~第二話~ 未来からの旅人
「あっ。ちょっと寄ってたらこんな時間だ。じゃあな白石。」
森下が乗っていた自転車にまたいで漕ぎ始める。
「うん。また明日。」
また明日、か。
僕にそんなものは来るのだろうか。
「それで、君はどうするんだい。」
そろそろ答えを出さなければ。
紗理奈と男性がこちらを見つめる。
「えっと、その。」
自分なりに言葉を紡ぐ。
「先に確認しておきたいことがあって、今って西暦何年ですか。」
これを聞いて意味はあるのか分からないが、確証がないため、聞いておく。
「えっと、二〇一〇年だと思うけど…。」
さっきと同じように紗理奈は首をかしげる。
これは困った。
時が戻っている。
僕はもともと二〇五五年にいた…はずだ。
つまり、あまり考えられない話だが、
タイムスリップしている。
「どうかした?」
と紗理奈。
僕の神妙な顔を二人は覗く。
「すいません、信じてもらえないかもですが、話してもいいですか。」
話すしかない。
「えーっと、いいんだけど、もうこんな時間だし、一回店を閉めてもいいかい?」
「はい、大丈夫です。」
ガラガラとシャッターを閉じる男性。
「えーっと、ちょっと場所を変えようか。おじさん、家に帰ってるね。」
紗理奈が少し不思議そうに話す。
「えっと、詳しい話は家で聞くよ。お兄さん、怪しい人じゃなさそうだし。」
「ありがとうございます。」
歩きながら、考える。
一回情報を整理しよう。
僕はもともと、二〇五五年にいたはずだ。
しかし、ここは二〇一〇年。
考えにくい話だが、本当にタイムスリップしたのか。
しかもこれは紗理奈とあの男性に信じてもらえるのか。
そして今からどうやって生きていけばいいのか。
「おーい!」
ハッと気づく。
「大丈夫?汗だらだらだけど。」
「あ、いえ、心配かけてすみません。」
どうやら白石家についたようだ。
しかし、何者か分からない人物を家に上げるというのは防犯上どうなのか…。
紗理奈は鼻歌交じりに鍵を開ける。
「どうぞ、上がって。」
「おじゃまします。」
古い木造住宅だ。
玄関に木彫りの熊が置いてある。
まるでおばあちゃん家みたいだ。
「ふうー疲れたー。」
学校帰りの紗理奈は鞄を置いてソファーに座る。
「それで、話って?」
いきなり始まるのか。
少し、勇気を出して話す。
「あのう、信じてもらえないかもなんですが、僕、」
「「未来からやってきた。」」
えっ。と驚く。
「あってるかな?」
と紗理奈。
「え。なんで知って…。」
「この町はね、一五年に一度、未来から誰かがやってくるらしいの。」
僕の頭は混乱していく。
「私は白石紗理奈。十五歳、高校生。君は?」
「えーっと。名前ですよね。…分かりません。」
この町に来てから、僕は僕自身の名前を憶えていなかった。
「んーそっか。じゃあ歳は?」
「それも分かりません。」
それよりどういうことだ?
この町には十五年に一度未来から人がやってくるって。
聴きたいことは山ほどあるのに声に出ない。
「まあ分かった。じゃあ、君は何年からやってきたの?」
「えーっと確か。」
あれ、思い出せない。さっきまで頭の中にあったのに。
「すみません、忘れました。」
「全部忘れてるね。とりあえず、今日の寝床はこの家にしよう。」
「いや、あの。ちょっと待ってください。」
「どうした?」
「なんで、僕はここに来たんですか。しかも十五年に一度って。」
不思議すぎる。少しの説明で理解できるとは到底思わない。
そう思っていたところ。
「ただいまー。」
さっきの男性だ。
「お帰り、おじさん。」
「お、おじゃましてます。」
「いいよ、ここ俺の家じゃないし。それより。」
「そうね。いろいろ説明するわ。私たちから。」
説明を聞くこと数十分。
どうやら、おじさんこと白石武郎は白石紗理奈の叔父。
十五年に一度、というのは伝承の話。すなわち、昔はあったそうだ。
しかし、ここ六〇年、未来から人はやってきていなかったようだ。
代々、白石家に未来からの来客があることを伝承し続けていたそうだが、
六〇年間来ていなかったことから本当に僕みたいな人がいるとは思わなかったそうだ。
それでも、紗理奈は気づいた。
僕が未来からの旅人であることに。
「長い説明ごめんね。うちの代々伝わる話で。」
「いえ、でもなんとなく理解できました。」
「とりあえず、ご飯を食べよっか。おじさんはどうする?」
「俺は家で用意されていると思うからいいよ。この少年に話をしたかっただけだ。」
「分かった。それじゃまたね。」
「おう。」
踵を返して、おじさんは玄関に向かう。
これからどうなっていくのか。心配だ。




