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1話目です。全8話。本日中に全話投稿します。

サクッと読める短編のつもりでしたが、思ったより長くなりました。



「うっ……ひっく……ぅう……」


 押し殺しきれなかった嗚咽が、顔を覆った手の隙間から漏れる。

 時刻は深夜。この孤児院の壁は薄いし、小さい子供達も寝ているのだから静かにしなくちゃいけないのに、どうしてもしゃくり上げるのを止めることが出来ない。

 なんとか堪えようとひっ、ひっと間抜けな声をあげるわたしの背を、慣れ親しんだ手が撫でてくれる。少し乱暴で雑な手つきだけど、わたしのことを労ってくれているのが手のひらから伝わってきて、わたしはますます視界を涙で潤ませた。


「うぅっ、ッ……ごめん、ごめんね、レナルド……」

「いい、いいから。いいから落ち着いて、ちゃんと事情を話せ」


 夜中に急に起き出して、かれこれ一時間。突然部屋に飛び込んできて泣き出したわたしを、普段ぶっきらぼうなレナルドは追い出したりしなかった。そして理由も話せずしゃくり上げるわたしを、ずっと待ち続けてくれている。


 神の恩寵を受ける、旧き永きモンペリエ王国。

絢爛なる城のお膝元、王都の隅にひっそりと建つバルニエ孤児院がわたしの家。赤ん坊の頃に捨てられていたわたしを拾い育ててくれたバルニエ先生と、そして同じように親のない子供達が、わたしの家族。

 その中でも、今わたしの背中をさすり続けてくれているレナルドは、わたしにとって特別な家族だった。


 レナルドがこの孤児院にやってきたのは、彼とわたしが六歳の頃。森に捨てられた彼を見つけたのは、薪にするための枝を拾いに来ていたわたしだった。

 せんせい、まいご。そう言ってレナルドの手を引いてきたわたしに、引率のバルニエ先生はとてもびっくりしていたのを覚えている。後から聞いたら、そのときのレナルドの出で立ちから、先生にはすぐ彼が捨て子だとわかったらしい。ボロボロの服にボサボサの髪、枯れ枝のような細い手足。そしてたった一人なのに泣きもしなければ怯えもしないのは「普通の子供」ではないそうだ。生まれたときから両親のいないわたしには「普通」はわからないけれど。

 先生はレナルドの親を探してくれたけど、名乗り出る人はいなかったという。だから、レナルドはそのままわたしたちの「家族」になった。


 レナルドは、変わった子供だった。

 いつも何かを諦めたみたいな表情をして、みんなの輪にも入りたがらない。とても賢くてびっくりするぐらい博識なのに、こんなのたいしたことはない、なんて言う。先生は育った環境の影響じゃないか、と難しい顔をした。誰からも認めてもらえなかったり褒めてもらえずに育った子供は、レナルドのような反応をすることがあるらしい。だから無理はさせずにゆっくり仲良くなろう、と、先生はそう言った。

 だからわたしは、出来るだけレナルドと一緒にいることにした。

 悲しい目をしたレナルド。さみしい目をしたレナルド。せっかく家族になったのに、そのままでなんていてほしくなかった。わたしたち新しい家族は、レナルドをつらくさせたりしないって知ってほしかった。

 まとわりつくわたしを、レナルドは最初鬱陶しそうにしていた。だけどそのぐらいでへこたれるわたしではない。仲良くなるんだ、という決意を胸にレナルドから離れなかったわたしに、根負けしたのは彼の方だった。


「おれになんてかまっても、意味ないのに」


 レナルドが孤児院に来て半年頃、ぽつんと呟かれたその言葉は、やっぱり静かな諦観に満ちていた。その頃のわたしに難しいことはわからなかったけど、それでもレナルドが何かを悲しんでいて、何かが痛んでいることだけはまっすぐに伝わってきて。

