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エセ仙術使い  作者: 墨人
第三章 ロンフェン
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暴露

 ウラヤがミヅキの村に移住するに際して、義父は色々と便宜を図っている。

 住む家を用意したり、食事の世話をしたり、だ。


 ウラヤのような『戦える人』が村人になってくれるのは大きな意味を持つ。元傭兵が睨みを利かせていればそれだけで無頼の輩は近寄り難くなるし、導士ともなればゴウヅのように近辺に魔物が湧いたとしても安心だ。小規模な群なら導士一人で駆逐でき、それが無理でも傭兵組合から討伐隊が派遣されるまで村を守るくらいはできる。


 義父が便宜を図ったのはウラヤに村を気に入ってもらい、出て行かないようにするため。村の安全を得るための投資のようなもので、受けた側のウラヤも承知していた筈だ。

 承知して受けたのなら、これはもう取引をしたのと同じだ。

 ウラヤは戦力を提供して村の安全を守り、その見返りとして義父は様々な便宜を図る。そういう取引だ。

 取引であるなら、一方の都合で反故にして良いものではない。


 そしてそうしたマズさとともに、今、この場でその話をしてしまったのもマズい。


「おい、ウラヤ、オウカ、ちょっと待て。お前らどっか行っちまうのか?」


 脇にいたジンノにも聞かれているし、聞けば突っ込まずにいられない内容だ。


「はい。えーと……そうですね、腕が治ったら……」


 突っ込まれてしまえば肯定するしかない。

 できるだけ早くヒノベ追跡に出発するのは既定路線ではあるけれど、その事実を何時組合やジンノ達に話すべきなのか結論は出ていなかった。

 話し辛いのである。

 敢えて言葉を選ばずに言えば、これは組合に対する裏切りだからだ。“試し”の間に組合証発行に見合う貢献をしているのとは別で、もっと感情的な部分の話だ。仲間として受け入れた筈の相手が、実は最初から仲間になるつもりなど無かったのだとしたら、やっぱり裏切られたように感じると思う。

 割焼印のために暫くはミノウから動けず、しかも毎朝組合に顔を出さなければならない。そんな状況で裏切り者扱いされていたら、これはもう針の筵に座るようなもの。明かすのは出立の直前くらいが良いだろうかとか、でもそれは組合やジンノを騙しているようなものだから針の筵覚悟で早めに話すべきだろうかとか、タイミングを思案しつつ決めきれていない状態だったのだ。

 それなのにウラヤがぽろっと口にしてしまって。

 これを知ったジンノはどんな反応をするのか、恐る恐る様子を窺ってみると、


「そうか……やはりな……」


 私を非難するような調子ではなく、もちろん愉快そうでもないが、妙に納得しているような塩梅だ。


「どうして“やはり”なんです?」

「どうにもお前の態度が余所余所しかったのでな。今日も組合に……いや、俺達傭兵に深入りしないようにしていただろ」


 ……どうやら金物屋での「古参から新人へ」の件を聞いた上で奢りを拒否した辺りから疑念を抱かれていたらしい。私が判り易いのもあるだろうけれど、傭兵隊を率いているジンノは普段から人を良く見てもいるのだろう。パーティーメンバーの状態を把握するのもリーダーの務めだからだ。


「オウカは感情が顔に出る。隠そうとしてもすぐにばれるだろう。ならばこちらから話してしまった方が良いかと思ってな」


 ウラヤが取って付けたようにもっともらしいことを言っている。

 あれは絶対にうっかりだと思うけど……。


「……本当だぞ?」


 さらに追加で、しかも疑問形で言い添えたのが疑念を強める。

 本当に本当ですか?

 じっとウラヤの目を見ていたら、ふっと視線を逸らされた。

 決まりだ。

 あれはやっぱりうっかりだ。

 まあ聞いてしまったジンノはどうしてか「裏切り者め!」などとは言ってこないから、幸いにして丁度良いタイミングで明かせたのかもしれない。偶然だけど。


「ところで、これは訊いても良いのか……なあ、これはヒノベが関係しているのか? 答えたくなければ答えなくても構わないが」


 ジンノが躊躇いながらもそう言って、「ああ、これはもう見抜かれているんだな」と思った。ヒノベが関係していると看破したのは驚くに値しない。私が傭兵になって即座に街を離れようとしているのと、それに先立ってウラヤがヒノベの記録を調べたのを合わせれば無関係だと考える方が難しい。


 ジンノは訊くのを躊躇い、答えたくなければ答えなくても良いと断った。私の事情が答え辛いものなのだと当たりを付けている証拠だ。ゴウヅでは何度か私が男を苦手にしているような場面を見られている。それがヒントになったのだろう。


 ……見抜いているから、私を非難しないのか。

 不幸話で同情を引くようで、こういのうは嫌だ。


「ジンノ……お前、鋭いな」

「って事は当りか。ヒノベめ……」

「ええと、お察しの通り、私はヒノベを追うために傭兵になりました。農民のままじゃ州境を越えられませんからね。それで……ジンノはヒノベを知っているのでしょう? 腕の立つ導士だと言ってましたよね?」

「言ったな」

「ヒノベのこと、もっと詳しく教えてください」


『あちらの世界』には「彼を知り己を知らば百戦して殆うからず」という有名な言葉があった。敵の力量や長所短所を調べ上げ、自らのそれらと比較して有効な策を練れば少なくとも負けはしないというような意味だ。ちなみに“負けないための有効な策”には「敵いそうもないなら戦わない」という逃げの一手も含まれる。私だって玉砕の趣味は無い。事前にできるだけヒノベの情報を得ておきたかった。


