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エセ仙術使い  作者: 墨人
第三章 ロンフェン
33/81

”試し”終了

 四日ぶりにミノウの傭兵組合に戻って来た。

 私とウラヤの他、ジンノを含めた増援組の半数も一緒だ。残りの半分はもとから巡回中だった隊とは別にゴウヅ周辺の手当てに回っている。万一狩り残したゴブリンがいた場合の備えである。


 先日とは異なり組合の食堂部には傭兵と思しき身なりの人達がそれなりの数いて、入って来た私達を見て「お?」という顔になる。


「ジンノ、小鬼討伐は終わったのか?」

「ああ、終わった。巣も潰してきたからもう大丈夫だろう」

「そうか……」


 顔見知りらしい傭兵とジンノの遣り取り。「終わった」というジンノの言葉を聞いて、傭兵達の反応は二つに分かれていた。一つは「良かった」という安堵であり、もう一つは「もう終わってしまったのか」という嘆きだ。

 安堵は判る。これでゴウヅの人達は安全になったのだし、導士でもない傭兵にとってはゴブリンも強敵、戦わずに済むならそれに越したことはない。

 では何故嘆くのか?


「魔物の討伐は報酬に色が付く。腕に覚えがあれば稼ぎ時にもなるんだ」


 ウラヤがこっそり教えてくれた。

 それはそうかと思わされる理由だ。傭兵の仕事にはいろいろあるだろうが、そこらのごろつき相手と魔物相手では危険度がまるで異なる。危険に見合った報酬を用意するのは組合側の当然の措置だろうし、その危険をものともしない技量の持ち主であるのなら、魔物討伐は美味しい仕事になるのだろう。そうと意識して見てみれば、残念がっている傭兵はいずれも強者の風格を漂わせている。


 ちなみにジンノに話しかけた傭兵もそんな強者の一人であるが、嘆きの表情はすぐに引っ込み、「無事に戻ってなによりだ」とジンノの肩をバシバシ叩いて祝福している。妬みや嫉みの感情は感じられず、純粋に仲間の喜んでいるのが判る。


「ジンノ! 戻ったならさっさと報告に来ねえか!」


 そこに帳場からお爺さんが声を掛けた。ほとんど怒鳴るような口調だけど、それがいつもの事なのか誰も驚かず、やれやれと言った感じで帳場へと足を向けた。するとお爺さん、


「ぞろぞろ来るんじゃねえよ! ジンノとウラヤ、あとはオウカでいい。他の奴らは飯でも食ってろ」


 また怒鳴る。口調はこうでも、これは遠征から帰った傭兵を気遣ってのことだと思う。歩き通してゴウヅから帰って来たばかり。疲れてもいるし夕飯にも丁度良い頃合いだ。報告するならリーダー格のジンノがいれば足りるのだから、なにも他の傭兵を付き合わせる必要は無い。それよりも早く休ませてやろうという、お爺さんのやさしさの表れだ。


 あからさまにほっとしているバイカ達と別れ、厨房とは反対側の扉から案内されたのは床は剥き出しの土、大きな作業台のようなものが据え付けられた殺風景な部屋だった。

 組合職員を伴ってきたお爺さんは「どれ、出してみろ」とジンノを促す。


 心得たもので、ジンノは作業台の上で持参した袋を逆さにした。そうして作業台の上に小さな山を作ったのはゴブリンの耳である。討伐証明部位たる耳を示して「これだけの魔物を狩った」と報告する形式だ。

