協力要請
投稿直前に一部削った為、少し短めになっています。
導士であり現役傭兵でもある職員さんは「フェイフォンだ。よろしくな」と親しげな笑みを浮かべた。不良傭兵への牽制役を担っているだけに迫力満点な人だけど、笑うと意外なまでに愛嬌のある顔になる。
「フェイフォン……なんだかお酒が好きそうな名前ですね」
「酒は好きだけどよ……名前で当てられたのは初めてだ。なんだ? 占いとかやるのか?」
「いえ、同じ名前でお酒好きな人がいまして」
思わず口から出てしまった言葉に真面目に返されてしまいちょっと焦った。
フェイフォン。天音桜由来の古い映画の記憶に同名の登場人物がいた。中国の歴史物で、お酒を呑んで酔えば酔うほど強くなるという不思議な格闘術のお話だった。あれは多分に創作混じりだろうに、こっちのフェイフォンもお酒好きとは。これもまた名前にまつわるシンクロなのだろうか。
「フェイフォン、一つ頼みがある」
「なんだ? 良い店を紹介しろってならとびきりのところに連れてってやるぞ」
「俺も酒は嫌いじゃないから有り難い話だが、そっちはおいおいだな。まずはこいつを見てくれ」
ウラヤがフェイフォンに手渡したのはミノウのお爺さんがしたためた例の書状だ。受け取り、書状を広げたフェイフォンは紙面を一瞥して「これは酷いな」と顔を顰める。
無理も無い。文面の一部が滲んでしまい、その部分は全く判読できない状態になってしまっているからだ。こうならないように渋を染み込ませた防水紙に包んでいたのが、突発的な大雨に会った際に水の浸入を許してしまったらしく、次の街の組合で開いて惨状に気付いたという経緯がある。
「少々ヘマをしてな。しかし肝心な部分は問題無く読める筈だ。読めない個所は後から俺達で補足する」
ウラヤに促されてフェイフォンは書状に視線を走らせた。
不幸中の幸いに、ウラヤが言ったとおり書状の大事な部分は問題無く読める。『ヒノベを筆頭とした五人が罪を犯している可能性が高い事』、『私とウラヤが調査の為にヒノベ達を追っている事』、そして『現地の組合は可能な限り調査に協力するよう、ミノウ傭兵組合が正式に要請している事』などが記された部分は水難を逃れている。
読み終えたフェイフォンは険しい顔をしていて「帳場でするような話じゃないな。場所を変えよう」と私達を帳場の奥、記録室へと導いた。記録室では老齢に差し掛かった感のある男性が作業机で紙束の整理をしていて、その容貌はフェイフォンに良く似ている。
「どうしたフェイフォン。なにか問題があったのか?」
「問題になりそうな案件がある。この二人はついさっきウーハン“入り”したウラヤとオウカ、仙術使いだ。で、二人が持ってきたこいつを親父に見て欲しい。俺では符牒を確認できない」
「ほう? どれどれ……ミノウ……沿海倭州か。随分遠いところから来たようだ」
そうして書状を熟読し始めたフェイフォン似の男性。
「親父と言っていましたが、お父さんですか?」
「そうだ。親父は傭兵を引退して今は組合職員になっている。兼業の俺は符牒を教えられていないが、親父なら大丈夫だ」
「親子二代で傭兵、しかも導士か」
さり気なくウラヤが教えてくれた。素の状態の私は相手が導士か否かを判別できないので、フェイフォンに向けた態であの男性も導士であると私に伝えてきたのだ。
「いや、三代だ。爺さんも傭兵で導士だったらしい。そうだよな、親父」
「……そうだが、邪魔をするな」
「へいへい」
話を振られたフェイフォンのお父さんは書状から目を話さずにぶっきらぼうに応じていた。肩を竦めるフェイフォンに「三代続けてとは凄い」とウラヤ。
「導士が出やすい血筋か。時代が違えば貴族や武門に食い込めたんじゃないか?」
「どうだか。俺も親父も爺さんも軍には入ってない。傭兵暮らしの方が性に合ってるんだろう。血筋と一緒に気質も伝わってるなら何時の時代だろうと傭兵やってるだろうし、それじゃあ貴族なんかにゃなれないさ」
気負いなく言うフェイフォン。さっきは「邪魔をするな」と言っていたお父さんもこれには「うむ、そのとおり」などと合いの手を入れている。軍というのはそんなに厳しい組織なのだろうか……。
「符牒を確認した。間違いない。本物だ」
そこにお父さんの声がかかる。フェイフォンとお父さんは声も似ていた。
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場所は記録室に隣接する小部屋。じっくりと話し合う必要があるとして、フェイフォンのお父さんの提案で人数分の椅子があるこちらに移動した。テーブルを挟み、一方にフェイフォンとお父さん、もう一方に私とウラヤが座る。
「改めて名乗らせてもらう。ウーハン傭兵組合副組合長のケイインだ」
フェイフォンのお父さんは副組合長だった。
一足飛びにウーハン傭兵組合の幹部に辿りついたのは幸先が良い。
「城塞都市に集まる傭兵には心得違いをしている輩も多い。それは確かだ。しかし傭兵組合として奴らが罪を犯さないように目を光らせているし、罪を犯したなら然るべき処置をしている。組合証を発行している以上、それが組合として通すべき筋だからだ」
ケイインは重々しく語り始めた。
傭兵組合が発行する組合証には色々な価値があるが、その内の一つに組合証を持つ傭兵の身元を組合が保証するというのがある。身分証明書として広く通用し、組合証さえあれば大抵の場所で最低限の信用は得られるという代物だ。
それだけに“罪を犯した傭兵”は組合にとって許し難い存在となる。犯罪者の身元保証をしてしまう不名誉、引いては組合の信用を落とす事にも繋がるからだ。
