3話 告白
周りの人たちが怖かった、私の容姿を見た瞬間に石を投げられたり、差別的なことも言われた。
なんで魔族の血が入ってるという理由だけでこんな扱いを受けないといけないのか分からなかった。
「優しさを失わないで、弱っている人を助け、どんな人達とも仲良くする気持ちを失くさないで。その気持ちが何百回裏切られても...それが私の最後のお願いよ」
それが母の最期の言葉だった。
私はその言葉を信じて生きようとした、だが人に優しくされたことがない私がそんな気持ちを知る由もなかった、その日生きることすら必死な状況では無意味だった。
人生を諦めていた、そんな時一人の男が私の前に現れた。
名前をオアシス、自らを勇者だと名乗った。
「魔族が現れたって来てみたら女の子じゃないか、それにハーフか...寂しいもんだな戦争ってやつは、こんな子供すら満足に生きられない世の中になっちまって」
「お嬢ちゃん、名前はあるかな?」
「.......フレイヤ」
「フレイヤ、良い名前だな。よし!俺の所にくるかい?君と同じくらいの子供がいるんだが、これがまたやんちゃな奴らでな、上の奴は...」
聞いてもいないのに自分の子供や奥さんの話を延々と喋り続けてきた、とても羨ましく、眩しかった。
私は二つ返事で行くと答えた、他の人たちが受け入れてくれるのか不安だったが、それは杞憂だった。
オアシスの家には四人の子供がいた。
一番上がウル、二番目がトール、三番目がアーサー。
ウルは私と同じで孤児になっていた所を拾われたそうだ、トールは才能を見込まれスカウトされ、アーサーはオアシスの実子とのこと。
「話には聞いてたけど本当に目が赤い、魔族は夜目が効くそうだな、良い狩人になれるぞ!」
「魔族とのハーフ...今まで大変だったね、でも安心して、これからは僕たちが傍にいるから」
「すごい!奇麗な赤い目!それに尖った耳がとってもキュートでチャーミングだね!」
嬉しかった、今まで自分の出自を憎んできたが、そんなことを気にしない人たちに出会えたことが。
そして初めて他人からの優しさを知った、とても暖かかった。
彼らはオアシスの下で騎士になる修業をしていた。
400年近く続く戦争を終わらせる、私もその力になりたかった。
私を受け入れてくれた人たちを守れるくらい強く、母との約束を守れるくらい強くなろうと誓った。
彼らのお陰で騎士になることができた、『盾の騎士』それが私の称号だ。
仲間を守り、弱きを助け、強きをくじく盾であれ、私は誇らしくなった。
そんなある日アーサーに言われた。
「俺の背中を任せられるのはフレイヤだけだな!」
愛の告白をされた、戦争が続く世の中で常套句になっていた口説き文句である。
その時は返事を言えなかった、戦争が終わった暁には言おう、そう心に秘めて。
■
懐かしい夢だ、自分という存在を作った辛い過去と幸せだった過去。
目を覚ますと目の前で天使と悪魔が戦っていた、あぁ、私は死んだんだろう、幸せになるはずだった未来が見れなくて寂しいな、そう思っていたら聞き覚えのある声がした。
「フレイヤ!フレイヤ大丈夫か!」
テュール団長だった、そういえばこの人もミスティにやられたんだっけ。
「テュール団長もいるってことは、やっぱりここはあの世なんですね...」
「馬鹿!まだ生きてるよ!」
「え!?」
頬を抓ると痛みがあった、ということはここは現実だ。
そういえばミスティが言っていた
『見た目はハデですが、命に別状はないのでご安心下さい』
本当だったのか、だとしても何故...?
