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エセ仙術使い  作者: 墨人
第三章 ロンフェン
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龍脈洞

「そんなに構えなくても大丈夫よ。さっき言ったように仙術の仕組みは『あっち』もこっちも変わらない。“枠”を作る時に使うのが仙導力というだけで仙術武器の作り方は武宝具と同じだし、そこに龍脈の気を流し込んで仙術を発動させるのも同じ。違うのはそれをするのが仙人ではなく仙術使い――導士という点だけ。後はその違う部分だけだから」


 そう言ってファンランはお茶を一啜り。

 つられて私も茶碗を口元に運んだ。


『あちらの世界』の仙術については一応理解できたと思う。これも気功を切り口にして話を進めてくれたファンランのお蔭だ。外部の気を取り込む感覚は想像するしかないけれど、あらゆる物に気が宿っていると知っている分だけ受容し易かった。

 仙術の仕組みが同じであるなら、仙人を導士に置き換えるだけ。折り返し地点は大分前に過ぎていたことになる。


「まず、導士は仙人と違って龍脈に同調しているわけではない。これは良いわね?」


 確認するようにファンラン。

 外気功の到達点である龍脈との同調。これを果たすと副産物的にエルダーになってしまう。導士は普通に歳を取る。気功使いと同様に多少老化が抑制される面もあるようだけど、寿命でいうなら個人差の範囲に収まる程度でしかない。


「導士が龍脈を扱えるのは仙導力があるからね。でも仙導力があっても仙術を使えない人もいる。これには仙導力の質が関わってきて……判り易く説明するには『あっち』の電気に例えるのが名前も含めて丁度良いの。オウカは電導体って判る?」

「金属とか、電気を通す物ですよね?」


 天音桜は座学が苦手であるが、このくらいなら雑学の範疇として知っていた。


「そう。でも一口に金属といってもそれぞれ抵抗があるでしょ? 物によって電気を通し易かったり通し難かったりする訳。銅なんかは抵抗値が低いわね。電化製品のコードにも使われていた筈よ。もしも抵抗値の高い金属で電源コードを作ってしまったら、電源不足で電化製品は使えなくなってしまうでしょうね」

「……そ、そうですね」


 抵抗値とかは正直良く判らない。

 けれど電気の通り易さや通り難さというのはなんとなく判る。

 判るが……これ以上難しい言葉が出てきたら素直にギブアップした方が良さそうな気がしてきた。


「そんな顔しなくてもここまで理解できているなら後は簡単。あっちで龍脈と呼ばれているものを、こっちでは『仙』とか『仙力』と呼ぶのよ」


 え? 仙力?

 それでもって仙導力?


「あ……そういうこと……なんですか」


 本当に簡単だった。

 これは確かに名前も含めて判り易い。


 電気を通す物体が電導体で、仙力を流す力が仙導力。

 名前に関する『あちらの世界』とのシンクロは色々あったけれどこういうパターンもあるのか。

 ついでに言えば仙術武器が電化製品で、導士は電源コードにあたる。


「判ったみたいね。電導体とは逆に電気を通さない物を絶縁体と呼ぶでしょ? 龍脈に対する人間の体はそんな感じで、仙導力によって電導体になるの。これは……水に例えることが出来るわね」

「水ですか? 水は電気を通し易かったような……」


 天音桜が見た古い映画にこんなシーンがあった。

 とある部屋に閉じ込められている主人公。ドアの外には見張りがいる。

 主人公は花瓶の水をドアの下に零し、電気スタンドのコードを解して一方をドアノブにつなぎ、もう一方を床の水溜りに浸ける。そして見張りはドアノブを握った瞬間に感電するという寸法だ。

 もっと単純に入浴中のターゲット仕留めるため浴槽にドライヤーを投げ込むなんてシーンもある。

 水が絶縁体と言われても首を傾げるしかない。


「それは水に溶け込んだ電導体が電気を通しているの。何も混じっていない純粋な水は電気を通さない絶縁体なのよ」


 実際に首を傾げていたらファンランが教えてくれて、一つ賢くなれた気がした。

 水(人体)は絶縁体で、そこに電導体(仙導力)が加わると電気(仙力)が流れるようになる、と。


「そうなると仙術使いになれるかどうかが仙導力の質できまるというのは、抵抗値? があるからなんですね? 抵抗値が高いと仙術発動に十分な仙導力を仙術武器に供給できないから」

