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エセ仙術使い  作者: 墨人
第二章 傭兵組合
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水浴び

 魔木回収後はゴブリンに出会うこともなく合流場所となる野営地に到着した。

 バイカ達の方は一度だけゴブリンを発見したそうだが、別れる前の頼もしい言葉通り、導士抜きでも恙なく狩りを行っている。


 全員が無事に揃ったところでジンノから魔木の件が語られた。魔物に有効な武器素材と聞いて最初は半信半疑だった傭兵達も、ジンノが討伐部位証明の耳と杭で実演してみせると驚きの声を上げていた。そして我も我もと試したがり、人数分の耳に穴が開く結果となった。

 誰でも考えることは同じようで、杭で刺した後は自分の剣などを試す人が続出したりもした。


「そもそもはオウカが木刀の材料にするつもりだったのだが、こういう事なら俺達が使った方が良いだろうと譲ってくれた。俺はこれを組合に預けようと思う。一隊に一人か二人、これで作った槍を持つようになれば相当な底上げになるだろう」


 続けての発表で私への感謝の声が上がり、そして組合に預けるという提案に反対の声は上がらない。一人くらいは独占しようと言い出す人がいるかもしれないと思っていたけれど、その予想は良い方向に裏切られた。


「代わりに木刀分の木材は俺が奢ることになったけどな」


 少々おどけてジンノが言えば、「だったら俺も奢るぞ!」「いや、木材ばかり押し付けてどうする。俺は飯を奢ろう」「なら俺も飯だ!」とばかりに暫くは食費を心配せずに済むこととなってしまった。拾った丸太の所有権を放棄しただけでと思わないでもないが、素直に奢られておいた方が彼らも引け目を感じずに済むだろう。


 *********************************


 ゴウヅに戻ったのは夕暮れ間近の刻限だった。

 討伐完了の報告のために村長宅を訪れると、どんな伝達手段を使ったのか、既に多くの村人が集まっていた。


「見てくれ。これだけの小鬼を狩ってきた」


 村長宅の前、ジンノの合図によってゴブリンの耳が積み上げられると村人から歓声が上がった。三ケタに届く数の耳が山となっている光景はご婦人方には刺激が強すぎたようで早々に目を逸らしていた。が、ここ暫く続いた不安から解放され、表情は明るくなっている。

 討伐証明部位は組合への報告だけでなく、こうした場面でも役に立つ。ゴブリンを討伐したという事実の、この上なく判りやすい証拠であるからだ。もしも何もなしに「魔物を狩ってきた」と言葉だけの報告をしていたら、村長たちは表立っては疑わなくとも心の奥では一抹の不安を拭いきれないに違いない。


 巣を発見して既に潰しているから小鬼が新たに湧くことは無い。

 しかしながら見落としが無いとも限らないので暫くはゴウヅ周辺の巡回を強化する。


 そうした説明をジンノが行い、村長たちは熱心に頷きながら聞いていた。

 一通りの話が終わると、村長と夫人は一言二言話し合い、頷き合うと、


「もう間もなく日が暮れる。今から出たらすぐに野営をするのだろう? ならば今夜はこの村に泊まっていくと良い。宿は無いが、納屋くらいなら貸せる。飯も出そう」

「あの山での猟を再開できるとなればもう残りを気にする必要もありませんから、お肉も多めにね」


 村長はともかく、夫人のセリフの最後は間違いなく私に向けられていた。

 ……村長夫人の中の私は既に肉好き女子になっているようだ。


「どうだ、皆の衆。せっかくだ。食い物を持ち寄って宴といこうじゃないか」


 集まった村人に村長が告げると再びの歓声。

 気のせいか、さっきよりも声が大きい。不安に押し潰されそうな日々を送って来た鬱屈を晴らす良い機会という事だろう。

 こうなってしまえば歓待を辞退するのは野暮というもの。夕飯を御馳走になって一晩の宿を借りることが決まった。


 正直有難い。

 食事ももちろん嬉しいが、それ以上に泊めてくれるのが嬉しかった。

 外套を用いた野営は予想していたよりも快適ではあったのだが、それでも家の布団で寝るのとは大違いだ。まだ野営に慣れていないせいもあり、前日の疲労が抜けきらないままとなっている。

 泊まる場所が納屋であることに文句は無い。

 ゴウヅもミヅキと大差ない田舎の農村だ。特に風光明媚な観光地というわけでもなく、訪れるのは生活必需品を商う行商人くらいのものだろう。そんな村では宿屋など開いても閑古鳥が鳴くばかり。採算が合わずにすぐに廃業する羽目になる。

 そしてこうした農村に『客間』などという生活に不必要な余剰の部屋を備えている贅沢な家は無い。他所から来た人を泊めるなら納屋が定番となる。

 納屋には縄綯い用の藁が蓄えられているはずだ。そして普段使っているのは藁布団。

 藁を上手い事敷き詰めて、その上で外套にくるまって寝れば、それは布団に寝ているのと変わらない。

 今夜はぐっすりと眠れそうだ。


 しかし、その前にやっておかなければならないことがある。

 村長の仕切りで宴の準備が始まる中、


「あの、ずうずうしいお願いなのは承知しているのですが、お風呂を貸して頂けないでしょうか」


 頼んでみたら二つ返事でOKが貰えた。しかも私だけでなく他の傭兵達にも風呂を勧めている。どうやら村長夫人、私たちの汚れ具合を気にしていたらしい。

 何日も野営続きで水浴びも着替えもしていない。滝壺に放り込まれて強制的に水浴びをする運びになった私などはまだマシな方で、当事者である私達は鼻が慣れてしまったのか何も感じないけれど、恐らくあまりお近づきになりたくない臭いを放っているはずだ。