ということは...。
「ウル姉さん!トール兄さんやロキは!」
「無事だ、全員生きてる」
「良かった...それで、目の前で繰り広げられているあれはなんですか...?」
「あれは...アーサーとミスティが戦っている、それ以上は何も言えん、応援に行こうとも考えたが俺にはあの戦いに加わる事は不可能だ」
「だが分かる、あの戦いに勝った方がこの戦争の勝者だ」
歴戦の猛者であるテュール団長ですら、眼前で起こっている戦闘には加わることができない。
だが何故だろう、違和感がある。
「あの二人...楽しんでませんか?」
素手による殴り合い、壮絶なものであるが二人の顔には笑みが見えた。
「恐らく今まで自分と同等の強者がいなかったからだろうな...あいつらは生粋の武人だよ」
足が震える、団長ですら参戦することを戸惑うほどの戦い、自分が行ったところで足手まといになるだろう。
だが自分の使命は仲間を守ること、背中を任され、愛の告白をしてくれたアーサーを守らねば、そう思ったら震えは少しずつ収まってきた。
「団長、私は加勢に行ってきます。みんなのこと、お願いしますね」
「おい!お前が行ったところで!...なんでこうなるんだあの家は!オアシスか!?それともアーサーの影響か!?」
後ろで団長の怒鳴り声が聞こえる、戻ったら拳骨程度じゃ済まないだろうな。
でも自分が行かなければ、例え足手まといになるとわかってても、大切な人を守ると誓ったから。
■
嬉しかった、またみーちゃんと会えて、そして約束を果たすことができて。
でも痛いな流石に、加護を纏っているとはいえノーガードで殴り合ってるから流石にダメージが無いとは言い切れない。
かれこれ30分近く殴り合ってる、僕の方が手数が多いとはいえ一発の重さはみーちゃんの方が上だった。
「どうしたの!もう疲れちゃった?」
「全然!楽しくってドキドキしてるよ!」
まずいな、虚勢を張ってるのがバレたかもしれない、ここからはちょっとだけ趣向を変えてみようか。
腰の剣を投げ捨てた瞬間、彼女の右ストレートが僕に迫ってくる、僕はその手を掴み思いっきりぶん投げる、一本背負いだ!
「んなっ!」
虚を突かれた彼女は背中から地面に落ちる、その隙を見逃さずに追撃を仕掛ける。
ジャンプし空中からの攻撃、肘を相手の鳩尾に目掛けて振りぬく、昔よく見たプロレス技の一つ、エルボードロップ。
肘は確かに彼女の鳩尾を捉えた、しかし呻き声一つあげていない、ましてや全身から黒炎が巻き上がる。
「なるほどね...だったら!」
彼女は僕を殴り飛ばすとおもむろに指を鳴らした。
その音と共に地面から4本の柱、間にはロープが張られていた。
リングだ、リングが突如として現れた。
「リングを作れるだなんてすごい力だね!」
褒められた彼女は嬉しそうに腕組みし、胸を張っていた。
「私も結構力の特訓したんだからね、すごいでしょ?」
「さぁ、第二ラウンドの開始だよ」
どこからともなくゴングの音が聞こえた、と同時に彼女が突っ込んできた、L字に折りたたまれた大斧が喉元へと迫ってくる。
なんとかブリッジの体勢で躱すことに成功する、だがそこで終わりではなかった。
僕が体を起こした瞬間、背中に衝撃が走った。
(ドロップキック!?)
リングロープまで吹っ飛ばされ反動で空中に放り出される、そして目の前に満面の笑みを浮かべたミスティがいた。
体を掴まれ頭を両足で固定された、そのまま地面に落下する。
(パイルドライバー!やばい、死ぬ!)
地面に頭から突き刺さる、危なかった、首を鍛えていなければ即死していただろう。
ふらつきながらもなんとか直立しファイティングポーズをとる、目の前には仁王立ちする彼女の姿。
「あれを食らって立てるなんて、ちゃんと鍛えてたのね、凄いわ!」
「当り前じゃないか...君と楽しむためにね!」
光速タックルをしかける、何度繰り返したかは分からない、極限まで速さを突き詰めたそれは瞬きの瞬間に目標まで到達する、胴体にぶつかり勢いそのままリング端まで追い込む。
ここからの追い打ちは肘、肘を顎に目掛けて打ちまくる。
(ぐらついた!こっからは!)
彼女の体を掴み反対のロープへ振り、反動で返ってくる所、狙う場所は鳩尾、そこめがけ肘を打ち抜く。
体がくの字に折れた瞬間を見逃さない、両脇へ腕を通しリバースフルネルソンの体勢へ。
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
力の限り持ち上げ、そして落とす、変形型パワーボム、その名はタイガードライバー。
何故かカウントの音が何故か聞こえるがスルーしておこう。
カウント2で返される、まだまだ試合は始まったばかりだ、そうでなくちゃ困る。
起き上がりにラリアットを決めようとした、だがすんでのところで回避されてしまった。
ミスティのターンが始まる、気づいた時にはバックを取られていた。
その直後に見た光景は空だった、投げられていた、ジャーマンスープレックスだ。
地面に突き刺さり頭が揺れる、意識が飛びそうになるも、またもどこからかカウント音が聞こえてくる。
(まずい!フォールされてる!)
