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「今回の一件、おまえは何も知らなかったようだな」




「どういう事ですか? ジャスミンさん……何をしたんですか?」




「まず、今回の事はジャスミンが間違えておまえの魂をここに呼んだ事が原因だ」




「“間違えて”……? 」




「そうだ、本来はこの人間が狩られるはずだった」


そう言うと彼は数枚の紙を私に見せてくれた。


その紙には名前や年齢、経歴なんかも書いてあった。




「『門倉 桃、89歳』……っ? こ、これ……っ」




「ジャスミンはその資料の経歴を見て間違いに気付いた。


 だが、ペナルティから逃れる為に知恵を働かせたようだな」




“あ……”




(そういえば……あの時、ジャスミンさん……)




「ここでこの資料に書かれている内容と魂を照合し、間違いがなければ狩る。


 しかし、間違っている場合は速やかに魂を元に戻さなければならない。


 それが今回ジャスミンは戻す事無く、おまえを利用した。


 おまえを使って他人を狩らせ、その他人に本来狩るべきだった人間を狩らせる。


 いきなり自分と同姓同名の人間を狩らせるとおまえに怪しまれるからな。


 だが、それは死神界にとっては重罪だ」




「ジャスミンさんは、どうなるんですか?」




「禁固刑千年だ」




「千……っ!? そんな……っ」




「我々死神は人間の魂を狩る事の出来る唯一の存在だ。


 その分、魂の取り扱いには慎重でなくてはならない。


 おまえ達人間界でも人を殺めたらそれなりの罰を受けるだろう?


 それと同じ事だ」




「で、でも……千年て……」




「死神の寿命は約1,500年だ。


 ジャスミンは今200歳……千年牢獄の中で過ごしたとしても300年は死神としてやり直せる」




「そうですか……ところで、ここって……どこですか?」




「おまえ達人間の住む“下界”と我々死神と天界人の住む“天上界”の間の空間だ」




「空間……」




「我等死神が狩るべき魂をここへ呼び、鎌で狩り取った後、天上界へ送る為の場所だ」




「そんな空間が……」




「後一秒、私の到着が遅れていたら、おまえの魂は天上界へと送られ、


 二度と元の体で下界へ戻る事は出来なかっただろう。


 間に合ってよかった……」


黒髪の男がほぅっと息を吐く。




「あ、ありがとうございました」




「いや……こちらの方こそ我等死神の不手際に巻き込んでしまって申し訳なかった。


 それで、この後の事だが……」




「は、はい」




「おまえがジャスミンによってここへ連れて来られた日まで遡る」




「え……駅の階段から落ちた日の事ですか?」




「そうだ」




「それじゃ、私は……死ななくていいんですかっ?」




「あぁ、元々あの日、階段から落ちるのはおまえではない。


 遅刻しそうになったのもジャスミンの仕業だ。


 あの日の朝に戻り、その先の時間をやり直すのだ。


 但し、おまえが猫になっていた間の記憶とここでの記憶は全て消させてもらう。


 それでもいいか?」




「は、はい……っ」




「では……」




「あ、ちょっと待って下さいっ」




「うん?」


何かを念じようと目を閉じかけていた黒髪の男が怪訝な顔を向けた。




「ジャスミンさんによろしく言っておいてください」




「……あぁ、わかった」


黒髪の男はフッと微かに笑うと私に向かって再び何かを念じるように目を閉じた。




私は、なんだか頭の中が段々と靄が掛かっていくような感覚に囚われた――。






     ◆  ◆  ◆






ピピピピピッ、ピピピピピッ、ピピピピピッ――、




よく晴れた日の朝、電池を取り換えたばかりの目覚まし時計は


いつもよりも大きな音を鳴らして私を起こしてくれた。




「う~ん♪ 気分爽快っ! 今日は何かいい事あるかもっ♪」


すっきりとした寝覚めに私は大きく伸びをしてベッドを出た。






そして、“いい事があるかも”という予感は見事に当たった。




「おはよう、門倉さん」




(あ……)


学校へ向かう電車の中、彼が優しい笑顔で私に声を掛けてくれたのだ。




「おはよう、新堂君」


だから私も彼にとびきりの笑顔を返した――。

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