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歴史系コメディ

功山寺集客

作者: 有嶋俊成
掲載日:2026/07/24

【登場人物】

[諸隊関係者]

 ・高杉…奇兵隊創設者。俗論派打倒に燃えるが…。

 ・俊輔…力士隊総督。英語が出来る女好き。

 ・石川…遊撃隊総督。物好きな人物。

[その他]

 ・リン…下関の芸子。

 ・根津尾左衛門…防府の商人。

 ・少年…??。

元治元年十二月十五日〈新暦:1865年1月12日〉深夜、長州藩士で奇兵隊の創設者である高杉は、長府の功山寺にいた。禁門の変で幕府に敗北し、さらには下関戦争で外国艦隊による猛攻を受け、勢力を失った正義派は俗論派による粛清の嵐に…。そんな状況を打破するために共に挙兵する仲間たちを待っていたのだ。


高杉「俗論派のヤロー誰彼構わず粛清しやがって…まあ俺には奇兵隊を始めとする"諸隊"の仲間たちがいるからな。想いは伝えてあるし、アイツらならきっと来てくれるはずだ…。」


(降りしきる雪を見上げながら境内に佇む高杉)


??「すいませーん。」


(門の方から聞こえる。)


高杉「来たか!この声は…誰だ!?」(門に振り向く。)


??「あ、あなたが高杉さんですか?」


高杉「…女子(おなご)?」


??「あら?高杉さんではいらっしゃらない?」


高杉「えっと…い、いかにも。高杉は俺だ。お前は何者だ?」


??「私は下関で芸子をしているリンと申します。」


高杉「芸子? 芸子がなんのようだ?」


??→リン「こちらに長州が誇る超一流素体利須人(すたいりすと)の高杉さんがいると紹介されて参りました!」


高杉「ん…ん…? す、すたいりすと??」


リン「私、働いているお店の中では華があまり無い方でございまして、お店のご主人様からも『もっと注目されるようにしなさい』と言われてしまったのです…。」


高杉「ちょ、ちょっと待て。一体どこからそんな話が…?」


リン「とあるお客様に先日教えていただいたんです。この日に功山寺に行けば、どんな女子も桜が舞うように華やかにしていただけると…。」


高杉「…ほぉ…。」


リン「そういうことなのでございます。どうか私を素体輪具(すたいりんぐ)していただけないでしょうか?」


高杉「す、すたいりんぐ…?? ちと待て、ちと待て。まず、俺を素体利須人だと紹介した客は一体誰なんだ?」


リン「俊輔という方にございます。」


高杉「俊輔?」


リン「ええ。英吉利(いぎりす)の言葉を話すのがお上手な方なのです。」


高杉「アイツか~。」


(頭を抱える高杉)


高杉「リンよ、俺は素体利須人だ。しかし、あくまでもこの世を正す素体利須人だ!」


リン「この世を正す?」


高杉「ああ。この乱れた日本をここ長州から正す、時代の素体利須人だ!」(何言ってんだ俺…)


リン「時代の素体利須人…とても良い響き…」


高杉「俊輔は勘違いしとるのだろう、アイツも抜けたところがあるんじゃの~」


リン「確かにあの時はだいぶ酔われていましたし、ただそういうところがお可愛い。」


高杉「…うむ。さあ俺はお主に何かすることは出来ぬが、桜のように舞えることを信じておる!」


リン「高杉様…ありがとうございます!リン、これからも励んでいきます!」


(功山寺を去っていくリン)


高杉「…ったく、俊輔のヤローなに吹き込んでやがんだ…大体あいつは今何やってんだ…」


(注:ここからちょっと時代設定無視します。)


高杉「………」(スマホを取り出し電話をかける)


俊輔〈ひゃい…もひもひ…(はい、もしもし)〉


高杉「おい俊輔!お前今どこにいる!?」


俊輔〈功山寺でしゅ…〉


高杉「なんだその無理のある嘘は。酔っ払ってんだろお前。どうせ芸子の店で遊んでんだろ?」


俊輔〈That's right.〉


高杉「鼻につくんだよ!」


俊輔〈高杉ぃさん…何をそんなにangry?〉


高杉「お前が芸子に俺を一流素体利須人だとかなんとか吹き込んだらしいな?おかげで俺は『この世の素体利須人』とかいうわけのわからん肩書を名乗ることになったぞ? かの信長の『第六天の魔王』の方がまだマシだ。」