同じくカウント2で返すも体勢を整えた瞬間頭を脇に固められる。
(ヘッドロック!いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
頭を万力で締め上げられているようだ、このままだと1分も経たないうちに卵のように潰されてしまう。
「ふっふっふ、どう?ギブアップする?」
(んぁぁぁぁぁぁ!!こっから、こっからどうする、考えろ考えろ考えろ!!)
「......ぁ...ぃ」
「ん?なぁに?」
「愛してる」
「ふぇ?」
(緩んだ!この機を逃すか!)
両手を腰に回し足で踏ん張る、決めるときは一瞬、そのまま反り投げる。
なんとか危機的状況から脱出することには成功したが、フィニッシュまでは程遠い。
(もう一回タックルから状況を作る!流れは渡さない!)
そう思いタックルした、だが彼女も同時に前進していた。
到達地点がずれる、そこは硬い筋肉に覆われた部分ではなく胸部だった、つまりおっぱいだ。
「ぁん!」
彼女の嬌声が聞こえた、正直言おう、めっちゃ柔らかくて良い匂いがした。
「ち、ちが!これは不可抗力というか事故というか、男女で起こるハプニングというか」
次の瞬間僕の顔面を拳が捕らえていた、グーパンだ。
鼻血が垂れてくる、物理的な意味でも生理的な意味でも。
鼻血なんていつぶりだろうか...いやでも最近ウル姉さんを起こしに行ったとき裸で寝ててその時も出したんだっけ、あの人もう少しこうなんというか乙女の恥じらいを持ってほしいものだ、うん。
「ちょ!グーパンは反則でしょ!」
「うるさい!そういうのはTPOを弁えなさいよ!」
「え、弁えてたらいいの?」
「そういう意味じゃない!変態!」
こっちの世界に来てから禁欲的に生活しすぎていた弊害かもしれないが、耐性が無さ過ぎて困ってしまう、というか変態扱いされてしまい少し凹む。
「分かった、ごめん!続きをやろう、にしても楽しいね、君とこうやって出来ることが、本当に楽しいよ、夢みたいだ」
「言わなくてもそんなの分かってるわよ、まだまだ試したい技があるんだからへばらないでよ!」
「おっしゃあ!ドンとこい!」
そこからは体と体、技と技とのぶつかり合い。
いつの間にか戦場の兵士たちは戦いを忘れ、中心で行われている勇者と姫の戦いに目を向けていた。
目の前で繰り広げられる非合理的な技の応酬、だがそれには目を奪われる何かがあった。
自然と声が上がっていた、自国の英雄を称賛する声、他国の英雄を非難する声、その声を受けるたび戦いは激しさを増していった。
■
フレイヤが到着すると二人を中心とした兵士の大群がいた。
「なによこれ...」
中心の二人は満身創痍だった、肩で息をし体には打撲痕と流血もある。
しかし目は死んでいなかった、命尽き、死ぬまで戦う気概を感じさせた。
群衆を掻き分けリングへ向かう、自身が力不足なことも分かっている、だが体は中心へ向かっていた。
向かっている途中、ミスティの大斧がアーサー目掛け放たれていた。
(間に合わない!お願い、私に力を!兄さんを守る力を!)