 耳を見て「まあこんなものか」という顔をしているお爺さん。

 そんなお爺さんを見てウラヤがニヤリと笑う。


「オウカ、お前のも出せ」


 言われ、預かってきた袋から耳を追加する私。

 倍に増えた耳を見てお爺さんは目を円くした。


「なんだあ、この数は」

「どうも発見されるよりも随分前から湧いていたようでな。集落染みたものまで作っていた」

「集落なあ……それでか」


 ゴブリンの数は四十くらいと見積もられていた。その数を多少オーバーするのは想定内でも、いきなり倍以上になるのは想定外。そんなところか。


「良くもまあ、これだけの数を狩ったもんだな。しかも……今日の今時分に戻ったとなれば二日もかけてねえんじゃねえか?」

「そうだな。そこは運もあるが、オウカの力も大きく貢献している」

「ああん? オウカの力だと?」

「こいつの仙導力、自己流故に俺達とは少々毛色が違う。俺達にできてオウカにできないこともあれば、その逆もある」

「ほう?」


 お爺さんからの問い掛けるような視線に応えて『止水』の広域探査について説明した。


「俺の隊は常に不意討ちに成功していた。おかげで負傷者も無しだ」

「便利な技だな。腕っぷしが強いってだけよりも余程役に立つ」

「その腕っぷしも強いんだから恐れ入るぜ。爺さん、これを見ろよ」


 そう言ってジンノが摘み上げたのは他に比べて一際大きな巨鬼の耳だ。


「でけえな。大物だ」

「こいつをな、オウカは素手で殴り倒したんだ」

「ああん? なんで殴るんだよ。オウカ、おめえ鉈を持ってただろうが」

「鉈は投げてしまいました」

「投げただぁ?」

「投げると言えば鉄串を投げたりもしてたな」

「鉄串? 肉焼きのか?」

「そうだ」


 そんな具合に自分の話題が話されているのを傍で訊いているのはむず痒い心持にさせられる。鉄串の投擲やら『鬼の手』やらを実演させられたりもした。そして一通りの話が済むとお爺さんは溜め息に似た感じで息を吐いた。


「端から変わり種と知っちゃあいたが、これ程とはなあ……で? オウカよ、初めて魔物と戦った感想はどうだ?」

「そうですね……色々と驚かされました。ウラヤが言っていた通り、私は小鬼の事を判った気になっていただけで、何も知りませんでした。実際に見てみないと判らないことってやっぱりありますね」


 ゴブリン討伐の間には様々な事を見聞きした。鈍重なはずのゴブリンが樹上移動で意外な機敏さを発揮するなど、『あちらの世界』の知識が通用しない事例も多々ある。


「無傷で帰って来て、なおそうして素直に認められるなら上出来だ。たまに居やがるからな、『勝ったんだからどうでも良いだろう』とか言い出す阿呆が。そんな奴はいずれ足元を掬われて痛い目を見るもんだが、オウカは大丈夫なようだな」


 うんうんと頷くお爺さん。

 また素直さを褒められてしまった。

 褒められるのは貶されるよりましではあるけれど、そろそろ素直さを褒められるのはどうなのかと思える年齢なのも確かだ……。


「おい、わざわざ捻くれようとか考えてないだろうな?」

「……こういうふうに読まれているうちは無理だと思いましたよ」

「そりゃそうだな」


 それほど長い付き合いでもないのに、どうしてウラヤはこうも私の考えが読めるのか。


 *********************************


「集計終わっています」


 職員の人が会話の途切れたタイミングを逃さずにお爺さんに報告した。今まで耳の数を数えて私達が討伐したゴブリンの数を集計していたのだ。

 魔物を討伐した場合、基本報酬に色が付くのとは別枠に討伐した数に応じて追加の報酬が発生するそうだ。討伐証明部位はその為でもあり、あの滝壺の広場でジンノ達が嬉々として耳を切り落としていた理由でもある。


「報酬は規定通りです」


 職員の人が示した報酬額は私とウラヤだけ多かった。ジンノ達に支払われる報酬のきっちり五倍になっている。しかしジンノは不満の言葉を口にしない。口にしないだけでなく、本当に不満は無いようだ。


