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エセ仙術使い  作者: 墨人
第二章 傭兵組合
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魔木

 示し合わせた訳でもないのにぴたりと声が重なったものだから、思わずジンノと顔を見合わせてしまった。なんとなく照れ臭く、そんな照れを隠すかのようにジンノは咳払いを一つ。


「魔木なんて聞いたことが無いな。名前からすれば魔物絡みなんだろうが」


 ウラヤは「無関係ではないな」と頷く。


「魔木はな、北壁の向こう側、魔物の領域で発見された珍しい木だ。見ての通り、木でありながら木とは思えんほどに固い。城塞都市では魔物に有効な武器の材料として重宝されている」

「武器? オウカみたいに木刀でも作るのか? なんだってそんな。鉄のように固い木ってのは確かに凄いが、オウカのような事情が無い限りは普通に鉄で作った武器の方が良いだろうに」

「固さだけならそうなんだが……これは言葉で説明するのは難しい。オウカ、木刀はどれくらいの長さにするんだ?」


 ウラヤが何をしようとしているのか、おおよその察しはついたので、「これくらいです」と少し余裕を持たせた長さを指定した。鉈を振るい、余分を切り落とすウラヤ。端材となったそれを薪割りの要領で縦に四分割し、一本を手にすると先端を鋭く削って杭とした。


「これでそこのでかぶつを刺してみれば判るぞ」


 握る部分に布を巻いてジンノに手渡し、ウラヤは巨鬼の死体を指さした。訳が判らないという顔をしていたジンノも、ウラヤがこう言うからには何かあるのだろうと大人しく巨鬼へと向かう。

 杭を振り上げ、振り下ろし、ジンノが上げたのは驚きの声だった。


「な、なんだこりゃ!? どうしてこんなに簡単に刺さるんだ!?」


 杭は深々と巨鬼のお腹に刺さっていた。

 導士であれば魔物にも普通に攻撃が通る。でもジンノのような普通の傭兵にとって、自分の攻撃が魔物に対して普通に通るという経験はこれまで皆無だったはずだ。


「……」


 ジンノは無言のまま自分の剣を鞘から抜き、同じようにして巨鬼へと振り下ろした。

 が、当然ながら剣の切っ先は巨鬼の腹を浅く傷つけるに留まった。スキル無し、武器はただの鉄製。魔物が持つ物理攻撃無効特性が刺突を食い止めた形になる。


「杭は刺さるのに、どうして……」


 呆然としているジンノをよそに、ウラヤは杭を抜き取り、剣と打ち合わせてコツコツと音を立てさせた。音が一つするたびに、杭には小さな傷が一つ生まれている。


「鉄のように固いと言っても、やはり鉄の方が固い。にも関わらず、鉄の剣は刺さりにくい魔物にも魔木の杭はやすやすと突き刺さる。何故こうなるのかを俺は知らん。知っている奴などいないのだろうな」


 はい、私は知ってます。

 とは言えないので「へえ、不思議ですねぇ」という顔でウラヤの話を聞く私。

 内心が顔に出やすいそうなので注意が必要だ。


「不思議な話だが魔木で作った武器は魔物に対して非常に有効だ。まあ、そうは言っても木だから剣などは作れん。こうして先を尖らせて槍の穂先にするくらいだな」

「……こんな物があるなら槍持ちに転向しても良いくらいだ。しかしこんな素晴らしいものでありながらまるで知られていないのは何故だ?」

「魔木は珍しいと言っただろ。見つかる量はそれほど多くない。見つかったとしても大抵が巣の近くや群れの溜まり場といった魔物が多くいる場所になる。取りに行くだけでも命懸けだ。自ずと量は少なくなるし、北壁の城塞都市にいる奴でこれを欲しがらない奴はいない。高値で売れるから見つけた奴は自分で使う分以外はすぐに売っちまうのさ」


 北壁の城塞都市は北からの魔物を食い止める国軍の防衛拠点であるとともに、北方探索へと向かう傭兵の前線基地をも兼ねているそうだ。兵にしろ傭兵にしろ、城塞都市にいる人たちは魔物と戦うのを前提としている。魔物に有効な武器の素材が持ち込まれれば誰もが欲しがるだろう。そして魔木を手に入れた兵は城塞都市にとどまり、傭兵は探索へと赴く。北壁以南の地に魔木が流出する事は無い。


 魔木が貴重品になるのも当然だ。

 魔界産の素材は『あちらの世界』でも変わらず貴重だった。理由はそのまま「魔界産だから」としか言いようが無い。どれだけ欲しても魔界まで採取に行くのが不可能である以上、魔族なり魔物なりが持ち込んだ物を奪い取るのが唯一の入手方法となる。絶対量が少なく、入手の難易度が高いのだから需要に供給が追い付かないのである。

 こちらの世界でも似たような事情だろう。

 棍棒などの武器として持ち込まれた木材が魔木の正体だとすれば、魔木があるのは必然的に魔物がいる場所になる。巣の近くのような魔物の数が多い場所で発見されやすいというのは、全ての魔物が武器持ちでもないだろうから、魔物の数が多い程に発見率が高くなると言ったところか。


「これまで魔物の領域以外で魔木が発見されたという話は無かった。どうしてこれがここにあるのか皆目見当もつかんが……オウカがいたのも含めて運が良かったな。こいつがいなかったら折角の魔木を見逃していただろう」