 だからわたしは、レナルドの手を握った。先生やわたしの「家族」たちがかつてそうしてくれたように。


「意味なくなんてないよ。わたしはレナルドと一緒にいたいから、いるんだよ」

「……え?」

「レナルドが一緒にいてくれるだけで、いいよ」


 まっすぐにレナルドの目を見て告げたその言葉に、レナルドは初めて見る驚いた顔をして、何度もぱちぱちと瞬きをしていた。まん丸の大きな目。髪と同じ金茶のまつげが瞬きのたびにキラキラしていたのを覚えている。それをわたしは、とてもきれいだと思ったのだ。


「何で? おれといても、何の得もないのに」

「得? 得ならしてるよ、だってわたしが嬉しいもん」

「だから、なんで嬉しいんだ? おれといてもなにもあげられない」

「なにかがもらえるから、嬉しいんじゃないよ? レナルドと一緒にいられるだけで嬉しいよ?」


 かみ合わない会話に、わたしたちは顔を見合わせてぽかんとしてしまった。

 よくよく話を聞くと、レナルドは人が誰かと一緒にいるのは、そうすることで得があるから。損得なしに人間同士の関係はなく、得を与えられない自分と関係を築きたがる人間はいないと思っていた。

 あの頃より大人になった今なら、正しいとか正しくないとかではなくて『そういう価値観』があると言うことはわかっている。だけど幼かったわたしは、レナルドが『そういう価値観』であることが――その上で、自分レナルドには価値がないのだと思っていることが悲しくて、泣き出してしまった。

 ――ちがうもん、ちがうもん。わたしは嬉しいもん。レナルドの分からず屋、そんなこと言うレナルドはきらい。うそ。大好き。

 そんな支離滅裂なことを言いながらわんわん泣くわたしに、レナルドはとても困っていたと思う。それがわかっていても、わたしはレナルドが根負けして「わかった、もう言わない」というまで泣きじゃくり続けたのだった。


 それからレナルドは、少しずつ孤児院のみんなとも仲良くなるようになっていった。

 賢くて冷静なレナルドはみんなに頼られて、第二のバルニエ先生なんて呼ばれるようになって。だけどわたしには時々、ここに来たばかりのさみしそうな顔を見せることがあった。そのたびにわたしはレナルドの手を握って、レナルドの大好きなところをいっぱい話すようになった。

 そんな時のレナルドは、目を丸くして唇を震わせて、そのあとくしゃっと笑ってくれる。そしてわたしのことを「おまえはそそっかしくてお人好しで目が離せなくて、仕方のない奴」と言って、手を握ってくれるんだ。

 そんなことを繰り返しているうちに、わたしにとってもレナルドは『特別な大好き』になっていた。

 レナルドは賢いし見た目もいいから、引き取りたいって人も多かった。だけどレナルドはそれをすべて断って、「俺はここに残って、孤児院のためになる仕事をする」と言っていた。すごいなぁってわたしが呑気に言うと、「おまえも手伝うんだぞ」って言ってくれたから、わたしの夢も決まった。

 レナルドとずっと一緒に、「家族」と一緒に。大変だけど幸せな日が続いていくと、そう思っていた、のに。


「イリス」


 レナルドが、わたしの名前を呼んでくれる。指先で、あふれる涙を拭ってくれる。その優しさがとても嬉しいはずなのに、やっぱり溢れてくる悲しみは止められなかった。

 だってわたしは、この手を失うのだ。――「今」から、六ヶ月先の「未来」で。




 わたしが、普通の人とは違う力を持っていると言われたのは、「今」から三ヶ月前の事だった。

 きっかけはレナルドで、彼が暴走した貴族の馬車から子供を庇って瀕死の重傷を負った、その時。

 血の気が引いた。世界が終わってしまうかと思った。血まみれの彼の頭を抱く自分の感覚が遠くて、すべての音がどこかに行ってしまったみたいで、自分の喉から出る叫び声も現実感がなくて。

 どんどんうつろになっていくレナルドの瞳をみとめた瞬間、わたしは頭の奥で何かの――そう、まるで鍵が開くような――音を聞いた。


 神様、神様、神様。どうかレナルドを助けてください。わたしに出来ることなら何でもします。この命を代わりにしたってかまいません。だからどうか、どうか、どうか――!


