第七話
蜻蛉切にしようとしたのに何故か瓶割になってしまいました。ガクッ
「はい!」
そう言ってできたのは、「平凡」それを体現したかのような少年だった。髪の毛の長さは少し耳が隠れる程度。身長も低くもなければ高いというわけでもない。顔もそこそこだがイケメンかと言われたら首を少し傾げる顔。何よりも少年から溢れ出す一般市民全開のオーラ。顔も普通、体型も中肉中背、性格もいたって常識的。本当にあの二人の関係者なのかと疑いたくなるような普通人間。それこそがアイツ、一ノ谷 正則なのだ!……なんでコイツだけこんなに描写長いんだろうな? 不思議だ。
「あの濃い二人のあとか~。……キツイなあー、はあ…」
『何をしているのですか?こんなところで突っ立っていては他の人の邪魔ですよ。早く仮想領域内に入ってください』
「そうは言ってもさあ、あの二人の後って言うことは必然的に僕にもチートプレイを要求されるわけでして。……無理だよ」
『何を言ってるんですか! あなただって十分チートでしょうが!」
「そうだけどさ。うん、そうなんだけどさ。あいつらって、ほらっキャラ濃いしなによりキャラ自体もかぶってるじゃん。二人とも最後には同じこと言ってたし。僕も試験終わった後に言うもんだと期待されてるのかなと思うとさ。自然とモチベーションも下がってくるもんだよ」
『マスター根性です!」
「根性だけでどうにかなったら、外交問題とかもすぐ解決するんだろうね」
『他の人のキャラが濃いといっていますが、その前に自分のキャラを濃くする努力でもしたこんはらどうです! そんなだからキャラが薄いとか平凡キングとか言われるんです!』
「後半は大きなお世話だよね? あとキャラを濃くする努力って何? いろいろとツッコミどころ多すぎるんだけど」
『マスター! この試験が終わった後は早速特訓です。このままでは、いつかあの二人のキャラに飲まれて存在すら忘れられる可能性も出てきています! 努力です!、根性です!、勇気なのです!!』
「ああ……。そういえば魔術自体がキャラ濃いんだった。すっかり忘れてた。後半言ってることは意味不明だし、なんか槍から熱気が伝わってくるし、もうヤダこの魔術……」
もうすでに魔術を開放していたのか、自分の魔術と話している一ノ谷。最初は愚痴を言っていたようだが、途中で魔術とコントを繰り広げだした。会話の内容が聞こえてくるが…。アイツ、なんて不憫なんだ。聞いてるこっちも悲しくなってくるぞ。
「壊斗ぉ…。なんかすごく悲しくなってくるんだけど何でかな?うぅっ」
「泣くな! 百合! 一番泣きたいのは間違いなく、周りをキャラの濃い奴らばかりで固められているアイツだ!」
「……そうだね。でも良かったぁ、私の周りにあんなにキャラ濃い人たちいないもん」
百合が一人で安心していた。コイツ忘れてるんじゃないだろうな?自分の両親がどれだけキャラが濃いか。いや、単に気づいてないだけか。
あっ。あの鉄仮面で有名な鮫島の目に涙が……。そういえば一ノ谷は家族の中でも唯一の常識人って聞いたことあるなあ。…やめるか、この話。うん。
「こほん! で、ではこれより試験を開始する。受験者は一ノ谷 正則。使用魔術は《蜻蛉切》。」
「はあ、いくよ蜻蛉切。やるからには必ず試験合格。行けるよね?」
『当然です。マスターには勝利を、敵には敗北を。それこそが我が使命。どんなものにも勝って見せましょう。例え、相手が玄海 丙でも天音 さくらでも。それこそ、あの”不敗”だろうと』
「それは頼もしいセリフだね。なら安心して君に命を預けることができるよ。じゃあ、行こうか!」
『はい! マスター!』
まったく、こっちが羨ましくなるほど仲がいいな。アイツらは。
「スタンバイ・レディ・ゴー!!」
三回目の試験が、始まった。