俊輔〈oh!それはそれは~しかしリンちゃん、ちゃんと功山寺に行ってくれたんだぁ…ヒック…〉


高杉「なぜわざわざ芸子を寄越した!」


俊輔〈高杉さんが『現状を打破したい者は功山寺に集え!』と、おっしゃっていたのでぇ…今の自分をchangeしたいリンちゃんが適任だと思ったのでございましゅ!〉


高杉「お前!野山獄にぶち込むぞオォイ!俺の思いの規模を舐めるな!お前が力士隊率いてここに来いってことだろうがぁ!!」


俊輔〈え?what's?oh!wait!ウメちゃ~ん待て待て~(ブチッ)〉(電話が切れる)


高杉「おい俊輔!あいつ…今度会ったら馬に蹴らせてやる…。」


(電話を切り、再び雪の中佇む高杉)


高杉「大丈夫だ。まだ他にも骨のあるやつがたくさんいる。意志を同じくするものが…」


??「失礼。」


高杉「!?」


(振り返る高杉。視線の先に一人の身なりの良い男が立っている。)


??「あの~高杉様という羽振りの良いお侍様はこちらにおられるでしょうか?」


高杉「……お主は何者だ?」


??「私は防府で商人(あきんど)をしている根津尾左衛門(ねづびざえもん)と申します。因みに鼻炎です。ズズーッ…」


(根津は蓋付きの桶と分厚い紙の束を持っている。)


高杉「商人? 商人がなんのようだ?」


??→根津「本日は羽振りの良いお侍様である高杉様にぜひとも銭をお出しいただきたく参りました次第にございます。」


高杉「銭だと!? なに!? 俺に銭を寄越せというのか!?」


根津「はい!あなた様から銭をぶんどりに来ましたぁぁぁぁぁ!!銭が欲しいぃぃぃぃぃ!!」


高杉「うるせーよ! 寺だぞここ! 御仏(みほとけ)の前だぞ! 強欲を出すな! あと侍への口の利き方気をつけろよ?」(刀の鞘に触れる高杉)


根津「銭が欲しいといっても私利私欲のために使うわけではございません。僕が僕の商売で僕を潤すためにお使いします。つまり"僕利僕欲"です。」


高杉「包み隠す気はなさそうだな。その清々しさは面白い。しかし、銭を求めるものなど今は俺がも求めとらん!」


根津「本日は高杉様に銭をぶん捕られることにご納得いただけるよう"商売目論(もくろん)"をお持ちしました。」


高杉「も、も、目論??」


(分厚い紙の束を差し出す根津)


根津「こちらに私が、あ、じゃなくて僕が高杉様から銭をぶん捕った暁にはどんな僕利僕欲運動に使うかを事細かに示しておりますどうぞ高杉様にお納めください。」


高杉「なんださっきから"ぶん捕る"って…」


(高杉が紙の束をパラパラとめくる)


高杉「『丁半博打1000両取り目論』、『富くじ数撃ちゃ必勝目論』、『花札必勝目論』…お前よくこれを人に惜しげもなく見せられるな…。」


根津「ありがたきお言葉。」


高杉「どこにありがたさを感じた?」


根津「それだけではございせん。最後の目論をご覧ください。」


(根津に促され最後の紙をめくる高杉)


高杉「『奇兵隊買収目論』…お前舐めてんのか!!」


(根津に飛び掛かる高杉)


根津「うぉぉぉっ! 落ち着いてください!首筋に噛みつかないでください!はらわたを抉り出さないでくださいぃぃぃ!!」


高杉「お前頭の中はとことん過激だな!だからあんな目論が書けんのか!?」


根津「と、いうことで高杉様にお目通り願えないでしょうか?」


高杉「切り替え早。そういえばまだ名乗ってなかったな。俺が高杉だ。」


根津「なに!?なんと!まあ!あなたがあの羽振りの良い高杉様でしたか! とても凶暴な方で。」


高杉「"羽振りの良い"って褒め言葉じゃないからな。それより、なぜ銭を求める先が俺になったんだ? なぜ俺がここにいると知っているのだ?」


根津「友達のお侍くんに教えていただきました。」


高杉「その友達のお侍くん…とは誰だ?」


根津「石川くんです。」


高杉「石川…?」


根津「遊撃隊っていうところで総督やってるそうです。」


高杉「あの石川か!」


根津「石川くんに僕利僕欲のための銭が欲しいという話をしたら、功山寺に羽振りの良いお侍さんがいるからその人なら気前よく出してくれるだろうとのことでした。」


高杉「あいつも何考えてんだ…根津といったな? 俺は銭は出さん。」


(目論を突き返す高杉)


