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エセ仙術使い  作者: 墨人
第四章 城塞都市ウーハン
60/81

この世界の性行為事情

ご注意

今回、非常に下世話で下品な内容を含んでいます。


『オウカ』には性的な行為に関する知識は皆無である。


 そもそも農村における性教育とはどういうものなのか、正確なところを私は知らない。知らないが想像はできる。先達たる年長者から後進たる若年者への口伝え。知識の伝達方法はそれしかない。


 私は十五歳までをミヅキの村で過ごしていた。十五歳といえば結婚していてもおかしくない年齢であり、結婚できる年齢でありながら性的な知識が皆無なのは如何にもマズい。本来であれば私も義母や姉、もしくは村内の婦人連からそうした知識を授けられる筈だったのだと思う。

 しかし六年前の一件がある。

 複数の男に乱暴されて少しおかしくなってしまった娘――つまりは私に対して、男性とのそうした行為の話題を振るのは酷であると判断されただろう事は容易く想像できる。当の私が男装までして男を遠ざける姿勢を示していたのだから尚更だ。

 だから『オウカ』は一切の性教育を受けておらず、性的な知識な皆無である……と思われている。多分ウラヤもそう思っていて、マアリイの仕草を正確に読み取ったのを驚いたのはその為だ。


 しかし『私』には知識がある。

 言うまでも無く、夢に見た『あちらの世界』の記憶に由来する知識だ。

 記憶の提供者である天音桜にしたところで性行為どころか恋愛経験すら無いのだが、『あちらの世界』には性的なあれこれに関する情報が氾濫していた。特にネット。興味の赴くままに検索すれば様々な情報がパソコンの画面に表示される。建前上の年齢制限をクリアしていたこともあり、実際の経験こそないものの、天音桜は膨大なまでの知識を蓄えるに至っていて、それを『私』も共有しているのだ。

 知識だけ(・ ・)ならこの世界で一番かも……。

 唯一対抗し得るのは同じく『あちらの世界』の記憶を持つファンランくらいだろうか。でも芳蘭がエロ事に現を抜かしている画はイメージし難い。

 やっぱり私が世界一か?

 そんな事で天辺を取ったところで嬉しくもないが……。

 ともあれ、私がマアリイのハンドサインを理解できたのはそういう理由からだ。


「私がソレを判る事情はウラヤも知っているでしょう?」

「む……そうか、そうだったな……」


 私が見た夢についてを承知しているウラヤは幾分引きながらも納得してくれた。


「オウカの事情ってのは……詮索しない方が良いんだろうね」

「そうですね、軽く流してもらえると助かります。話を戻しましょう。シューリンがコレ(・ ・)で済ませて、それでどうしてあいつらに絡まれたんですか?」

「オウカよ、照れるくらいなら最初からやるな」

「……」


 大きく逸れてしまった話の流れを元に戻すべく、マアリイを真似てみたけれど……自分でやるのはやはり恥ずかしかった。すかさず入ったウラヤの突っ込みには返す言葉も無い。

 そして、気付けばマアリイが例の目付きで私を見ている。いったい何を見透かそうとしているのか。「ふうん?」とか意味あり気な呟きも聞こえてくるし。


「……まあね、簡単な話さ。シューリンはコレで済ませたからお代を値引いたんだけどね、昨日はそれを払ったのに、今日になってやっぱり納得できないってんで、いくらか金を返せと言ってきたそうだよ」

「せこい奴だな」

「そういう話に仲間を連れていって二人がかりってのが更に、な」


 マアリイの話を聞いてウラヤとフェイフォンが呆れている。

 なんだかあの二人組が一気に小者臭を放ち始めている。まあシューリン相手に男二人で詰め寄ってた時点で間違えても大者とは言い難いのだが、その理由が娼館の料金をケチるためときては……。


「ちなみに、おいくらくらいで?」

「そうだね、普通にすれば……」


 小者傭兵が支払いを後悔するほどの料金は如何程なのかと思っての質問に返ってきたマアリイの答え。示されたのは「そんなに安いのに!?」と思わず言ってしまうような額だった。

 “普通にした場合”の料金設定は一般的な物価などと比較して、女性が行うその手のサービス業としては「そんなものかな」と納得できる額だった。それに対して“手でした場合”の料金が極端に安い。そんなに安いのに渋ったのかあの二人は、とウラヤ達の呆れが感染してきそうなほどの低額さだ。


「確かにあの人達はそんなに裕福には見えませんでしたけど……傭兵をやっていれば苦も無く払えそうなものです」

「払えはするだろうさ。実際、一度は払ってる訳だからね。でもやっぱり手じゃあねえ」

「? そうは言っても料金を払ったからにはその……“出した”んですよね? 満足しているじゃないですか」


 娼婦の仕事というものは、男性を気持ち良くさせて満足させる事。

 満足の印として男性は“出す”訳で。

 もちろん私だって“普通にした場合”と“手でした場合”を同列に扱うつもりは無い。両者の間には厳然とした価値の違いが存在すると思うが、しかし価値の違いは価格に反映されているし、その価格差は十分以上だとも思う。


「満足ねえ……」


 でもマアリイの意見は違うようだ。


「オウカはこう言ってるけれど、どう思う?」

「「ぶふっ!」」


 話を振られたウラヤとフェイフォンが盛大に噴いた。「お、俺達にそれを言わせるのか!?」とマアリイに抗議するものの、マアリイはと言えば「男としての意見を聞かせておくれよ」と涼しい顔をしている。


 狼狽を隠せずに視線で牽制し合うウラヤとフェイフォン。

 やがて渋々と口を開いたのは……ウラヤだった。


「その……なんだ……男というものはな、ただ出せば良いというものではない。貴重な子種だ。やはり女の腹に……」


 ……生々しい!