「兄さん!」
突如、アーサーとミスティの間に生まれた光が盾を形成し、攻撃を防いだ。
困惑する二人、だが力を行使した者にはすぐに分かった。
『盾の加護』持っていることは分かっていたが、力の発現までには至らずにいた。
対象を守る絶対防御の盾、発動条件は守るという意志の強さ。
今までは心のどこかに甘えがあったのかもしれない、優秀な姉兄弟がいるからという甘えが。
そして劣等感を抱いていたのかもしれない、だが今はアーサーの背を守る力を手に入れた。
リングの中、二人の間に降り立ち名乗りを上げる。
「『盾の騎士』フレイヤ!勇者アーサーの背を預けられし者!」
「お待たせ、兄さん」
ミスティの目の前に現れた少女、先ほどまで相手をし羽虫の如く追い払った人物、しかし決定的に違うものがあった、その目には覚悟と強い意志が見えた。
戦場が人を進化させたのだ。
「先ほどの子猫が虎になりましたか...」
「それにしても、あなたはアーサー殿の妹君でしたのね」
アーサーも驚きが隠せなかった、加護の発現に至らず、騎士たちの中でも肩身の狭い思いをしていた彼女。だが今、その背中は騎士と呼ぶにふさわしいほど堂々としたものだったからだ。
「フレイヤ!ついに加護を発現させることが出来たんだな!」
「うん、これで私も胸を張って言える!」
フレイヤは首をアーサーの方へ向ける、アーサーの方は何を言ってくれるのかワクワクしていた、騎士としてこの戦いを終わらせると宣言してくれると思っていた、が。
「お兄ちゃん、この戦争を終わらせて結婚しよう!」
「「え?」」
戦場に沈黙が流れる、呆気にとられる二人と周囲の兵士たち。
突如ミスティの体から黒炎が吹き上がる、目の前に現れた小娘に何と言ったのか問いただしていた。
「ん?聞き間違いかな?兄妹なんだよね?結婚する?冗談だよね?」
ミスティの放つ圧に敵味方構わず兵士たちが失神し始める。
フレイヤは胸を張り事の経緯を堂々と語りだす。
「私は拾われの身だからお兄ちゃんとは血が繋がっていないの、そして昔私に言ってくれたの『背中を預けるのはお前しかいない』って」
「それに開戦前に戦争が終わったら結婚するって、だよね!お兄ちゃん!」
無邪気に確認を取ってくるフレイヤ、目の前に居る姫の地雷を踏みぬいたことも知らずに。
「それは事実なの?アーサー君?」
「ま、まぁ言ったけど...」
そう答えるとミスティの顔が曇りだした。
あれ?何かまずいことだったのか?ただの戦友として信頼の意味を込めて言ったんだが...。
「『背中を預けるのはお前しかいない』それはこの世界においての愛の告白と同義」
「そうなんだ、やっぱり私なんて...私なんていらなかったんだ...」
......え?そうなの?だとしたら僕はとんでもないことを言ってしまったことになる、釈明しなければ!
「いや、ちが!ちょっと話を!」
だが遅かった、彼女の耳には僕の言葉はもう届いていなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
慟哭にも似た咆哮が戦場に轟く、彼女の視線は地面に伏していた黒竜へと向けられていた。
「ブラックキング!来なさい!」
三つ首の黒竜が起き上がりミスティと共に闇に飲まれる。
戦場に雷と嵐が吹きすさび、闇の裂け目からそれは現れた。
1体の黒竜、その容姿は先ほどとは比較にならないほど邪悪になっていた。
体躯はさらに巨大に、3本の尾、4本の足、三つ首から生える角と羽はより禍々しく巨大になっていた。
昔見た特撮映画の怪獣が目の前に居た、だが興奮よりも不安と焦りが大きかった。
(おいおいなんだよこれ、本当に怪獣になっちゃったんだけど!?)
「グラァァァァァァァァァァァ!!!!!」
咆哮の後、黒竜の頭部にエネルギーが集中しているのが見えた、全身がSOSを発し始める。
(まずい!このままだとここにいる全ての人が死ぬ!)
(全員を守る方法、これしかない!)
「フレイヤ!俺の力を貸す!だからこの戦場にいる全ての人を守ってくれ!」
「全員!?魔族も!?」
「当り前だ!弱きを守るのが騎士だ、そこに種族なんて関係ない!だから頼む!」
「分かった!分かったわよ!でもまだ力の制御が...」
フレイヤの肩に手を乗せる、『陽光の加護』の力の一つ、他者の加護の強化。
闇に対抗する光が二人を包み込む。
(す、すごい!これなら!)
フレイヤの加護が発動すると同時に黒竜からブレスが放たれる。
戦場を黒炎が覆った、落ちている骨や武具が塵芥と化し、地獄が広がっていく。
■
「団長!我々もアーサーの加勢に向かいます!」
テュールに進言するウル、トール、ロキ、そう言うと三人の顔面に拳がめりこんでいた。
「馬鹿共!お前たちではアーサーの足手纏いにしかならん!お前たちをカバーするせいでアーサーのリズムが崩れたらどうするつもりだ!」
「あいつの強さはお前たちが1番知っているはずだ、だから信じて待ってろ、仲間だろ?」
団長は過去にサクセションと決闘中、味方の援護を受けた。
だがその味方が穴になってしまった、片腕を失うハメになった。
苦い過去を持つテュールの言葉、アーサーもそのような事態に陥る可能性がある。
アーサーは強い、三人、ましてや騎士全員と対峙しても勝てるほどの傑物。
だがミスティもアーサーと並び立つほどに規格外なのは、この場にいる全員が骨身にしみていることは分かっている。
アーサーが敗北する姿など想像ができない、勇者として他の模範であり続け、弱いところを見せなかった。
だが一度折れてしまえば二度と立ち直れないのではないか、そう思う事は時々あった。
(団長の言うことは分かる、分かるが...)
