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憲政記念館一日館長レイザーラモンHG、最高裁判事として読谷村米軍基地に合憲判決を下す

作者: takkun
掲載日:2026/06/11

「謝って・・謝ってくださいよ!国は!沖縄県に!」

 沖縄県民が8万人以上集まった宜野湾市海浜公園において、お笑い芸人レイザーラモンHGは絶叫した。舞台袖から「謝って!」のカンペをだしたスタッフは呆気に取られている。


 さかのぼること数ヵ月前、衆議院憲政記念館の一館長となったHGは、憲政記念館小ホールでいつものように営業をしていた。


「セイセイセ~イ!どうも~!ハードゲイでーす!議会制民主主義、フォーー!」

 HGは営業でいつものように激しい腰振りを始めた。会場のボルテージに合わせ、少しずつギアを上げていく。

「オッケーい、つまり腰振りが早すぎて、逆にゆっくりにみえてるんですね~!」

 舞台は突如暗転し、HGは目覚めると最高裁判事に任命されていた。

 沖縄の米軍基地拡張工事を巡って、国が県を訴えたため、最高裁に判断が託されていた。


 さっきまで、憲政記念館で営業していたはず。

 よく思い出すと、腰振りの一芸を放った途端、暗転したのだ。

 ナイキストのサンプリング定理でいうところの折り返しで説明されるストロボ効果は、カメラのフレームレートに上限が存在するため生じる。「逆にゆっくりにみえる」現象はこれを指す。本当にゆっくりなのか、折り返しによって生じたものか、有限なフレームレートによる観測では判別することはできない。このとき、憲政記念館小ホールは、観測者との干渉の因果を逆転させ、時空をねじれさせた。つまり、レイザーラモンHGの腰振りは観測者の観測結果の方を実現として干渉し、宇宙というすべてのマクロな観測者を相対化させたのだ。

  20XX年、国会は既に自民党による緊急事態条項の発動により、45年の長い戒厳令下に置かれていた。選挙による入れ替わりのない衆参両議院の議員は平均年齢90歳を迎え、点滴を打ちながら車椅子で参加するもの、目の前の議論も理解できずただ採決のときのみ若手議員に支えられて手を挙げるものだけが牛耳っていた。HGは、密告や癒着のはびこる日本国で、それでも芸人を続けていた。


 一日最高裁判事を内閣に任命されたHGは、違憲裁判に直面する。

 憲政記念館において、営業だけでなく常設展示の企画立案を学芸員から相談されていたHGは

 「これが憲政記念館の意思ってことですか、セイセイ・・・」

 と納得する方向へ切り替えた。

 15人中5人までは、40歳以上であれば法律の専門家でなくてもよいとされている法制度上、HGが最高裁判事に任命されても、手続きとしては合法であった。一般的には、裁判所側から示されたリストを内閣が承認するかたちをとっていたが、学術会議の任命拒否という前例をつくった内閣にとって、HGの最高裁判事就任は全く不思議ではない判断だった。

 当初こそ困惑していたHGだったが、持ち前の根性とタフネスで裁判に臨む。


 その前年、米兵少女暴行事件を受け、沖縄県民は沸騰していた。米軍基地の土地収用を断った沖縄県知事はじめ、保守派から革新政党まで、沖縄県議会は全会一致で全会一致で米軍暴行事件への総決起集会が開かれた。本来ならば最もアメリカ寄りのはずの自民党の保守派をはじめ、共産・社会党も意思を同じくしていた。沖縄県知事は国から命令された土地収用を断り、米軍用地の使用期限が迫るなか、日米間の約束実行を急ぐ国によって選挙を待たず代理執行実行のため沖縄県知事を訴えていた。

「判決は最高裁までもつれ込んでしまいました!一日最高裁判事を仰せつかったこのHG、違憲か合憲か判断しますよ!最高裁判決フォーー!」


 最高裁の判断は、県知事が土地収用を断ることは「公益を害する」として国の訴えは『合憲』。しかし、それでも間に合わず『象のオリ』と呼ばれる軍用地は国によって不法占拠される事態となった。その後の衆院選で、最高裁判事の国民審査結果は、罷免率、つまり×のついた割合が例年の数%に対して明らかに高い値を記録した。

「ハードゲイの全国罷免率は8%!例年より高いですね~セイセイ。しかし?え?地域差があった?国頭村での罷免率、86.95% !!フォーー!!え?は、はちじゅう??」