 これから宴となれば強すぎる体臭は村人たちに迷惑をかけるだろう。


 夫人の好意によって水汲みも薪割りも免除でお風呂を貸して貰えることになった。

 が、あまりに汚れ過ぎているためにいきなりお風呂場を使うのは難色を示され、近くにある池で軽く汚れを落としてからお風呂を使ってほしい、その間に湯の準備をしておくからと申し訳なさそうに言われた。こちらとしても他所の家のお風呂場を汚すのは本意ではないので、当然の事として受け入れた。


「そういう事ならお前たちが先に行け。俺達は後でまとめて行けば良いだろう」


 事情を話すとウラヤがそう言い、ジンノ達他の傭兵も先を譲ってくれた。レディーファーストというわけではなく、単にその方が効率が良いという判断だろうけれど。


 *********************************


 さて、バイカ達と連れ立って、夫人に教えられたとおりに村長宅の裏手に回ると、疎らな雑木林の中に一本の道が伸びていた。薄暗くなり始めた林の中を進むと、空に残る光を反射する水面が見えてくる。


 近づいてみると「池」という言葉から想像していたよりも水が澄んでいる。じっと見ていると水が流れているような様子。夫人は池と言っていたけれど、水が流れ込んで流れ出る、川の一部であるようだ。

 その岸の一角に大小の石を敷き詰めて足元を整えた場所があった。洗濯や野菜を洗ったりに使っている場所らしく、そこから覗き込むと水深は私の腰くらいまでで水浴びにも丁度良い感じだった。


「ここで良いんでしょうね」

「簡単に着物も洗っておこう」


 脱衣して下着姿に。

 ちなみにこの世界の下着は男も女もフンドシだ。前側で布がひらひらするタイプである。最初は戸惑ったものの、今ではキリッと引き締まるような心地になるようになった。

 もう一つちなみにだけど、“下着”と呼ばれるのはフンドシだけ。胸を隠すために用いる類の下着は存在せず、敢えて言うなら私のようにサラシとして布を巻き付けるのがそれにあたる。

 サラシもほどき、着物共々抱えたまま水の中へ。水が冷たいけれど気持ち良い。


「さすがに汚れてたね」

「まったく」

「本当ですね」


 水の中で着物を揉むようにすると、水中に茶色がもわっと広がり、緩やかな流れに運ばれていく。清らかな水の中だからこそ改めて「こんなに汚れていたのか」と認識させられ、これは村長夫人がああ言ったのも無理はないなと苦笑交じりにバイカ達と言い合った。

 一度水から上がり、絞った着物は木の枝に引っかけて再度水に入った。


「下着はちょっと念入りに……」


 私がそう言った時、二人は既に手を動かしていた。

 水中でフンドシを外して揉み洗いしている。


 下着もやはり汚れている。

 洗い終われば三人で決まり悪げに顔を見合わせて「ふう」と息を吐く。長期間着用を続けていれば汚れるのが当たり前であっても、そうした汚れ下着を他人に見られるのはやはり恥ずかしい。だから作業は水中で密やかに行われたのだった。暗黙の了解と言うべきか、お互いに努めて見ないようにもしていた。


 そのせいかようやくお互いをしっかりと見たような気さえする。

 それはバイカ達も同様らしく、まじまじと私を見ていた。


 ざばざばと水を掻き分けてトウリが近づいてきて、


「細いなぁ。着物着てるときも細いと思ってたけど、こうしてみると本当に細い」


 私の腕を取って上腕の辺りをむにむにと揉んできた。


「細いのに、柔らかい。傭兵の体じゃないね」


 反対側の腕を取ってそう言ったのはバイカだ。

 そう言うバイカ達は鍛え上げられた肉体をしている。『あちらの世界』にいたボディビルダーのようなゴテゴテの筋肉ではなく、傭兵生活と訓練で育った筋肉が適度に全身を覆っている感じだ。実用的で、綺麗。でも、固そう。

 一方の私は、バイカの言うとおりに柔らかい。太っているわけじゃない。それどころか身長の割に肉付きは薄い方だ。それでも筋肉量がさほどでもないので、バイカ達に比べれば柔らかいのである。


「組合のお爺さんも最初は『細すぎる。体を作ってから出直してこい』と言って登録してくれませんでした。導士だと判ったら許してくれましたけど」

「これじゃあそう言うよ。女の子の体だもの。これで巨鬼にも負けない力が出せるんだから導士って本当に凄いよね」

「食べるものが変われば筋肉ももっと増えるでしょうね。村と街じゃ全然違うし……でも、それにしては……どうしてここだけはこんなに肉が……」


 バイカは私の胸を凝視していた。


「どうしてと言われも困りますが……」


 実際、村での質素な食生活でどうしてここまですくすくと育ったのか、私も不思議なのだから答えようが無い。食料事情では遥かに恵まれている天音桜の同年代時と比べても遜色無い育ちっぷりで、胸の成長と栄養状態は関係ないのではないかとすら思えてくる。


「胸の話はいいですから、早く汚れを落として戻りましょう。お風呂が待ってますよ」


 話を逸らすのが目的の半分、残りの半分は本心から。

 体を清めるというだけならここでも十分に目的を果たせる。でも冷たい水で体を洗うのと、熱いお湯で洗った後に湯船に浸かるのを比べたら雲泥の差、天と地の違いがある。お風呂とは単に垢を落とす場にあらず、もっと特別な意味を持つ場所なのだ。

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