第4話 管理者ガーネットの倒し方①
アレキはガリガリと硬いパンを噛み砕いて飲み込んだ。そして、水を飲み干して朝食が終了。昨日の夜は薄い肉を多少食べる事が出来た。満腹とは言えないが満足ではある。
そのアレキが立ち上がり伸びをした。
「うっしゃー。今日も仕事をしてくるかぁー!」
「おまえさんは元気じゃのぉ」
地下1階の牢獄がアレキに提供された部屋……ドクターの向かいが丁度空いており、アレキはそこで寝泊まりしていた。
「ドクター俺はもう行くぞ。飯も出て寝るとこも用意されてることに驚いたわ」
がっはっはと大声で笑うアレキに対してドクターは呆れていた。
「そうじゃのぉ。もっと旨い飯やふかふかのベッドだったら申し分ないがな」
「これよりも旨い飯と寝床が世の中には存在するんだなぁ」
ドクターはアレキが記憶喪失だという事を思い出し。物を知らないと幸せに生きれるんだと関心を持つ。そんなアレキが今日も仕事の時間が訪れると牢が開いた。
「んじゃな」
「うむ」
ヴァイキング王国では異世界人に首輪を付けている。そして、牢の開閉も自動となっていた。首輪を付ける事で微量ながら異世界人の魔力を奪い取り、牢の自動開閉を含めて操作している。
首輪の位置も把握出来るようになっており、カラルナ含め管理者が把握していた。
もしも、首輪を破壊するような事があればカラルナが対象者を捕まえる事になっている。
逃げた異世界人を捕まえた後は限界ギリギリまで日々、魔力を奪われてヴァイキング王国の資源となる事をアレキはまだ説明されていない。
肉体労働に向いていないドクターはアレキやゴウと違い、多くの魔力を奪われている。ヴァイキング王国にとっては生きているだけで資源になる人材が異世界人である。
「よ」
「おはようどん」
大あくびをしながらどしどし歩くゴウ・リキとアレキは合流した。
「今日も昨日の続きをやるか」
「がんばるどん。アレキは他の人よりガッツがあるから細かい作業を任せられるどん」
主に掘削作業はゴウ・リキが大胆に行っているが細かい破片などの処理をアレキが担っていた。労働者はもちろん、異世界人だけではなく。ヴァイキング王国の民も手伝っている。重い岩を運び出すのは重労働で数時間働くだけでバテてしまっていた。
そんな環境に突如として現れた新生。アレキの体力はゴウが想像していたよりも凄く、昨日は途中で合流したが最後まで涼しい顔で動き回るアレキを高く評価している。
「今日もとりあえず頑張ってよぉ。昼飯を食おうぜ」
「分かったどん。それじゃ、気合を入れるどん」
ゴウは魔力を込めて力を使う。筋力を強化した肉体を匠に操り、目の前に存在する壁へ強力な一撃を叩き込んだ。
轟音が鳴り響き昨日よりも砂煙が舞った。今まで岩壁だった場所に数十メートルの空間が姿を現す。
「ゴウ! すげーなおまえ。これなら向こう側まで簡単に終わるんじゃね―か?」
「ふぅー。一気に力を使ったどん。休憩しながら瓦礫を片付けるどん。もう1回やるには一時間くらい魔力を回復させるどん」
異世界人の持つ強力な能力は自身の魔力を消費して行使する。ゴウ・リキの首輪から奪い取る魔力量はドクターやアレキよりも少ない。主に仕事へ能力を発揮させる為に管理されていた。
異世界人が保有する魔力量もばらつきがあり、奪い取る量も調整を行わなくてはならない。その為、カラルナ――管理者が異世界人を観察する必要があった。
魔力の吸収量は個々に調整が行われる物だが、ヴァイキング王国に存在する異世界人の中で最も保有する魔力量が少ない人物――召喚士のシュリル・サモナーを基準にアレキの魔力が奪われている。
「細かい破片は任せろ」
アレキはせっせと拾い上げては指定の場所に捨てる。数回……数十回繰り返しているアレキはゴウに呟いた。
「なぁ。もっと道具とかあれば楽に運べると思うんだが?」
「仕方ないどん。道具を作る人が少なくて回ってこないどん」
「ちっ。頑張るしかねーってことか」
幾度もなく往復してアレキは気づいた。ゴウの動きが圧倒的に遅く昨日と比べて往復するまでの時間も圧倒的に掛かっていた。
「ゴウ、疲れたのか?」
「そんなことないどん。次に向けて魔力を節約してるどん!」
魔力の節約。アレキよりも体のデカいゴウは力を使わなければ俊敏に動く事が出来ない。普通の人よりも労力が掛かる。腕を動かすだけでも消耗される体力差があった。
「魔力かぁー」
一方、アレキは魔力の使い方もよく分からず感覚が分からない。召喚されたアレキにも、異世界人が保有する異能があるはずだが、自覚はない。
ゴーンとヴァイキング王国に鐘の音が鳴り響く。
「ごはんだどん!」
しゅたたたたーっと、軽快な足取りでゴウは昼食に向かって走り始めた。
「おいおい節約してんじゃねーのか! おれも飯くいてぇー、置いてくな!」
天災に伴う復興をしていた人達と合流し昼食を二人は頂く。
「お昼になりますよー」
「うっし。食って仕事するぞー!」
ひときわ元気なアレキに対し、昼食を運んできた女性は驚いた様子でアレキを見た。
「ん? 早く食べようぜ」
「は、はい!」
配給所にて支度を終え、鍋いっぱいのスープを運んでいた女性――シュリル・サモナーはアレキに釘付けだった。
あの日、召喚されたアレキ。ゴミの塊に人が入ってるなんて想像してなかった。召喚士である自分のミスだと反省した。
カラルナから話は聞いていたけど、シュリルの目にはゴミまみれのイメージは無く、元気な青年。
「ぼーっとしてんな。大丈夫か?」
少々、呆けていたシュリルは両目をぱちくりさせて口を開いた。
「シュリルです!」
「おう、アレキだ」
焦った召喚士はとりあえず自己紹介していた。