「そういうこと。抵抗値が低いほど多くの仙導力を通せるからより強力な仙術を使えるようにもなるわ。もちろんそれに見合った品質の仙術武器が必要になるけれどね」


 ちなみに龍脈に同調している仙人は抵抗がゼロだそうだ。「超電導状態ね」と少し自慢そうに言うファンランがなんだか微笑ましい。


 それはともかく、これでこちらの世界の仙術も理解できた。

 同時にもう一つ判ったことがある。

 導士は仙導力によって仙力を導き、仙術武器に流し込んで仙術と成す。つまりは仙力の伝達経路でしかなく、ファンランが例えたように電源コードみたいなもの。外気功によって龍脈の気を取り込む仙人とは異なり、仙力をステータスアップに利用できない。どんなに優れた仙術使いであっても身体能力は導士となんら変わらないという事だ。ヒノベはもともと仙技重視のスタイルなのだし、仙術使いになってもその傾向のままならば仙術に頼って肉弾戦は鈍っているかもしれない。


「それじゃあオウカの仙導力を試しに行きましょうか」


 私の理解が及んだと判断したのか、ファンランがそう言った。


「質を見るんですね。どうやるんですか?」

「仙力が通るかどうか、実際に触れてみるのよ」


 仙術を理解してから実地に試すというのがファンランの示した手順だった。

 実地って何処で?

 その問いには「仙術武器を作る作業場よ」との答。


 ファンランは奥の壁に作りつけられた棚から大きな扇を手に取った。

 芳蘭が持っていたのとそっくりな扇を見ると複雑な気分になる。

 なにしろあれでしこたま殴られて『死んだ』記憶が私にもあるのだから。


 一つ下の平坦地へと降り、ファンランは職人の住居の裏へと足を進めた。

 そこには一本の細い道が木々の間を縫って下へと続いていた。まるでこの道を隠すかのように家が建っているものだと思ったら「作業場は部外者立ち入り禁止なのよ」との事で、やはり隠す意図での配置らしかった。


 道を下るに従って岩がちな地形へと変化していった。

 木々が疎らとなり、地面から大きな岩が露出していたりする。

 更に進むと岩でできた崖にぽっかりと口を開けた洞窟へと至る。


「ここが作業場。『あっち』では龍脈洞と呼んでいたわ」


 言って、ファンランはスタスタと洞窟へと踏み込んでいく。


「あの、ここに松明がありますけど」


 深そうな洞窟だ。外の光が届かない奥の方は黒々とした闇に塗り込められているが、入ってすぐの処に木の棒の先端に布を巻き付けた松明が数本立てかけてある。布には燃焼時間を延ばすために油が染み込ませてあるようだ。ファンランは見向きもしなかったけれど、明らかに暗闇の洞窟を進むために用意されたアイテムである。


「私には必要ないのよ。ほら、こうするから」


 バチッっと弾けるような音がして、ファンランの手にある扇が糸のように細い雷を纏い始めていた。雷はバチバチと数を増やし、畳んだ状態の扇全体を覆うまでになり、雷同士が絡まり合って一つになった。制御された雷が放つ光がまるで電灯のように洞窟の奥まで照らしている。


「その扇、もしかして……」

「ん? 私の武宝具よ。名前はそのまま『雷光扇』」


 それを聞いてまたもや複雑な気分にさせられた。

 懐中電灯代わりになっているけれど、あれは雷撃の塊だ。スタンガンなんて目じゃないくらいの威力を秘めているだろう。でも私は――天音桜は普通に殴られただけだ。エルダーが学生に対して容赦のないことだと思ったりもしたけれど、武宝具たる扇を殴打武器としてしか使わなかったのだから実際にはかなり手加減していたことになる。


 それに、これはあの時と同じだ。

 初めて野営した時、私は火打石が無くて火を熾せなかった。そんな私を後目にウラヤは仙技を使って易々と竈に火を入れたのである。

 ここに用意されている松明は光源にならない属性の人用なのだろう。雷属性のファンランには必要ないし、私だって付与魔術を使えば木刀や鉈を松明代わりにできる。なのにスキルは戦闘用という観念に凝り固まり、そうした応用の発想に至れないでいる。


