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エセ仙術使い  作者: 墨人
第二章 傭兵組合
19/81

エセ仙技?

 向上心から出た私の言葉を聞いて、ウラヤが眉を顰めていた。


「次から? なんだかオウカが仙技を使えるように聞こえるのだが……」

「使えますよ。仙技じゃありませんけど、似たような事はできます」


 魔術を用いればウラヤが見せてくれた仙技は再現できる。

 これはいずれ話そうと思っていた。

 もちろん『魔術』について詳しく説明するつもりは無い。

 と言うよりも、それをするだけの知識が無いので不可能なのである。


 私の持つ魔術知識は夢で見た天音桜に由来する。

 そしてこの天音桜、正真正銘の剣術馬鹿だ。

 そもそも魔術を学んだのは己の剣術をより高めようとの目的からであり、ステータスアップ効果のある『加速』と『筋力増強』を使えるようになったらそれっきり。後は必要に迫られて『魔術付与』を追加したくらい。もっと便利で強力な魔術も数多くあっただろうに勿体ない話である。ともあれ魔術に対する姿勢はそんなものなので、魔術をきちんと理解しているとは言い難い。『あちらの世界』にある機械製品と同じく「仕組みは判らないけど使い方は判る」程度の浅い知識しか持ち合わせていなかった。

 当然、天音桜は知る範囲でしか魔術を知らない私も同様なのである。


 しかし魔術の説明は省くとしても「どんな事ができるのか」は事前に知らせておいた方が良い。殊にこれから向かう対魔物戦では魔術を使わざるを得ない場面が訪れないとも限らない。

 相手はゴブリンだ。その場にいるのが私とウラヤだけなら剣術だけでどうとでもなりそうだが、仙導力スキルを持たない普通の傭兵もいるとなれば話が違ってくる。魔物が持つ『物理攻撃無効』と『物理防御無効』は本来とても厄介な特性だ。導士(スキル使い)にとっては雑魚同然のゴブリンも一般の傭兵には強敵になり得る。彼らがピンチに陥り、私が魔術を使えば助けられるという局面で、魔術は隠しておきたいからと見捨てるような選択をできるだろうか。私にはできないだろう。

 いずれ見せる時が来るなら予め知っておいて貰った方が連携を取り易くなるし、第一ウラヤは敵ではないのだから「できる事」を教えても問題にならない。だからこの機会に話す事にした。


「おいおい、聞いてないぞ」とこぼすのには「そりゃそうですよ。今初めて言ったんですから」と軽く返しておく。あまりにあっけらかんと言ったものだからウラヤは言葉を失ってしまったようだ。

 その期を逃さずに、


「それよりも今はお肉です。お肉を食べましょう」


 畳みかけた。

 魔術の話はするけれど、目の前にある肉の誘惑も強いのである。

 ウラヤは「むむ」と唸ると山鳥に視線を注いだ。


 ウラヤもまた肉に飢えていたようだ。

 話を肉に限定するなら、ウラヤの場合は村に移住したせいで摂取量が大幅に減ってしまっている。獲物の山鳥を見ても判るように、自分で狩れば丸ごと総取りなのに、村で猟師役をしていれば獲物は村全体で分けなければならない。一部を内緒で独り占めする事もできるだろうが、村人だって少しでも多くの肉を食べたい。独り占めが発覚すれば確実に反感を買う。貨幣を介さない物々交換が成り立っている農村では気持ち良く交換活動できる人間関係の構築も重要なので、新参者であるウラヤは獲物を正直に供出していたのだった。不安定な傭兵生活を脱し、安定した農村生活を手に入れた代償として肉事情は悪化してしまった訳だ。


 私にとっては逆だ。

 傭兵を目指した初日から食事事情が上向いて来ている。

 街では饅頭のような初めての料理に出会い、今はこうしてまとまった量の肉にありつける。携行食として荷物に入っていた乾飯だって水やお湯で戻せば普通の“ご飯”だ。炊き立てのホカホカご飯に比べれば劣るにしても、お粥ばかり食べていたのに比べれば贅沢に違いない。

 だから早く肉が食べたい。


「……そうだな。確かに肉は大事だ。俺も早いところ食いたいしな。飯を先にするとしよう」


 その代わり後できっちり話して貰うからなと念を押し、ウラヤは山鳥を一羽差し出してきた。「?」と首を傾げると「捌き方を教えてやる」との事。

 巡回中に携行食が尽きれば狩猟や採取でお腹を満たすのは傭兵にとって当たり前。以前ウラヤが言っていた。それをするには狩る手段だけなく、調理する方法も知らなくてはならず、捌き方もそれに含まれる。


 と言う訳でウラヤが実演し、私がそれを真似するという『鳥の捌き方講座』が始まった。

 まずは血抜きだ。

 頭と両足を切り落とし、仙導力を用いた高速血抜き。首側から噴水のように血が噴き出したのには驚かされた。なんでも足側から仙導力を流し込んで押し出すようにするのがコツなのだそうだが、さすがにこれは真似できず「慣れが必要だからな。今回は俺がやってやる」との言葉に甘えさせて貰った。

 血抜きの後は大体想像できた手順だった。羽を毟り、お腹を切り開いて内臓を取り出したら適当な大きさに切り分けて鉄串に刺していく。


 ちなみにこれらの作業で使ったのは鉈だ。肉厚な刃を持つ鉈は重さを利用して“叩き切る”タイプなので本来こうした作業には向かない刃物なのだが、ウラヤは仙導力を、私は気を、それぞれ鉈に流し込んで切断力を強化しているので研ぎ澄まされた包丁のようにスパスパ切れた。


