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ザヴィールウッドの魔女  作者: 三上湖乃
子連れ魔女誕生

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義母の哀訴・4

少し残酷または性的な表現があります。ご注意ください。

「三つめの条件はなに? エリナさん」


そうたずねてきた義母に、私は硬い声で答えた。



「三つ目の条件は、フレイザー家では家庭内に暴力を持ち込まないように徹底することです。

そのためには、お義父さまに、ルドガーさまに対して暴力をふるうことをやめていただかなければなりません。

お義母さまがそれを実現してくださるなら、私もルドガーさまとの対話を検討してみましょう」



驚いた表情をしている義母に、私は説明を付け加えた。



「お義母さま、私はルドガーさまがセドリックに対して、父親としてふさわしい態度で接してくださるかどうか疑問に感じているのです。

端的に言えば、ルドガーさまが息子に暴力をふるったり、危害を加えたりするのではないかと恐れているのですわ」


「まさかそんなこと!」



言下に否定する義母に私は厳しい視線を向けた。



「ないとは言い切れませんわ。

先日、ベニートお義父さまが息子のルドガーさまを殴りつけたのを見て、私は衝撃を受けました。

お義父さまは孫のセドリックのことをとてもよく可愛がってくださって、あの子に注意をする時でも根気強く言い聞かせてくださっていた。

セドリックに手を上げたりなさったことは一度もありませんでした。

私は、お義父さまはそういう温厚な方だと思っていましたけれど、あの夜、息子のルドガーさまには暴力をふるわれましたね。

そしてお義母さまもそのことに対して何の抗議もなさいませんでした。

きっと今までにも、ああいうことが何度もあったのでしょう? 

