知ってました?「俺がいないと駄目なんだ」と思わせる女は、他の男にもそう思わせてますよ
「ごめん、彼女は俺がいないと駄目なんだ」
職場恋愛中の恋人を会社の後輩に奪われた。
その女、彼氏が切れたことないって自慢してたけど。
「先輩、彼とデートなんで残業、代ってもらえません?」
「先輩、彼と旅行に行くので、締め切りが明日なんですがやってもらえません?」
どれだけ仕事を押し付けられたか!!
元恋人とデートの為に、その後もあの女の尻拭いをして、仕事を休めず身体は限界。
声をかけてくれたり、ご飯に連れて行ったり、心配してくれた恋人はもうあの女のもの。
過労で倒れ、気がつけばこちらの世界。
「あんたが居なきゃダメだったのは私の方よ!」
「嫌な事思い出しちゃった」と独り言ちたのは、
ビオラ・バスティアニーニ伯爵令嬢。
前世を思い出し、苦虫をかみつぶしたような顔をする。
最近、前世で恋人と別れた時をよく思い出すようになったのは、教室から見えるあの光景のせい。
中庭でくつろいでいる一人の女子生徒と、五人の男子生徒。
「まるで逆ハーレムね」
彼らはこのマリーニ王国学園で悪い意味で有名だ。
編入してもう一年も経つアデラ・マルティン男爵令嬢。
取り囲むのは、侯爵令息一人、伯爵令息三人、公爵令息一人、計五人。
令息五人にはそれぞれ婚約者がいる。
にも関わらず、アデラとランチをし、放課後はアデラと街へ出かける。
「アデラは学園に慣れていないから」と言う。
もう一年も経つのに?
「同性に嫌われてるから」と言う。
ええ、それだけ高位貴族の令息を侍らかしていればね。
「いじめられてるから」と言う。
そんなところ見たことないけど。
「俺が守ってやらなきゃ」と言う。
五人も必要?
「……」
あなた方以外の総意ですよ。
彼らの婚約者は何度も苦言を呈したが、改めることはない。
「アデラは大切な友人だから」と言う。
ふ〜ん。
そんな会話を彼らと婚約者は繰り返ししてきた。
ビオラも。
ビオラの婚約者は、ベッティ公爵家嫡男ダニエル。アデラを囲んでいるうちの一人だ。
幼馴染で、ダニエルのことなら何でもわかる。
だからアデラを見る目が熱いことも。
「ば〜か。アホったれ」
思わず、前世の口の悪さが出る。
いけない、いけない。せっかく婚姻後のため公爵家でマナーを学んでいるのに。
けれどきっと無駄になる。
多分、次に会う時にダニエルは婚約解消を申し出るだろう。
ビオラの思った通り、
公爵家の四阿で、月に一度と決められた交流の日、
ダニエルから「婚約を解消してほしい」と言われた。
「理由を聞いても?」
「アデラは俺がいないと駄目なんだ」
あ〜出た。ビオラの一番嫌いな言葉。
「ビオラは強いから一人でも大丈夫だろう。アデラには俺が必要なんだ」
あ〜出た出た。ビオラの二番目に嫌いな言葉。
二つとも前世で聞いた、ビオラの命を追い詰めた言葉だ。怒りで胃の中がグツグツと煮え返る。
「聞いてもいいですか?何が駄目なんですか?」
「いや、ビオラに悪いところなんてないよ」
「違います!ダニエル様じゃなきゃ駄目な理由が知りたいんです!!」
ダンとテーブルを叩いて立ち上がり、前のめりにダニエルの顔を凝視する。
「え?え……っと、アデラはか弱くて」
「私達が注意したら言い返してましたよ!か弱くなんかありません!」
「え、そうなの?あと、すぐ転ぶから手を引いてやらないと」
「廊下を走り回るからです!」
「……そうだな。課題が終わらなくて泣くから手伝ってあげて」
「放課後に遊びに行き過ぎです!え、手伝っていたのですか!?だから彼女成績が良かったんですね。
もしかして丸写し!?」
「し、してない!してない!丸写しはさすがに!