 投票率を加味しても、村単位の有権者の半数以上が、バツをつけにわざわざ投票所に足を運んだのである。明らかな、最高裁判決への不服を示す民意であった。

「セイセイセイ、これは憲政史に残る大事件ですよ~~!!大体の人が選挙でよくわからず×を書くか、書かないか選ばされるアレですよ~~!!日本の憲政史上、2例しかない職務執行命令訴訟、これは特別展示の目玉でしょう~~!」

 その後、地方自治法が改正され、職務執行命令訴訟は廃止される。

 お笑い芸人レイザーラモンHGは罷免されなかった。しかし、ずっとしこりのようにこの沖縄での罷免率の高さを考える日が、営業の合間に脳裏に浮かぶ日が続いていた。


 更に27年後、辺野古の新基地建設をめぐって代執行訴訟が起きる。以前のできごとを受けて、地方と国の立場は対等とする地方自治法改正をもってしても、構図は27年前と全く変わらなかった。「最後の最後の手段」であると第245条の8に入れ込まれた代執行を、国はまた利用した。

 基地候補地の基盤の軟弱性を指摘して不承認を選び続けたデニー県知事に対し、過剰なまでにアメリカに遠慮した国によって県知事に設計変更を迫り、最高裁にまでもつれこんだ。最高裁は「上告不受理」を選ぶ。


「これは・・・さすがにセイ(違憲)でしょう・・・」

 再び内閣によって最高裁判事に任命されたレイザーラモンHGは苦悩する。



 フワちゃんのラジオにゲスト出演したHGは、その昔、代理執行を合憲とした最高裁判事がアメリカ大使マッカーサーJr.とずぶずぶだったと聞かされる。

「私が前さあ、立川にあった砂川米軍基地に勝手に入って最高裁まで行ったことあんじゃん?そのとき国が拡張のために町長に土地買え!っていったら嫌です!って地元住民のために命令無視したんだよね。やべーじゃんおっちゃん、でんざえもん、名前かっこよすんだろ!でんざえも~ん!気合入ってんな、本名は宮崎伝左衛門?っていうからもうでんざえも~んにフワちゃん、私は、いやもうあんたでも次の選挙でいやがらせされんじゃね?って思ってたらそれどころか国が町長訴えちゃってさ、国内でも二例しかない職務執行命令訴訟らしいよ。そしたら、またこれ私も最高裁で侵入に関して違憲合憲争ってたあいつ!田中耕太郎!最高裁判事ジャンピング上告してきやがって!しかも合憲やと!でも結局うやむやになって、最高裁判決だけがくさびのようにのこったんだよね。お前マッカーサーJr. と仲良しすぎてアメリカさんのいう通りにやっとるからやろ!って最高裁判事につめよってやったよ自撮り棒もって!」

「セイセイセイ!フワちゃんは攻めてるね~!」

「てか近代国家の軍隊ってさ、そもそも年金という物理的な作用と、英霊化という精神的な簒奪によって成立して来たよね。子孫の面倒を見るから国のために死ねって、ヤクザがムショいる間、仲間が家族の面倒見たり、ムショ出たら組長にしてあげんのとかわんね~し!靖国神社だってそもそも、長州藩士ばっかり祀ってるし西郷隆盛や白虎隊は本殿に入ってねえし、幕末の招魂祭のときから精神性変ってないよね。A級戦犯合祀したの70年代以降っしょ?あ、そうだHG、私の親友紹介してあげるね~。めっちゃいいじいちゃんだから!超面白いよ!」