 こうして肉の用意は恙無く完了したのだが、まずウラヤがやってみせてから私が真似をして、しかも初めてだから少々もたついたりもあったせいで時間がかかっている。さらに内臓などの食べない部分は穴を掘って埋めてとやっていたものだから、いざ焼こうとしたら竈の薪は燃え尽きていた。

 しかしウラヤは平然としている。

 それどころか「早くも“次”の機会がやってきたな?」とニヤリ。

 まさかこの為にわざわざ捌き方を教えたのかと問えば「さてなあ。しかし捌き方は憶えておいて損はないだろう」と嘯かれた。先々を考えれば確かに憶えておいて損は無いし、こうした知識を教えてくれるのはとても有り難いことだ。仮に狙ってやったのだとしても文句を言う筋合いではなかった。


 再度竈に薪を積む。今度は焚き付けや細い枝などは無視して太い枝だけだ。

 薪の隙間に鉈を差し込み『魔術付与:火属性』を発動させれば鉈の刃部分が炎を纏う。乾いた薪に火が移るのを確認してから鉈を引き抜き魔術を解除。「どうです?」とウラヤを見やれば「ふむ、確かに仙技そっくりだが……」と奥歯に物の挟まったような言い方をする。


「火が出るまでに時間がかかったが何故だ?」

「何故と言われても……」


 呪文詠唱をしていたからとは言えない。まだ未熟だから集中する必要があるんです、で誤魔化しておいた。

 が、ウラヤの訝しげな視線が突き刺さってくる。

 誤魔化し切れてない?

 不安になったものの、ウラヤはそれ以上何も言わずに肉を焼き始めたので私も火に鉄串をかざして肉を炙った。ウラヤ態度が気になったが、肉の焼ける匂いが漂い始めたらどうでも良くなった。

 匂いだけでこれほど食欲を刺激されるとは。

 香ばしい香りを嗅いでいるとどんどん唾液が湧き出してきて、それを何度も飲み込んでいたら隣のウラヤが笑っていた。食い気に逸った女だと思われてしまっただろうか……。


 そうしてこんがりと焼けた肉を、食べた。

 塩も胡椒も無い。ただ焼いただけの肉だけど。


 美味しい。


 その一言に尽きる。

 他の言葉を付け足す余地も必要も存在しなかった。


 *********************************


「実に良い食いっぷりだった」

「……あんなに美味しいお肉が悪いんです」


 気が付いたら串だけが残っていた。

 我を忘れて貪り食ってしまうなんて恥ずかしい。しかもウラヤと同じくらいの量を平らげてしまっている。


「まあお前は少々体が細いからな。たっぷり喰うのは悪いことじゃない」

「それはそうですけど……」


 傭兵組合のお爺さんから「体ができていない。細すぎる」と言われたように、私は身長の割に肉付きが薄い。『あちらの世界』の天音桜が十五歳だった頃と比べても筋肉量で劣っている。これまでは気功と魔術があるから気にしていなかったが、ステータスアップは基本となる身体能力が高い程に効果が高くなる。肉を食べる機会が増えれば徐々に体ができ上がっていくだろうけれど食いしん坊キャラになるのは避けたいところだ。

 次は自重しよう。せめて食べる姿が見苦しくない程度には。


「さて、それではお前の仙技の話だ。使えるのはさっきのだけじゃないんだろう? 見せてくれ」


 肉を食べて満腹なったら仙技の話だ。


「はい。でもその前に。私が使えるのはこの間ウラヤが見せてくれた仙技にそっくりですけど偶然です。ずっと前から使えました。真似したわけじゃありません」

「それを聞いて安心した。見てから数日で真似されるようじゃ俺の立場が無いからな」


 そんなものかと思いつつ、先日のウラヤと同じように川原の岩を標的と定め、これまたウラヤと同じように二度撃った。

 即ち複数の炎の矢と、一本の炎の槍として。

 ただしどちらも同じ『炎の矢』の魔術だ。投射型の攻撃魔術はこれしか知らないのだから当たり前だが。投入魔力を調整して“矢の数を増やす”のか“矢を太くする”のかで使い分けただけ。こうした加減は五年も使い続けていれば自然とできるようになる。早期に魔術訓練を打ち切ってしまった天音桜はできなかったので、この点でも勿体ないなと思ってしまう。


「……」

「あれ? どうしたんですか?」


 自信満々で魔術を披露したのに、ウラヤは先ほど同様の訝しげな表情になっていて、またも「確かに俺の仙技にそっくりだが……」と繰り返している。


「それは仙技じゃないんじゃないか?」

「? だから最初に言ったじゃないですか。仙技ではないけど似たような事をできるって。そもそも私が使っているのは気功で、仙導力じゃないんですよ?」


 これまで散々「似非」だと言っておいて、今さら何を言い出すのか。

 しかしウラヤは「それは判っているが」と前置いて、


「言い方を間違えたな。似非仙導力で仙技を使うなら、それは仙技に似て仙技に非ず、似非仙技になる。仙技とは違う。そうなるだろうと俺は思っていた」

「ですから、実際そうなっているでしょう?」

「いや。さっきは気のせいかと思ったが、今のを見てはっきりと判った。お前からは仙導力の……似非仙導力の気配を全く感じなかった。似非仙導力を使わずに炎を出したのだろう? ならばあれは似非仙技ですらない。なあ、あれはいったいなんなんだ?」


 ……しまった。気功スキル使うのを忘れてた。

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