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Have a break? ― ヒーロー店主とヴィランメイド ―  作者: 藍色 紺
■第一章 ブレンド・オブ・トーキョー ― 混ざる
1/6

■ 第1話 ヴィラン明け、喫茶まき開店

 正義を信じるのに、もう疲れた。


 白いヘルメットに白いマント、正義のヒーローは、溜息をついた。


 街を壊すたびに拍手を貰える。

 目指す正義と、しでかした惨状の折り合いがつかない。

 それでも誰かが「助けて」と叫べば、愛車を駆ってしまうのだ。




 夜十一時、新月の今夜、本来なら夜空は漆黒の闇に包まれているはずの時間。

 しかし、不夜城新宿だけは違う。


  ネオンに照らされる新宿歌舞伎町に轟音と煙が立った。

 それまで酒と喧騒に酔っていた道行く人々が、一斉に煙の方向を確かめるや否や、悲鳴を上げた。


「オーッホッホ!」


 拡声器でも使っているのか、女の高笑いが高層ビルに反響する。

 と、同時にどこからか全身黒づくめの男達が建物の影から出てきた。


 レスラーの覆面マスクを被った男達は、一歩二歩と後退する人々に目をやる。

 獲物を見定める黒ヒョウたちのようだ。


「あんたたち、狩りの時間よ!」


 女の声を合図に、黒レスラーが人々を追いかけ始め、人々は逃げ出す。


 ヒールを履いた女が男に追い抜かれ、若者が年配者を突き飛ばす。

 通りにある数多の店は、慌ててシャッターを下ろし、近くにいた通行人の内、素早い者だけが滑り込んだ。


「人狩りだ!」


 パニックの群衆は新宿駅前通りに合流し、さらに大きな集団と化した。

 サイレンが鳴り響く。


 黒いレスラーマスクの一団――“ブラックサイクロン”。


 数年前から東京を恐怖に陥れている犯罪集団だ。

 その目的はわからない。


 ただ、嵐のように現れては人を襲い、黒いマスクを無理やり被らせる。

 被害者は苦しさのためか、もがき苦しみ意識を失うが、目を覚ますと黒レスラー化している。

 そして、新しく人を襲う。まさに、狩りそのものだ。


「どうして……、どうしてこんなこと……」


 足をくじいたのか、アスファルトに座り込んだ女は、震えながら後方を振り返った。

 その顔に、黒レスラーの影が落ちる。手にはレスラーマスク。


「いやぁ!!」


 そのとき――


「お嬢さん、ほら立って」


 女に手を差し伸べる者がいた。ライダースーツに不釣り合いな白いマントが女王様の衝撃波にたなびく。


「あ、あなたは……」


「ブレイカーが来てくれた!」


 その声と同時に、通りの大型ビジョンが切り替わる。

 画面に映ったのは白マントの男。そこにかぶさる声。


「おっとォ! みんな待ってましたァ! 我らがブレイカー、颯爽と参上だぁぁ!」


「さぁ皆さん!お待ちかね、壊し屋ブレイカーが今夜もご登場だ!」

(キタコレ!)(待ってたw)(でも何か壊すんでしょ)


 大型ビジョンにアップになったブレイカーと呼ばれた白いマントの男のヘルメットに、視聴者のコメントが右から左へと流れていく。


 街の雰囲気が一変した。

 立ち止まってスマホを構える者、大型ビジョンを見上げる者さえいる。


 ブレイカーが、倒したばかりの黒レスラーの足首を掴み、軽々と振り回す。風圧で看板がきしむ。

 手を放し、人々を襲っていた他の黒レスラー達をまとめて倒した。

 勢い余って、信号機がなぎ倒された。


「いやぁ〜今日も絶好調! 救うついでにインフラもブレイク! これが正義のバランス感覚だ!」

(また壊したww)(今月の破壊数更新)(23!)


 同じ数字が大型ビジョンを埋め尽くす。


 実況とコメントが飛び交う大型ビジョンを背後に、女王様が姿を現した。

 尻がやっと隠れる切れ込みのボンテージに網タイツ、十センチメートルはゆうにあるピンヒール。


「もったいないわ、力で潰すなんて——私の遊びはこう、ゆっくりほぐすのよ」


 手に持った鞭が唸り、大型ビジョンが破壊される。

 ドット欠けになった画面に、コメントが流れていく。


「女王様はお怒りだぁ!」


 大型ビジョンが、対角線で三角に分かれる。

 右では黒覆面の女王様が見下ろし、左では白いヘルメットのブレイカーが見上げる。

 真ん中にvs.!の文字が効果音と共に現れた。


「いつだって俺は仔猫ちゃんの“おいた”を止めに来るさ」


 ヘルメット越しにブラックサイクロンの女王様に投げキッスを送る。

 女王様はそれを鞭で弾き飛ばした。


「おいた? これは“革命”よ。渦巻く欲望、解き放ちなさいな」


 打擲音を皮切りに、ブレイカーに黒レスラー達が群がる。


「今宵のブレイカーも臭い! 臭すぎる! それが正義のヒーローが言うことでしょうか。残念!」

(仔猫ちゃん言うなw)(女王様だろ)(www)


