表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/11

第9話 地下三階の住人②


 十三歳くらいの少年が席へ案内してくれた。ニアと呼ばれていた少年は小柄で青い髪は長めで筋肉量も標準より低いのかホムラよりも線が細かった。


 自分のお気に入りの席に座るホムラの後ろでユキが立っている。


 自ら立つ者もいれば、椅子に座れない者も居た。


「ごめんね。今度、大きい椅子を用意するから」


 ニアは規格外の巨人――ゴウに告げた。


「おいらは地べたで十分だどん」

「ううん。まだ材料があるはずだから僕がどうにかするよ」


 そう言ってニアは奥へ姿を消した。


「で、あんた達って何したのよ。今日まで深い話を我慢してたんだから教えなさいよ」


 興味津々のホムラにアレキは事の顛末を説明した。


 ゴウが暴れたことから、アレキ自身も力が暴走してたことを。


「アレキの力は魔力操作のはずだよ?」


 この世界に召喚される前のアレキを知ってるヴェルリアがさも当然のように教えるもアレキはピンとこない。


「魔力操作ねぇ……ははっ。操作の仕方を忘れちまってるのかもしれねぇな」

「ふふっアレキサンドなら大丈夫。ゆっくり思い出しましょう」


 そう言いながらアレキの腕をがっちり捕まえるヴェルリアにホムラは目くじらを立てた。


「うっざいわねあんた。それにしてもあの女に挑んで負けちゃったのね。まったく、化け物よアイツ」


 アレキは蜃気楼を思い出して炎の力を使う異世界人がカラルナに挑んだ話を思い出した。


「ホムラもカラルナに負けたのか?」


 急に話を振られたホムラは驚いてごほっごほっと咳き込んで咳払いをすると、何も無かったように装う。


「えぇ、一般的に見るとアレは負けと言われるでしょうけれど、あたしは負けた気なんて一ミリもないわ」


 プライドが高い人という印象を持ちながらアレキは続ける。


「流石にあのパワーは凄いよな」

「うん? 剣じゃなくて?」


 アレキの時はカラルナが剣を手放していた。ゴウの指示に従ったカラルナは剣を使わなくても勝てる自信があったに違いない。一方、ホムラの時は剣を使っている。


 炎に対して、流石のカラルナも剣を使わざるを得なかったようだ。


「状況は違うが俺達は負けた者同士ってことか。そして、この牢獄に閉じ込められてると」

「違うわよ」


 ホムラはアレキの認識を訂正する。


「あたし達は好んで此処から出ないのよ? だって、面倒じゃない。この国――ヴァイキング王国でしたっけ? そのために働くのって」

「んあ? そうか?」


 アレキはゴウと過ごす毎日の仕事や、飯を食う時間が気に入っていた。どうやらホムラは違うらしい。


「あたし達の仕事はここから出なくていいの」


 ホムラとユキは自分の力を披露した。指先に1センチの炎を灯しホムラは得意げで、その後ろのユキは掌に氷の彫刻を作り上げる。


 その姿は目の前で自慢げに指先の炎を見せる姉を見事に再現し、アレキとヴェルリアは両手を叩いて歓声を上げた。


「ふふん、私達くらいになれば外で働かなくてもいいのよ。この国の人達に炎を分けるだけで、欲しい物ならある程度手に入る生活をしてるって訳」


 ホムラが指先の炎をふっと息を吹きかける動作でさえ、氷の彫刻は模倣した。


「おぉぉぉ!」


 姉が能力のお披露目を止めたのを確認し、ユキも氷の彫刻を消す。


「どうよ。こんな暮らしに満足はしてないけどねっ!」


 アレキが話を聞くとホムラとユキは同じ世界から同時に召喚されたとの事だった。その世界では冒険者という職業があり、ギルドと言われる機関が仕事を発注する。


 その仕事を受注した冒険者が魔物を倒したり護衛を行う事で稼ぐ世界だった。


 この姉妹は強力な力を持ち、大きな活躍に異名が付いていた。


 ホムラは『炎姫』と呼ばれ、ユキは『氷姫』と呼ばれている程の実力者。


 その二人がこの国へ召喚されて一番に驚いた事がある。元々居た世界とは違い、ヴァイキング王国にはギルドが存在しない。外には魔物が存在するらしく、相当な実力者だと分かったキングはホムラ達に国外の魔物討伐を告げる。


「で、このあたしが仕方ないなぁ。やってやろっかなーって思ったのよ? それで、報酬がどれくらい貰えるのかを確認したって訳よ」


 生きるために魔物を討伐する……アレキの世界にも少なからず存在した。でも、魔物は強力で殆どの人間が太刀打ち出来ない世界。だからこそ、アレキは世界中の人々の希望であったが本人は記憶が無い。


 ホムラの話を聞くと国の機関が動かしているであろう規模。その規模で魔物を討伐するのが盛んな世界を想像する。やはり、報酬は普通より多額に違いない。


「それで、いくらだったんだ?」


 ホムラはにこっと笑顔を浮かべて望遠鏡を覗くように指で輪っかを使ってアレキ達を見ていた。


「……ふむ。右と左でゼロが二つ」


 右目を閉じて左目だけ覗いていたつもりが、後ろのユキも指で輪っかを作って閉じたホムラの右目に当てていた。


「え? って、ユキ何してんのよ」

「ふふっ」


 本当に仲の良い姉妹だという事が分かった。アレキは相場を知らないのでゼロが二つだとしてもいくらなのか実は想像出来ていない。


「ゼロよ。ゼロ! 無報酬で働けって言うんでブチギレたわ。もう、やってられないから何処かに行こうと城を飛び出たのよ。そこであの女が追いかけてきて……」


 しつこいカラルナにムカついたホムラが楯突いて返り討ちにあったという顛末だった。


 国中を駆け回る大騒動で目撃情報も多く、ホムラが苦戦している姿を皆に見られ、この国――ヴァイキング王国の懐刀、カラルナ・ガーネットの名声が轟いたキッカケでもある。


 そして、話の落とし所として、二人の力を国民に提供する形で落ち着いたらしい。


 前々から住んでいた少年――エンジ・ニアとこの階で暮らしている。


「僕が作ったこの魔吸石と魔放石を組み合わせた『魔改石』のおかげで仕事が出来てよかったよ」


 ちょうど遠くに行っていたニアが大きな椅子を押し車に乗せて合流した。


「もう椅子が出来たどん!?」

「うん。僕は『作製』のスキルを持ってるから物を作るのが得意なんだ」


 異世界人は色々と力を持っている。


「ちなみに、カラルナさんの剣も僕が作ったんだよ」

「おまえだったのかー!」


 ホムラの絶叫が地下三階に鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