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エセ仙術使い  作者: 墨人
第三章 ロンフェン
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北へ

 ファンランの元を辞し、傭兵組合への帰り道。

 本当の似非仙導力、仙術武器もどきに作り替えられた鉈など、ファンランとの出会いによって何を得られたのかは既にウラヤに話した。見習い職人の練習作すら使いこなせないだろうとの検査結果について溜め息を吐かれたり、そんな私にも扱える仙術武器を作ってもらった件を大層驚かれたりした。


 一方で、ウラヤは虎皮の篭手を大事そうに抱えている。

 気持ちは判る。

 これまでに仙術を使えないが故の苦い体験があったのだろう。「仙術使いになれない導士など大したことは無い」と自嘲交じりに言っていたほどである。期せずして仙術使いになれたのが嬉しいのだろうし、自分を仙術使い足らしめている仙術武器――虎皮の篭手が愛おしくもあるのだと思う。


「本当に良い物を手に入れられた。惜しむらくは発動する仙術が雷である点だが……そこをとやかく言うのは贅沢が過ぎるというものだろう。全てはオウカのおかげだ。感謝する」

「私だってウラヤに感謝してます。今までお世話になりっぱなしですし、今回の事だってウラヤが言い出してくれたからこそじゃないですか」


 仙術武器職人として名を広め、「ロンフェンにファンランあり」と央国中に知らしめたファンランの期待を裏切り、私は龍鳳や芳蘭との関連に気付けずにいた。仙術武器を試しに行こうとか、お金が無いなら出してやるとか、ウラヤの方から言ってくれなかったらファンランにも会えずに素通りしてしまうところだった。

 本当の似非仙導力を知り、鉈を仙術武器に作り替えてもらったのも収穫であるが、収穫と言うなら『あちらの世界』の記憶の持ち主に会えたのが最大の収穫だ。天音桜の記憶は私の妄想などではなく、その記憶から形成された『私』の人格も妄想の産物ではない。これを裏付ける確たる証、それがファンランだった。

 だからファンランとの出会いに導いてくれたウラヤには本当に感謝している。


 *********************************


「ああ、お二方、お待ちしてました」


 ロンフェン傭兵組合に入るや否や、昨日対応してくれた職員さんが声を掛けてきた。「明日の今頃に」と言っていた頃合いよりも少々早いけれど、既に調べは終わっている様子。


「どうだ? ヒノベの行き先は判ったか?」


 早速ウラヤが問うと、職員さんは「はい」と頼もしく頷く。


「ヒノベの一行はここロンフェンを発つ際にチャンシャに向かうと申告しています」

「チャンシャか。では俺達もチャンシャに向かう」

「お二方の“発ち”はそのようにしておきます。チャンシャ向けの配達を纏めてありますが?」

「今日はもう出立するには遅すぎる。明日の朝に顔を出すからその時に」

「判りました」


 ついでに宿泊施設をもう一晩利用する旨を告げ、遣り取りを終えようとしたウラヤは、


「大事な要件を忘れるところだった。組合証の更新を頼む」


 慌てて帳場に引き返していた。


「更新、ですか? もしや……仙術使いに?」

「判るのか?」

「それはまあ。導士の方以外で更新なんてほとんどありませんし、ここはロンフェンですから」


 職員さんの言う事ももっともだ。

 組合証に記載されているのは名前や生年月日、出身地といった項目だ。普通変わらないから更新なんて必要無い。更新が有り得るのは私達導士の組合証にだけある特記事項、『導士』『仙技使い』『仙術使い』の区分くらいのもので、ロンフェンでは仙術武器を買いに来た導士が仙術使いへの更新を申し出る例が多いのだろう。

 だからウラヤが更新と言えば「仙術使いになったのですね」と即座に理解した職員さんだったけれど、不思議そうに首を傾げてもいた。


「しかし……失礼ですがこれまで仙技使いでいたのは何故ですか? あなたの傭兵歴なら仙術武器を買えないという事も無かったと思いますが」

「それがなあ……」


 職員さんに問われたウラヤが遠い目をしている。

 今日まで仙術使いへの道を諦めていた理由を思えば、あんな目をしたくもなるのだろう。

 ……そう言えば、この街にもウラヤのように仙導力の資質は問題無いのに仙技使いに留まっている導士がいるのかもしれない。


「あの、仙技使いの導士が仙術使いになれるかもしれない、そういう話があるのですが」

「なんですかいきなり」

「いえ、ウラヤは今日まで仙術使いにはなれないと思っていたんです。それは昔仙術武器を試した時に駄目だったからなんですが。でも仙術使いになりました。同じように仙術使いになれる人が居るかも知れません」

「ほう、それは興味がありますね」


 職員さんが身を乗り出してきたので、ウラヤの失敗談を交えて大まかな事情を説明した。狙い目は過去に仙術武器を試したけれど駄目だった人で、なおかつ試した際に怪我をしなかった人だ。怪我をした人は仙力を招くのは成功して、でも仙導力の質が合わなかった人なので除外。ファンランも仙導力の質が変わるのはあり得ないと言っていたし。あ、でも探査スキルを憶えるのは無駄にはならないのか。そうなると既に仙術使いになっている人も対象になる?


