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第8話 地下三階の住人①


 地下三階の牢獄へ入れられて3日が過ぎた。


 その間、両手両足を拘束されたアレキとゴウは形見の狭い生活を余儀なくされる。


「アレキ? ほら、りんごを拾ってきたわよ」


 自由に行き来するヴェルリアがお皿に乗ったりんごを手に屈んで床に倒れていたアレキの顔を持ち上げて自身の膝に乗せた。


 りんごは綺麗に切り分けられ耳が生えている。


「おう、ゴウにも食わせてやれ」

「えぇ~!? アレキの為に持ってきたのに~?」


 ゴウはカラルナに敵わずこの3日間は見て分かる程に落ち込んでいた。


「おいらじゃ、カラルナに勝てなかったどん……」

「まぁー、気を落とすなゴウ。飯を食え」


 お皿に乗った切り分けられたりんごのうち、半分の3個をヴェルリアに食べさせられたアレキが残りを譲った。


「はい。勝手に食べてよね」


 両手両足の使えないゴウの目前にお皿を置いてヴェルリアはふんっとそっぽを向く。


「おいおい、食わせてやれよ」

「えぇー? 仕方ないなぁ」


 ヴェルリアはイヤイヤりんごをゴウにも食べさせることにした。


「うまいどん。でも、カラルナに勝てなかったどん」

「おまえなぁー」


 アレキも頭を抱える。両手は後ろ手に拘束されており自由は無いが、3日前の出来事を思いだす。人類の中でゴウは圧倒的に強い部類だとアレキは考えている。全力の一撃が強力なこともあるが、それ以外も全て必殺技と言える。


 アレキが目撃した限り、ゴウのつま先がカラルナを打ち上げた時しかダメージを与えていない。それでも、人間が上空へ打ち上がる程の威力。


 普通ならそれで終わりにも関わらずカラルナはぴんぴんしていた。ダメージを感じさせない振る舞いで暴走したアレキも止める力を持つ。


 美人の皮を被った化け物。


 アレキのカラルナに対する評価が変わった瞬間である。


「それにしても、肩身が狭いな」


 地下三階の牢獄の片隅に追いやられた二人はぼーっと眺めるか話をするしかやることがない。偶にくる食事を楽しみにするしか無いが、持ってくる人間が嫌だった。


「あれー? あたしのりんごしらない?」


 午後3時のティータイムに用意していたりんごの行方が分からなくなったホムラが周りを見渡す。それに対して妹のユキに確認するも心当たりのないユキは首を振った。


「もしかして……」


 地下三階の牢獄はワンフロアになっており、とても広い。そんな中でアレキ達は片隅に追いやられている……この部屋では共同生活が行われている。


 そのため、壁も岩肌が見えないよう板が張っており照明まで存在する。


 普通の広い部屋だった。テーブルや椅子まで用意されており、ふかふかなベットまで置いてある。


 そんな中で片隅に居る拘束された二人の元にホムラが近寄る。


「げ、またあんたか」

「なによ!」


 身動きの取れるヴェルリアが仁王立ちでホムラを迎えた。


 背の低い少女であるヴェルリアと対して変わらない背丈のホムラは黒い髪の毛も短くボーイッシュな印象をアレキは受ける。そして、そんな彼女が機嫌悪そうな顔を浮かべていた。


「あたし達が話に聞いてたのは、バカ二人を見張ることなんだけど――あんた? あたしのりんご食べたでしょ」


 ヴェルリアは自信満々な顔で、ふっと笑みを浮かべた。


「私は食べてませんー。すぐ人を犯人にするのね。このちんちくりんは!」

「はぁー? あんただってちんちくりんでしょ?」

「べーっだ。私は好んでこの姿なんですー。この愛くるしいお顔に誰もが守りたいと庇護欲を掻き立てられる魅惑の少女。あなたはその……ね?」


 ぷちんと何かが切れる音をアレキは確かに聞いた。


 メラメラとホムラの周りに蜃気楼が起こり、キレイな黒髪が燃える様な紅に変化していく。そして、目が本気だった。


「ぶっ殺す」

「きゃ~」


 危機感のない悲鳴を上げながら両手両足が拘束されている巨人――ゴウ・リキを盾にする。


「やれるもんならやってみなさいよ」

「えぇ、良いわよ。あの女には事故って言うわ」


 ぎっとした睨む目にゴウは首を振るもホムラはゴウに向けて指さした……正しくは後ろに隠れるヴェルリアに向けているがどう見てもゴウを含めて今にもやりそうな雰囲気を漂わせる。


「駄目だよお姉ちゃん」


 ユキがそっと後ろからホムラを抱きしめて拘束した。


「ユキ。止めないで、今止まったらあたしがあたしじゃなくなる気がするのよ」

「だ~め」


 蜃気楼の隣でキラキラと粉雪が漂いホムラの熱を下げていく。


 白髪に負けない肌の白さを持つユキを見てヴェルリアは意気揚々とゴウから出てきた。


「妹さんはスタイルも良くて背も高いのね」

「あら……ありがとう?」


 突然ヴェルリアに褒められたユキは照れながら口元を手で隠した。


「姉と真逆ね。性格も良さそう。姉と違って仲良くなれそうー」

「お姉ちゃんとも仲良くしてあげてね?」


 ぎゅっと姉を抱きしめながらユキは小首を傾げて笑みを向けるも姉は不服だった。


「さっさとコイツラ出て行かないかなぁ」

「カラルナさんが連れて来たから……此処に住むんじゃない?」

「……最悪」


 アレキは拘束された3日の間で初めて住人の話を聞いた。いつも放置されて食料は何故かヴェルリアが運んできていたが、どうやらちょろまかしていたらしい。


「とりあえず、この3日間は大人しかったわねあんた達。聞いた話では凄く力が強いから拘束も簡単に抜けて暴れる可能性を考えていたのに」


 ゴウの両手両足は拘束されているが、剛力振りかざせば抜けるのは簡単だった。しかし、今のゴウは暴れる気も無くおとなしい。


「それで、あんた達は何したのよ」


 ホムラが巨体のゴウに隠れて見てなかったアレキを見ると椅子にした。


「なんて座り心地が良いんでしょう」

「ちんちくりん! アレキを椅子にするなぁー!」

「へぇー、アレキっていうの」


 座っていたアレキの顔を見てホムラは点火したように頬が赤くなった。そして、ヴェルリアに懇願する。


「あんたの男? 頂戴!」

「え……はぁー!? アレキはあんたになんかあげないわ!」


 何故か自分を取り合う流れにアレキは疑問を浮かべていた。


「まず、俺は誰のモンでもねーよ」

「ふふーん。そう、フリーってことね」

「ちーがーいーまーすー。アレキはヴェルリアのですー」


 ヴェルリアは地団駄を踏むも何故、アレキがこう……女性に好まれる傾向にあるのかが理解出来なかった。女の勘でシュリルって子も好意を抱いてそうだし。


 世界を救った英雄の頃はそんなにモテてなかったはずなのに……と自分で撒いた種を記憶から消していたヴェルリアは答えを導き出せずに悶々としていると、これまたちんちくりんな男の子が姿を現した。


「そういえば、もう時間だよね。拘束を解くよ」


 ニアが細いナイフを手にアレキとゴウの拘束を解いた。

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