根津「そ、そんな! 折角サワガニも80匹用意してきたのに!」


(根津が持っていた桶の中にはサワガニがひしめいていた。)


高杉「カニで銭は釣れねぇぞ。」


根津「くそぉ!萩城のお堀に一文銭投げて願掛けしてきたのに!」


高杉「やばいなお前。それじゃお前、白石さんとこ行け。」


根津「白石さん?」


高杉「うちのお得意さんだ。その人なら話聞いてくれるかもしれないぞ。」


根津「本当ですか!? そうとなったらこうしちゃいられない! サワガニに加え、クワガタも採って持っていくぞー!!」


(桶と目論を手に功山寺を去っていく根津)


高杉「ったく、とんでもねぇ猛者送り込みやがって…」


(注:また時代設定無視します。)


高杉「石川はどこで何やってやがる…」(スマホを取り出し電話をかける)


石川〈はい石川でーす。〉


高杉「おい石川! 今どこにいる!」


石川〈白石様の邸宅です。〉


高杉「お前、白石さんのとこにいたのか。それは丁度良い。」


石川〈高杉さん?どうされました?〉


高杉「お前責任を持って処理するんだぞ!」


石川〈責任を持って処理?〉


高杉「さっきお前がこっちに送り込んできた根津とかいう博打狂いの商人をそっちに送ったから、ちゃんとそいつをお前が処理するんだぞ!」


石川〈あー尾左衛門くんのことですか。高杉さん、尾左衛門くんに銭を授けて頂けたでしょうか?〉


高杉「誰があんな博打の(けもの)に銭を出すんだ!」


石川〈高杉さんが『栄誉を勝ち取りたい者は功山寺に集え』と仰っていたので誰よりも向上の意志のある尾左衛門くんが適任だと思いました。〉


高杉「お前、友達見る目無いぞ?」


石川〈あ、今、尾左衛門くんが来ました。なんか肩にクワガタ三匹乗せてます。〉


高杉「そいつを骨抜きにしとけ!二度と邪悪な目論を作らせるな!(ブチッ!)」


(電話を切る高杉)


高杉「くっそ、俊輔も石川も何考えてやがる…俺の伝え方が悪かったのか…?」


(雪の積もった地面を見つめる高杉)


ーザッ、ザッ、ザッ…


(門の方から雪を踏む音が聞こえる)


高杉「………」


少年「………」


(一人の幼い少年と高杉が目を見合わせる)


少年「…たかすぎさん?」


高杉「……いかにも。」


少年「お菓子をくれる、たかすぎさん?」


高杉「………(いな)。」


少年「お菓子をくれるたかすぎさんは、どこ?」


高杉「どこにもない。高杉は俺だけだ。」


少年「もしかして佐世(させ)さん…嘘ついたの?」


高杉「今度は佐世か…」


少年「僕…佐世さんに、功山寺に行けば慈悲深い高杉という侍がいるって聞いてきたのに…。」


高杉「なんか俺の分が悪くなりそうなんですけど…。」


少年「なーんだ。お菓子くれるたかすぎさんはいないのか。帰ろー。」


高杉「待て! カステラならあるぞ。」


少年「かすてら!? 食べたい!」


高杉「ほれ。」


少年「いただきまーす。」


(カステラを頬張る少年)


高杉「因みに佐世とはどこで会った?」


少年「赤間神宮。」


高杉「そうか。奇兵隊の本拠にはいるのか…。」


少年「たかすぎさん、たかすぎさんはなんでここにいるの?」


高杉「俺はこのつまらん世を変えたいのよ。」


少年「つまらん世?」


高杉「京で幕府に負け、下関で異国にも負け、俗論派どもは幕府に媚びへつらい、俺たちの仲間は次々と粛清され…おもしろいことがなんにもない、おもしろいことがなんにもできん、つまらん、つまらん…だから変えたいのよ。同じ意志を持つ仲間たちと共に。だから仲間たちに思いを伝え、ここで待っているんだ。」