「導士は他の導士の気配を離れた場所からでも察知できるそうですが、それをもう一歩進めた力の使い方ですね。修得すれば仙技使いから仙術使いになれるかもしれないと。そしてその技を山で教えてくれるのですね?」

「はい。と言っても先ほどそんな話が出たばかりですからまだ体制もなにも決まってません。仙術武器を買いに来た導士に教えて、地元に帰ったら広めてもらう方針らしいです。いずれファンランの方から話があるんじゃないでしょうか」

「そうですか。念のためこちらからも問い合わせてみましょう。ところで、その探査の技というのは修得までにどれほどかかるものなのですか?」

「俺は二月ほどかかった」

「ほう! 二月!」

「な、なんだ? おい」


 どうしたことか、急に職員さんが嬉しそうに声を大きくしていた。他の帳場の職員さんや食事処にいる傭兵や人足の人達が何事かとこっちを見ている。

 注目されているのに気付いた職員さんは「失礼」と咳払い。


「二月だと何かあるのか?」

「あります。あなた方の話が現実になれば、これまで仙術武器を買った途端に出て行ってしまった導士が二月はこの街に留まる事になります。そして、こう言っては何ですが傭兵の皆さんはそれほど懐に余裕がありません。大抵は仙術武器を買うギリギリのお金しか持ってませんからね。二月もこの街で暮らすなら、ロンフェン傭兵組合(うち)の仕事を受けてくれるのではないかと思いまして」

「そういう事か……本当に大変なようだな」


 同情交じりにウラヤが言う。

 ロンフェン傭兵組合では導士が不足気味なんだっけ。

 探査スキル伝授の仕組みが成立すれば、職員さんが言う通り導士の滞在期間は伸びそうだ。この街の導士事情が改善されそうである。……糠喜びに終わらないように祈っておこう。


 *********************************


 ウラヤの組合証更新は無事に終わった。

 仙技使いの表示を二本線で決して仙術使いに書き換え、組合符牒の部分でも一部で同様の処置が行われる。私には読めないけれど、あの部分に仙技使いと書いてあったのだろう。


 食事処に移動した。テーブルは昨日と同じ場所が偶然空いていたのでそこに。


「ふふふ」


 書き換えが終わったばかりの組合証を手にしてウラヤが笑みを零している。

 これでウラヤが仙術使いであると傭兵組合が保証した形になる。実質的には何も変わらなくとも、目に見える形で表されれば感慨もまた新たになるようだ。


「ヒノベ達のことですが」

「む? おう、ヒノベ達な」


 組合証を懐に仕舞い、ウラヤが真面目な顔になる。


「“発ち”は五人分揃っていたな。お前としてはひとまず安心といったところか」

「そうですね。それはあります」


 先ほど職員さんから教えられた“発ち”の記録は五人分。ミノウから追い続けている五人は一人も欠けていない。

 各街で“発ち”の調査結果を聞く時は緊張する。“発ち”において「次にどの街へ向かうのか」は報告を義務付けられていないが、ここまでヒノベ達はしっかりと申告しており、迷うことなく追跡を続けられている。なのでそこは余り心配していない。緊張の原因は、五人の内の誰かが欠けているのではないかという不安からだ。落命や仲違いによるパーティー分裂。メンバーが欠ける可能性は常にある。勝手に死なれるのももちろん、分裂も追跡が面倒臭くなるので勘弁してもらいたい。不本意ながらヒノベ達の無事と円満な人間関係を祈るのは継続しているのである。


「次がチャンシャとなると……」


 ウラヤは地図を取り出してテーブルに広げた。

 ヒノベ達が北壁を目指しているとして、しかし「北壁の何処なのか」までは判らなかった。

 そもそも北方民族に備えて北の国境沿いに点在していた城塞群。魔物発生後に城塞を繋いでいく形で防壁を建設したのが北壁である。これらの城塞は改修や補修を重ねて現在も使用されており、規模や地理の条件が良いところは発展して街になっている。これが城塞都市だ。……街なのに都市と呼ばれているのは何故なのか、それは誰も知らない。少なくともウラヤは知らなかった。

 ともあれ、一口に北壁と言っても行き先は多々ある訳で。

 ロンフェンから北上するにしたって街道は幾つも分岐している。

 でも次の目的地が確定すれば、自ずとどの城塞都市に向かうのかも絞り込まれてくる。


 ロンフェンからチャンシャへと街道を辿り、さらに北へと目を向ける。


「ウーハン、ですね」

「そうだな」


 地図を見る際の注意点。

 地図上では最短距離でも、間にある地形によっては逆に時間が掛かる場合もある。しかし街道沿いを行くなら地図上の最短距離が実際の最短距離になる場合の方が多い。なぜなら街道は歩きやすい地形を選んで敷かれているから。

 という訳でチャンシャ以北の街道を、余計な回り道をせずに進むなら、ウーハンという城塞都市が一番近い。ヒノベ達にとってはロンフェンに来たのがそもそも回り道なので、これ以後にまた北壁への最短進路を外れるようなことは無いだろう。ウラヤも私の読みを肯定してくれた。


 もちろんチャンシャ以降も傭兵組合の“入り”と“発ち”はきちんと確認しながら進んでいくつもりだ。ヒノベ達の安否が気にかかるし、読みが外れてウーハン以外の城塞都市に向かってしまうかもしれないから。


 *********************************


 翌日、チャンシャ傭兵組合への配達物を受け取ってからロンフェンを出立した。

 目指すは城塞都市ウーハン(暫定)だ。

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