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第7話 管理者ガーネットの倒し方④


 誘拐され助けを求めた張本人――シュリルはゴウが飛び出た後に呆けてしまった。


 シュリルを誘拐した理由を考える。模範的な異世界人であるゴウが暴れた理由……シュリルを捕まえた直後に開放した。


 どうして開放したの?


 シュリルは疑問を浮かべていると轟音鳴り響き我に返った。


『おいらが出ていった後はアレキの所に行けば大丈夫だどん』


 ゴウの言葉を何度も脳内で繰り返しアレキとゴウが作り上げた砦から飛び出す。


 さっきまで隣にいたゴウが地面に倒れていたのを横目にシュリルが走り抜ける。目的は砂煙のところで知らない女性と話をしているアレキのもとへ。







「あの、えっと」


 駆けつけたシュリルに気づいたアレキは無理やり笑顔を作った。


「無事だったか。危ないから下がりな」

「はい! ちょっと、アレキさん待ってください」


 身振りで下がれと言いゴウの所に向かうアレキを呼び止める。


「ゴウさん……謝ってたんです。だから理由があると思ってて……」


 ゴウが暴れる原因、理由、主張。その全てにアレキは心当たりがある。異世界人を管理するカラルナを倒すとゴウは言った。


 アレキと二人で作り上げた砦にシュリルを連れ込み、何をしたのか知らないが直ぐにカラルナが駆けつけた。


 ゴウの目的であるカラルナを呼ぶ事がシュリル誘拐の目的。そして、朝浮かない顔をしていた理由は何だ? 今日は仕事を殆どしていない理由は?


 アレキは脳内で点と線が繋がった。ゴウはカラルナと決着を付ける決意をしていたと。


 全力を出したゴウは魔力が回復するまで力は出せないと仕事中に言っていた事をアレキは思い出す。みんなの飯を食らった理由は明白だ。


 アレキも腹が減っては戦が出来ない。


 万全の状態でゴウはカラルナに挑んだ。


「任せときな。俺が二人を止める。危ないからこの辺の人を遠くに避難させてくれ」


 アレキはそう告げて走り出した。既にゴウは立ち上がり全身に力が入っているのが見て取れた。顔も真剣そのもので殺意さえ感じる。


 一方、カラルナは涼しそうな顔で一歩ずつ……ゆっくりとした足取りでゴウとの距離を詰めていた。


 アレキが二人の側に到着した時にはぶつかった。


 ゴウは右腕を振り上げカラルナは右手を握りしめ腰の隣に引き……振り下ろされる鉄槌に向けて打ち放った。圧倒的な破壊力をアレキも体験している。二メートルをゆうに越え、三メートル近いゴウが繰り出す拳をアレキより背の低いカラルナが打ち返す。


 ぐちゃぐちゃに潰されるカラルナは想像に容易い。でも、現実は違った。


 両方の拳から轟音鳴り響き、お互いの体が弾かれる。破壊力は、ほぼ互角。体重が軽い分、カラルナが後方に距離を取ることになった。


「おいおい、まじかよ」


 直ぐにカラルナはゴウに飛びかかり左脇腹に殴りかかる。痛そうな表情をしたゴウはすかさず足で蹴り上げようとするも、カラルナはひらりと躱した。


 その後も、カラルナの攻撃がゴウに当たりゴウが辛そうな表情を浮かべている。


「もうやめようぜ。ふたりとも!」


 非力なアレキは呼びかけた。身体能力の差があり、二人を止めるには絶望的に弱いアレキの主張。


「無事で何より。でも、危ないから貴方は離れなさい」


 涼しい顔でアレキの無事と安全に気を配るカラルナ。


「おいらが諦めたらだめだどん。おいらが立ち上がってこの国を変えるどん」


 苦しい表情のゴウはカラルナと比べて対照的だった。何度かカラルナの攻撃が響いているのは明白。


「おまえがやろうとしているのは反逆だ。この国の為を思うなら……大人しく捕まりなさい」

「おいらが、おいらが頑張るんだどん!}


 アレキを無視してゴウは魔力を全身に込めた。


「死んでも後悔は無いな?」


 カラルナの冷たい声色にアレキは背筋がぞっとした。


「おい、ゴウ!」


 アレキの言葉は届かない。ゴウは両腕を大きく振り上げ、その場で地面に叩きつけた。そして、ドンっと砂埃が飛び交う。


 ゴウが繰り出す攻撃は今までカラルナに当たっていない。事前の予備動作から大ぶりのゴウを冷静に判断してカラルナは躱していた。


 じゃあ、日頃からトンネルを掘り細かい砂が撒き散らされた仕事現場でゴウが視界を奪ったら?


