~第五話~ 白石紗理奈の境遇
「え、あの、え、誰ですか…。」
「お、ようやく来たか。何やってたんだよ。遅いぞ~。」
「あ、一年の白石奏です。今、この部活のギタリストとして入部することにしました。よろしくお願いします。」
初対面の人と話すのは苦手だ。
だって何から話せばいいのか分からないから。
とりあえず軽く自己紹介をしておく。
「えーっと、私は一年のベーシストの有木花梨。よ、よろしく。」
「ほら、花梨ちゃん固くならない!奏君が来てくれたからこれから軽音部としてライブできるようになったんだから。仲良くしてこ。」
「紗理奈ちゃんと苗字同じ…。」
やっぱり苗字に関しては突っ込んでくるか。
そして、どうやら有木さんはあまり人と話すのが上手ではないらしい。
これから、この人に心を開いてもらうのが一番の目標かもしれない。
だってバンドを組むんだから息が合わないと何もできない、と思う。
それから僕は一度今やっている曲のギターなしver.を聞かされた。
森下がスティックを使って合図をすると、
三人の演奏が始まった。
白石さんの透き通る声が、マイクを通って大きくなる。
有木さんのベースが、曲に深く刺さる。
森下のドラムが、みんなのリズムを刻む。
三人が笑顔になり、楽しい時間を共有することの楽しさがしみじみと感じる。
演奏が終わると僕は鳥肌が立っていた。
すごく楽しそうだ。
僕は第二の居場所を見つけた。
僕も弾きたい―――。
「どうだった?奏君。」
「すごかった。僕もこの部活の一員として、ギターを弾くから、これからよろしくお願いします。」
ここで弾ける権利が僕にはあるのだろうか。
どこからやってきたのか分からない人に、この中に居ていいのか。
分からない。けれど、僕は、ここで弾きたい。
「あ、あのう。白石君、私、嬉しい。ここでギター弾いてくれるの。」
有木さんが下を向いて小声で話す。
僕は、この三人のためにもたくさん練習して、ライブを盛り上げたい。
さっき弾いたギターを手に取り、深くお辞儀をする。
「僕は楽しみ。三人と部活ができるの。有木さんとはまだまだだけど。だから、たくさん練習します。」
「お、奏君も意気込んでることだし、これからも頑張るぞー!」
おー!と森下と白石さんが叫ぶ。
有木さんは、おー、と小さくつぶやく。
明日からの部活が楽しみだ。
校舎の影が長く伸びている。
帰り道、三人で並んで校門へ向かう。
途中で森下が言う。
「あ、これ楽譜。渡しておく。」
「うん、ありがとう!森下!」
あ、勝手に口から "森下" と出てしまった。
これも仲良くなってきている証拠なのだろうか。
「それじゃあ、また明日ね~!」
分かれ道で、元気よく白石さんが手を振る。
有木さんは下を向いて、森下は自転車を押しながら、手を振って去っていく。
僕と白石さんは同じ家なので全く同じ帰り道だ。
白石さんと、二人になった。
夕暮れの町は、朝より静かだった。
「楽しかった?奏君。」
白石さんが聞く。
「うん!」
即答だった。
僕にしてはかなり多きい声が出てしまったので、恥ずかしくなり、顔を赤らめる。
「ふふ、奏君でもそんなに大きな声を出すんだ。」
えへへ、と苦笑いをして歩いていく。
しばらく歩いてあの木造住宅に着く。
「ご飯、用意するね。」
それだけで、今日一日が終わることが分かった。
長いようで短い一日だった。
僕は、大きな欠伸をして、
「うん、ありがとういつも。」
と感謝を伝える。
夕食は簡単なものだった。
フライパンで焼いた何かと、朝の残りの味噌汁。
「あんまり料理得意じゃないけど、どうかな?」
そう言って、白石さんは少しだけ照れる。
「僕は美味しいと思うよ。白石さんの料理。」
そういうと、ぱあ、と笑顔になる。
この笑顔も僕はどこか面影のあるものだと感じる。
この家にテレビはあるが、つけなかった。
そのせいか、時計の針の音が部屋に響く。
「…静かだね。」
僕が言うと、彼女は箸を持つ手を止めた。
「だから、君がいる。私はね、君が来てくれたことにすごく嬉しく感じているんだよ。この家はね、おばあちゃんの家なの。私、小さいころに両親が離婚しちゃってね。お母さんは私を引き取ってね、今、都会の方で単身赴任中なの。」
僕の言ったことがまずかったと今更思う。
白石さんはそんな境遇であったとは。
「おじさんはたまに私の所に様子を見に来るの。それでもね、一人でいることがすごく寂しかった。さっきみたいに静かになるのが嫌だった。」
「そうだったんだ…。そんな状況下なのに僕なんか住まわせてもらって、申し訳ない。」
「いや、奏君はすごく心の支えになってるんだよ。私が一人でいることがなくなった。それだけで君と会えて良かった。…暗い話ごめんね、君には伝えておくべきだと思って。よし、冷めないうちに食べよう。」
僕は言葉に詰まった。
僕が、僕なんかが、白石さんの心の支えになっている。
それでいいのか。
心のどこかでそう思う。
僕は白石さんに甘えているだけではないのか。
そう思いながら懐かしいご飯を食べる。