教えてください、お義母さま。

お義父さまは昔から、ルドガーさまへあのような暴力をふるってこられたのですか?」


「そ、それは…」



義母はうろたえて言葉につまった。

すると今まで義母の後ろに控えていたカイサが口を開いた。



「若奥さま、発言をお許しいただけますでしょうか」


「何かしら、カイサ」



私が目を向けると、カイサは私の目を直視せずやや下を向いて話しはじめた。



「フレイザー家は武門の家でございます。

幼少のころから、ご子息の教育のためには、ある程度の力の行使は必要なものなのです。

ベニートさまはお優しい方ですが、ルドガーさまのためを思って、心を鬼にして体罰を行ってこられました。

ですが私は、ルドガーさまはそのおかげであのような立派な武人になられたものと愚考いたしております」


「そう。貴重な意見をありがとう、カイサ」



私が声をかけるとカイサは目礼をして一歩あとずさった。

義母は忠実な侍女に感謝のまなざしを向けた。



「エリナさん、カイサの言ったとおりよ。フレイザー家は武門の家だから…」


「いいえ、お義母さま」



私は義母の言葉をさえぎった。



「カイサの言うことにも一理はありますが、私の考えは違います。

武門の家に生まれた子どもであっても、家で家族に暴力をふるわれてはなりません。

特に親が子へ日常的に暴力をふるえば、子どもは親におびえてしまう。

それでは親子の間に、心からの信頼関係は築けません。

子どもにとって、家とは安心して過ごせる場所であり、家族とは自分を愛し大切にしてくれると信じられる人たちでなくてはならないと、私は思います」



私は前世の自分の行いを恥じつつ、自戒を込めて義母に強く訴えた。



「私は、ルドガーさまがセドリックに暴力を振るうことを絶対に容認できません。

それにセドリックに対してだけではなく、私は今後このフレイザー家から、子どもへの体罰をすべて失くしたいと思っているのですわ。

そのためにはまず、お義父さまがルドガーさまに体罰を与えることを止めていただきたい。

親が子どもを教育するために行う体罰という名の暴力を許すのは、すなわちルドガーさまがセドリックに暴力をふるうのを許すことにつながるからです。

ですから、私がルドガーさまと交流するための三つ目の条件は、お義父さまにルドガーさまへの暴力を止めさせるということ。

そしてお義父さまにそうさせることができるのはお義母さまだけです」


「ベニートに…私が…?」



ぼうぜんとつぶやく義母の横で、カイサが目を見ひらいて私を見ている。

ベッドの足元にいるターラとナタリーも少なからず驚いた表情をしていた。

ふだんの私をよく知る彼女たちは、私の提案の内容だけでなく、私の姿勢がいつになく強硬であることにも驚いているのだろう。

確かにふだんの私なら、義父母に対して文句を言ったり注文を付けたりすることはない。

彼らの私たち母子への情愛に感謝しているからだ。

しかしルドガーに対しては、義父母が抱く感情は私が抱く感情とはまったく違うものなのだ。

正直なところを言えば、私自身はルドガーを迎え入れたいなどとは思えない。

けれど古代樹の神殿で私を見つめたノナ・ニムの瞳を、私は思い出していた。

ノナ・ニムは私におっしゃった。人生をやり直したいと思う者に手を差しのべるのが、ノナの魔女の使命だと。

私はつとめて冷静な口調を保って義母に告げた。



「お義母さま、私はノナ・ニムの神殿で黒の森の魔女としての使命を賜りました。

それは、よく()て、よく()き、深く()ること、そして人生をやり直したいと思う者に手を差しのべることです。

今、お義母さまは、ご子息であるルドガーさまとの関係をやり直したいと思っていらっしゃる。

ですから私は、黒の森のノナ・ニムの魔女として、お義母さまが人生をやり直すお手伝いをいたしましょう。

けれど本気で人生をやり直すつもりなら、なんの努力もせず、犠牲も払わずにいることはできません。

お義母さまにもそれ相応の覚悟をしていただかなくては」



不遜な物言いになったが、義母は悲壮な表情で「そうね」と首肯した。

私は話を続けた。



「お義母さまにとってルドガーさまが大切なわが子であるように、私にとって、何よりもいちばん大切なのはセドリックなのです。

たとえお義母さまの願いであっても、あの子のためにならないことはできません。

セドリックが生まれてから4年間、ルドガーさまは一度たりともあの子に関わろうとなさいませんでした。

何か異変が起こった時でも、あの子よりネルラさまを守るおつもりのようですわね? 

ルドガーさまがセドリックを大切にしてくださらなければ、少なくともあの子に乱暴をはたらかないという確信が持てなければ、父親だからと言ってあの子をルドガーさまに近づけることはできません」


「それは…」



4年ぶりに領主館で顔を合わせたあの夜のルドガーとの問答が頭に浮かんだのだろう、義母の言葉が途切れた。

私もあの時のことを思い起こし、セドリックを守れるのは私しかいないとあらためて胸に刻む。

義母はゆっくりと私に目を向けた。



「わかりました。

ベニートのことは私が説得します。

だからルドガーを受け入れてやって、エリナさん」


「条件がすべて整ったらそうします」



義母の願いに私は淡々と返答した。

義母は小さくうなずいてから、ためらいがちに言った。



「エリナさん…もし、あなたのノナ・ニムの魔女としての使命が、人生をやり直したいと思う者に手を差しのべることであるのなら、ルドガーにもそうしてやってほしいの。

あの子があなたに会いにきたことを、やり直したい気持ちの表れととらえてあげることはできないかしら? 

こんなことを言うとあなたは気分を害するかもしれないけれど、ルドガーが本当に欲しているのはエリナさんとの子どもではなく、エリナさん自身のような気がするの。

たぶんあの子は、あなたに惹かれているのだわ」



義母の発言は私にとって、まさに青天の霹靂であり、驚愕のあまり息が止まったほどだった。

私は義母イーディスを穴が開くほど凝視して、ようやく喉の奥から言葉を絞り出した。



「な…何をおっしゃるのです、お義母さま…」



私の他に誰一人言葉を発するものはなく、部屋を沈黙が支配した。










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