章 城塞都市ウーハン
63/81

お風呂と似非仙技

前回と一緒になる筈だったお風呂パートです。

長くなり過ぎたので分割しましたが、その関係で前回からあまり間を置かずに投稿しています。最新話で飛んできた方はご注意を。

 薪採取依頼二日目。

 今日もお風呂用の薪を確保し、昨日の分と合わせて『お風呂の日』に十分な薪が揃った。

 マアリイに付き添って貰って娼館に向かったのは、まだまだ日の高い刻限だった。これは娼館の営業時間である夕刻から深夜にかけてを避けたから。営業中の娼館に踏み込むのは私の教育上宜しくない。ウラヤとフェイフォンとマアリイ、ウーハンにおける私の保護者的三人の意見が揃った結果、このように中途半端な時間帯となった。


 本当なら娼婦の皆さんにも仕事の後にさっぱりしてもらいたいのだけれど、それだと夜も遅くなり過ぎる。「娼婦にとっては仕事前にさっぱりするのも良いものさね」とマアリイが言っていたので、それもそうかと納得している。仕事の後のさっぱりはタライ風呂で済ませてもらおう。


『マアリイの宿』からいったん南門前の広場に出る。そこから城壁沿いに街の外周を進むこと四分の一周。明らかに他とは雰囲気の異なる一角に足を踏み入れた。


「ここがウーハンの娼館通りだよ」


 通りの両側に並ぶのが全て娼館。男ばかりの城塞都市にあって例外的に住人の大部分を女性が占めるエリアとなる。なんとなく空気の匂いからして違うような気がした。


「さ、ここだよ」


 マアリイに導かれて一軒の娼館に入る。

 建物の造りは普通の宿屋と変わらず、一階には広い食堂があった。

 でも食堂にいるのはいずれも若い女性ばかり。この娼館に所属――住み込んでいる娼婦の皆さんだった。


「オウカ! いらっしゃい!」


 元気な声で出迎えてくれたのはシューリンだ。『マアリイの宿』で見るのとは違う派手目な色合いの着物を着ていて、しかも緩く着崩している。胸の谷間なんかが覗けてしまっていてとても色っぽい。


「へえ、あなたがオウカなの。姐さんやシューリンから聞いていたけど……こうして見るとほんと、いい男にしか見えないねぇ」


 いきなり囲まれた。

 さすがは究極の接客業を生業としている方々。初対面の私にもぐいぐいと迫ってくる。

 しかも皆さん娼館仕様とでも言うのだろうか、シューリンと同じように着物を着崩しているので、右を向いても左を向いても露わになった胸元が目に入ってしまう。これにはもう圧倒されるしかない。


