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エセ仙術使い  作者: 墨人
第二章 傭兵組合
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木刀を作ることにした

 巨鬼の死体から切り取った耳を専用の袋に仕舞い込み、ジンノは枝葉を透かすようにして空を見上げた。「少し早いが腹ごしらえをしておくか」と誰にともなく言う。

 つられて見上げた空。太陽の位置はジンノが言う通り、お昼時には少々早い。しかし魔物の巣を潰して区切りがついているし、これからゴブリンを探してもう一戦してからとなれば今度は逆に遅くなる。誰も反対する者はおらず、昼食を摂る流れになった。


「水場に寄ってくれないか。水筒に水を詰めておきたい」


 遠慮がちにそう言ったのは、先ほど巨鬼が巻き上げた土砂を浴びせられた傭兵だ。目に入った細かな土を洗い流すために水筒の水をほとんど使い切ってしまっている。


「そうか。そうだな。ならこっちだ。それと、オウカは昨日みたいに獲物を探してくれ」

「ジンノ、良いのか? 匂いで魔物が寄ってきたら……」


 先導してジンノが歩き出し、彼からの要請に私が応じるよりも早く、別の傭兵が懸念を表していた。通常、このような場合の昼食は乾飯をそのままポリポリと食べるか、少し贅沢をするとしても干し肉を齧るくらいだそうだ。どこに魔物がいるかも判らない状況でのんびりと食事の用意などしていられないし、肉など焼いたら良い匂いに惹かれて魔物が寄って来かねない。お昼に肉を焼いて食べるのは傭兵の常識からは外れているのだった。


 しかしジンノはニヤリと笑う。


「オウカがいれば不意打ちを受ける心配はない。それに、探す手間を考えれば寄ってきてくれたほうが有難いだろう」


 それで一気に納得の雰囲気になった。

 ……食事中も『止水』を使い続けろという事ですね。

 まあ良いけど。

 私自身に何ができるのか、それを伝えた上で隊の指揮をジンノに委ねているのだ。上手に私を使ってくれれば良い。人使いが荒いのではないかと思わないでもないけれど、私だって乾飯をポリポリするよりは焼きたてのお肉を食べたいのだから文句など付けられない。


「薪と串の代わりに使えそうな木を拾いながら行こう」


 誰からともなく言い出し、弓持ち以外の傭兵が手頃な木切れを拾い始める。もちろん私はその作業を免除されている。獲物を探す役を担っているし、肉焼きの鉄串も持っているから木を拾う必要が無い。


 ……あれ? 木を拾う?

 木! 拾っておかなきゃいけないじゃない!


「わ、忘れてた……」

「ん? どうしたの?」


 思わず漏れた声をトウリに聞かれてしまった。「何か忘れ物?」と首を傾げられる。


「さっき巨鬼が投げてきた丸太。あれ拾って持って帰りたいです」

「巨大な小鬼で巨鬼か。うん、大きい大小鬼なのか凄く大きい小鬼なのか判らないもんね。オウカは面白いね。よくそんな呼び方を思いつくよ」


 いや、そこに反応されても。

 それにホブとゴブリンの区別はもういいと……口に出しては言っていないけど。


「でも、丸太? そんなのどうするの?」

「いつまでも鉈だけというわけにはいきませんし、木刀を作ろうかと思いまして」

「武器を自分で作るの? 木で? オウカ、もしかしてお金無い?」

「ぐ……お金が無いと言うよりも、私が欲しい種類の武器が売ってないんです」


 理想を言うなら天音桜が使っていた黒い刀。あれはとても良い物だ。

 でも、そもそもこの世界には日本刀すら存在していない。剣で妥協しようにも『両手で扱える』という条件を付けるだけで途端に厳しくなってしまう。


「両手で使える剣、か。ウラヤが使ってるような奴だよな。確かにこの辺りでは見ないな」


 近くを歩いていたジンノがするっと会話に入ってきた。女同士の会話にさり気なく混ざってくるあたり、なんだか慣れているような感じがする。


「しかし何故両手で使える剣なんだ?」

「それも自己流だからです。村では木の枝とかを木刀に見立てて練習してました」

「癖ってのは一度つくとなかなか抜けないからな」


 実際には癖なんていう浅い事情ではないけれど、それは言わない約束だ。


「他の街に行けばあるかもしれないってウラヤは言ってましたけど、今は自作しちゃってもいいかなと思ってるんです」

「それで木刀か。傭兵が木刀なんて普通ならふざけるなと言うところだが、仙導力があれば木刀でもいけるのか……」

「素手でもいけるんだから大丈夫だよね」

「まあそこは良いとしよう。だが木刀を作るにしても材料は材木屋で見繕うべきだな。木を削るだけと言ったって向いている木もそうでない木もあるだろう。そこらはきちんとしておくべきだ。……いや、済まん、もしかしてオウカは金が無いのか?」


 またそこにいくのか。

 農村から出てきたばかりなのだから現金の持ち合わせが少ないのは仕方ないじゃないの……。


「今回は随分と世話になっているからな。材木を買うくらいの金なら貸すぞ」

「ありがとうございます。でもお金の問題じゃないんです。向き不向きを言うなら、あの丸太以上に向いている材木なんて無いんですから」


 お金を貸してくれるというジンノの申し出は有難いが、これはやんわりと断っておく。借金してしまえば返済が済むまでミノウに縛られる事になる。できるだけ早くヒノベを追って行きたい私としては余計な足枷は望ましくない。

 それに木刀の材料としてあの丸太が最適なのも事実だ。

 材木の良し悪しを目利きするほどの鑑定眼は無いけれど、この際それはどうでも良い。巨鬼が棍棒代わりにしていたくらいだから、魔界ではそこらに普通に生えているありふれた木なのかもしれない。しかし魔界産であるというだけで、この世界のどんな木よりも強靭であり、木刀の素材としてこれ以上の物はない。