(アーサーを助けに行きたい、行かなきゃ後悔しそうだ)
(どうする?団長ぶっ倒してでも行く?)
((無理に決まってるだろ!!))
力づくで行こうにも目の前に立つは人間族での序列2位の男、三人で戦ったとしても勝てるかは分からない。
物騒な話をしている最中、一人の人物が混ざりこんできた。
「テュール、そいつらを行かせてやってくれないか?」
その人物の名はオアシス、元勇者にしてテュールと同等の実力の持ち主にして幼馴染、その人だった。
「オアシス!引退したお前が何を出しゃばりに来やがった!」
「うるせぇ!芋野郎は黙ってろ!」
「なんだと!?元はと言えばお前がアーサーに勇者を譲って引退宣言なぞするからこんな事態に!」
「はいはい俺が悪ぅございました!おい、三人ともよく聞いてくれ」
育ての父であるオアシス、その言葉に三人は耳を傾ける。
「ついさっきだ、アーサーがな...弱音を吐いてたんだ。」
「勝てそうにないとかそんなんじゃないんだが、あんなアーサーを見るのは初めてだ」
「だからな、助けてやって欲しい、あいつの願いを、約束を果たすためにもな」
父の口から明かされたアーサーの一面、それだけでも助けに行かなければならない意味が出来た。
姉として兄として弟として、今までずっと助けてくれたアーサーを助けるため。
「分かった、行ってくる」
「分かりました、必ずアーサーを助けます」
「了解!行ってきます!」
そう言うと三人は駆けだしていた、後ろでオアシスとテュールの低レベルな喧嘩が行われているとも知らずに。
■
黒竜は雄たけびを上げていた、この戦場から始まり世界を滅ぼさんとしていた。
手始めにこの場にいる生物全てを消そうとした、ヴァルハラ平原が焦土と化す一撃を放った。
だがそれは出来なかった、炎が駆け抜けた戦場にも関わらず、その場にいる全員が無傷だったのだ。
「間一髪!フレイヤ、大丈夫か!」
「な...なんとか...!」
気丈に振舞っているも先ほどの力の行使により目に見えて弱っていた。
(まずいぞ、もう一発やられたら今度は防ぎきれない)
アーサーが打開策を考えていたが黒竜は待ってくれない、目の前には鋭い爪が迫っていた。
受け止めようにも後ろにはフレイヤがいた、はじき返すために加護の力を使おうとするも先ほどの影響で上手く力が使えなかった。
(まずい!)
防御の姿勢を取ろうとしたその時、目の前に大柄な男が現れた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男の戦槌と爪がぶつかりあう、勝者は戦槌だった。
アーサーはその男を知っていた、道行く者の障害を払い、希望を与える者、トールだった。
「アーサー、フレイヤ、遅れてすまないな」
「フレ姉加護発動出来たじゃん!僕らも助かったよ、ありがと」
そしてもう二人、ウル、ロキ。
この場にオアシス家の兄弟姉妹全員揃い踏みとなった。
.....なぜか三人の顔には大きな腫れが見えるが。
「ありがとうみんな......ちなみにその顔の腫れは?」
「「「テュール団長に殴られた」」」
恐らく危険だから止められたんだろう。
まぁ無視してきたから殴られたんだろうが、だが今はその助力がありがたい。
「みんな、あれは深淵の姫と黒竜が合体した姿、あれを止めなきゃ世界がまずい」
「なんとしても止めるよ」
全員の顔が引き締まった、自分たちの肩に世界の重さを認識させられる。
「まずは動きを止める、力を貸すから超特大の将軍を出してくれ、ロキ」
「分かった、でも長時間は持たないからね」
「姉さんたちは隙を見て罠を準備をして欲しい、誘導は俺がやる」
「あぁ、それとほら、お前の剣だ、もう落とすなよ」
「了解、アーサーも気を付けて」
剣を受け取りつつ満身創痍の妹に作戦を伝える。
「フレイヤ、みんなが危ないと思ったら助けてやって欲しい、でも無理はするなよ?」
「分かりました、でも約束はできませんよ?無理しない方は」
強がるフレイヤの発言に四人で苦笑する、最後の戦いが始まる。
