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【百合】不登校の私がプリントを届けに来る学級委員に手玉に取られるはずがない  作者: マグローK


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8/11

第8話 止まない雨はなかったとしても

 翌日。そう、台風の日の翌日が来た。

 私は昨日という最悪な日を生き延びてしまったわけだ。

 1日も長く延命してしまった。


 そのせいで、世界がまるで昨日は何もなかったんですよ、とでも言うように明るく晴れ渡った空を見せつけてくる。そのくせ、偏頭痛はまだ続いている。ふざけるなと言ってやりたい。


 台風が全部洗い流してくれる、みたいな節を聞いたことがある。けれど、きっとそんなものは嘘っぱちだ。私の気持ちは一切さっぱりしていない。もやもやして、来てくれた横道さんに怒りをぶつけてしまいそうなほどだった。


 そう、今日は横道さんが来てくれた。昨日の分のプリントもまとめて持ってきてくれた。

 1日ぶりに会えて嬉しいはずなのに、昨日は来てくれなかった、というわがままな自分がいつもの調子を崩してくる。油断すれば、すぐに表へ出てきそうになる。


 大丈夫。でも、大丈夫だ。いつもやっていることをいつも通りやれている。


「これの続きってある?」


 最近横道さんが読み続けているマザコン主人公の表紙を見せられて、私は近くに用意しておいた次の巻を差し出した。


「あるよ。これ」


「ありがと」


「……ん」


 会話が続かない。


 いや、普段からこんなものだったような気もする。

 ただ、「うん」とか、「へー」とか、いつもより相槌がそっけなくなってしまっているような気がする。

 これじゃダメだと思う。思えば思うほど余計に口ごもってしまう。


 何も思い浮かばない。


 間が重たくなると、「昨日は来られなくてごめんね」なんて、何度目かの謝罪の言葉が飛んでくる。

 私が言わせてしまっているのに、「ううん、気にしないで」なんて偉そうに言うのだ。


 一度このキャッチボールをするたび、お互いの関係が希薄だったように感じられて、目の前にいるはずの横道さんとの距離が途方もなく広げられているような気がしてしまう。

 だから、何周読んだかわからない漫画に集中しているフリをして、ずっと、横道さんの顔を見ていた。


 ペラペラとめくり、絵やセリフを目で追っている。時折まばたきをすると長いまつ毛が揺れて、その姿に目が奪われる。今この瞬間、何を考えているのか知りたい。それが知れたらどれだけ素晴らしいだろうと思う。


 だけど、知りたくないこともある。

 昨日、横道さんは誰とどこでどんなふうに過ごしていたんだろうか。


 横道さんはキレイだ。今も見とれてしまうくらい。

 そんな横道さんだ。昨日は友だちと過ごしていると想像したけれど、もしかしたら、隣にいたのはひょっとしたらひょっとする相手かもしれない。


「彼氏……」


 その音が、その単語が悪意の塊のように感じられて、私は漫画を握る手に力が入るのを自覚した。

 いるかも知れない。いて当然だ。いないわけがない。


 こんな、私みたいな学校に来ていないよくわからない存在にさえ、こうして同じ時間を過ごしてくれる優しさをもっている。私が男だったら独占したくなる。今だってそうだ。


「えっ!?」とだいぶ遅れて横道さんが驚いたように跳ねて視線がかち合った。

 昨日、隣にいたかも知れないヒトが女の子から男の子の像に変わっただけなのに、唇とか、首とか、頬とか、胸、とか、どんなことをしていたのか、と考えが浮かぶたび勝手に怒りも込み上げてくる。


「横道さんって、彼氏、いそうだよね」


 文脈も何もない、自分でも驚くくらいに低く唸るような声が出た。

 どういう意味か、はぐらかすようなにやけ笑いで横道さんは頬をかき始めた。


「みんなそれ言うんだよね。なんでなんだろう」


「横道さんがキレイだからじゃない?」


「いや、わたしが!? ないないないないない、ないって」


 間髪入れずに返した言葉をものすごい勢いで否定された。


「モテるのはきっと桔梗ちゃんみたいな守ってあげたくなる子だよ」


 おや、と思ってしまった。急に心も体も重しを解放してもらえたような。

 褒められたからじゃない、可能性が見えたからだ。


 でも、確証じゃない。この先も確かめて明らかにしてしまえばいい。そう。明快になれば今の感情はきっと解決される。


 ただ、その逆の可能性もある。自分から始めた話なのに先を聞くのが怖くって心臓がやけに速くなる。


『付き合ってるんでしょ』

『彼氏はいるってこと?』


 口の中で言葉が詰まって音として出てこない。

 息が苦しい。

 知りたくない。真実を知ったら耐えられないかもしれない。


「い、いないの、彼氏……」


 かわいた口から発声できたかもわからない何かがウニョウニョっと微かに自分の耳から入ってきた気がした。

 うわずりそうになるのは必死に抑えられたと思う。

 じっと真っ直ぐ逃げないように横道さんの目を見る。


 横道さんはちょっとだけ恥ずかしそうに頬を赤くして「うん」と頷いた。


「そっかぁ、へぇ、そっかぁ。彼氏いないんだぁ、意外だなぁ」


「そこまで意外でもないでしょ? 見かけ通り真面目一辺倒なんだから」


「そんなことないのになぁ。ふーん、みんな見る目ないなぁ」


 横道さんの友だちには彼氏がいるのかもしれない。だから、いないことを気にしているようにも見えた。


 けれど、今度は私がニヤニヤしていて、安心して、馬鹿みたいに喜んでしまっている。

 別に横道さんに彼氏がいないからって、自分がどうこうというわけじゃない。それなのに、台風で会えなかったことが、どーでもよくなるくらい、私はなんだかスッとしていた。


「ね、この間みたいにゲームしようよ。いいでしょ?」


 今はまた横道さんに触れていたかった。


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