それに、高価な髪飾りも宝石も持ってなくて恥ずかしいって……」
「高価な髪飾りは校則で禁止されています!宝石も必要になるのはデビュタント後です!家族と婚約者以外に贈り、贈られることは不実とされています!
……ま、まさか……」
「贈ってない!贈ってない!……いや、髪飾りは、露店で一番高いものを……」
「……」
「でも、皆やってて……」
「皆やってるなら、あなたである必要はないでしょう」
あ……、う……、でも……。と、ダニエルは言葉に詰まる。
ビオラは考える隙なんて与えない。
「あと、一人でも大丈夫って、何でそう言い切れるんですか。公爵家嫡男との婚約を解消して、次があると思います?問題ありの令嬢として扱われ、いい縁談なんてきませんよ。どこかで働いて一生一人でしょうね。それが大丈夫に見えますか!?
あぁ、気が強いから大丈夫って意味ですか?私の強さなんて貴族令嬢の範囲内ですよ!寂しければ涙を流すなんて当たり前です!
ただ淑女として顔に出さないだけです!」
ビオラはハアハアと肩で息をしながら言い切る。何を見て感じてそう判断するのか理解ができない。
「……幼い頃からずっとお慕いしていた人に婚約解消を告げられるなんて、こんなに辛いことありません!」
ボロボロ、ボロボロ止めどなく流れる涙。
泣きたくない!泣くものか!
そう思っても涙は頬をつたい、テーブルクロスにシミを作った。
これ以上泣き顔を見せたくないと、ビオラは下を向き、テーブルクロスをギュッと握りしめる。
ダニエルの席を立つ音が聴こえた。
ビオラに呆れて去っていくのだろうと。
すると、ふわりとダニエルのつけていた香水の匂いが強くなった。ビオラはダニエルに後ろから抱きしめられていた。
「……ダニエル様?」
「ごめん、ビオラ。想い出したよ。
君は泣き虫で、俺の服をつかんでついてきてた。
泣き虫なのにいろんな事に興味津々で、市場へ出かければ迷子になってたね。
その上世話好きで、誰かがケガをすれば包帯を持って駆け寄り、具合が悪い人を見つければ医務室に連れていき、無事であれば喜んでいた」
「ダニエル様も手伝ってくれたわ」
「そうだったね。なんで忘れてたのだろう」
ダニエルのビオラを抱きしめる腕に力が入った。
ビオラはそのまわされた腕にそっと手を触れる。
「ビオラ、……婚約解消を撤回させてくれ。もう一度君と向き合いたい」
ダニエルはアデラの逆ハーレムから離脱した。
何度か「どうして一緒にいてくれないの?貴方がいないと私……」とか、目に涙を溜めて言ってたが、ダニエルが素っ気なく断ると無理を察して諦めた。
今でも中庭で逆ハーレムは続いている。
本命は侯爵令息らしい。しかも一人増えている。
ダニエルがいなくても、アデラは生きてるし、変わらない。あざとい女め!
「アレに惹かれたのは、泣き虫だった頃のビオラに似ていたからかもしれない」
「私の方がずっといい女よ」
「うん。ビオラと別れてアレと婚姻してたら、公爵家は落ちぶれていたかもな」
すでにダニエルはアデラをアレ呼ばわりだ。
心から反省したらしい。ビオラを大切に大切に扱う。どうやら大泣きしたビオラに、だいぶびびったらしい。
あら、また前世の口の悪さが……。
でもその口っぷりのままダニエルに言う。
「俺がいないと駄目なんだ」と思わせる女は、他の男にもそう思わせてますよ。と。
「教訓にしてね」
「はい」
「貴方だけよ、もダメ」
「……もう何を信じればいいのか……」
「私を信じればいいのよ」
「……はい」
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