■
ロキの肩に手を乗せるアーサー、召喚するのはフェンリルを倒した英雄緑ずきん将軍。
通常であれば人間と変わらないサイズだがアーサーの力によって出現したものは黒竜に匹敵するものとなっていた。
右手に構えたナイフで巧みに黒竜を翻弄するが緑ずきんも同じく3本の頭部に手を焼いていた。
「まだ話は終わってないんだ、最後まで聞いてもらわなくちゃ困るよ、みーちゃん!」
アーサーは剣を抜く、しかしその刀身は木製だった。
自身の目的は戦争を終結させること、そこに至る道のりではいかなる殺しも行わない、それがアーサーがこの世界に来て誓ったことの一つ。
甘ちゃんだと言われようが関係ない、目的を達成させるために今日まで修業を重ねてきた。
将軍に気を取られている隙に黒竜の懐へ飛び込む、木剣へ加護の力を集中させ、思い切り振りぬく。
放った一撃は黒竜の体を大きくグラつかせる、戦場に黒竜の悲鳴が鳴り響く。
(この調子で罠が出来るまで持ちこたえれば...)
1本の頭部がアーサーに嚙みつかんと牙を剝く。
なんとか防御することが出来たが残りの2本がアーサーへと向かってきていた。
(しまっ...)
次の瞬間、アーサーの周囲に光が集まり盾を形成する、『盾の加護』だった。
「兄さんの背中は...任されてるからね...」
そのままフレイヤは地面に突っ伏した、限界を迎え仲間に未来を託すかのように。
「アーサー!準備出来たぞ!」
トールの力によって出来た大穴にウルの力によって張り巡らされた罠がそこにあった。
「ごめん、兄さん...僕もう...無理」
力尽きたロキと共に緑ずきんも消滅した。
残る全ての力を使い黒竜を罠へと叩き込もうとする。
だがあと少しが届かない、トールとウルも加勢に来るがあと1歩が届かない。
(あともう一押し!ここで嵌めなきゃまずい!)
黒竜が押し返してくる、万事休すか、その時だった。
「引退撤回だ!助けに来たぞ!」
「お前の無茶はもうこれっきりだからな!終わらせるぞ!」
「父さん!団長!」
オアシスとテュールが加勢に来た。
二人とも顔が腫れている、仲が良いんだか悪いんだかあの人たちは...でも最高にかっこいい。
流れがもう一度アーサー達に向き始めた。
「合わせろ!テュール!」
「こっちの台詞だ馬鹿野郎!」
二人の攻撃が黒竜の足を直撃し体を傾かせた、その瞬間をアーサーは待っていた。
身に纏う加護を全開にし、黒竜へ叩き込む。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
胴を捉えた、宙に浮いた黒竜の巨体が罠へと落ちていく。
「グラァァァァァァァァァァ!!!!」
罠に落ち暴れる黒竜、全身を拘束されようと諦めてはいなかった、口元にエネルギーが集中する。
狙いはアーサーへと向けられていた。
「ようやく見えたぞ!アーサー、奴の弱点は頭部だ!お前に全てがかかってる、いけ!」
ウルによって見つけられた弱点、ここで全てを出し切る、出し切って終わらせる。
永遠にも感じたこの時間が終わりの時を迎えたのだった。
「これで!喧嘩は!終わりだぁぁぁぁぁ!!!」
アーサーの攻撃と黒竜の攻撃がぶつかり合い、眩い光が戦場を包み込む。
■
初めての印象はおとなしい子だった、物静かで毎日俯き死を待つばかりの悲しそうな子。
だけど彼は私の話を真面目に聞いてくれた、静かに、時々頷きながら。
そんな彼が私に聞いてきた。
『どうしてそんなに元気なの?』
どうしてと聞かれても私には当たり前のことだった、当然のことを答えただけだった。
すると彼はこう言ってくれた。
『そうなんだ、かっこいいね』
その時初めて彼の笑顔が見れた、笑いなれてない不器用な笑顔、それがとても奇麗だった。
それから彼はよく笑うようになった、私はその笑顔を守るために彼の前で気丈に振る舞い続けた。
一度だけ弱音を吐いてしまったことがある、結婚したい、叶わぬ願いを口にしてしまった。
『もし来世があるんだったら、僕と結婚してくれますか?』