「近い! 近いです!!」

「もー! オウカが困ってますよ! みんな離れて!」


 包囲の輪を突破してきたシューリンが私を守るように仁王立ちになっている。

 そんなシューリンを優しい目で見ながら、お姉さんたちは包囲を解いてくれた。


「シューリン、ありがとうございます」

「ごめんね、私が大袈裟に言っちゃったせいでみんなオウカに興味津々だったの」

「大袈裟って、いったいどんな風に言ったんですか!?」

「えっと……それはぁ……」


 なんとも歯切れの悪くなったシューリンの肩を、ベテランの風格を漂わせたお姉さんがポンと叩いた。


「全然大袈裟じゃなかったよ、シューリン。ううん、かえって控え目だったんじゃないかい?」

「そうそう。そこらの男よりよっぽど男前な娘じゃないの」


 ……お姉さんたちから悪意は感じない。

 それどころか好意的ですらある。

 でも! 男前な娘って……それは褒め言葉じゃないと思う……。


「ほら、みんな落ち着きなよ。まあもう判っているようだけど、この娘がオウカだ。うち(マアリイの宿)の大事なお客さんだからね、丁重に扱っておくれな」

「「「はい、姐さん」」」


 正に鶴の一声。この娼館において、マアリイは余程に慕われる存在であるらしい。


「オウカです。よろしくお願いします」


 この機を逃さずに挨拶を済ませ、持参した薪の束を示し「焚口はどこですか?」とシューリンに問う。


「案内するね。水は入れてあるから後は焚くだけだよ」

「じゃあ、私は戻るよ。シューリン、オウカの世話は任せたからね」

「あれ? 姐さんは入っていかないんですか?」

「フェイフォンに留守番をさせているけどね、いつまでも宿を放ってはおけないよ」


 引き止めようとしたシューリンにひらひらと手を振ってマアリイは帰って行った。

 出がけに見た光景を思い出す。

 ウラヤを訪ねて『マアリイの宿』を訪れたフェイフォンを掴まえて、「ちょいとオウカを風呂に連れて行ってくる。留守番を頼むよ」とだけ言って出てきてしまったのだ。言われたフェイフォンも「しようがないな」と苦笑いを浮かべながらも快く留守番を引き受けていた。仙術使い同士でもありお酒の趣味も合うしでウラヤとフェイフォンは急速に仲良くなっているので、今頃男同士の友情を深めている事だろう。


 連れて来られたお風呂場は意外と広い。

 浴槽は三人くらいなら一緒に入れそうな大きさだった。


 持参した薪は指定された薪置き場に積み上げる。今日採ってきたばかりの薪はすぐには使わない。暫く放置して水分を抜かないと火力が低下してしまうからだ。代わりに程良く乾いていそうな薪を選んで焚口に運ぶ。


 焚口から風呂釜に薪を配置していると「あれ? オウカ、焚き付けを入れないと」とシューリン。私が釜に積んでいるのは太い薪だけ。シューリンの突っ込みも普通に考えればもっともなのだが。私だって実家では何年も風呂を焚いてきた、云わばその道のプロ。大きな火を熾すためには焚き付けが必要なことくらいは承知している。


 だが、しかし。


「これで良いんです。私に焚き付けは必要ありません」


 そう、今の私はミヅキの村で実家の風呂を焚いていた過去の私とは違う。


 ――調息……練気……魔力混合……似非仙導力生成!


 呼吸のリズムを変えてから似非仙導力を生成するまでの過程は繰り返しの練習によって体に染み付いている。今では手順を意識しなくても実行できるようになっていた。

 そうして生成した似非仙導力を鉈に流し込み、


 ――『魔術付与:火属性』!


 鉈が瞬時に炎を纏う。

 本当の似非仙導力によって可能となった、仙技(似非だけど)を発動させた。


 *********************************


 似非仙導力は気と魔力、双方の性質を併せ持つ。

 これは気功と魔術を別々に学んできた私に新たな境地を齎した。

 仙技だ。

 私は天音桜の経験八年分を下敷きにしているのもあり、自画自賛ながら気功に関してはそれなりのレベルに達していると思う。反して魔術は……駄目だ。天音桜よりも上達しているのは確かだけど、そもそも天音桜からして魔術に対する理解が極めて浅い。なにかしらの契機が無ければ今以上を望むのは困難なのが実情だった。


 仙技こそがその契機。

 似非仙導力が気と魔力、双方の性質を併せ持つという事は、即ち気功スキルからのアプローチで魔力を操作できるという事になる。気の操作ならお手の物だ。『気の刃3』みたいな状態の変化だって瞬時に行える。これがそのまま似非仙導力にも適用できた。

 仙技は、私の中では気功スキルからの魔術発動として位置付けられている。『気の刃3』の応用として似非仙導力(に含まれる魔力要素)の状態を『火』へと変化させているのだ。


 つまり、私にとっては『仙技=魔術の無詠唱発動』となる。

『あちらの世界』でも修得は困難とされていた無詠唱発動。

 魔術に関しては素人に毛が生えた程度の私が、それを似非仙導力で実現している。


 惜しむらくは使用できるのが『魔術付与:火属性』と『炎の矢』、見た目の変化を伴う二つの術だけに限定されている点だ。『加速』や『筋力増強』の補助魔術、外見が変化しない『魔術付与』はどう変化させれば良いのか判らないので仙技としての発動には至っていない。