 今思えば、そんな祈りは大事な人を失いかけたすべての人間が抱くものだ。けれどわたしのそれは、正しく神様へと届いたのだ。

 路地に溢れた、温かな光。それはわたしの胸から発されて、そしてレナルドに降り注ぐ。まるで奇跡のような光景に周囲の人たちが言葉を失う中、光が収まる頃にはレナルドの傷はきれいさっぱり消えていた。

 呆然とするわたしをよそに、周囲にはさざ波のように声が広がって、最後は狂騒の有様となった。何が起こったのかわからないわたしをつれて逃げてくれたのもまた、レナルドだった。

 息を切らせて飛び込んだ孤児院で、レナルドはわたしをまっすぐに見つめた。レナルドだって、訳がわからなかっただろう。馬車にはねられて死ぬ寸前だったのに、いきなりすべてが元に戻っていて、しかもそれをしたのが「家族」であるわたしで。

 もちろん、わたしだって何が何だかわからなかった。レナルドが助かってくれたのはうれしかったけど、何か恐ろしいことをしてしまったような気がして、全身の震えが止まらなかった。

 そんなわたしに、レナルドが真っ先に口にした言葉は「ありがとう」。

 「俺を、助けてくれてありがとう」と。レナルドだってきっと怖かったと思うのに、ちゃんと目を見て、笑って。

 その瞬間、わたしはレナルドにすがってわんわん泣いてしまった。レナルドはそんなわたしを黙って抱きしめてくれて、それでますます泣いてしまったのだけど。


 何が起こったのかは、わからなかった。怖くて怖くてたまらなかった。けれど、レナルドの命を救えた、それだけは本当に本当によかった、と。

 だけど、その時よぎった「何か恐ろしいことをしたのでは」という予感は、翌日には現実になってしまった。


 昨日のことについて詳しく聞きたい、と、やってきたのは教会からの使者。

 街中での出来事だったし、わたしたちがバルニエ孤児院のイリスとレナルドだって言うのは近所の人なら知っている。こうなることは時間の問題ではあったと思うけれど、あまりにも早い訪問にわたしは黙って彼らについて行くことしか出来ず。

 孤児院に帰ることも許されずにいろいろな検査をされる日々は、とても苦痛だった。偉い魔法使いとか司祭様とか、いろいろな人に話を聞かれるのも辟易した。孤児院と違って肉体労働は一つもなかったけど、きれいな服を着てきれいな部屋で、何もせずに過ごしているのはつらかった。


 そしてようやくわかったのは、わたしが何十年、何百年に一度現れる「神樹の娘」と呼ばれる力を持つ人間だということ。


 わたしも、昔話では聞いたことがあった。バルニエ先生のおばあちゃんのお母さんの代に存在した、すごく強い癒やしの力を持つ人のこと。まるで魔法みたいに、祈るだけであらゆる怪我や病を治すことが出来る、すごい人。

 自分にそんな力があるなんて言われても、全然ピンとこなかった。しかもわたしの力は不安定らしく、これまでの「神樹の娘」と違って誰彼かまわず癒やすことが出来るわけではなく。試しに癒やしてみろと連れて行かれた先で、わたしのことをにやにやといやな感じの目で見てきたおじさんの腰痛は、どんなに祈っても少ししか治せなかったし。

 そんな中途半端な力だったけど、最初に死にかけていたレナルドを治したという実績があったからだろう。周囲は大騒ぎで、わたしは自分の意思も望みも鑑みられることなく、貴族の養女になることが決まってしまった。

 これまで通りに暮らしたいと、どんなに訴えても無駄だった。挙げ句の果てに、「こんなに未練を残すのであれば、孤児院を解体した方がいいのでは」などと話しているのを聞いてしまっては、ごね続けることすら出来ず。