そういう意味では先ほど目にした柄の悪い傭兵達も、ゴロツキ同様とは言え越えてはいけないラインを越えずにいるまっとうな部類の人間だと言いたくないけど言えなくもない。
「だから協力はもちろんする。が、すぐには無理だ。ヒノベ達は今ウーハンにいない」
「なに!? 待ってくれ。俺達はここに至るまで“入り”と“発ち”を改めながら進んできた。奴らがウーハンにいるのは間違いない!」
「まさか……“発ち”を違えて別の街に……?」
ウラヤが声を荒げ、私はと言えば最悪の展開を予想して声が震える。“発ち”で申告したのとは別の街に行かれてしまうと追跡の手掛かりが無くなってしまう。どこに行ったのかも知れない相手を探すには央国は広過ぎる。
「慌てるな。今は、と言っただろう。ヒノベ達がウーハンに来たのは確かだし、“発ち”の手続きはしていないから今もってウーハン傭兵組合に所属している」
「それなら……」
「ヒノベ達は北の探索に赴いている。フェイフォン、あいつらが出発したのはいつぐらいだった?」
「先月の末くらいじゃなかったか」
「それくらいか。帰ってくるのは何か月も先になるな」
先月の末……。
僅か半月ばかりの差で逃げられた。
ヒノベめ、城塞都市で大人しくしていれば良いものを。
「追うのは……無理だろうな」
「そりゃそうだ。探索は文字通り未開の地を手探りで進むようなもの。何処へ行くかはその場その時にならなければ当人達にも判らない。闇雲に追って行き合うなんてのは奇跡でも起こらん限りは有り得んだろう」
溜め息交じりのウラヤのぼやきにフェイフォンも同意。
北壁の向こうに広がる魔物の領域は『あちらの世界』で言えば広大なロシアの大地だ。いや、北壁が長城よりも南にずれている分でもっと広い。当ても無く探して、探し当てるのは不可能に近い。フェイフォンの言う通り奇跡に期待するしかない確率となるだろう。
「ここで戻るのを待つしかありませんね」
「そうだな」
下手に追いかけて行き違っては余計に時が掛かる。急がば回れ、とはちょっと違うけれど、ウーハンで大人しく待っているのが迂遠なようでいて一番早くヒノベにまみえる手段となる。がっかりだ。ウーハン到着時に「やっと追い着いた!」と高揚しただけに落差が激しい。
「それにしても、ヒノベ達はここでは有名なのか?」
ふと思いついたようにウラヤが訪ねる。
そう言えばフェイフォンもケイインも記録を確かめるまでもなくヒノベの動向を知っていた。ウーハンの組合にどれだけの傭兵が所属しているのかは知らないけれど、まさか全ての職員が全ての傭兵の動きを熟知しているとは思えない。
「あんたらも知る通りここの傭兵は碌でもないのが多いだろ? まともな傭兵はそれだけ憶えが良くなるってだけだ」
「……ヒノベはまともな傭兵か?」
「まあ、な。取り立てて模範的な傭兵って訳でもないんだが。別段問題を起こすでもないし、周りがああだからマシに見えるってのもある。俺達から見ればまともな部類だ」
ここでもか。
ミノウでもヒノベの評判は悪くなかった。お爺さんなんかはヒノベの離脱を惜しんでいたくらいだし。何というか、ヒノベは外面が良いらしい。裏で犯した罪をおくびにも出さず、表面上はちょっと不愛想なだけの普通の傭兵として取り繕っている。
まったくもって憎々しい……!
会いまみえた暁には念入りに“お礼”をしてくれよう。
「ヒノベ達にかかっているのは女子への暴行――強姦の嫌疑か。本当ならば許し難い」
「しかし嫌疑の根拠がこれでは判らんな。焼印が関係しているらしいのはどうにか読み取れるのだが……」
「滲んで読めない部分は補足してくれるんだろ?」
決意を新たにしていると、フェイフォンとケイインは滲んで判読不可能な部分を指差して訪ねてきた。
私とウラヤはさり気なく視線を合わせて小さく頷き合った。
これから私達は小さな嘘を吐く。
それは事前に示し合わせてあった。
『酔拳』『酔拳2』は好きな映画です。
フェイフォン=お酒好き はここから取りました。
これくらいならパクリにはならない筈。
『アイアンモンキー』というのも好きな映画でして、ケイインのほうでは、
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「ケイイン……!?」
名前を聞いてびっくり。
映画の中でもフェイフォンのお父さんの名はケイインだった。
シンクロ、仕事し過ぎじゃないかと思う。
「お? 親父の名前にも心当たりがあるのか?」
「名前がどうした?」
「いやなに、オウカの知り合いにもフェイフォンて奴がいて、そいつもまた酒好きなんだそうだ」
「ほう、面白い偶然だな」
ケイインが期待に満ちた目で私を見ている。
これは……何か言わないといけない場面?
うーん、映画のケイインはお医者さんだったけど、こっちのケイインが元傭兵で今は組合の職員と判っているし……。
「あ、蹴りが得意だったりしませんか? 凄く速く蹴ったり」
「おお!」
「……これは驚いた」
どうやら当たっているらしい。「もしや二人とも夢で会っているのか?」とウラヤがこっそり訊ねてくるのには「そんな感じです」と答えておく。映画の登場人物だから会った訳ではないけれど、映画自体が存在しない世界の住人にそれを説明するのは難しい。
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というのを書いていたのですが、ここまでやってしまうとマズいかと思い削除しました。その分で今回は少し短いです。