その時の真剣な顔に惚れてしまった、そしてOKした。
約束を交わしてすぐに私は死んでしまった、でもまた巡り合うことが出来た。
別の世界で勇者とお姫様に転生させてもらう事にもなった、まぁ敵同士だったけど。
そして期待に胸を膨らませ再会の約束をし別れを告げた、不安なんて無かった。
この世界に転生した時は物珍しさに目を輝かせていた、物語で観たファンタジーの世界。
私には角と尻尾が生えていた、幼少期の頃は小さく可愛らしいものだった、しかしある時期から急激に体が大きくなりそれとともに角と尻尾も大きくなり始めたのだ。
15歳を迎えた頃には自身の容姿はもはや怪物と成り果てていた。
私の不安が増す度に魔族の人たちは私を恐怖し崇拝するようになった。
そして周りの人たちは私から少しずつ距離を取るようになった、私は神でも悪魔でもなんでもないのに。
残ってくれたのはルナシーだけだった、だがそんな彼女もどこか余所余所しい。
いつからだろう、笑わなくなったのは、不安で不安で堪らなくなり始めたのは。
今の私を彼が見たらどう思うだろうか、本当に結婚してくれるだろうか、本当に好きになってくれるだろうか。
もしかしたら約束を覚えていないのかもしれない、もしかしたら私よりもいい人と出会い結婚しているのかもしれない、毎日泣きそうだった。
心の底にある闇はより深まっていった、それに伴って加護の力が抑えられなくなっていた。
体から溢れる闇が他者を恐怖させ威圧してしまう、私は迷惑をかけないよう引きこもるようになった。
そんな私を家族は気遣い、甘やかしてくれた、だが心の内まで読み取ってくれる人はいなかった。一歩引いたその姿勢は私に疎外感を与えた、もしかした嫌われているのではないかとも。
そうしていたら開戦が迫ってきた、私も戦場に向かうと伝えたがお前の身が心配だと拒否された。
私はもうこの世界に必要が無いのかもしれない、だが開戦直後に一報が入った。
勇者アーサーが、転生した彼が私を探してくれていたのだ。
私を求めてくれている人がまだいたことが嬉しかった。
20年もの間にどんな成長を遂げているのか一目見たい。
そして結婚したい、彼が良ければ、今の私を受け入れてくれれば。
もし拒否されたらその時は...私は精一杯暴れよう、生きていても仕方ない、彼に倒されよう。
久々に会った彼はとてもたくましく、カッコよくなっていた、一目惚れしてしまった。
そして彼は再開時の約束を覚えていてくれた、楽しかった、この20年で溜まりに溜まった闇が少しだけだが晴れた気がした。
しかし直ぐに真っ黒に染まりだした、彼が愛の告白をした女性が現れたのだ、奇麗で美人な、私みたいに醜くない女性が。
やっぱりいらなかったんだ、彼はきっと別れを告げようと私を呼んだんだ、だったら彼に倒されよう。
続々と彼の仲間が現れだした、羨ましい、共に戦場で戦ってくれる仲間が。
醜い、妬ましいと思う自分が、こんな世界に転生しなければ、こんな世界無くなればと思う自分が。
■
アーサーは目を覚ますと見覚えのある場所にいた、この世界に転生する際、神様と出会った場所。
そこにはもう一人の人物がいた。
「みーちゃん」
ミスティは床にうずくまっていた。
「........」
返事は無かった、でもようやく腰を据えて話すことが出来る、自分の今までを話そう。
「僕さ、この世界に転生してすごく良かったと思ってるんだ。前世ではさ、何も出来なかったからこの世界では頑張ろうって、再会した時に笑われないように毎日トレーニングに励んでさ。」
「血の繋がりは無いけど、兄弟もいてさ、みんな良い奴なんだ」
「仲間であり友達とも呼べる存在がたくさんできたんだ。前世では友達って呼べる人は君くらいだったから嬉しかったよ...あぁ!でも君の事を忘れた日は一日たりとも無いからね!」
「毎日君に会いたいと思いながら頑張ってたんだ、そしていつの間にか『勇者』って呼ばれるようになって...嬉しいけど、ちょっとむず痒かったなぁ」