 沖縄では、最高裁判決に対して何度目かの県民抗議集会が開かれていた。

 内閣の命令でHGは現地に飛び、反対集会に身を投じた。

「セイセイセイ!皆さ~ん!ハードゲイでーす!」

 いつものGOLD FINGER'99を出囃子に、ハードゲイは舞台に飛び出す。

生卵が次々と投げられ、怒号と罵声が飛び交った。光沢のある黒いエナメル質の舞台衣装はあっという間にドロドロになる。

「さあ、見てください私を・・・」

舞台袖から「謝って!」というカンペが出された。

 県民へ謝罪してこの場をおさめることがHGに内閣から課せられた仕事だった。

「謝って・・謝ってくださいよ!国は!沖縄県に!」

 レイザーラモンHGは、自分でも思いもよらなかった言葉が口から出て来た。

「憲政、フォーーーーーーーー!!!!」


 壇上で、汚れ切った体をぬぐうこともせず、マイクを持った。

「ここで、沖縄の美しい海を見るとき、ニライカナイ信仰という言葉を思い出します。沖縄には海の彼方に他界・神の世界をみるニライカナイ信仰がある、と聞きました。沖縄戦で亡くなった県民たちは海に還れたのでしょうか。防空壕に使われた各地のガマにある無数の遺骨を見るとき、私はその霊魂が安心して海に還れていないのではないか、という疑念を持たざるを得ません。各地にある塔、つまり慰霊碑に、刻まれる事すらない無数の命がまだそこに眠っています」

 舞台には野次と小石が飛び込んでいる。全身の打撲と擦り傷もかまわず、HGは続けた。

「THE BOOMの『島唄』という曲があります。沖縄の美しさを伝統的な沖縄音階で歌った曲です。私もカラオケで良く歌いますし、大好きな曲の一つです。作曲の宮沢和史さんは、ひめゆりの塔において元学徒の女生徒に体験を聞いて着想を得た曲です。この曲で一カ所だけ、いわゆるヨナ抜き音階、つまり本土的な響きをもつ『ウージの森であなたと出会い ウージの下で千代にさよなら』という部分です。これは、本土に届けないといけないパートだという思いで、あえて沖縄音階を使わなかったといいます。『鉄の嵐』とまで呼ばれた凄惨な沖縄戦、今も首里城の門などにその跡が生々しく残っています。犠牲になったのは皆さんのおじいさん、おばあさん、ご親戚たちでした。

 恥ずかしながら、私は沖縄での慰霊の日が終戦記念日とされる8月15日でなく、6月23日であることを知りませんでした。それが国からの押し付けに対抗し、署名を集め、県で勝ち取った日であることも知りませんでした。

 私ハードゲイは、暦とおなじように、国家によって死生観を奪われてはならない、と信じています。これまで、日本は明治維新によって目覚ましい発展を得た代償に、軍隊の維持のために死後も国が永遠に名前を残す、という約束を信じ、ある人は志願し、ある人は強制的に徴兵され、国同士の戦いに命をささげさせられてきたのです。

 しかし、ここ、沖縄に眠っている人たちの多くは、軍人ですらない無辜の市民です。若くして戦闘で命を落とした米兵も同じです。中国で日本軍に殺された方々も同じです。

 靖国神社に限らず、アーリントン国立墓地、人民烈士廟、無名戦士の墓、すべて国家に命をささげた人たちを慰霊するという美辞麗句のもと、崇め奉ることで死を美化し、人々の素朴な死への畏敬の念、死生観を奪い続ける装置として機能してきました。明治維新で亡くなった長州藩士らを中心にした招魂社をもとにしたこの施設は、GHQによる解体でなくむしろ支配のための装置として転用されてきました。西南戦争をはじめとした反乱で亡くなった西郷隆盛や白虎隊が本殿に合祀されていない点が、欺瞞の一つの証左です。A級戦犯合祀と首相の参拝といった、海外からの批判とは全く別の角度で、批判されるべきなのです。

 もちろん、戦争で亡くなった方や合祀されている方の死は、彼ら個人の尊厳が関係者遺族らによって保ち続けられるべきです。いっぽうで、墓とは別に合祀という形にする必要は、果たして本当にあるのでしょうか。そこには遺骨すらなく、名簿だけがあります。私は、日本政府のみならず、すべての国家、すべての権力に対し、人々の死を思う気持ち、死生観を奪われる事に対してNOを突きつけます。セイセイ、腰も突きつけます。近代国家はその存続のため、本来は守るべき国民から、大事なものを奪い続けることでシステムを肥大化させてきました。労働による余暇時間、育児といった本来は人間本来が楽しむための再生産労働、人生という最も大切なものを、簒奪し続けてきました。

 こう話すと、個人は国家より偉いのだ、という傲慢さも批判されるべき、という指摘もあります。その通りだと思います。個人個人の死を利用して、国家からくさびを打つ行為と同じくらい、死を利用して国家にくさびを打とうとする行為もまた、同じくらいに批判されるべきなのです。古今東西、人が集まり、権威主義化し、自己保存のみを目的とした集団に至ることは間違いであると、私は信じています。しかし、人々が集まり、共に追悼の意を表すこと営みこそは、本質的に守られるべき尊いものであるとも信じています。

