~第七話~ 前の時代
全校生徒の帰宅時間を知らせる放送が鳴った。
これ以上は練習できない。
「白石さん、帰ろっか。」
「そうね。」
今から夏になっていくのに、もう既に外は少し暑い。
制服の首元をパタパタさせながら歩く。
駅とは逆の道で、人通りが少なくなる。
「ねえ、奏君はさ、昨日の夜の話なんだけど、元の時代に帰りたいとかはない?」
元の時代…?昨日の夜にも思ったが、元の時代ってなんだ?
今生きているこの時代から変わる事なんてあるのか?
「え、だからそれはどういう意味で…。元の時代って?」
「やっぱり…。本当に覚えてないの?」
「え、なにが?」
白石さんは何のことを話しているのだろうか。
「うーんと、あ。ちょっとおじさんの所へ寄っていい?」
「えーっと、商店街の文房具屋の?」
「そうそう。そこにちょっと行きたい。」
構わないよ、と返事をする。
それより、元の時代とは何のことなのか。
白石さんは不思議なことを言い始める。
少し歩いておじさんこと武郎さんの所へ向かう。
「おや、紗理奈。こんな時間にどうした?」
「おじさん、今日これから暇?暇なら家に来てほしい。」
「え、うーん、分かった。じゃあ店を閉じるよ。先に帰っててくれ。」
「ありがとう。」
武郎さんに何か用があるのかな。
僕は少し疑問に思いながら、白石さんの横に立つ。
また少し歩いて、家が見えてくる。
白石さんが鍵を開けて、中に入る。
すると一直線にカレンダーのもとへ向かう。
「奏君が来たのがこの日。そして今日は、ここだから、十四日か。」
何を呟いているのか僕には分からなかった。
しかし、かなり深刻そうな顔をしている。
「はいるぞ~。」
武郎さんが家にやってきた。
「おじさん、奏君、一回話したいことがあるから座って欲しい。」
と言われるままに座った。
「おじさん、奏君がこの時代にやってきたことの記憶が、なくなってるの。」
「なに?それは本当か?おい、奏君や、君はなぜこの町にやってきたか覚えているか?」
記憶がなくなっている?一体どういうことだ?
そして、この町にいる理由…?
思い出そうとすると、頭が痛くなる。
「えーっと、すみません、ちょっとよく覚えていないのですが。僕はどうやってこの町に来たのですか。」
二人が顔を見合わせて深刻な表情になる。
「分かった。一回奏君は席を外してくれるかな。ちょっと買い物でも行きながら。」
武郎さんが焦るような口調で話す。
一体本当に何があったんだ。
僕はお財布を持って家から出て商店街の方に出る。
なぜこの町にいるのか。
駄目だ。思い出そうとすればするほど頭が痛くなる。
何が起こっているのか僕は分からないが、とりあえず、暇をつぶそう。
商店街をぶらぶら歩く。
しかし、大半の店は閉まっている。
商店街の休憩スペースに行き、ジュースを飲む。
甘くて美味しい。ここの自販機のメーカーの飲み物は全体的に美味しい。
ほっと一息ついたところで、次は考えてみる。
親の移住?いや、それだったら僕は白石家にはいない。
一人暮らしに来た?親がそんなこと許すわけ…。
あれ、僕の親は誰なんだ?
頭の中に、はてなマークが溢れる。
とそんなときに誰かから名前を呼ばれた。
「あ、白石君。どうしてここに。」
その声の主は、有木さんか。
「あれ、有木さん?有木さんこそどうしてここに。」
「そこの居酒屋。お父さんが経営してて。手伝いに。それで、し、白石君は。」
「僕は…。」
有木さんに話していい事なのか、この話をして信じてもらえるのか。
僕は分からなかった。
だから。
「ちょっと散歩したくて。」
「あ、あっそ。」
なんか冷たい。
「白石君、なんか悩んでる顔してる。」
有木さんは鋭い。
出会って二日目だけれど、僕の表情から何かを読み取ったらしい。
「うーん、ちょっとね。ねえ有木さん、君は時間軸が変わることはあり得ると思う?」
遠回しに聞いてみる。
「な、なんでそんなことを聞く。」
「なんでも。それでも教えてよ。有木さんなりの答えを。」
「私は、あり得ないことは、ない、と思う。だって、そう説明するしかないこと、たくさんある。」
「例えば?」
僕は気になった。
有木さんからの答えが意外だったからだ。
「人。この町からいつの間にか見なくなったり、する。」
なるほど、と心の中で思う。
そんな感じで話していると、
「おーい、奏君。」
聞き馴染みのある声が遠くから聞こえる。
白石さんだ。
「あれ?花梨ちゃんもいるの?どうしたのこんなところで。」
「私のお父さんがここの商店街の居酒屋、やってて、手伝いに。」
「ふーん。なるほど。お話し中悪いけど、奏君、ちょっともらってくね。」
「いいぞよ。」
僕はいつの間に物の扱いを受けるようになったのか。
しかし、有木さんの答えはかなり意外だった。
時間軸が変わる可能性はある。
それが彼女なりの考えらしい。
つまり、僕はどこかの時代からやってきたのか?
最初に町にやってきたことを思い出す。
見慣れない色をした看板があった。
そうやって考えるのが妥当なのか。
僕にはやっぱり分からない。




