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ザヴィールウッドの魔女  作者: 三上湖乃
子連れ魔女誕生

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大精霊との対面・6

私の決意を受け止めたノナ・ニムは、ふと口調を変えた。


「エリナはノナよりよっぽど聖女にふさわしいんじゃないかね。

ノナなんて自分の好きなように生きてるだけで、別に人間たちのために何をしてやってるわけでもないんだから、聖女じゃなく魔女でいいんだけどねえ」


ため息まじりの大精霊の愚痴を、ザジが一刀両断した。



「しょうがねえだろ、ばあさんの力は強大すぎて、ザヴィールの森周辺の人間の国々全部を潤してるんだからさあ。自分のために魔力を使っていたって、結果的に俺ら精霊や人間たちのためになっちまってるんだから、大聖女と呼ばれるのは当たり前だろ。

ま、そうやっておだてておかないと、ノナばあさんにへそ曲げられちゃ困るからってこともあるんだろうけどな」


「なんだい、口の悪い赤猫だねえ」



ノナ・ニムが軽く目をすがめてにらむと、ザジはおどけて肩をすくめ、ニヤリとした。


「まあとにかく、エリナの魔力についてだけど」


森の大聖女は軽く咳払いをして、仕切り直すように私へ視線を戻した。


「エリナ、お前の魔力はマグダレーナに封印されているけど、お前の魔力がマグダレーナの魔力を上回れば、封印は破壊されるだろうよ。

でも、なにしろマグダレーナは“()ぎ歌のレーナ”として広く知られているような強い力を持った魔女だから、その魔力を上回るのはなかなか難しかろうね。

今のところお前の魔力の本体は、レーナの鳥籠に閉じ込められてまったく外へ出られていない。

それでも、どうやら魔力を帯びた羽根が鳥籠の隙間から外へ出てくることはあるようだね。

その羽根を見る限り、お前の魔力は母親のマグダレーナのものによく似ているよ。

あの娘は美しい旋律に自分の魔力を乗せて、周囲に祝福を与えることができた。

だからお前も、いつかはそうなれるかもしれないが、今のお前にはまだそこまでの力はないね。

魔力自体が微弱だから、魔力を乗せるのも旋律どころか、短い音や一つの言葉がせいぜいだろうよ。

それでも、使い方次第でいろんなことができるんじゃないかい。

そこら辺の工夫はザジに教わるといい」


「え~、無茶言うなよ。工夫しろったってこいつの魔力、微弱すぎるし。羽根っていうより羽毛だぜ?」



ザジは口をとがらせてぶうぶう文句を言ったがノナ・ニムは取り合わず、しっしっとザジを脇へ追いやって、私に自分の近くへ来るよう手招きした。

私はようやく力が入るようになった身体で、大精霊の宿っている御神木までよろよろと歩いて行き、太い幹の前にひざまずいて頭を垂れた。

ノナ・ニムは古代樹の上方へ手を伸ばし、よく葉を茂らせた枝を一本折り取った。そしてその枝を手に、私の方へ身を乗り出してきた。


「エリナ、ノナの神殿の古代樹の枝を、お前にあげよう。ザジの使っている(ロッド)もこの枝でできている。微弱な魔力でもこの枝を通せばいくらか増幅されるはずだ。魔女の杖にするには最高の素材だよ」


私はその枝を受け取って、しげしげと見た。

私の背丈の半分ほどの長さのその枝は、月桂樹に似た葉を茂らせていて、ノナ・ニムがその手で折り取った断面が淡く発光している。


「ありがとうございます、ノナ・ニム」


私はお礼を言って、その枝を大切に胸にかかえた。

ノナ・ニムは微笑して、こちらへ顔を寄せてきた。

それとともに森の匂いが濃くなって、古代樹の枝に茂る若葉のような緑色の髪が私に降りかかってきた。

その髪の間からのぞく大鹿の角が私の頭に触れた瞬間、ひとしずくの水が静謐な水面に波紋を描くように、私の内面にさざ波が立った。


(こ…これは、なに…?)


何十年、何百年もの時をさかのぼり、古代樹の森の奥底から天に向かっていく感覚がある。

ノナ・ニムが私を見つめる緑の瞳は、その奥に銀河のような無数の星のきらめきを宿していた。

その瞳に吸い込まれ、きらめく星々の間に飛び込んでいく奇妙な浮遊感で、まるで自分が無限の宇宙と一体となったような気がする、そんな私の頭の中に、ノナ・ニムの思念が直接伝わってきた。


「巻き戻りを経験しているお前は、世界の深淵に触れた経験をしているということなんだよ、エリナ。

しかも前世の記憶を持っているだろう。それだけでお前は、ノナの魔女になる資格があるのさ。

一度失くした人生を再び満たすのがお前の天命。

欠けてまた満ちる月のように、お前は自分を生きるがいい」


そして、黒の森を統べる大聖女のおごそかな声が響いた。


「エリナ、お前にノナ・ニム・フォレッサの祝福を授け、黒の森の魔女とする。

そしてお前には、 ノナから“月白”の魔女名を与えよう。

黒の森の魔女、月白のエリナに光あれ」


ノナ・ニムの身体はいつの間にか私の何倍にも大きくなっていて、私は天を見上げる格好でその青白い顔を見つめていた。

森の木々のみずみずしい香りがする緑の髪が、私の周囲を隙間なく覆いつくしている。

そこへ、半透明になった大精霊の腕がゆるりと伸びて、私の額をひんやりした指がすり抜けた。

それと同時に頭の中が急に熱を帯びて、私は思わず身をそらして背後に倒れそうになったが、


「おっと、あぶねえ」


とザジが背中を支えてくれた。

その直後、私の中で、全身を突き破るほどの鼓動とともに、今まで見えていた世界が二重になったような感覚が急激に湧きおこった。

精神の内部に錯綜した情報の波が押し寄せてきて私は窒息しそうになり、急速に意識が薄れていく中、どこか遠くでノナ・ニムとザジの話す声がした。



「しかしまあ、生真面目な娘だねえ」


「だろ~? アッタマ固ぇよな~」



我が意を得たり、と言わんばかりの勢いでザジが食いついている。



「けどさあ、四角四面で融通のきかない赤眼の黒髪野郎にゃあ、似合いの嫁だよなあ、ばあさん」


「そうだねえ…ってまたお前は、人間のことに首を突っ込むなと言ってるだろうに」


「ばあさんだって本音がもれてるぜ」


「お黙りよ」



その先はもう耳に入らず、私は完全に意識を失った。





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