 ちなみに、ウラヤみたいな普通の導士は、当たり前だが身体能力の向上を仙導力で行っている。これがどうやら気功スキル的なステータスアップと補助魔術的なステータスアップが同時に作用しているらしい。『あちらの世界』では気功スキルがマイナーなせいでやる人があまりいなかった“二種のスキルの重ね掛け”による飛躍的な能力向上を、こちらの世界の導士は仙導力一つで、そしておそらくは無意識にやっている。

 しかも、補助魔術的な部分の効果量は仙導力の量に応じて増えているようでもあり、いつぞや私の速度超特化状態の『疾風』を見たウラヤの感想が「少々手を焼く」程度に留まったのもむべなるかなと思わされる程の身体能力になってしまう。

 ……仙導力量がウラヤよりも多いと言われているヒノベだとどうなるのか、正直言ってちょっと怖くなってきている今日この頃である。


 *********************************


「火!? そ、それって仙技!?」

「そうです。これをこうして……ほら、焚き付け無くても大丈夫でしょう?」


 炎に包まれた鉈を焚口から突っ込めば、釜の中の太い薪にも簡単に火が移る。

 ウラヤから教えられた仙技を使った火熾しである。


「仙技かぁ。初めて見たけど、凄いのねぇ」

「そ、そうですか? 凄いですか?」

「うん、凄い凄い」

「そうですか、凄いですか」


 シューリンがとてもきらきらした目で私を見ている。

 尊敬の眼差しだ。


「こんなこともできますよ。ほらほら」


 普段近くにいるのがウラヤだけで、仙技に関してはウラヤの方が上手い。私の似非仙技を見てもウラヤは「おう、そこまでできるようになったか」くらいしか言ってくれない。魔術としてやっていたのが似非仙技に置き換わっただけだから新鮮味が無いのもあるだろう。評価はしても褒めてはくれない。

 シューリンからの素直な賞賛が嬉しくて、火力を強くしたり弱くしたり、『気の刃3』改め『炎の刃』を形成したり、色々と披露してしまった。


 一つやる度に「凄い!」を連発していたシューリンだったが、不意に「あれぇ?」と首を傾げた。


「ど、どうしたんですか!?」


 なにか変なことしちゃったのかと訊ねてみたら、シューリンは「うーん……」と更に深く首を傾げている。


「ねえオウカ、私は仙技って良く判らないのだけど、それって使うととても疲れちゃったりするの?」

「別にそんな事はありませんが」

「じゃあ、さっきみたいに火を大きくするのもずっとやっていられる」

「ずっとというのがどれ位かに依りますね」


 似非仙技の発動には似非仙導力が必要。

 似非仙導力の生成には気と魔力が必要だ。

 気は調息を続ける限り練り上げられるし、『魔術付与:火属性』が消費する似非仙導力はそれほど大きくない。それだけで気が枯渇する心配はしなくても良いだろう。問題は魔力か。消費量と自然回復量の兼ね合いでどこまでできるか。


「どれ位かと言うと……例えば、このお風呂が沸くまでだとどう?」

「お風呂が沸くまで、ですか」


 浴槽の大きさと風呂釜の火力から沸くまでの時間は大凡判る。

 今の魔力量なら不可能じゃない。


「それ位ならいけるんじゃないでしょうか」


 なのでそのように答えたら、またもやシューリンが「うーん……」と唸る。


「あの、どうしたんですかいったい」

「ちょっと言い難いんだけどね」

「気になるので言って下さい。遠慮なく」

「じゃあ言うね。オウカは、薪拾いなんて行かなくても、その仙技でお風呂沸かせたんじゃない?」

「っ!?」

「あ、『その手があったか』って顔してる」


 その手があったか……。

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