「でもね、『勇者』と呼ばれるってことは他者の模範になれってことだったんだ、その頃かな、毎日口調を矯正したりマナーや行動にも逐一注意するようになり始めたのは」
「虚勢を張って無理をして、弱音も一切吐かないよう気を付けてさ、『勇者』を演じてたんだ。」
「ここだけの秘密にしてよ?......辛かったんだ」
「でも今日君に出会えて報われたんだ、僕の20年は無駄じゃ無かった、頑張ってきて良かったって」
「フレイヤの件はさ、僕の不注意なんだ、知らなかったで許されるとは思わないけど僕が結婚したいと思う相手は君なんだ、君じゃなければ嫌なんだ」
この20年間の心情を吐露した、思えば長いようで短い20年、僕を僕たらしめる20年。
言い終わったら彼女の尻尾が僕の腕に絡みついてきた。
「私さ、お姫様になれるって聞いた時嬉しかったんだ、可愛いお洋服着て、おしゃれして、皆が羨む女の子になろうとしたんだ」
「でもね、ある時期から魔族の部分が強くなって、体も大きくなって...女の子とは呼べないくらいに」
「可愛いとは程遠い、醜い怪物になったんだ」
再確認の意味を込めてミスティは口を開く。
「...あっくんはさ、こんな私でも結婚したいって思えるの?」
腕に巻き付く尻尾が震えている、魔族に生まれ変わった彼女の事を慮ればどれ程の苦痛を味わっていたのだろうか。
拒否されることを恐れているのだろう、だけどそんなことで僕の気持ちは変わらない、変わりたくない。
「当り前さ!どんなに変わっててもみーちゃんはみーちゃんだからね、あぁでも変わってない部分もあるよ!右目の泣きボクロだったり鎖骨にあるホクロの位置とか」
「なんでそんなこと覚えてるのよ...」
「うっ!...なんか変態っぽくなっちゃったね、ごめん。でも久しぶりに嗅いだ君の匂いも変わってなかったよ、大好きで安心する匂い」
そう言うと頭をこつんと叩かれた。
「それ以上言わないで...恥ずかしいよ...」
照れている彼女が愛おしい、こうなったらこっちも全てをさらけ出すしかない。
「それとさ、こっちの世界のその姿にも一目惚れしちゃったんだ」
「.........なんで?」
うっ!ちょっと引いてる...ええい、ままよ!
「それはその...君が亡くなって直ぐにさ眠れない日があったんだ」
「深夜に見たアニメでさ登場してた女の子が丁度君みたいな姿で...好きになっちゃった」
「ふふっ、なによそれ、変な話」
「変じゃないさ!こっちに生まれ変わってさ、魔族の人たちには人間にはない特徴があるって聞いた時には心躍ったよ!みーちゃんはどんな姿になってるんだろうってずっと楽しみにしてたんだ」
「そして出会った瞬間目を奪われたね!え?マジ?超可愛いし奇麗だしカッコいいし、僕の婚約者はこの人です!ってみんなに叫びたかったもん」
「馬鹿!何言ってんのよ!」
ようやく昔懐かしいみーちゃんに戻ってくれた気がする、僕は彼女の涙を拭い思いを伝える。
手を握り、彼女の両の目を真っすぐに見つめて。
「だからさ、君じゃなきゃ...いや、あなたでなければ嫌なんです、あなたでなければ駄目なんです。」
「似たような人でも、代わりの人でもなくて、どうしてもあなたにいてほしいんだ、僕の隣に」
前世の父が好きだった曲。
その真っすぐで実直な歌詞が大好きなラブソング。
「私も...久しぶりに再会した君に一目惚れしちゃったの、でも、拒絶されるのが怖くて...こんな私を好きって言ってくれるか不安でぇ...」
涙で顔はぐしゃぐしゃになり、嗚咽しながらも自分の口で、20年の思いを口にする。
「私も...あなたじゃなきゃ嫌!絶対に!私の世界に...あなたがいないことが嫌なの!だから、私の隣にずっといて!」
「もちろん、生まれ変わってもずっと一緒さ」
自然と唇が重なっていた、ようやく、ようやく約束を果たすことが出来た、ありがとう神様。
あなたでなければ、この曲ベースでこの話を作りました。胸に響くドストレートな歌詞が大好きです。




