表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Have a break? ― ヒーロー店主とヴィランメイド ―  作者: 藍色 紺
■第一章 ブレンド・オブ・トーキョー ― 混ざる
3/6

□ 第3話 かわいいって言われた日

ヒーローの店で、女王様は鏡とにらめっこしていた。


「どうしよ?」


 由依の手には、メイド服が握られている。

 喫茶まきの更衣室に入ってから、何度も着ようとして、やめて――また手に取った。


「……やっぱ、やりすぎ?」


 黒いワンピースをそっと被る。膝が隠れているのを確認して、胸をなでおろす。

 鏡に映る自分と、しばし見つめ合った。


「うん、ミニじゃないし。いいよね?」


 襟もしっかりしてる。清楚。――多分。


 ためらいながら白いフリルのエプロンを身につける。

 一回転すると、スカートとエプロンがふわりと広がり、動きに遅れてついてきた。


「やば、かわい〜」


 思わず口元がほころぶ。

 勢いのままフリルのカチューシャをつけたら、鏡の中に“本格的メイドさん”が完成していた。


「ちょっと、派手かな?」


 少し頬が熱くなる。

 けれど次の瞬間、由依は顔を上げた。


「――いや、いける!」


 調子に乗って指でハートマークを作れば、さらに気分が高揚した。

 これなら、あの子達もあたしって気づかないかも。


 由依は、高校の入学式に見送ってくれた子分達の顔を思い浮かべた。


 女王様姿と制服姿のギャップに、最初は戸惑い、稼業が嫌になったのかと嘆かれた。

 ようやく慣れてくれたのは――高校三年になった最近だ。


 女王様としての自分に不満があるわけじゃない。

 “普通にかわいいこと”がしてみたい。


 だから、アルバイトはナイショ。

 今しかできないもん。


 エプロンのリボンをキュッと締めて、背筋をすっと伸ばした。――舞台の幕が上がるみたいに、店に出る。


店主(マスター)、この制服どうですか?」


 店主は由依を見て固まった。三白眼だけが由依の足から頭まで動き、最後は両手で目を覆った。

 耳まで真っ赤だ。


 見るに耐えないってこと?


 自分ではかわいいと思っていたけど、そもそも女王様とメイドじゃテイストが違いすぎる。

 無理があった。

 思い切る方向を間違えた。


「ごめんなさい。やりすぎ……ですよね」


「いやいやいやいや! そんな事はないよ!」


 固まっていた店主が、両手を高速で振り始めた。


「ご迷惑をかけるわけにはいきません」


 エプロンのリボンを解く。


「待った!」


 キョドっている店主が突然精悍な声を出した。


 あたしが動きを止めちゃうなんて……、ブレイカーみたい。


 腑抜けていたはずの、店主の顔がキリリッと引き締まっている。


 えっ!?


「想像以上に可愛いくて驚いた。よく似合ってるよ」


 ええっ!?

 かわいい? 今かわいいって言った?


 胸の奥で何かが跳ねた。


 “怖い”“すごい”“姐さん”――いつも言われてきた言葉じゃない。

 “かわいい”なんて、一度も。


 その一言が、嘘みたいにまっすぐ刺さった。


 揃って耳まで真っ赤だ。


 先に動いたのは、七里だった。背を向けてカウンターに入っていく。

 ウィンドウチャイムが鳴り、来客を知らせた。



■━━━□



「休憩入ってね。コーヒー何がいい?」


 ちょうど客が途切れたタイミングだ。


「ブラジルをお願いします」


 店主は豆を挽き、サイフォンにフィルターをセットした。大きな身体でのそのそ歩く姿がパンダみたいなのに、コーヒーを淹れる動きは流れるようにスムーズだ。


「疲れたでしょ」


「わからないことだらけで、クビかもって心配してます」


 店主は言葉の意味を確かめるように間を置き、微かに笑った。


「うちはコーヒーの種類が多いからね。味見しながら覚えればいいよ」


 ブラジルがカウンターに置かれる。

 座ると、脚にズキンと鈍痛が走った。


 ――立ちっぱなしのせい? ……いや、たぶんブレイカーのキックのせいもある。


 カップを口元に運ぶと、痛みがすうっと遠のいた。


「これが六百円……」


 初めて覚えたメニューがブラジルだ。

 店で一番高いのに、一番人気なのが不思議だった。

 なにしろ、缶コーヒーより断然高いし、フラペチーノより量が少ない。


「まかないだから、お代は気にしなくていいよ」


 過去イチ美味しいコーヒーが無料で飲めて、メイド服も着られる。


 ――最高じゃん。


「……ウソ本当ゲームをしよう」


「ゲーム?」


「自分のことを四つ紙に書く。でも、一つだけはウソで、当てっこする」


 警戒レベルがギュイイッンと上がる。


 まさか、あたしがブラックサイクロンの女王様って……バレてる?


「仲良くなるのにいいゲーム、らしい。六つ目の会社の研修でやって……」


 ぼそぼそと説明する店主を、由依は半目で見た。


 六つ目? そんなのウソに決まってる。……裏を掻いてる可能性もあるけど。


「わぁ。やってみたいです」


 疑ってなお、笑ってみせた。


 いいわ。黒か白かハッキリさせようじゃない?


 オーダー表に三つの真実と一つのウソを書いて交換する。

 店主の僧帽筋が盛り上がるのを由依は見逃さない。


・サバイバルアクションゲームが好き。

・総合格闘技ゴールデンジムに通っている。

・アルバイト募集に気付いたのは、建物名「ヴィラまき」を「ヴィランまき」と読み間違えたから。

・バンジージャンプがしてみたい。


 さぁ、どれがウソかしら?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4hpx6wbp4e8w702q8dgdi8orlgac_b94_1cz_1xn_h1dn.jpg
ご来店ありがとうございます。
本日のコーヒーはいかがでしたか?☕

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
『喫茶まき』のシーンが、あなたのひと息になるよう、更新していきます!


〇 七里と由依のSNS・更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ ✐喫茶まきの一言帳(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
マスターが静かに喜びます☺️


本日もご来店、ありがとうございました。
またのご来店をお待ちしております☕
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