 ウラヤ、酔いすぎじゃないのかと思う。

 顔が真っ赤になっているのは酔いのせいだけではなさそうだけど。

 そんなに照れるくらいなら言わなきゃいいのに。

 フェイフォンはどうだか知らないが、普段のウラヤならきっぱりと発言を断りそうな場面である。特に私の前では性的な話題を避ける傾向にあるので、そもそもこんな話が継続している時点でおかしい。それだけお酒の影響が出ているのだろう。


「でも、良く判りません」


 ウラヤの言い方だと出すまでの過程ではなく“何処に出したのか”に焦点が当たっているようなのだ。子種、という表現を使っていたから、まあそういう事なのだとは思うけれど、今は娼婦の話をしている。仕事として日常的にそういうことをしている娼婦がいちいち妊娠していたらそれこそ仕事にならない。何かしらの避妊措置は当然講じている筈で、貴重な子種と言ったところで、どこに出そうが結局は無駄撃ちになる。


 そこから酒の勢いで半ば自棄になったようなウラヤとフェイフォン、そして時折例の目をするマアリイ、三人からこの世界の性行為事情のようなものを聞き出した。


 それは『あちらの世界』の知識を持つ私には非常にシンプルに感じられた。

『子供をつくるための行為』

 そこに集約される。


 当り前だと言うなかれ。

『あちらの世界』では必ずしもそうではないのだから。


『あちらの世界』で性行為は『快楽を得るための行為』に位置付けられている。

 もちろん夫婦の間柄にある男女間で交わされるのは『子供をつくるための行為』に間違いないだろう。しかしそうでない間柄の男女間では気持ち良くなるためだけに行為が行われている。子供をつくるつもりはなかったのに妊娠しちゃったので結婚しますという『おめでた婚(できちゃった婚)』などという言葉があるくらいだし、そもそも子供などできようもない部位を用いて快楽を得る行為もある。


 それに対して『子供つくるための行為』であるこちらの世界では、男性器と女性器を結合し、女性器に子種を放つのが原則となっていて、この様式に則ってこそ男性は最大の満足を得られるのである。気持ち良ければどこでも同じだろうというのは『あちらの世界』の感覚。こちらの世界はそうなのだと理解するしかない。

 そんな感じだから相手が娼婦で避妊されていても中で出す。

 唯一の例外が“障り”中の娼婦が行う手での行為であるが、これをされると「確かに気持ちは良いが、とても虚しい気分になる」そうだ。その虚しさの故の極端な料金格差になっているとの事。


 ちなみに普通の男女は『子供をつくるために』行うので、手を使うのは娼婦だけになる。だからコレ(・ ・)と言ってマアリイがやったゼスチャーを娼婦以外の女性や娼館を利用したことの無い男性は理解できないらしい。理解しちゃった私をマアリイ達がどう思っているのかは怖くて確かめられなかったが……。

 そうなるとゼスチャーをやった当人であるマアリイもそうなのだろうかと思ったら、訊ねてもいないのに「そうだよ」と言われてしまった。例の見透かすような目はしていなかったから、単純に私の表情から読み取ったようだ。


 ……とにかくも、ウラヤ達がお酒を呑んでいたお蔭で多少下世話な話もできて、私はこの世界の性行為事情を理解した。あくまでもマアリイ達が知る範囲の話ながら、央国の色々な地域から傭兵が集まってくるのが城塞都市であるから、そんな街で娼婦をしている(していた?)マアリイの知る範囲は『=央国全体』としても大袈裟ではあるまい。そして、これによって長年引っかかっていた些細な疑問が解ける結果となった。


 些細な疑問は、六年前の一件と、天音桜由来の性知識との間に生じている齟齬から発生していた。主にネットから知識を仕入れていた天音桜であるが、『あちらの世界』での年齢制限規定をクリアする十八歳になって後、背の高い同性の友人の影響で『エロゲ』にも手を出していて、


『へっへっへっ、一番手は俺だな。それ……と、さすがにキツイな』

『くそ! 待ちきれねえ! 俺はコッチを使うぞ!』

『ギャーギャーとうるせえな。そんな口はコイツで塞いでやるぜ』


 似たような状況を経験している身として細かな描写は避けるが、このようなセリフが語られるシーンがいくつかの作品に散見されていた。鬼畜系や凌辱系と呼ばれるジャンルのテンプレだろうか。


 些細な疑問。

 似たような状況でありながら、テンプレ展開にならずに済んだのは何故なのか?


 口は猿轡的に布で塞がれていたから判る。

 でも待ちきれなくなってコッチな人がいなかったのは何故なのか。いや、そうなるべきだったと思ってる訳じゃない。そうならなかったのは不幸中の幸いなのは確かであって、引っかかっていたのは、複数人で一人を襲うような奴らは間違いなく鬼畜であるのに、大人しく順番待ちをしていた点だった。

 それが氷解した。

 この世界の性行為事情からすれば、他の部位を使用する発想がそもそも無い。

 私のお尻が無事だったのはそういう理由だった。


 それが判ったところで何が変わる訳でもないけれど……。

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