「そうだな……魔木を知らなかったとはいえ、俺はただの木としか見ていなかった。オウカが言い出さなければここに戻ろうなんて気にならなかった」

「そういう事だ。取り敢えずバイカと……トウリだったか。槍持ちが二人いただろ。槍にしてそいつらに持たせたらどうだ」


 杭と、手付かずの三本の木切れを示してウラヤが言うと、ジンノは「良いのか?」と私に問い掛けてきた。


「それは構いませんが……」


 木刀にする分は確保した後の余りだから否やは無いのだが……。


「こっちもジンノ達で使ってください。私が木刀にするより、その方が良さそうです」


 残りの部分も差し出すと、ジンノは「そう言ってくれるのは有難いが……本当に良いのか? こいつの価値は判っているのだろう?」と確認を重ねてくる。魔木は希少で貴重なのだというウラヤの話を聞いたばかりなので、丸ごと譲ると言い出したのが信じがたいのだろう。


「もちろん魔木の価値は判ってます。判ったからこそ、私が独占するわけにはいかなくなりました」


 木刀を作るのにこれ以上はない材料との思いは今も変わらないが、それは「他の木材よりも頑丈で壊れにくい」からに過ぎなかった。もう一つの「魔物にも攻撃が通りやすい」という特徴――価値は、スキルを使える私にはあまり意味が無いのである。

 でも、私にとってあまり意味は無くても、ジンノ達にとっては大き過ぎるほどの意味がある。

 ジンノ達のような普通の傭兵にとって魔物は脅威だ。導士からすれば雑魚ともいえるゴブリンであっても難敵となる。が、難敵たる理由はひとえに物理無効特性が理由だ。

 二日に渡るゴブリン狩りを終えて、傭兵からは死者も重傷者も出ていない。この事実から判るように、単純に技量の話をするならジンノ達はゴブリンを上回っていた。それなのに難敵となるのは、なかなか止めを刺せないが故にゴブリン側の攻撃回数が多くなってしまうからだ。

 もしもバイカとトウリの槍が魔木製だったなら、私がいなくても彼らは問題なくゴブリンを狩れた筈だ。


 譲るべきと考えた理由を説明すると、ウラヤは満面の笑みを浮かべ、ジンノは感謝に堪えないといった顔になった。


「済まんな。有難く貰っておく。しかし俺達だけで独占はできない。だから丁度切れている分はバイカ達に渡すとして、残りは組合に預けようと思う。上手い事分けてくれるだろう」

「ジンノは欲が無いんですね」

「あるさ。ミノウに属する傭兵全体が強くなれば結果的に俺も助かるんだからな。それが俺の欲というわけだ。それに魔木を丸ごと譲ったオウカから欲が無いなどと言われてはな」

「うむ。一部の者だけが力を持っていても駄目だ。それでは導士だけが強いという状況と変わらない。折角の魔木だ。戦力の底上げを図った方がミノウを中心としたこの地域の安定に繋がるだろう」


 うむうむと頷いたウラヤは、


「オウカが自分から言い出さなかったらどうやって説得しようかと思案していたのだが、杞憂に過ぎなかったな。魔木の価値、きちんと理解してくれたようでなによりだ」


 まるで及第点を取った生徒を褒める教師のように言う。

 そういえば天音桜の担任教師にどことなく雰囲気が似ている。


 と、ウラヤの手が私の頭に伸びてこようとして、


「っ!?」

「っと!」


 中途半端な位置で手を止めたウラヤと、半分腰が引けた状態の私。

 二人して固まる結果となった。


 私を褒めようと無意識に頭を撫でようとしたのは先刻と同じなのだろう。それで私が拒絶反応を示したのを思い出して咄嗟に手を止めた。

 一方で、私の方でも前回の事を思い出し、反射的に引きそうになったのをどうにか踏みとどまった訳で。


「なあ、さっきも同じようなことをしていたようだが……」


 二度目となればジンノも察するものがあるようだ。

 まあ、これで察しないようなら朴念仁に過ぎるとも言えるが。

 そしてジンノ、別の意味でも察してくれた。


「あー、ときにオウカよ、こいつを諦めてくれたとなると木刀の材料はやはり街で買うのだろう? 感謝の印だ。材木を買う金は俺が出そう。貸すなんてケチなことは言わない。奢りだ」


 いくらかわざとらしく、「俺は空気を変えようとしているぞ」という意思がありありと判る口調でそう言ってくれたので、これ幸いと乗っかることにした。


「そうですかー。それは助かりますー」

「魔木の代金を普通の材木代でごまかす辺りは十分ケチ臭いと思うがな。オウカ、せいぜい高い木を買わせてやれ。俺が許す」


 乗っかったのはウラヤもだった。殊更に悪そうな笑みを作ってけしかけてくる。そこでジンノが「おいおい、ほどほどにしてくれよ」と泣きを入れてオチをつけ、三人揃ってあははうふふと笑ってワンセット終了。どうにか微妙な空気から脱することができた。


 ジンノ、奢ってくれるのも含めてありがとう。


「ふう……さて、俺達も帰るか」

「そうですね。早くお風呂に入りたいですし」

「お前、本当は根に持ってないか?」

「そんなことはありませんよ?」

「ならば断言してほしいところなのだが……」


 そんな感じで移動を開始した。

 木刀の材料を得るという目的は果たせなかったけれど、これはこれで良い結果になったと思う。ジンノやウラヤが言ったように、これでミノウに所属する傭兵の対魔物の戦力は大きく底上げされる。それはトウカを初めとした私の家族が住むミヅキの村の安全にもつながるだろう。

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