 もう、望んだ未来が――バルニエ孤児院で先生を助けながら、レナルドとこの先もずっと一緒にいる、という未来が失われた事を悟って、わたしは泣いた。目が溶けるほどに泣き続けた。そうして衰弱したわたしを見かねたのか、最後に孤児院で過ごす時間を許されたのが「今」から二週間前の事。

 孤児院に戻るに当たっては、教会の偉い人にいろいろな条件をつけられた。おとなしく貴族の養女になること、養女になり次第貴族が通う学院に通うこと、力を制御する訓練を受けること、同時に貴族としての教育にも励むこと、そして、力は国のためにのみ使うこと。

 わたしにとっては大変なことばかりだったけど、それでも孤児院のみんなに――レナルドにどうしても会いたくて、わたしはそれを承諾して、転げるように教会から飛び出したのだ。


 約二ヶ月ぶりに戻ってきたわたしを、孤児院のみんなは優しく受け入れてくれた。レナルドもぶっきらぼうに「おまえが元気そうで拍子抜けした」と言いながら頭を撫でてくれた。

 孤児院で過ごす日々は温かくて優しくて、ずっとこのままでいたいと何度願ったかわからない。貴族に孤児院全てを人質に取られているような状況だからそれは叶わないってわかっていたけど、それでも。

 バルニエ先生も孤児院のみんなも、もちろんレナルドも。わたしが特別な力を持ったと知っても、何も変わらなかった。何も変わらないのに、もう一緒にいられないことだけが現実だった。それが悲しくて苦しくてたまらなかったけど、わたしにはどうすることも出来ず。

 今日は、わたしが孤児院で過ごす最後の日。みんな努めて明るくお別れのパーティを開いてくれて、わたしも頑張って笑顔で過ごした。明日が来なければいいのにと祈りながら眠りについて、けれど何も変わらぬ朝を迎える――はずだったのだけど。


 いや、確かに何も変わらぬ朝を迎えたのだ。()()()の時は。

 

 わたしを落ち着かせようとしてくれたのだろう、手を握ってくれたレナルドのぬくもりが、今この瞬間が現実であるとわたしに伝えていた。

 油断するとこみ上げてくる嗚咽をこらえて、わたしはまっすぐにレナルドを見つめる。同じようにわたしを見るレナルドの瞳は、わたしへのいたわりに満ちている。その榛色に何度助けられてきたか、それはもはや数え切れないほど。ろくなお返しが出来ていないのが本当に申し訳ないけれど、今が人生最大の袋小路だと悟ったわたしは、レナルドの手をぎゅっと握り返した。