 しかしジンノの答えは「詳しくと言われてもな……」と芳しくない。


「済まんが俺ではヒノベがどれほどの導士なのか判らない」

「判らないって……それならどうして腕が立つなんて? それに一緒に仕事をしたこともあるんでしょう?」

「例えば、俺やオウカと比べてどうなんだ?」

「いや、だからそれが判らないんだ。ヒノベが魔物と戦っているところを見たこともある。だが、それでヒノベがどれくらいの導士なのかとなるとな。正直に言うと、俺にはお前とウラヤ、どっちが強いのかも判らない。お前たちが小鬼と戦っているのをこの目で見たが、『二人とも凄いな、さすがは導士だ』としか言えないんだよ。導士は俺達とは違い過ぎる。ヒノベの腕が立つと言ったのは“傭兵としては”だ。“導士として”腕が立つのかは俺には判らん」


 最後、ジンノは自嘲気味に言い添えた。

 そんなジンノの述懐を聞き、思わずウラヤと顔を見合わせてしまった。


「俺とオウカで差が無いように見える?」

「……でも仕方ないのかもしれません。小鬼くらいの魔物が相手では全力を出し切るまでにはなりませんから。二人して小鬼を倒すならこれくらいで十分っていう戦い方をしていたら、それは同じように見えてしまうんじゃないでしょうか」

「ふむ……そうなるのか」

「済まんな」

「いえ、ジンノが謝るような事じゃないです」

「こうなったら爺さんに訊くか。爺さんはヒノベに目を掛けていたんだよな? 腕前も良く知っている筈だ」


 そういえばお爺さんも昔は名の知れた導士だった。

 導士の目でならヒノベの力量を見極めているかもしれない。

 お爺さんに訊くのは良いアイデアだ。


「それじゃあウラヤが訊いてきてください。私はここで待ってますから」

「なんでだ? これはお前が知りたいのだろう。お前が来なくてどうする。もしかしてお前、爺さんが苦手なのか?」

「そういうのじゃありません」

「だったら来い。そうだジンノも来てくれ。ヒノベに目を掛けてたって事は、爺さんはヒノベ贔屓かもしれんからな。ジンノから見たヒノベがどうだったのか、そこのところを話してやってくれ」

「俺もか!? オウカが行くなら俺は行きたくないんだが……」


 渋るジンノを強引に引っ張っていくウラヤ。

 なんだろう。さっきのうっかりにしろ、この強引さにしろ、ウラヤがどうにもおかしいような気がする。


「オウカ、早く来い」

「……判りました」


 普段のウラヤならここで私を連れて行こうとはしないだろうに。

 気は進まないけれど行かざるを得ないようだ。


 来ない方が良いんじゃないか?

 気まずそうに私を見るジンノの目がそう言っていた。


 *********************************


「ウラヤ、おめえの復帰は手続きしてやっただろうが。ぞろぞろと引き連れて今度は何しに来やがった」


 帳場のお爺さんはぎょろっとウラヤを睨み付けた。

 相変わらずの口の悪さである。


「爺さん、話がある」

「なら話せ」

「おう。実はな……」

「ちょっと待ってください! ここで話すんですか!?」

「ウラヤ、あんたどうしたんだ? こんなところでできる話じゃないだろ」


 いきなり話し始めようとしたウラヤをジンノと二人で抑え、「ああん? なんだおめえら?」と胡散臭そうにしているお爺さんに「奥の部屋を使わせてください」と頼み込んだ。


「ふん? またオウカ絡みか」


 似非仙導力の件で奥の部屋を使ったのを思い出したのか、お爺さんはあっさりと「いいぜ」と言いながら帳場を降り、奥の部屋へと私達を招じ入れた。今回はテーブルを囲んで椅子に座る。


「で、話ってのはなんでえ」


 どっかりと椅子に腰かけ、腕組みしたお爺さんがウラヤを促す。


「まず最初に言っておくと、俺とオウカはミノウを離れる。オウカが傭兵になったのは組合証を使って倭州を出るため、俺が復帰するのはオウカに同行するためだ」

「おう……いきなりきたな」


 お爺さんの反応は薄いものだった。


「あまり驚いていないようだが」

「驚かねえよ。こうなるんじゃないかと予想はしてたからな。ヒノベを追うんだろ?」


 反応が薄いのも当然か。

 お爺さんもジンノと同じように薄々察していたらしい。


「済みません。こういうの、本当は良くないって判ってます」

「謝るこたあねえ。昨日言ったろ。おめえが組合証を手にした途端にとんずらしても組合に損はねえと。傭兵になる理由は色々ある。オウカの理由がヒノベにあるなら、そりゃあ出ていくしかねえんだろう」

「そこまで判っているなら話が早い。それでな爺さん、ヒノベの事を……」


 私の謝罪を受け入れてくれたお爺さんにウラヤは勢い込んで尋ねようとするが、お爺さんは「いや、待て」とウラヤを遮った。


「そこまでなんだよ。俺が判っているのはそこまでだけだ。おめえら、何故ヒノベを追う?」

「それはヒノベが……」


 そこでウラヤ、はっと気づいたようだ。

 ぎこちなく首を回して私を見る。

 あれは相当動揺している顔だ。


 だから私はこの場にいたくなかった。

 ヒノベを追うためにミノウを出る。その為に傭兵になった。

 そこまではお爺さんも推測できている。

 でも、お爺さん自身が言ったとおり、そこまでだけだ。


 小鬼退治で行動を共にしたジンノは観察眼の鋭さも相まってヒノベを追う理由までをある程度察してくれているけれど、組合で短時間顔を合わせただけのお爺さんはそこまで到達できない。当然、その点を追及してくる。


 ヒノベを追う理由を説明するためには話さなければならない。

 五年前の一件を。

進行が遅いのは今に始まったことではありませんが、なかなか街から出られません。

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