 ……もっと柔軟に考えらえるようにならないと。


 ファンランの後に続きながら、改めてそう思う。


 洞窟はくねくねと曲がりくねりながら下る方向へと延びていた。

 床は歩きやすいように均されていて、傾斜が急な部分では階段が刻まれていたりもする。ファンランが灯している電撃の灯りの光量もあって足元への不安は全くない。


 やがて目の前に地下とは思えない巨大な空間が現れた。


「ここが作業場よ」


 言って、ファンランは雷撃の灯りを消した。

 しかし暗闇に閉ざされる事は無い。

 空間は淡い緑色の光に満たされていた。


 光源は床にある。起伏に富み石筍なども散見される広間の所々に円形の石の台座が据え付けられ、緑色に光る何かを立ち上らせているのだった。


「凄い……」


 思わず感嘆の声が漏れてしまうような幻想的な光景だった。

 少なくとも“作業場”という言葉から連想されるゴミゴミした雰囲気とは無縁の場所である。


「ここで仙力への漬け込みを行っているの」


 ファンランが「ほら、あれを見て」と指差した先、石の台座の上には一振りの剣が置かれていた。他の台座にも何かしらの武器が置いてある。漬け込み――“枠”を設けた武器に仙力を馴染ませる段階なのだろう。

 と、すれば、あの緑色の光が仙力なのか。


「オウカ、こっちへ来て。ここが空いているから、あなたの仙導力をここで試すわよ」


 私が仙力の光に見入っている間にファンランは移動していた。

 彼女の傍らにも台座があるが、それは仙力の光を宿しておらず、上に何も置かれていない。


 近寄って見てみると、台座の表面にはびっしりと紋様が刻み込まれていた。直線と直角からだけで構成されており一見単純なようでいて、しかしそれらが複雑に組み合わされている。紋様を追って視線を台座の側面に沿わせていくと、床と接するところで唐突に途切れていた。


「あ……これ、地面に埋め込まれている……?」

「あら、良く判ったわね。だいたい六メートルくらいかしら。この下を流れている龍脈にできるだけ近づくように打ち込んだのよ」

「ろ、六メートル!?」


 ファンランが口にした数字は驚くべきものだった。

 台座――というよりも地面に撃ち込まれた杭のお尻の部分になるのだろう――は、私の両腕で作った輪よりももう少し太いくらいはある。それが六メートル。露出している部分も含めれば七メートル近い長さがある。とても巨大な石杭である。作るのも打ち込むのも大変な労力を要するだろう。


「この辺りの龍脈の本流はもう少し北の方にあるのだけど、そこから分かれた支流がロンフェンの地下でかなり浅いところを通っているの。この洞窟のお蔭で直接龍脈にアクセスできるという訳」


 ファンランによると龍脈から気を呼び込むのは近ければ近い程良いそうだ。遠くから呼び込んだ場合、経路にある物質の抵抗にあって減衰するとともに、岩盤などの気が不純物として混じり込むそうだ。そして仙術武器の完成度には龍脈の気の純度が関わってくる。


「仙術武器の品質は場所によって変わると聞きました。あれはそういう事だったんですね」


 地下深くを流れる龍脈が例外的に地表近くにまで達している立地。

 更に近づくために誂えたような洞窟が存在していたという偶然。

『あちらの世界』の龍鳳が仙人達の本拠地になっているのは、そこが武宝具の制作に最適だったからだ。こちらの世界の地形が『あちらの世界』の地形に酷似していると気付いたファンランは龍鳳の再現を狙ってこの地を訪れたそうだ。


「仙術武器の品質は確かに作成場所によって変わるわね。でも私の作る仙術武器が高く評価されているのはここで作ったからという理由だけではないのよ? どれだけ大きな“枠”を作れるのかも腕の見せ所だし、なにより私の気でやった方が仙力が馴染みやすいの」


 ちょっと聞き捨てならないわね、といった口調でファンランが言った。

 ……まあ、それもそうか。

 仙術武器の品質はいくつかの要素で決まる。素体となる武器の質、作る場所。しかしそれだけならここで作られた仙術武器はどれも同じ品質になってしまう。そんな中でファンランの作品がダントツなのは、他ならぬファンランの腕前に依るのだ。

 恵まれた場所だから良い物が作れる的な発言はファンランに失礼だった。反省しよう。

またもや難産でした。


電導体(電気伝導体)関連はググりながら書いたので多分間違ってないと思いますが、なにぶんその分野には詳しくない作者です。専門の人が見たら間違っている部分があるかもしれません。間違っていた場合は……「この世界ではこうなんだ」ということでお願いします。

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