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エセ仙術使い  作者: 墨人
第二章 傭兵組合
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小鬼狩り

「なんだ? ヒノベは素行に問題でもあったのか?」


 ウラヤは不機嫌そうに眉を寄せていた。

 もちろんウラヤ本人からして品行方正とは言い難いのだが、問題視されるくらいに素行が悪いとなれば話は変わってくる。

 しかしジンノは「いや、問題って程じゃあない」と頭を振った。


「いくらか無愛想なところもあったが普通に応対するし、特に諍いを起こしたりもなかったな」

「……それでどうして『腕は』なんだ?」


 腕()良いと言ったなら、「腕以外はよろしくない」と言外に言っているようなものだ。しかも二回繰り返して強調した。ヒノベには余程目に余る問題点があると考えるのが普通なのに。


「うまく説明できないんだが……面と向かって話していると、こいつは表面を取り繕っているだけなんじゃないかって気になるんだ。腹の中で何を考えているのか判らない、裏で何をやっているのか判らない、そんな感じだ。もし……あいつが裏で悪事を働いていたとしても、俺は驚くよりも“やっぱり”と思うだろうな」


 ジンノの述懐に「そうかぁ?」と首を捻る人もいる。「僻んでいるように聞こえるだろ? だから言いたくなかったんだよ」とジンノは頭を掻いている。確かに、目立つ欠点も無い腕の立つ傭兵をあのように評するのは一種の言いがかりのようなもので、他者からは僻んでいるようにも見える。


 しかし。


「わたしもヒノベは苦手だったな」


 バイカがジンノに追従する意見を出した。


「バイカもヒノベを知ってるんですか」

「私もずっとミノウだからね。巡回で一緒になったこともあるよ」


 バイカの年齢なら五年前も傭兵をやっていておかしくない。隣で「へえ」という顔をしているトウリはヒノベとの面識は無いようだが。


「ヒノベ本人はジンノが言ったまんまなんだけどね、つるんでる隊の連中は少しばかり柄が悪かった。ああいうのと普通に付き合えるってのは懐が深いのか根は同じなのか……まあどっちなのかは判らない。でも何時だったか品定めするようなイヤラシイ目で見られたことがあって、それからは近付かないようにしてた。裏で何かやってたらってのはジンノに同意かな」

「そうですか……」


 周囲の傭兵達から「傭兵女に手を出すほど飢えてやがったのかね」などとバイカをからかうような声も上がるが、悪意は全く感じられない。言われたバイカも「こう見えて脱げば凄いんだよ。そこらの商売女にゃまけないよ」と笑い含みに返している。この集団、こうした少々下品な冗談でも笑いあえるくらいには親密な関係を築いているらしい。先ほどは決まり悪げにしていたジンノも笑いの輪に加わっている。


「……」

「おっと、オウカにはまだこういう話は早かったかね」


 笑えずにいる私と、そんな私を気遣うウラヤにバイカが「悪い悪い」と軽い調子で謝ってくるが……そうじゃない。ヒノベが実際に“裏でなにかやっている”のだと知っているし、私自身が“やられた”立場なのだ。とても笑ってはいられなかった。とはいえ「やられました」なんて自己申告ができるはずもなく、せいぜいが「いえ、大丈夫ですから」と当たり障りの無い対応をするしかなかった。


「まあ、ああは言ったがな、ヒノベの腕が良いってのは本当だ。隊の連中はバイカも言ったような奴らだが、そういう奴らをまとめてたんだからそれなりの人望もあったんだろう。あいつが武州に移るって時には爺さんも残念がってたもんだぜ。あの頃のミノウにはあまり導士がいなかったからな」

「え!? ヒノベって導士なんですか!?」

「導士だと!?」

「あ、ああ、そうだが……どうしたんだ、二人とも」


 思わずウラヤと顔を見合わせていた。ウラヤもヒノベが導士だとは知らなかったらしい。


「知らなかったのか? ヒノベの事を調べてたんだろ?」

「いや、まあ、な」


 不思議そうにしているジンノと、答えになっていない答えで誤魔化すウラヤ。

 考えてみれば、ウラヤが行った調査は私が描いた図形がヒノベのそれに一致するかどうかだけだ。組合の職員になんと言って頼んだのかは知らないけれど、職員側からすれば調べようとする相手が導士かどうかは当然承知しているものとして話題に上せることも無かったのだろうと思う。


 それにしてもヒノベが導士で、しかも組合のお爺さんが離脱を惜しむ程の腕前というのは悪い報せだ。導士が乏しかった時期というのが影響しているとしても、あのお爺さんが認めるとなれば相当な腕前になる。


 “お礼”は簡単にはいかないかも。


 *********************************


 ヒノベの件から何度か話題が変わり、その中には今回の顛末についての話もあった。

 事の起こりは五日前、この地域を巡回中の傭兵隊が山中でゴブリンの群を発見したところから始まる。


 巡回中に魔物を発見した際の対処法は隊に導士がいるか否かでがらりと変わり、その隊に導士はいなかった。それでも一匹や二匹ならその場で始末するそうだが、今回は数が多く、普通の傭兵だけで戦うのは無謀すぎる選択となる。そこで最寄りのゴウヅからミノウへの使いを走らせ、傭兵隊は警戒と監視に当たっているそうだ。

 伝令役を担った村人もジンノ達と一緒にとんぼ返りでミノウを後にしたが、そこは村人と傭兵の差、それに往路の疲労もあって同行はできず途中で分かれたらしい。私達が道中で追い越した内の誰かがその人なのだろう。


 色々な話をしつつ、相変わらずの早足で歩き、ゴウヅに到着した。

 点在する家屋や延々と広がる田んぼや畑。ゴウヅもミヅキと同じような典型的な農村だった。進むにつれ農作業をしている村人から「よろしく頼みます」「魔物をやっつけて下さい」と声をかけられる。