「それは……なんだ、拘りみたいなのがあるのか?」

「そうですね。私にとって、あれ以外は考えられません」

「命を預ける武器だ。オウカが納得できるようにするべきだが……あんなのを抱えてってのはな……」


 木刀の材料にあの丸太を用いる件には理解を示してくれたジンノだったが、丸太を拾っていくことに対しては許可を出し渋っている。この後もゴブリンを探して山中を歩き回るのだと考えれば、あんな丸太は邪魔な荷物にしかならないのは判り切っていることだ。

 でも、あれを逃したら次に魔界産の木材に巡り合うのは何時になるだろうか。

 諦めきれない私の心情を察してか、ジンノは軽い溜息を吐いてこう言った。


「場所は俺が憶えておく。この仕事が終わったら拾いに連れて行ってやるから、今はやめておけ」

「約束ですか?」

「ああ、約束だ」

「では仕事の後で、お願いします」


 ジンノは良い人だ。


 *********************************


 水場での昼食は恙なく終了した。肉を焼く匂いが届くくらいの近場には魔物がいなかったらしい。運が良いのか悪いのかは食事と捜索のどちらに比重を置いているのかで判断が分かれるところだろう。私はゆっくりと食事ができたほうを重視したい。


 少しの時間を食休みにあてて、そろそろ午後の捜索を開始しようかという頃。


「お? ちょっとみんな黙ってくれ!」


 弓持ち傭兵の一人が突然厳しい声を出したので驚いてしまった。でも驚いているのは私だけで、ジンノもバイカもトウリも他の傭兵も言われたとおりに口を噤んでいる。

 突然の沈黙だが静寂は訪れない。山中は生命に溢れており、絶えることのない川のせせらぎを背にして鳥や獣の鳴き交わす声などが聞こえている。


 と、そこに一つの音が加わった。

 ひょろろろろ……と聞きようによっては鳥の鳴き声のようにも聞こえる音が空の高いところから聞こえた。すると「あっちの隊から合流の合図だ」と弓持ちの傭兵が言う。そして一本の矢を弓に番え、空に向かって射る。

 これもまた空に昇りながらひょろろろろ……と音を発する。鏑矢みたいに飛翔とともに音を発するように細工された矢だ。さしずめ「了解した」との合図だろう。


「小鬼の群れを見つけたか」

「巣に続いて群れ本体か。意外と早く終わりそうだな」


 そんなやり取りをしつつ、合図の音から大雑把に見当をつけた方向へ向かった。これでちゃんと合流できるのかと心配になるような無造作な前進だったが、あっちの隊にウラヤがいるからこれで問題ないそうだ。私の似非仙導力を感知しているから正確にこちらに向かってくるらしい。

 これが導士抜きとなると、定期的に鏑矢で合図を送りあって進行方向を微調整しながらになるそうで、その面倒臭さを考えれば導士が二人いることの恩恵はかなり大きい。私側から探せないのも問題にならないくらい些細な欠点だと言われた。ウラヤがこちらを見つけるためのマーカー役と言ったところか。


 やがて『止水』の探査範囲にウラヤ達が入ってきた。こちらの進む方向とは少しずれていたのでジンノに言って修正する。


 合流したウラヤの隊は、人数は揃っているものの数人が軽い怪我をしていた。


「こっちは直前まで判らないからな……全部不意討ちにできるそっちがうらやましいぜ」


 怪我人の一人がぼやいたのでウラヤが少し拗ねたようになった。「お前のそれ、俺にもできるようにならんかな」とこっそり訊いてくるのには「どうでしょう?」と首を傾げるしかない。気功スキルとして『止水』の使い方を伝授するのは簡単だけど、それを仙導力に応用できるかはウラヤ次第だ。「できるかどうか判りませんが、後で教えます」と言うに止めておいた。


「で、合流ってことは見つけたんだな?」

「ああ。この先の渓流を遡った辺りに溜まっている」

「そうか。こっちは巣を見つけた。潰してきたからもう小鬼が増えることはない」

「ほう、そいつは良かった。オウカは上手いことやったんだな」

「はい。ウラヤが教えてくれたとおりにやったらできました」

「そうかそうか。よくやった」

「っ!」


 すっとウラヤの手が伸びてきたものだから、思わず半歩後ずさって手の届かない間合いを確保してしまっていた。直後、「あ……」とウラヤと二人で気まずそうに顔を見合わせることになる。

 多分だけど、ウラヤは首尾良く魔物の巣を潰した私を褒める意味で頭を撫でようとしたのだと思う。子ども扱いが過ぎるとは思うが、ウラヤから見れば私など実際に子供なのだろう。少なくとも悪意や害意は欠片もなかった筈だ。それなのに無意識に避けてしまったのは、半ば他人事のように捉えていても、やはり五年前の一件から尾を引いて男性を苦手にする意識が自覚もなく体を動かしてしまうからだ。


「済まんな……」


 空振りした手を所在無げに引っ込めながら謝罪するウラヤ。


「いえ、こちらこそ済みません」


 褒めてくれるのを拒否してしてしまった訳で、ウラヤに対して申し訳なくなってくる。


「ねえ、オウカってさ……」

「やめなよ。そんなのここで訊くような事じゃないでしょ」


 バイカとトウリのそんな声が聞こえてくる。

 男性の手を反射的に避けた。その行動が何かしらの推測を呼んでしまったようだ。

 こんなところであの話はできない。

 バイカを抑えてくれたトウリに感謝しよう。

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