「……二度目、なの」

「え?」

「わたしにとって、"今日"は二回目。……わたし、六ヶ月後に死ぬの。一回死んで、目が覚めたら"今日"に戻ってたの」


 出来るだけ、事実だけを。レナルドに、信じてもらえるように。

 短く告げた言葉は、レナルドにどう響いただろう。その目が珍しく丸くなっているのをみとめて、わたしは何故だかまた涙が溢れてきた。

 信じられないと思う。自分でも嘘だと思う。だけど、絶対に夢でも思い込みでもなくて、わたしはこの日を体験するのは二回目になる。


 だって、全部覚えている。明日からわたしがどのような日々を過ごして、どのように死んでいくか。どのように絶望して、どのように――孤独でいるか。

 そしてきっと、何もしなければ同じ未来を迎えることも。けれどどうしたらいいのかわからなくて、わたしはこうして泣きながらレナルドの部屋に飛び込んだのだ。

 一瞬ぽかんとしていたレナルドだったが、その表情がみるみる険しくなっていく。滅多に見ることがないその顔に、わたしは全身の血が冷たくなる心地がした。


「ごめんね、変だよね。でも、うそじゃないの。おかしくなったわけじゃないの。本当に、本当に――!」

「落ち着け」


 なんとか信じてもらわなければと必死で言いつのるわたしに、レナルドの声は存外穏やかだった。だけどその声の奥にも怒りがある気がして、思わずうつむいてしまう。

 そんなわたしの頭を、レナルドが撫でる。優しい手つきに恐る恐る顔を上げれば、レナルドは渋い顔のまま「違う」と首を振った。


「疑ってない。……なんで、イリスが死ななきゃならない? その理由がわからない!」

「し、信じてくれる、の……?」

「イリスは俺に嘘を吐かない」


 レナルドの口から出た予想外の言葉に、今度はわたしの方が目を丸くする番だった。

 こんな突拍子もない話を、信じてくれた。いくら家族のレナルドだって、言葉を尽くさなきゃいけないと思っていたのに。どうやって信じてもらおうとそればかり考えていたから、驚きのあまりかえって泣けてきそうだ。

 じゃあ何でこんなに怒っているのだろうと顔をのぞき込めば、レナルドはイライラとした様子で舌打ちをこぼし。


「なんでお前が死ぬんだ! 誰が殺した――俺は何してた!? お前が死ぬのを黙って見ていたのか!?」

「ち、違うよ! わたし、学院で死んで……レナルドがどうにか出来る状態じゃなくて、レナルドのせいじゃない!」

「だとしてもだ! お前、俺に助けを求めただろ!? なのにお前が死んだって事は、俺が何もしなかったってことだ! 何でそんなことになったんだ……!」

「……レナルド……」


 レナルドの怒りは、わたしが死んだこと、それを自分が助けられなかったことに由来するらしい。

 その優しさに、新しい涙が目元を濡らす。レナルドならきっと一緒に考えてくれると思ってこの部屋に飛び込んだけれど、こんな反応をしてくれるなんて予想外だった。

 レナルドは、わたしを助けようって思ってくれてる。それだけで、このわけのわからない状況も乗り越えることが出来そうで。

 まだ怒り覚めやらぬといった様子のレナルドを見ていると、わたしの頭にふと疑問が浮かんだ。


「でも、なんで殺されたってわかったの? 怪我や病気かもしれないのに……」


 素直なわたしの疑問に、レナルドが目を丸くする。そして目を閉じたかと思うと、何故だか長いため息を吐いた。


「……怪我や病気なら、おまえはきっと一人でそれを何とかしようとするだろ。それに、『神樹の娘』の力もある。万が一今の段階で不治の病にかかってるとかだったら、誰にも言わず抱え込むだろうし……俺を頼ってきたって事はそれ以外のことで、でも自分ではどうにも出来ないってことだろ」

「……レナルドって、わたしよりわたしのことわかってるかも」

 

 レナルドの言葉に、今度はわたしが目を丸くする番だった。

 言われてみれば確かにそうだ。病気や怪我なら、わたしは一人で何とかしようとしたと思う。こんな風におかしなことを言って、頭がおかしくなってしまったのだと思われる方を怖がっただろう。その恐怖を上回るほどの体験をして、それから逃れるためにレナルドを頼ったのだ、という推察はとても正しい。

 やっぱり、レナルドに相談してよかった。一つのことからこれだけ読み取れるレナルドなら、わたしが何もわからないうちに終わってしまったあの日々にも何らかの打開策を見つけてくれるはず。

 希望が見えてきたわたしに、レナルドも落ち着いたみたいだった。その瞳にたぎる怒りが収まって、いつもの穏やかなそれになる。そして安心させるようにわたしの肩をつかむと、「イリス」と優しい声でわたしの名を呼んだ。


「時間がない。明日から六ヶ月後まで、何があったか全部教えてくれ。俺は絶対にイリスのことを信じる。だから、隠し事はなしだ」

「……うん……!」


 その声には、嘘は一つもなく。

 わたしは力強く頷くと、つい昨日までの――今のわたしにとってはこれから六ヶ月先の出来事を回想する。

 

 恐ろしい貴族社会。その中で訳もわからず死んでしまう事になった、哀れな一周目の記憶を。


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