神頼まれ
大翔は願掛けをしていた。この街に転校してきてからまだ日は浅い。人間関係は希薄だったが、今度の将棋の大会を目標に学校生活も頑張れた。将棋の練習があるため大きい神社へ行く時間はない。
大翔はグーグルマップにも載らない近くの小さな神社にお参りに行くことにした。住宅街の入り組んだ道を抜けた先にその神社はある。
神社に着いたが、人はいなかった。手を叩く音が空気に溶ける。願い終えると、どこからか声が聞こえてきた。
「(願いを叶えるよ。ただ、僕の願いも叶えて)」
大翔は驚いて周囲を確認するが、他の人の気配はない。時間が無かった大翔は気のせいか、と半ば自分を強引に説得しその場を後にした。
将棋の大会当日、対戦相手はほとんど欠場していた。決勝相手は居たものの、ありえない悪手で自滅した。大翔は優勝することができたが達成感はなかった。
不思議に思った大翔は試合後、お礼参りも兼ねて再びあの神社を訪れた。
「(じゃあ次は僕の番だ)」
姿は見えない。だが今度はしっかりと声が聞こえた。少年のような声。相手は自分のことを神と名乗り、続けた。
「だって僕も叶えてもらいたいし、ギブアンドテイクだよ」
カタコトの英語で笑いかけてしまいあまり話の内容が入って来なかったが、神の話を要約するとこんな感じだ。神の願いは人として1日過ごす事。
体を借りるということで大翔は最初嫌がったものの、人の生活を知りたいという神の尤もらしい理由に押され渋々了承した。
そこからが大変だった。大翔の体で神は色々な所へ行ってはしゃいだ。好きなものを食べて回ったり(もちろん大翔のお金で)、大翔の体に入っていることをいいことに女の人をナンパしたりしていた。その最中、大翔は遠くでクラスメイトの女子がこっちを見て笑っていたのに気づいた。
夜、大翔は疲れ果ててベッドに飛び込んだ。神に出ていくよう頼むと、1日は24時間でしょと返されて何も言えなかった。
翌日、大翔は仕方なく神を憑依させたまま中学へ向かった。校門のところで、ガラの悪そうな男子生徒に話しかけられた。
「お前昨日の大会不戦勝で勝ったんだろ? 絶対イカサマw 優勝したなら奢れよ」
こういう情報に限って早く回るらしい。大翔が何も言い返さずにいると、大翔のポケットの財布から1000円が抜かれた。
「なんだよあれ」
男が去った後、神が口を開いた。大翔は黙ったままだ。それでいいのかよと神は傷口に塩を塗ってくる。神は大翔の体を使い、男を追いかけて教室へ入った。
教室に入ると、全員が大翔を馬鹿にした目をしていた。昨日の女の子達は大翔の行動を微笑ましく見ていたのではない。大翔自身をあざ笑っていたのだ。
神は理不尽な扱いにキレている。周りを気にせず、男に決闘を申し込んだ。もちろん大笑いに包まれた。やめてよと囁く大翔に神は言う。
「お前が守りたいのってこの日常なのか?」
大翔はまた、何も言い返せずにいた。
そして放課後、いざ決闘が始まるという直前に神が抜けた。24時間が経ってしまったのだ。大翔は焦るが男はもう迫ってきている。適当に殴られて終わろうか、そう思って目を瞑ると声が思い返される。
(「それでいいのかよ」)
目を開けた。
「もう、逃げない」
自分にそう言い返し、大翔は走り出した。
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