 ブレイカーに黒レスラー達が群がるが、優勢なのは数だけだ。

 それまで人々を襲っていた黒レスラー達が、まるで紙屑のようにちぎっては投げられる。


「おっとォ! 黒レスラー軍団、紙吹雪状態だぁ! これが正義の名のもとに行われる解体ショー!」

(もはや撤去業者)(看板まで飛んでるw)


 ブレイカーが黒レスラーの一人を投げ飛ばし、その勢いのまま女王様の足元に叩きつける。

 いつの間にか間合いを詰めたブレイカーが、女王様へと突っ込む。

 腹の底に響く稲妻のような音がした。


「これは強烈! 今日の被害スポンサーは、ディスカウントショップのペンギンさんだ! いやぁ~、これで明日の売り上げは倍増確定でしょうねぇ!」

(守るたびに何か壊す男)(壊されて宣伝になるとか新☆感☆覚)(“ブレイブバイカー”じゃなくて“ブレイカー”なの草)


「……毎度思いますが、これ、笑っていいのか悩みます。いや、私も飯の種なんですけど!」

(ちょ、急に現実的w)(ニュースマンしんみりすんな)


 白煙の上がるペンギンマークのディスカウントストアから、ブレイカーが残骸を踏みながら姿を現した。

 右腕で女王様をヘッドロックし、ずるずると引きずっている。


「出たぁ! 得意のブレイクロック! このまま決まるか!?」

(がんばれブレイカー!)(いや女王様も負けんな!)(どっちも好きだから困るw)


 女王様のピンヒールがアスファルトを捉える。

 ブレイカーの首に、網タイツのふくらはぎが挟まった。

 ひっくり返され、背に女王様がまたがる。首に手をかけ、背中を反らせる。


「うわぁっと! これは返し技ッ! 夜の街に響くSMフィニッシュ!」

(実況ノリノリすぎw)(一気に逆転!)(うらやま)


 首への連続技に、ブレイカーは苦しげに身体を捻るが、女王様は逃がさない。


「あんたの最後の女はあたしってわけ!」


 女王様が真っ赤な唇をブレイカーのヘルメット越しの耳に寄せ、不快な音を立ててルージュの痕を残した。


「アハハハ! 愛しているわ! ブレイカー!!」


 女王様のボンテージとライダースーツの皮が擦れる音以外に、骨がミシミシと音を立てる。


「ギャア!」


 女王様が飛びのき、どうしたことかそのまま暗闇へと跳躍した。

 ブレイカーがよろよろと立ち上がる。


「おおっとォ! 女王様、夜の帳に消えていったぁぁ!」

(今日も生き延びたw)(また来週な)(続きが気になりすぎる)


 ブレイカーはヘルメットのシールド前に二本指を立て、夜空に向かって軽く振った。

 「アバヨ」とでも言いたげな無言の合図。壊れた街を背に、バイクで颯爽と遠ざかる。


「出ましたぁ! ブレイカー恒例の“夜風サイン”!」

(でも実際言ってんのアバヨだけ)(言葉とポーズズレてんの草)


 画面に残るは、派手な戦闘の残骸だけだ。人々は破壊の跡に興味深そうに集まり、スマホを掲げる。


「以上、現場の熱狂をお伝えしました。あなたの夜にヒーローを――『ナイトブレイク・チャンネル!』――ニュースマン@大豆戸まめどでした」


 大型ビジョンが、スポンサーのCMに切り替わった。



■━━━□



 歌舞伎町にブラックサイクロンが現れた翌日、日もだいぶ高くなってから七里(しちり)はベッドから起き出した。

 寝ぐせがついたまま、パジャマにしている黒いスウェットで店に入る。古いストーブに火をつけようとして、石油の残量の少なさに舌打ちした。


「ブラックサイクロンめ」


 昨夜、閉店作業終了後、石油を入れようとしたところでスマホが鳴った。

 ブラックサイクロンが現れれば、急行せねばならない。厄介な業だ。


 そして、深夜に戦いがあっても、朝は毎日やってくる。

 熾烈な戦いの数時間後には、喫茶店をオープンしなくてはならないのは、ヒーロー稼業は金にならないからだ。生きていくためには働かなければならない。


 石油を満タンにしてから、ようやくストーブに火を入れられた。

 大きなあくびをしても、客のいない今なら、誰に見咎められるわけでもない。


 カウンターとテーブルが五卓。二十四席の古い喫茶店に小春日の光が入る。

 ストーブにかけた薬缶が熱せられる小さな音が聞こえるほど静かだ。


 悪くない。

 刺激よりも、退屈なくらいがちょうどいい。


 一呼吸いれたところで、本格的に開店準備を始める。

 寝ぐせをなおし、髭をそって、白いシャツに着替えたところで、店のウィンドウチャイムが鳴った。


 誰だ? まだ開店前だぞ。


 思わず身構えた。

 今日は月曜日、仕入れ業者が来る日ではない。


 繁華街から離れているとはいえ、物騒な地域だ。強盗が入ることだってありえる。

 現に、訪問者はウィンドウチャイムの音に驚き、侵入をためらっているようだ。


 耳をすますと、息を吸う音が聞こえた。


「アルバイト募集の張り紙を見たんですけど」


 女の声だった。


お読みいただきありがとうございます☕

藍色紺です。


ずっと書きたかった喫茶店ものを、やっと形にできました。

更新状況や裏話は、X(旧Twitter)でゆるくお知らせしています。


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