2話 再会
pixiv版(未完結)に加筆修正を加えたものになります
「閻魔様…どうしてあの人間は死ななかったのでしょうか?」
「さあ、なんでだろうね」
「え?」
「わたしにもわからないんだよ…だから」
閻魔様が右手を挙げると秘書のサオリさんが何かを持ってきた。それはセーラー服だった。この時点で察しがついてしまった
「まさか…」
「そう、そのまさかだ。シオリには五芒星学園に潜入捜査に行ってもらう!」
「えー……私が人間嫌いなのご存知ですよね?」
絶望的な気分になった。
「知ってるよ。でもね、担当者を途中で変えることはできないんだ」
「それは…そうですけど」
「いいかい?シオリこれはお願いじゃなくて命令なんだよ」
「……っ!」
閻魔様の冷たい視線で凍りついた。
「はい。わかりました」
「よろしい…じゃあ」と言うと閻魔様は右手を右のツノにあて───────パキンッ!
へし折った。
「えっ!?」
私は驚いた。さも当たり前のようにツノを折ったのだから。
「はい、これ。通信機として使ってくれ」
しかも手渡された。通信機?まず聞きたいことを聞くことにした。
「あの…今の痛くないんですか?」
「うん。折る前に痛覚遮断したし、また生えるから大丈夫」
何事もなかったように応える閻魔様に戸惑ったが、潜入捜査の方が重要だ。
「コレどうやって使うんですか?」
「念じれば、わたしの元に繋がるよ。電話みたいなものだ」
「わかりました」
それから私が人間として五芒星学園で過ごすための知識や自分の設定、住む場所を教えてくれた。自分の名前、架空の家族構成。私の暮らすアパート等だ。
「それでは、行ってまいります」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
**********
自己紹介をするとココに来るに至った経緯がシオリの頭に雪崩込む。
「ええええ!!!!なんでシオリが!?!?」
しかし彼の叫びでシオリは正気に戻った。
そして誰も不穏な笑みを浮かべている者がいることには気づかなった。
「神代さんは家庭の事情で転入してきたのよ。榊原くんは神代さんとお知り合いなの?」
「そうです」
僕が返すよりも早くシオリが肯定した。
「席は…ちょうど榊原くんの隣が空いてるわね。神代さんの席はそこね」
「へ?」
「わかりました」
驚いている間にシオリは隣の席に到達したらしい。そして「これからよろしくお願いしますね」と言い、笑った。
「あっうん。よろしく」
それからホームルームが終わると、女子がシオリの席の周りに集まっていた。僕はというと…人混みに押されて席に座っていることもできず、少し離れたところから眺めていた。
「どこの学校にいたの?」
「神代さんってハーフ?」
「どこに住んでるの?」
「目キレイだね!それカラコン?」
「シオリちゃんって彼氏いるの?」
「美術部に見学に来ない?」
「髪長くて綺麗だね!シャンプー何使ってるの?」
うわ…質問攻めにあっているシオリを同情の目で見ていると肩を掴まれた。
「わっ!?…誠か何?」
彼は僕の幼馴染で親友の涼沢誠 だ。
「何?じゃねーよ!あんな美人と知り合いだなんて知らなかったぞ!」
「えっと…あはは」
笑って誤魔化そうと思った。
「あんな…あんな美人と知り合いだなんて羨ましい!俺に紹介してくれよ!」
「はぁ?やだよ!誠モテるじゃないか!」
「いや俺が馬鹿だからか…付き合ってもすぐフラれるんだよ」
「…………………」
馬鹿というよりお人好しすぎるからフラれるのではないだろうか…君は頼まれたら断れないタイプだし…僕は告白されたことなんてないけど…
ガタンッ
大きな音に驚いて音のした方を見るとシオリが倒れていた。椅子も横になっている。周りはざわめいている。
「どいて!僕が保健室に連れてく」
人混みをかき分けて進む。
シオリを抱きかかえると、とても軽かった。おかげで体力の低い僕でも運ぶことができたが、軽すぎて心配になった。
保健室についてから「これはお姫様抱っこなのでは?」と恥ずかしくなったけど養護教諭は用事でいなかったので赤面を見られずに済んだ。
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「ここは一体…」
気がつくと知らない場所にいた。白い世界で足元には水が満ちており、私は水の上に立っていた。
確か私は教室で、質問攻めにあっていたはず…あんなにたくさんの人間に囲まれたのは初めてだった。混乱した私は、頭の痛みに耐えきれず倒れてしまったんだ。
でもどうしてこんなところにいるのかしら。服もセーラー服から仕事用の黒い服になっている。わからないことだらけだ。
とりあえず前に進んで見ることにした。
ぱしゃっ、ぱしゃっ、ぱしゃっ、ぱしゃっ
水音が鳴る。しばらく進むと少女がいた。
でも、アレは───────
少女が振り返ると疑惑が確信に変わった。
少女はシオリと瓜二つだった。違うのは服装のみ。シオリそっくりの少女はセーラー服を着ている。五芒星学園の物ではない、知らない制服だ。
「あなたは…私なの?」
「───────」
少女は口を動かしたが何も聞こえない。喋れないのだろうか。
訝しんでいると少女は私に近づき襲いかかった。
「え?」
「───────」
ざぶんっ!