少年「(モグ、モグ、ゴクリ…)ただ待ってるだけ?」


高杉「何?」


少年「なにか人が来るような戦略は用意してる?」


高杉「人が来る戦略? 俺が知っているのはイクサの戦略だけだ。」


少年「あーあー熱意さえあれば良いって思ってるタイプだ。」


高杉「何を言ってるんだお前は?」


少年「人々を引き付けるためには何か注目を集めるような誘い文句や自ら足を運びたくなるような付加価値を用意するのは鉄則だと思うよ?」


高杉「その体躯には似合わぬ説示…」


少年「それにこの時間帯(深夜)、この天気(雪)…来たいと思う人いる?」


高杉「蹴鞠でもすると思われているのか…?」


少年「一人孤独に待っている自分がそんなにかっこいい?」


高杉「俺って…ちょっとイタイと思われてる…?」


少年「総じて集客下手っぴ。」


高杉「あぁ…」


(崩れ落ちる高杉)


少年「なにやってんの?」


高杉「己の愚かさに嘆いている。すまん、一人にしてくれ。」


少年「一人になってどうすんの?」


高杉「さあな。このまま俗論派の言いなりか…」


少年「(モグ、モグ、モグ…ゴクリ)あんたの思いはそんなもんなの?」


高杉「…へ?」


少年「仲間たちが酷い目に遭って悔しくないの? つまらない世をおもしろくしたいっていう目論はどこいった?」


高杉「"目論"ってそこらで使われてる単語なのか??」


少年「本気なら僕が手伝ってあげてもいいよ?」


高杉「な…お前みたいな小僧に何ができるんだ? この俺に小僧が教示をしようというのか?」


少年「あーあ、自尊心が勝っちゃうか。じゃ、僕は行くね。もう人は誰も来ないかもね~」


高杉「…待て! 俺は諦めん。必ずこの世をおもしろくしてみせる! だからどうすればよいか教えてくれ…」


少年「…いいよ。対価はカステラで。」


高杉「わかった。感謝する!」


ーしばらくして


俊輔「高杉さん!」


高杉「おう俊輔。よく来たな。」


俊輔「功山寺に美女を集めて待っていると聞いて居ても立ってもいられず来てしまいました!」


高杉「相変わらずお前は女のことばっかりだな。」


俊輔「癒しがないと志士はやってられませんよ! あ!縁側で美女が手を振ってる!」


高杉「奥にたくさんの美女が控えてるぞ。」


俊輔「こうしちゃいられない!oh!beautiful!!!」


(奥に走っていく俊輔)


高杉「だが俊輔、後で馬には蹴らせるぞ。」


石川「高杉さん。」


高杉「石川!お前も来たか!」


石川「立札を見ました。ここに書かれている『一緒に時代の禁門を突破しない?みんなでおもしろくるおう!』って一体どんな鋭敏さがあればこんな魅惑の言葉が思いつくんですか?」


高杉「京で散った久坂や入江たち、そして何より俺の恩師の魂をここに込めたのよ。」


石川「今の高杉さん、菊ヶ浜の海のように輝いてます!」


高杉「俺は海のようにでかいことを成し遂げて見せるのよ!」


少年「どう?大繁盛でしょ?」


(縁側でカステラを食べている少年)


高杉「少年よ…助かった。お主には感謝してもしきれん!」


少年「あとは、ここからどうやって勢いを広げていくか。」


高杉「それはもう決まっとる。今集まっとる84人で…長州のあちこちに営業かけにいくのよ!!」


少年「俗論派の皆様を唸らせてきな。」


高杉「おう!まずは下関新地会所、続いて三田尻海軍局じゃ! 俊輔!石川!出張じゃ!!」


俊輔&石川「ウォォォォォッ!!」


その後、高杉らは俗論派の皆様を唸らせながら長州藩のありとあらゆる場所に"営業"をかけに行った。高杉らは順調に勢力を拡大し、遂に藩を正義派一色に染めることに成功!しかし、それを察知した江戸の勢力が出る杭を打とうとするかのように迫っていた…。


「功山寺集客」ー完ー

※史実を基にしたフィクションです。

※登場する歴史上の人物の人格・行動・言動はすべて作者の空想であり、ご本人様とは関係ありません。

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