~第三話~ 白石家
「よし、少年。とりあえずご飯たべよ。昨夜の残りしかないけど。」
「はい。ありがとうございます。」
「あ。あと、私と話すときは敬語いらないよ。なんか固いじゃん。」
「いや、でも。」
「返事ははい!」
なんて強引なんだ。
「はい。分かった。」
よろしい!と言わんばかりの満面の笑みを浮かべて冷蔵庫らしきものに向かう。
それからの紗理奈との食事は楽しかった。
おそらく、僕も同年代なのだろう。話の進め方が似ている。
「よし、ご飯も食べたことだし、とりあえず今日は寝よっか。」
「うん。なんかいろいろありがとうね。白石さん。」
「いいよ。それより、お風呂、先入っていいよ。着替えとかある?男物、おじさんのしかないけど。」
…今まであまり気にしてこなかったが、もしかしてこれは同棲というやつなのでは。
少し気が楽になってここでの生活について考えられるようになった。
というか変なことを考えてはだめだ。うん。
「ありがとう。僕は何でもいいよ。」
おっけー。というポーズを作りながら着替えを探しに行く白石さん。
湯船につかって少し思ったことがある。
ここに泊まるということは、この世界に、この時間に存在することになるから。
なんども思うが、不思議な話である。
それも、身元も分からない男性を、一人で住んでいるであろう白石さんが泊めてくれている。
家柄もあるのだろうけれど、すごいことだと思う。尊敬。
「お先に。白石さんありがとう。わざわざ先に入れてくれて。」
「いいのよお礼なんて。それじゃあ私も入って来よう。」
鼻歌を歌いながらどこか嬉しそうに風呂場に行く白石さん。
あの姿を見ていると、僕は不思議と安心してくる。
真夜中、布団を敷いて寝るときになった。
どうやら僕と白石さんは隣で寝るらしい。
場所がないとかどうとか。
「それじゃあ少年、おやすみ。」
「おやすみなさい、白石さん。」
僕は眠れないまま天井の木目を眺めていた。
横では白石さんの寝息が聞こえる。
この世界にやってきて僕は本当に良かったのか。
元の世界についてはもうあまり思い出せないがそれでいいのか。
元の世界に戻らなくてもいいのか。
いろんな不安がこみあげてくる。
ぼ、くは、どう、な、って、し、ま…。
朝は、味噌汁の匂いで目が覚めた。
おいしそうな匂いだ。
台所の方から、鍋の音と、誰かの鼻歌が聞こえる。
「おはよう白石さん。」
眠い目を擦る。
「おはよう少年。しっかり眠れた?」
「はい、おかげで。」
一晩立ってしまった。
本当に不思議な夢のようだ。
ふと壁に掛けられたカレンダーを眺める。
白石さんが記録としてマル印を打ったのが昨日か。
つまり、今日は五月十五日、土曜日という訳か。
朝食をつつきながら、白石さんと話す。
「そういえば、白石さんってどこの学校へ通っているの?」
「私立星山学園。その高等部かな。」
「ほえー。」
どこの学校か知らない。
けれど、聞き馴染みのある名前だ。
「あ、少年。さっきね、おじさんから連絡があってね。君も学校へ行こう。」
え、いきなりすぎるだろ。
どういうことだ?
「えっと、つまり、この世界でも学校に行けと?」
「そう!それにあたって君の名前を考えたい。」
学校に行かせられるのはどうやら強制のようだ。
名前…か。
「奏。今思いついた。」
「奏君か。いいんじゃない?結構いけてると思うよ。」
そうなのか。この名前、けっこういけているのか。
「苗字は白石でいい?」
え、それは血縁関係と疑われないか。
「僕はそれでいいけど。白石さんはいいの?」
「え?なんでダメなことある?」
ならいいんだ、うん。
「じゃあ今日と明日で行く準備を済ませておくよ。その間、奏君は荷物の整理とかしといて。」
「なにもかも、ありがとう。本当に。おじさんにもありがとうって伝えておいて。」
あまり深いことを考えない方がいいのかもしれない。
なんで学校に行けるようになれるのかとか。
あれから日曜の夜、おじさんと白石さんが用意してくれた学ランと鞄を持って鏡の前に立つ。
「おっ。似合ってるね奏君。」
「そうだな。俺もこれだけかっこよければなあ。」
褒めてくれるのはありがたいが、僕はあなたたちの努力に感謝したい。
「こんな一瞬で、ありがとうございます。」
「いや、大丈夫だよ、奏、君?かな。」
なぜかこの名前で呼ばれるとしっくりくる。
理由は分からない。
そして、僕はこれからの学校生活に不安と期待を抱いていた。