 決して、ゴウは動きが遅い訳では無い。圧倒的な破壊力を誇る一撃が目立つだけで、脚力も優れており距離を詰めるのも得意だった。


 一瞬とはいえ、視界を奪われたカラルナがゴウの繰り出す攻撃を全て躱すことが出来ない速度。


 カラルナは神秘的な反射神経で砂埃の変化に対応し、身を屈めてゴウの攻撃を避けた。何度も避けられたゴウは『避けるだろう』と判断し、屈んだ所をつま先で蹴り上げる。カラルナは蹴り上げられる瞬間、腕でガードしたが威力を消し去る事が出来ずに五メートル上空に飛んだ。


 カラルナは空を自由自在に飛べない。


 真上に飛ばされたカラルナは、真下に落ちていく。


 落下地点を押さえれば躱しようが無い。


 アレキはゴウの目を見た……ゴウも理解している!


 今が最大のチャンスで、カラルナを仕留める為にあの日みた全力の一撃……それは岩を通り越して数十メートルの空間が出来る程の破壊力。


「ゴウ。殺すのか?」


 アレキの声にゴウは我に返った。


 落下地点に待ち構えていたゴウは後ろに飛び退いてカラルナと距離を取る。その間に、カラルナは着地した。

 

 直後、カラルナはゴウとの距離を詰め止まらない。


 アレキは二人を止める気だったが止まらない。止め方が分からない。


「おいおい。これじゃあ、どうにもなんねぇじゃねぇか」


 アレキにできる事……何が出来るのか。


 直前の記憶、アレキは居ても立っても居られず。ゴウの拳がカラルナに当たると思った時を思い出す。


 あの時は死にものぐるいだったから、何が起きたのか理解していない。気がついたら困惑するカラルナの顔を見た後に殴り飛ばされた。


 そして、気がつくとヴェルリア・アカシックと名乗る少女が目の前に現れる。


 アレキはあの時の感覚を必死に思い出そうと踏ん張った。あの時は間に入って二人を止める為に……異世界人には力が備わっている?


 ゴウは魔力を元に身体能力を向上させる。カラルナも恐らくゴウに近い力を持っている。


 では、アレキには何ができる?


 魔力を使って……アレキは掌を殴り合っている二人に向けた。


「あんときの感覚……わかんねぇ。こう、気合を出すような感じだった気がするな」


 自分と対話するアレキは『気合!』と心で思いを込めた。


 ゴオオオオンと大きな音を出しアレキは後ろにひっくり返った。


 勢いに負けて倒れたアレキが起き上がると、砂埃を巻き込みカラルナとゴウが倒れている。


 今なら二人を止められる!


 そう思ったアレキは距離を詰めるには気持ちが前のめり過ぎた。


 魔力を足元から噴出し気がつくと地上から十メートルはゆうに超える地点に漂っていた。


「なんだ?」


 気がつくと体に落下する感覚が襲いかかりアレキは焦り始める。


「うわ、やべぇぇぇぇ落ちる」


 必死に落ち無いよう抗うアレキは右手から魔力を噴出し更に移動した。


 次に気がつくと壁に向かって激突しそうになりアレキは慌てて掌から魔力を噴出する。ゴオオンと鳴り響き民家の壁に大穴を開けゴウ達の上空を飛んでいた。


「助けてくれえええええぇぇぇぇぇぇ――」


 二人で殴りあっていた矢先に突風が巻き起こり二人は地面に倒れていた。だが、アレキの叫びにゴウとカラルナは何が起きたのか理解した。


 まるで瞬間移動のようにアレキが飛び交い、接近する壁に何かをして移動している光景を見る。


 一軒、また一軒と家の屋上が吹き飛びアレキの叫びが鳴り響く。幸いにもシュリルがこの周辺の住民を避難させていたので、人的被害は存在しない。


「おいらが受け止めるどん。こっちに来るどん!」


 ゴウの声を聞いてアレキは両手を後ろに回して狙いを定めて――魔力を解き放った。圧倒的な身体能力を誇るゴウなら軽く止められるに違いない。仕事を通じて芽生えた友情、信頼。その全てを信じたアレキは向かう方向だけを間違えた。


 一直線にカラルナの元へ飛んで行くアレキ。自身に向かってくる事を察したカラルナは叫んだ。


「ゴウ。全力で強化しろ!」


 はカラルナへ向かっていた事にアレキ気が付き、急いで両手を前に向けるも躊躇ってしまった。


 ここで魔力を出したらカラルナが……吹き飛ぶ?


「うわあああああああ」


 アレキの情けない悲鳴とは違い、カラルナは右足に力を込めてアレキを迎える。


 差し出したアレキの両手はカラルナの柔らかさに包まれながら地面を数十メートル引きずり地面に着地する事が出来た。


「……あんがとな」

「とりあえず、二人共。地下三階で頭を冷やして貰う」


 言われた通り魔力全開で自身を強化し、燃料が切れたゴウも大人しく拘束された。

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