ポンニチ怪談 その81 子供幸福親資格
ニホン国において共同親権制度が導入されたが、トンデモ親が悪用するのを防ぐため、同時にある法案も可決された…
ニホン国では国会審議により共同親権が導入されようとしていた。しかし、DV親や虐待親族などが後をたたず、子や配偶者に暴力をふるい言葉でも支配的な言動を是認する風潮もみられる現在のニホン国では、実質異常な親(主に父親)から子供を守る対抗策がなくなる恐れがあるとして野党および与党の一部議員の反対の声により、もう一つの法案も同時に可決された。“子供の幸福を実現するための親権を持つ親及び保護者の資格に関する法案”いわゆる子供幸福親資格法案であった。
「い、嫌だ!こ、子供を連れて出ていくなんて、許さないぞ!僕が何をしたっていうんだ!ちょっと殴ったくらいで虐待?あ、跡が少し残るぐらいなんだ!顔じゃないんだし。だいたい息子の手紙を見たぐらいでなんで、妻にそんなにとがめられなきゃならないんだ、中学になったからって生意気な」
と怒鳴るジコオ。黙ったままの妻と息子。
ヨト家のリビングは重い空気が流れていた。重い雰囲気の中
『それだけではないようですね。配偶者に生活費を渡し渋る、外で働く、友人知人への接触を制限する、息子にも同様、さらに習い事などの強制逆らえば暴力。ご近所や職場の方々の証言も得られました』
落ち着いた声が響いた。
「な、なんですか子供幸福親資格相談員さん!役人の貴方までそんないい加減な話を信じるんですか!」
『ええ、奥さんの怪我の頻度や、家具などの壊れ具合や家の修理業者からの提供写真、お子さんの学校での様子などを念入り調べました。貴方がモラハラ虐待親であることは明白ですな』
「な、なんだと!り、離婚しろとでもいうのか!た、たとえ、家を出て行ったからって共同親権ってのがあるんだ!勝手に旅行やバイトなんぞできないぞ」
『ああ、やっぱりそれを悪用して子供を縛ろうとしたわけですか。まあ、言質はとれましたし、奥さん、お子さんを連れてもう出てよろしいですよ、外で車もまってますし』
子供幸福親資格相談員に促され、ボストンバックとリュックを抱えて、逃げるようにリビングを出る妻と息子。ジコオはさらに憤った。
「な、なんてことを!チクショウ、どうやってもアイツらを」
と、二人を追いかけようとするジコオの腕を相談員は掴んで
『いけませんねえ。これはもう即時処置ですね』
プシュ
ジコオの首筋に注射を一本、素早く刺す相談員。
「な…」
驚きのあまり声も出せないジコオ。
『ああ、すぐ意識なくなりますから。眠ってる間にすべて終わってます。そしたらお二人とも安心して戻ってきますよ、生まれ変わっていい父親になった貴方のもとに』
「な、な?」
『ですから、貴方にいい父親になっていただくんですよ。親としてというか、成人男性としてだいぶ歪んだ認識をお持ちなんで、それをこちらで矯正して差し上げようということです。最新の脳科学の研究成果を駆使し、脳のネットワークを変更し、腸内細菌を入れ替え、異常な家族観が形成されたトラウマになる出来事を探り除去するなどいろいろあります。ああ、心身ともに健全になるんで、健康寿命も延びていいですよ』
「な、な、な」
『そんなにマトモになるのが嫌なんですか、女性や子供を支配し貶め、外ではいい顔したいなんて、ホント歪み切ってますね。まあ、SNSでの投稿も不愉快極まりないゲス、クズ男の見本みたいだったそうですからね、子供が苦しむ姿を隠し撮りして投稿なんて、ほんと最低ですね。そこまで異常だと確かに治療は無理かもしれませんね。でも、大丈夫。そのときはそのゆがんだ思考を生んだ人格ごと消去して、健全な男性の人格と入れ替わることもできますから。不運にも家族を持てずに亡くなった方の人格をコンピューター上に保存しているんですよ、貴方よりよほどいい父親になれるでしょう』
目を剥いていたジコオだったが、やがて薬が効いたのかぐったりとしてきた。
『ああ、ちょうど、治療班も到着したようですね。さて行きますか、心配ないですよ、生まれ変わってよい人間、良い父親になったら、皆貴方を歓迎してくれます。なに、ちょっとぐらい中身が変わったところで、周囲の人を幸せにする、特にお子さんの幸福を第一に考える良いパパならだれも文句は言いませんよ、誰もね』
といいながらジコオを抱え上げ、相談員は誰もいないリビングを後にした。
腸内細菌を変えると性格が変わるとか、体内時計をきちんとするとストレスほか解消されるそうです。まあ歪んだ言動の治療としていろいろ認められるとよいですねえ。