 そんな村人達に、ジンノ達は「おう! 任せておけ!」と頼もしく手を振っていた。


「そら、お前も手を振ってやれ。安心させてやるのも俺達の仕事だ」


 自身も村人に声をかけ、手を振りながらウラヤが言う。

 彼らはスキルどころか普通の意味での武力も持っていない。村の近くに魔物が湧いたとなればさぞや不安だっただろう。村とミノウは往復四日。それだけの期間魔物の襲来に怯えていたのだ。私も「任せて下さい!」と手を振った。


「よお! 待ってたぞ!」


 そこに前方から走って来たのはジンノ達と似たような格好をした傭兵だった。随分とくたびれた様子だったが、ウラヤに気付くと「ウラヤが来てくれたのか! 助かった!」と相好を崩していた。ついでに私も導士だと紹介されて更に喜ぶ。


「小鬼はざっと数えた所で二十は下らない。導士がいなければどうなる事かと思ってたんだ。オウカだったか、良い時に組合を訪れてくれたな!」


 疲れなど吹っ飛んだようにやたらとテンションが高い。

 疲労が限界突破した故のテンションかもしれないが。


 そんな彼の先導で連れて行かれたのはゴウヅの村長の家だった。


「そろそろ来る頃だろうってんで俺だけ村に戻ってたんだ。飯を用意してある。食ったらすぐに出るからな」


 村長の家が村で一番大きいとはいえ、さすがにこの人数は入り切らない。家の前で、村長夫人から渡されたお粥を掻き込む慌ただしい食事となった。「こんなものしか出せなくて申し訳ないのだけど」と夫人は恐縮しているが……入っている肉がミヅキで食べていたお粥よりも多い。


「猟を専門にしている人がいるんですか?」

「ええ。でも魔物が出た山が一番の猟場だったから獲物が減ってしまって」


 義母と同年齢くらいの村長夫人が憂いの溜め息交じりに教えてくれた。

 ……減って、これか。

 ちょっと落ち込む。


「おまえ、肉の味を占めたな」

「……ウラヤだって肉は大事だって言ってたじゃないですか」

「仕方ないよ。村と街じゃあ全然違うものね」


 夫人と肉の話をしていたらウラヤにからかわれた。昨日の晩にがっつき過ぎたせいだろうか。すかさず入ったトウリのフォローが有り難い。私が落ち込んだのは街と村の違いよりも、ゴウヅとミヅキの違いなのだけど。ミヅキに専門の猟師がいないのがいけないのだ。

 このやりとりが傭兵達の笑いを誘い、釣られて村長夫婦も笑ってくれたのがせめてもの救いか。


 食べ終われば出発だ。

 村長夫婦を始め村人達に見送られてゴウヅを後にした。


 街道を外れて山に踏み入り、体感で一時間程歩いて残りの傭兵達と合流した。四人いる。ずっと山中で過ごしていたせいか疲労の色が濃い。彼らもまた導士であるウラヤと私の合流を喜んでくれた。


「どうなってる?」

「幸い、今のところは大人しくしている」


 監視に当たっていた傭兵は指差してゴブリンがいるエリアを示していた。たった四人での監視だから反対側に移動されたら判らないが、少なくとも人里に近付く様な動きは示していない。もしもゴブリンがゴウヅに向かったなら、彼らだけでは抑えきれなかっただろうと考えれば、本当に不幸中の幸いだ。


 この場所を拠点として武器以外の荷物を置いていく事になった。


「夜間の戦闘は避ける。日が傾き始めたらここまで戻るんだぞ」

「? そんなにかかりますか?」


 ゴブリンが二十匹程度ならさして手間もかからないと思うけど。


「何も無いところに纏まっていれば簡単なんだがな」

「群と言ったって一つ所に固まっているとは限らない。数ももっと多いかも知れんしな」

「あ、そうか、そうですよね」


 この場合、厄介なのはゴブリンそのものよりも――もちろん普通の傭兵にとってはゴブリンも厄介なのだが――戦闘の舞台が山林である点だ。視界が限定され、どこにどれだけいるのかも知れないゴブリンを探しながらの戦いとなる。


「あれ? でも、それだとどこで終わりにするんですか?」


 どこにどれだけいるのか判らなければ、どれだけ狩ったら終わりになるのかも判らない。二十匹と言ってもそれは確認できている範囲の話でもっといるのかも知れない。いや、偶然で正確な数が把握できるなんて出来過ぎなので、二十匹以上いる確率のほうが高い。

 なら三十匹倒せば安心か?

 いやもっといるかもしれない。

 四十匹なら? 五十匹なら?

 何匹倒せば「もうこれ以上はいない」との確信を得て終わりにできるのだろうか。


「ひとまず狩れるだけ狩って、その後は巣を探す。巣を壊せばそれ以上の魔物は湧かなくなるからな。念のために辺りを探って残っていれば狩る。それで終わりだ」

「それでもいくらか残っちまうからしばらくは巡回を密にしなけりゃならん」


 ウラヤが答えを教えてくれて、ジンノが補足を入れてくれた。

 聞いてみればそれが一番現実的な対処法なのだろうと思えた。


 荷物は一カ所に纏めて置き、水筒と非常用として小分けにした乾飯の袋を腰帯に括りつける。各々が武器を点検する。剣に斧に槍、何人かはウラヤのように弓矢も持っている。私は鉈だけ……というのも寂しいので、背負い袋から肉焼き用の鉄串を取り出して、布に包んだままこれも帯に括った。


「忘れ物は無いな? よし、行くぞ」


 ジンノの号令で更に山深くへと足を進める。

 いよいよゴブリン狩りの始まりだ。

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