3話 二重人格
※流血表現あり※
pixiv版(未完結)に加筆修正を加えたものになります
「ようこそ、ストーカーさん。歓迎はしませんが」
シオリはずっと感じていた視線が普通のものではなく気持ち悪かった。その視線の意味を知るために部屋に入れた。
「普通ストーカーを歓迎する奴はいないさ」
「そうですね。とりあえずお入りください」
「そうするよ。お邪魔しまーす」
そうしてシオリを尾けていた少女はシオリの部屋に入った。クラスメイトだということはかろうじてわかった
「御薬袋さん!?」
そこにいたのはクラスメイトの御薬袋 幸だった。御薬袋 幸は黒髪を2つに結わえた赤い目の少女だ。セーラー服のリボンに黒い勾玉を付けている。とても成績が良いけど変わり者と小声でシオリに伝えたが、興味は無さそうだ。
「ふーんキミもいたのか…まあボクの目的は神代詩織だけど」
「目的とはなんですか?」シオリが訊ねる。
「キミにお願いがあるんだ」
「聞くだけ聞きましょうか」
彼女は「感謝する」と呟いた後にとんでもない発言をした。
「ボクを殺してほしい」
「えっ!?ゲホッゴホッ」
僕はお茶を飲んでいたから驚いて噎せた。
そんな中シオリは冷静に、
「お断りします」と応えた。そしてこう続けた。
「そもそもどうして私に頼みに来たのです?」
「だってキミ人間じゃないだろ?」
シオリが絶句した。顔は真っ青だ…でもどうして御薬袋さんはシオリが人間じゃないって気づいたんだろう。
「証拠はあるんですか」
「ああ、あるとも。ボクは霊感が強くて、足のない幽霊なんて飽きるほど見たさ。でも足の透けている幽霊、ましてや人間なんて見たことがない!」
「………………………………」
「それに、証拠を求めるその行為こそが証拠さ。普通後ろめたいことがないのなら、そんなことは聞かない」
「死にたいのなら……自分で死ねばいいじゃないですか」絞り出すかのようにシオリは小さな声で言った。
「それができないから頼んでいるんだ」と言い、制服の下に着ているインナーの首元を下げた。
「えっ!?」
「それは…」
首には大きな傷痕があった…刃物で切ったような傷だ。
「これは自殺未遂のあと。それから理由はもう1つあって…これは実際に会ってもらう方がいいな」
そう言うと御薬袋さんは鞄からカッターを取り出して…って止めないと!
僕は立ち上がって止めようとしたが遅かった。
彼女は流れるような素早い動作でインナーの袖を捲り、右手首を切った。鮮血が流れる。
「───────」
「あわわ…どうしよう」
「………………………」
御薬袋さんは自分の鞄からガーゼを取り出しそれを傷口に当て、押さえると口を開いた。
「幸ったら懲りないわね…あら、ここはどこかしら?」
僕が驚いている最中、シオリは冷静に返した。
「ここは私の家です」
「あら、そうなのね。幸が失礼をしてごめんなさい」
「…あなたは誰ですか?」
シオリは驚いてはいたが、びっくりするほど冷静だ。異常事態に慣れているのだろうか。
「初めまして。ワタシの名前は御薬袋ちさ、幸を守っている人格よ。解離性同一性障害ってご存知?」
「確か二重人格のことですよね」僕はそう応えた。まるで別人のようだったから敬語になっていた。
「ええ、そうよ…ワタシと幸は記憶を共有できないの。だからあなた方のお名前を訊いてもいいかしら?」
「御薬袋さんと同じクラスの榊原 幸輝です」
「私は神代 詩織です」
「そう。教えてくれてありがとう」そう言った直後に血まみれのガーゼを外し慣れた手つきで包帯を巻いた。
「幸はね、ひねくれてるけど悪い子じゃないのよ。だから仲良くしてあげてね」
「あっ、はい!」
「ストーキングした人と仲良くできると?」
「ふふ…悪意があったわけじゃないのよ。許してあげて」
「……………………」
「詩織さんお布団を借りてもいいかしら?」
「何故ですか?」
「役目は終わったし幸に交代しようと思って。ワタシが眠れば幸は起きるわ」
「…………わかりました」
「ありがとう。機会があればまた逢いましょう」
シオリに礼を言い微笑むと、彼女は宣言通り布団に入った……………すると早くも寝息が聞こえてきた。寝付くの早いな!それから3分程で彼女は起きた。
「ふぁ~…おはよ」瞼を擦りながら挨拶をした。
「お、おはよう」
「おはようございます」
「これでわかったろ?アイツがいるからボクは死ねないんだ」そう言いながら布団から出て整える。
「ボクだって最初から二重人格だったわけじゃない。自殺未遂で1ヶ月の昏睡状態から目覚めたらこうなっていたんだ」
「どんな事情があろうと、頼みはお断りします」
「そっか、残念。ところで人間じゃないことは否定しないんだね」
「あっ!…」
シオリの顔色がまた悪くなった。どうやら嘘をついたり隠しごとをするのが苦手なんだろう。
「秘密にしていただけると…」
「ボク友達いないし、言いふらしたとしても誰も信じないさ」
「…そうですか」
シオリはそれを聞いて安心したみたいだ。
「その代わり1つ条件がある」
「何でしょうか?人殺しはダメですよ」
「違うよ。ボクと友達になってほしい」
「え?」
**************
「本当に榊原幸輝が死ななかった原因がわからないのですか?」
秘書のサオリが問う。彼女の前では取り繕わなくていいから楽だ。
「うん。検討はついてるけど確信は持てないから」
「なら…何故」
「ぼくらの目的に近づくため」
「なるほど…シオリの為ですか」
パキパキパキ
「うっ!……ふぅ、やっと生えてきたか」
角が生える際は痛みをともなう。一瞬だが。
「大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫。それより」
「それより?」
「榊原くんが死ななかった原因をわたしの方でも探るよ。だから天界に行くのだけどサオリも来るかい?」
「ええ、勿論。お供します」
「アポなんて取れないだろうから、すぐ行こう」
「はい。ちなみにどなたにお会いするのですか?」
「光の神だよ。たぶん榊原くんの運命を変えたのは彼女だ 」