 死とは、その死者本人、遺族、友人、関わりのあったすべての人と共有されることで、悲しみを癒す手段になります。そして、今を生きる私たち自身もまたいつか死ぬ、という当たり前だけれど日常にかまけて見ないふりをしている事象に対して、他者の、母や父や祖母、祖父の死が私たちになにがしかの意味を問いかけてくれる、貴重な機会でもあります。ひるがえって、何のために生まれて、何のために生きるのかを自身に問い直させてくれるのです。自分が死んだあとってどうなるんだろう?何もない『無』だろうか、それともあの世で亡くなった魂たちと、先祖と再会することが出来るのか、還るべきところに還れるのだろうか。自身にいつか必ず訪れる死を意識すると、いつも自身の脈が分かるくらい静かな時間が流れます。恐ろしくも、しかし個人にとって大切な時間だとも思えます。この死と向きあう追悼という生命への尊厳あふれる祈りを、国家という大きなシステムに奪われてはなりません。皆の手で取り返しましょう」

6月の沖縄に流れる、蒸した風の音だけが会場を覆っていた。



 同日午後、東京の宮内庁松の間では会見が生放送されていた。

「この日本国に、先の大戦における多大な犠牲と、その反省の上に立った、憲法が施行されたこの日を、迎えられたことを、無上の喜びに感じます。それは、戦争を再び起こさないという、決意の八十年間でした。また、先の大戦で、大きな被害をこうむり、今に至るまで、苦しみを抱え続けている沖縄の人々と、思いを一つにしています。

 ところで、自民党は、民主化とは真逆の、専制化を進めるばかりで、心を痛めています。今すぐ、解党しましょう。さきの、田中耕太朗最高裁判事をはじめ、アメリカなど、大国の傲慢を地方に押し付ける、最高裁判事は、弾劾裁判、もしくは、国民審査によって、罷免されるべきです。そして、専制化を推し進める立法を、議論もなくすすめる、今のこの国会のあり方は、内閣総辞職し、解散すべきものです。そもそも、大国の意図をもって、この国の在り方を決める、議論の軸そのものが、批判の俎上に上がるべきであります。国民が、主権を持つ意味を、もう一度、問い直すべきです」

 憲法第四条では、『憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない』と規定されている。しかし今、内閣が責任を負うべき国民の統合の象徴が、政治に思い切り口出ししている。松の間に集まっていた報道各社は、眼前で起きていることに理解が追い付かなかった。

 現内閣は何があっても責任をとることはない、という態度を逆手にとった会見であった。

 突如、陽気な出囃子が鳴り響いた。「GOLDFINGER '99」である。

「オッケーい!陛下、フォー!」

 レイザーラモンHGは宮内庁の準備した公式会見式場である、松の間に上手から乱入した。

「陛下、どうですこの腰の振りは~!セイセイ!」

白髪の柔和なおじいさんは、にっこりとほほえんだ。

「私も、次の選挙では、清き一票を投じます」

「それはセイ(違憲)でしょう~~!!」


 舞台は突如暗転し、HGは目覚めると憲政記念館の一階入り口に倒れていた。いつもの光沢のある黒いエナメル質の舞台衣装は、汗でびっしょり濡れていた。水分を吸収しないこの服は、鍛えられた肉体をなまめかしく魅せている。

 確か、会見場で陛下とHGが相互に押し引きするように腰振りをはじめ、ある速度に達した瞬間、また目の前が真っ暗になったのだ。たがいを励まし合うようにサングラス越しに目を合わせ、腰を振りあったあの時間は、沖縄県で叫んだあの瞬間は、フワちゃんのラジオは、最高裁の合憲判断は、すべて夢だったのだろうか。


 今度、久しぶりに墓参りに行かないとな、と立ちあがると、視線の先に「国民審査、38年ぶりの開催 初の罷免は全員が対象」の見出しが飛び込んできた。今まで体験したことは、夢ではない。


 そこへ、白髪の温和そうな老人が声をかけて来た。

「ハードゲイさん、なにか、楽しいご経験をされましたか」

 ゆったりとしたその表情をみて、レイザーラモンHGは答えた。

「それは陛下のセイでしょう」(了)

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