もはやお馴染みの人形たち。今度の陣形は横や縦に何列も並ぶことで防御力を増した密集陣形らしい。例え10体程度の陣形でもその防御力は計り知れない。横3列に縦2列の合計6体の盾と槍を装備した人形を配備し、四隅に遠距離攻撃を得意とする人形を配置。鉄壁の防御力に加え死角をなくし、さらには前の列を倒しても次の列の人形が襲い掛りそいつらの相手をしているうちに倒した人形が回復してしまう。距離をとっても四隅の人形が絶えず強力な上級魔法を放ってくる。一度にすべての人形を一掃する以外に倒す方法の無い、悪夢のような陣形だった。
近づこうとすれば上級魔法の嵐。その嵐を抜けたとしても盾による鉄壁の防御と槍による中距離攻撃。倒したとしても2列目の人形が倒された人形をカバーして、3列目の人形に倒した人形を回復魔法で復活させられてしまい、また元通り。その繰り返しで疲弊したところに上級魔法によって集中攻撃されてしまい、最後には何の抵抗もできずに散っていく。だがそれは敵を一掃できる手段が無い場合だ。敵を一掃できる手段さえあれば、むしろ簡単に倒すことができる。なぜなら敵を一箇所に集める必要も無く最初からすでに密集しているからだ。そう、今のように。
「ははっ! 今回の試験はほんとにラッキーだね。僕たちに相性のいい陣形がどんどん出てくる。本当に運がいい」
『そうですねマスター。今日は絶好の割砕日和です』
「うん、じゃあやろうか、《蜻蛉切》?」
『了解です、マスター』
一ノ谷が自分の正面に《蜻蛉切》を横にするようにして構える。ちょうど《蜻蛉切》の刃に人形が写った瞬間、刃が輝きだした。一ノ谷はそのまま《蜻蛉切》を縦にして振り下ろす。そして叫ぶ。
「我が魔術、刃に写りし者すべてを割り砕く剛槍なり!」
『マスターに牙を剥く愚かな人形ども! そのまま果てなさい!』
「『割砕爆裂!!』」
そのとき、一ノ谷の前方50メートルが割り砕かれ、大気が爆発しながら裂けた。人形たちがとっさに防御しようと防御魔法を発動するが、割り砕きが到達したとたん、防御魔法は砕かれ人形たちはすべて例外なく割られてゆく。そのまま仮想領域を完全に砕き、校庭を割りながら進んでゆく。て、ゆうかこっちに来てる!
「『あ』」
「「「あ、じゃねえー!!(あ、じゃないよ!!)」」」
あまりの驚きに受験者全員と鮫島が声を揃えて叫ぶ。
「はあ、仕方ねえなあ。いくぞ《鮮血の暴君》」
『うむ。まったくあの阿呆ども。帰ってきたら説教だ。』
(一応、手加減するぞ。わざとじゃねえだろうからな)
(ああ。とりあえず20%の出力で十分だろう)
(まあ、そんなもんだろう)
「『万物を切り裂け、神々の黄昏』」
俺が魔術を開放したのがわかったのか、今度は俺のほうから他の奴らが離れていく。その理由は簡単。万が一巻き込まれて死なないように。
「『破壊の獣は神を喰らい』」
「『炎の魔剣は世界を焼き』」
「『永久にすべて死に絶えん』」
割砕はもう目の前だ。とっと消すか。
「『いのち無き理想郷!』」
目の前に迫っていた割砕が跡形もなく吹き飛んだ。と、同時に向こうにいた一ノ谷も吹っ飛んだ。
「え、なんで僕まグハッッ!!」
『マ、マスター!』
うるせえ。四の五の言わずに吹っ飛んどけ!魔術を解いて鮫島に話しかける。
「先生、これどうするんですか?」
「……とりあえず一ノ谷を不合格にする、ということでいいだろう」
「張り切って頑張った結果が不合格って…。でも、これはフォローできないよねぇ?」
「そやなあ。堪忍な、正則。さすがにこの惨状はワイでもフォローできへんわ」
そこにはど真ん中が盛大に抉られた校庭があった。普通の一般人なのに魔術の威力が馬鹿げてるせいで、哀れ三馬鹿トリオの一人に数えられえてしまう一ノ谷には毎回同情するなあ。吹っ飛ばしといてアレだけど。
「…なんとか処分を軽くできるか学園長に掛け合ってみよう」
鮫島、目から汗が出てるぜ……。
お次は百合のディライーヤ。うまく書けるか心配です。