そして首を掴み私を水に沈める。苦しい…どうしてこんなことをするの。
「─す──なんて────い」
え?声が途切れ途切れに聞こえた。やはり自分と同じ声だ。なんと言っているのだろうか。それにとても苦しい。
「忘れるなんて ──許さない ──────」
そこで私の意識は途切れた。
「シオリ…」
放課後、保健室でシオリの顔を見ると顔色が悪く、苦しそうだ。悪夢でも見ているのだろうか…だったら起こしてあげるべきでは?
「シオリ!大丈夫!?シオリ!」
大声で呼びかけるとシオリの目が覚めた。
「ここは…?」
「ここは保健室。うなされてたけど悪夢でも見たの?」
「夢…?」
幸輝に聞かれたシオリは不思議そうな顔をした。
「死神は夢を見ないはず…なら今のは一体…」
シオリの呟きは聞き流し質問をする。
「体調はどう?ちなみに今は放課後だよ」
「大丈夫です。もう問題ありません」
「そっか。良かった」
「放課後…そんなに時間が経っていたのですね」
「うん。シオリの鞄持ってきてたんだ…だから良かったら一緒に帰らない?」
「別に構いませんが」
「あら榊原くんまだいたの?」
シオリの返事のすぐ後に席を外していた養護教諭が戻ってきた。
「はい。そろそろ帰ります」
「そ、さようなら。気をつけてね」
「はい、さようなら」
シオリの手を掴んで保健室を後にしようとしたが「神代さん」シオリが呼び止められた。僕たちはピタリと止まる。
「何でしょうか?」
「お大事にね」
シオリは「はい。ありがとうございます」と言って僕たちは保健室を後にした。
そして玄関を通り、学校を出てシオリと何気ない会話をしつつ帰路に着いた。しかし僕にとって穏やかな日々が3日後に変化するなど思いもしなかった
僕は毎日シオリを誘って2人で帰っていた。
話題も3日も経てば尽き静かになった。何かいい話はないか考えていると小声で話しかけられた。
「気づいていますか?」
「何に?」僕も小声で返した
「尾けられていますよ」
「……」驚きのあまり声も出なかった。僕とシオリどちらを尾行しているのだろうか…
「走りますよ」小声で言われシオリから手を繋いできた。次の瞬間シオリは走り出し僕はついていくことになった。
「はぁはぁ…」
どれだけ走っただろうか。激しい運動は避けるべきと言われてるが、まあ許容範囲内だろう。シオリは息も上がっていない。それよりここは…?アパートの前?
「私の家です」僕の視線で察したシオリが応えてくれた。
「早く入りましょう。撒けたかわかりませんので」
「えっ…うん」
シオリは迷わず102号室の鍵を開けてくれた。
「さ、どうぞ」
「うん。ありがとう」
お礼を言って部屋に入った。
ここがシオリの家!…必要最低限のものしかない。殺風景な部屋だった。
シオリは冷蔵庫からはお茶をシンクの戸棚からは紙コップを出してお茶を注いだ。
「疲れたでしょう。こんなものしかありませんがどうぞ」
「ありがとう」
喉が乾いていたからありがたい。貰ったお茶を一気に飲み干す。
コンコンコン
扉からノックの音が聞こえた。
「どうやら撒くことが出来なかったみたいですね。目的は何か聞き出しましょう」
といってシオリはドアの方へ行ってしまった。大丈夫だろうか?
鍵を開け扉を開ける。
「ようこそ、ストーカーさん。歓迎はしませんが」