~第六話~ 送る日々
それからというもの、僕はここでの生活を楽しんだ。
新たな人との出会い。
新しい生活。
この場所ほど居心地の良い場所はない。
どこかの神様に感謝を伝えたい。
そんなある日のこと。
夕食を食べ終えて、お風呂に入り、歯磨きをする。
時計の針はもう十一時を指している。
もう時間も時間なので寝ようと、布団に入る。
でも僕は眠りにつくことができなかった。
「…ねえ。」
暗闇の中で、白石さんの声がした。
「奏君はさあ。元の時代に戻ろうと思ってるの?」
元の時代…?どういうことだ?
この時代以外に何かあるのか?
「元の時代ってなに?」
暗闇の中だから、隣にいるはずの白石さんの顔は見れない。
それでも、なにか考え込んでいる顔であることはなんとなく分かる。
「…うんん。何でもない。やっぱ忘れて。もう寝よう。」
突然変なことを聞いてくるものだ。
それ以上、白石さんは何も言ってこなかった。
僕の瞼はダンベルのように重くなっていた。
明日は、何を、し、ようか、な。
朝、目が覚めた時、一瞬だけ不安になる。
――ここは、どこだ。
布団から体を起こしてあたりを見渡す。
「起きた?」
エプロンを付けた美少女が顔を出す。
その瞬間我に返る。
ここは白石紗理奈の家。
その光景があまりにも自然で胸がざわついた。
学校へ向かう道。
いつもと同じ景色なはずなのに、少しだけ違って見える。
校門をくぐると、昨日も来た校舎が見える。
「何ボーっとしてるんだ?」
自転車を押しながら森下は僕に話しかける。
「あ、森下。おはよう。」
「おう、白石も奏も、おはよう!」
「おー森下、おはよう。今日も元気だね。」
昨日からの日常。
この日常がずーっと続くといいな。
その思った瞬間、チャイムが鳴る。
「あ、やっべ、遅刻だー。」
「ほら、奏君も走って、今ならギリ間に合うかもだから!」
ぼーっとして歩いていたため、今日は昨日より遅く学校についてしまったようだ。
できる限りのダッシュをする。
「ふー間に合った。」
白石さんが安堵する。
僕も安心する。
間に合ってよかった。
今日の授業では一回も当てられなかった。
やはりその方がありがたい。
授業で発表して間違えたら大恥をかくから。
放課後になり、僕は、軽音部の部室に向かおうとすると、
「おーい、奏ー。申し訳ないんだけど、今日はちょっと僕と有木が用事があって、部活いけない。すまん。」
森下と有木さんの用事ってなんだろう。
ふと疑問に思いながら分かった、と返事をする。
一人で行くのは心細いので、白石さんと行くことにする。
「あ、えーっと、白石さん?今日森下と有木さんが部活行けないしくて、一緒に行かない?」
教室の中では白石さんはここにいる友達とよく話しているため、僕はあまり話さない。
今回もそうだ。
白石さんは友達と話していた。
転校生がいきなり軽々しく話しかけるのを見られると、今後の人間関係に支障が出そうなので、小声でちょっとかしこまった風に話しかける。
「そうなの?分かった。じゃあ行こうか。」
友達にまたね、と言って僕の隣に来る。
白石さんと歩いていると、目線が刺さる。
それはそうだろう。
この人、とても美人である。
僕も男子だから少し分かるが、視線が自然に白石さんに引き寄せられてしまう。
その隣を歩くのは、一般的なモブキャラ。
仕方のない事か…。
あまり話すことなく、部室に到着した。
「それじゃあ、奏君、ちょっとギター弾いてみよっか。」
「うん。えーっと、部室のやつ使っていいの?」
「もちろん!好きな奴どうぞ。」
僕は一回弾いた、こげ茶色のギターを手に取る。
このギターには何か運命を感じるのだ。
前、貰った楽譜を読む。
理由は分からないが、なぜかすらすらと読めてしまうのだ。
ピックをつまんで、弾いてみる。
「やっぱり、上手だね。奏君。」
「そうかな。」
と少しうれしくなっていると、白石さんはすぐ横に来た。
「ねえ。私、合わせて歌ってもいい?」
「もちろん良いよ、と言いたいところだけど、一通り弾けるようになってからでもいい?」
「あ、そうだよね。ごめん。」
白石さんは、部室の中にあるアンプなどをいじり始めたり、僕のギターを聞きに来たりした。
家(白石家)にはギターがないため、ここで弾けるようにしなければならない。
五分ほど弾いていると、白石さんの姿が目に映る。
何もすることがなく、暇なようだ。
「白石さんもギター弾いてみたら?」
僕はそう提案する。
「うーん、実はね、私下手なの。ギター。だから歌うことしかやってないの。最初はね、弾く計画だったんだけど…。」
ちょっと悔しそうな顔をしながらそう話す。
「簡単なコードなら僕、教えれるよ。頑張って弾いてみたら?」
「奏君がそういうなら弾いてみるしかないじゃん。ずるいぞ。」
僕は何を言っているのかあまり理解できなかった。
白石さんが僕の前に座る。
「それでは、教えてください!師匠!」
「えーっとね、このコードはこの弦を…。」
三十分くらいだろうか。
白石さんは綺麗にコードを鳴らし始めた。
「できたじゃん。なんだ、もっと時間がかかるものだと思っていたが。」
「何それ、私のことなめてる?私も本気出したらこれくらいできるのよ。」
すごいだろと言わんばかりの顔を見せる。
二人だけの部活も楽しいな。