「ジンノ、良いんですか? 報酬がかなり違いますけど」


 尋ねてみると、ジンノは虚を突かれたような顔になる。


「いや、お前の方こそ良いのか? 組合の規定だから俺にはどうしようもないが、たまに導士連中には申し訳なくなるくらいなんだが」


 逆に問い返されて「え?」となってしまう。一緒に仕事をして帰って来てみれば五倍もの報酬格差。それでどうしてジンノが申し訳なくなるんだろう。


「組合の規定では報酬は人数分の頭割りです。ただし導士は五人分として数えることになっていますね」


 事情が分からない私に職員の人が教えてくれた。

 例えば今回のゴブリン討伐では総勢十九人が参加している。これが普通の傭兵ばかりなら単純に報酬も十九等分となるが、参加者に導士が含まれる場合は計算が少々異なる。導士は五人分として数え、つまり二十七等分した内の五を私とウラヤがそれぞれ受け取り、ジンノ達は一ずつとなる。


「まあ俺が五人いればオウカと同等の仕事ができるかって話だ。無理だろ。今回のこれだって導士抜きでやろうとしたら何十人の傭兵が必要になると思う? それに比べれば俺たちの取り分は随分と多くなるんだ」


 だから申し訳なくなる、とジンノ。

 そんなジンノをフォローするかのようにお爺さんが口を開く。


「貢献度で言えばもっと差をつけるべきなんだろうがな、それをやっちまうと早晩導士だけで魔物討伐に行かなきゃならなくなる。難しいところだ」


 導士が同行したとしても、それで危険がゼロになる訳もない。危険を犯して魔物討伐に行って、貢献度を理由に報酬が雀の涙ほどに減らされるようでは誰も仕事を受けなくなってしまう。戦闘のみであれば導士だけでも問題なかろうが、捜索などどうしても人数を必要とする場面もある。普通の傭兵の協力が不可欠である以上、彼らのやる気を刺激するのに十分な報酬を出さなければならない。その辺りの兼ね合いで規定されたのが現在の「導士は五人分」なのだそうだ。


“魔物の前に立つことで犯す危険の度合い”で言うなら、私達導士よりもジンノ達の方がより大きな危険を犯している。危険手当的な意味合いでならジンノ達の方にこそ色を付けるべきだと思わないでもないが、それは『あちらの世界』の感覚なのだろうか。

 仕事をした分だけ報酬が増えるのは、逆に比べればまっとうなので文句の付けようもないし、こちらの世界ではこれが当たり前なのであればなんやかんやと言わずに黙って受け取っておくべきだろう。導士の立場にある私がこれ以上言えばかえって嫌味にもなってしまうだろうし。


「ところで、穴の開いた耳がいくつもありますが……これは?」


 職員の人が摘み上げた耳には穴が開いていて、それはジンノ達が魔木の杭を試した痕跡に他ならなかった。一瞥して「なんだこりゃ?」とお爺さん。


「おう、そいつも報告しなけりゃならんな。ジンノ、お前から言うのが筋だろう」

「ああ。爺さん、これを組合に預ける」


 ウラヤに促され、ジンノは魔木を作業台に乗せた。お爺さんと職員の人はいかにも『木』な外見のそれを怪訝な面持ちで見ている。が、お爺さんは「もしや魔木か?」と正解を言い当てた。


「さすがに爺さんは知っていたか。それなら話が早い」

「実物を見るのは初めてだがな。こいつをゴウヅで見つけたのか?」

「さっきのでかい小鬼が巣の中から投げてきた。オウカが目をつけてたんだが俺達に譲ってくれることになった」


 私の木刀作りの件から始まって、魔木と判明したそれをジンノ達へ譲り、ジンノが組合に預けると決めた経緯が説明された。


「俺の隊ではバイカとトウリが槍持ちだ。あいつらに持たせる分はもう貰ってある。残ったこいつは目ぼしい隊に行き渡るように組合の方で上手い事分配してくれ」

「そうか、判った。分配はこっちできっちりやろう」


 そう請け合ったお爺さんは、続けて私にこう言った。


「これならもう十分だ。オウカ、お前の試しはこれで終わりとして、明日組合証を発行してやる」

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