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フルールの白いエマシン・四十男、異郷で人型マシンを駆る。  作者: ninth
【第01章】フルールの白いエマシン
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【第07話】盗賊

ヘイノ村を守っていた二体のエマシンは、この手で血祭りに上げた。

責務を果たした後、私は疲れを癒やすために、この建物で身体を休めている。

外から届く物音が消えて久しい。部下たちに一任した村の制圧は滞りなく進捗しているようだ。


何の憂いもなかった。ゆったりと寛いだ気分である。

ソファに深く腰掛けたまま、大きな暖炉を見遣った。大量の薪が、勢いよく燃えている。

揺らめくオレンジ色の明かりが、私の膝の間で跪く女性の裸体を、艶めかしく照らし出していた。

涙を流す苦悶の表情。喘ぎ声を漏らす唇からは、粘つく唾を垂らしている。私のいきり立つ怒張を咥えさせているからだ。


暖炉の脇で控えさせているラーフタを見遣る。視線が合うと額の汗を拭って、指示を伺うような目をしてきた。


「ラーフタ。もっと薪をくべたまえ」

「はあ。しかし、ズダン様。もう、ずいぶんと暑いようですが」

「君は、そうだろう。でも、お嬢さんたちを見たまえ。裸なんだ。気が利かないと女性には、もてないぞ。んんッ……、さっきから、どうも具合が悪い」


奉仕を命じてから数分。一向に昂ぶることが出来ない。

田舎の村娘だ。知識が足りないのだろう。両手で頭を掴んで、教え諭すように、前後に動かしてやる。

唇の締まりがなく、舌が這ってくる気配もない。生暖かく、ぬるりとした感触が、行き来をするだけだ。


「もう少し、真剣にしたまえ。それでは、少しも気持ち良くない。後、五分の間に私が達さなければ、首を刎ねる」


脅しやっても、自発的に動き出そうとはしなかった。

仕方がない。これは外れだ。

腕が疲れるのを顧みずに、思い切り頭を引き寄せて、喉の奥深くに何度も突き込んでやった。


「ぐ、ぐぼッ……、ガホッ……、ぐっぽッ……、げぽッ……」

「死にたいのなら、そのまま抵抗をし続ければいい。……そうだ。それで……ッ……、貴様ッ!!」


ソファに置いた剣を手にして、振り払う。

髪の長い生首が、床の上を転がっていった。頭を失った細い身体が、木の床に、血だまりを作り始める。

血しぶきが届いたのだろう。部屋の隅で身を寄せ合う七人の女性が悲鳴を上げていた。


「ズダン様。何も殺さなくても。綺麗な女でしたのに……」

「女の代わりは、いくらでもいる。だが、私のこれは一つきりだ。それを噛み切ろうなどと。捨ててこい。……いや、待て。このまま、無駄にすることはない。デッズを呼んでこい」

「……デッズですか。ここには来させます。俺は、しばらく戻ってこなくてもいいですかね。あれは、ちょっとさすがに……」

「もたもたするな。温かい内が奴の好みだ。すぐに連れてこい」

「分かりました。俺は、戻ってきませんからね……」


ラーフタが部屋を出てから、三十秒ほどが過ぎると、ドアを叩く音が届く。

こんな気障な真似をする奴は他にいない。


「アグナーか? 入れ」

「失礼する」


冷ややかな声。扉を開いて現れたのは高身長の優男。

整った顔立ちには、入れ墨どころか傷跡一つない。

床に転がった首を見遣った後、芝居がかった仕草で眉をひそめてきた。


「越冬に備えて財産を蓄える。目的を、お忘れか?」

「口出しは無用に願おう。お客人」

「外の様子と合わせて、報告はさせて貰う」

「ゴズフレンは、どちらの言葉を信じるだろうか?」

「頭領が、私にお目付役を任じた。その事実からお分かり頂けるかと」


余裕のある表情が勘に障る。三ヶ月前ほどに入ってきた流れ者。

一目見た時から気にくわなかったが、エマシン乗りとしての腕は確かだ。


「それで? 逃げたエマシンと、女どもは?」

「二体のエマシンは私の手で討ち取りました。一体目を倒した後、女の足取りを掴んだので、そちらはアウルさんとバンデさんにお任せしています」

「なぜ、後を追わずに戻ってきた?」

「……まさか。既に、お戻りかと思っていました。お二人と別れたのは七時間ほど前でしたので」

「すぐに向かってくれ」

「お断りします。私は、次のヨエル村へ向かわなければなりません。約束の時間が迫っています」

「ゴズフレンには、私から説明する」

「村長の孫、確かリネアでしたか。近隣に名を知られるほどの器量よし。傷物になったと知ったら、頭領は失望するでしょう。ましてや生きていないとなったら」

「だから、頼んでいる!」

「頭領への説明は、ご自身でして下さい。では、私は急ぎますので」

「貴様ッ! 待て!」

「そうそう。いい加減、その醜悪なものを仕舞ってくれますか? 見るに堪えない。それでは」


股間に一瞥してきた後、背を見せた奴は部屋から去って行く。

忌々しい。一連の襲撃が済んだら、他の連中に声がけして、ゴズフレンの目が届かないところで始末する。

睨み付けていた扉が、勢いよく開く。ひょろ長い身体をした男が、身を屈めながら扉をくぐって来た。


「二人、捕まえてきた」


両手に掴んでいた女たちを部屋の隅へ放り投げる。相変わらずの馬鹿力だ。

悲鳴を上げていた女たちが絶句する。暖炉の明りに照らされたデッズが目に入ったのだろう。

獣じみた顔が笑みを浮かべている。食いつかんばかりの視線を、首のない女の裸身へ向けていた。


「お前にやる。ただし、愉しむのは後にしろ。今すぐに、アウルとバンデの後を追え。リネアを捕まえてくるんだ」

「そんなッ! それ、まだ絞めたてじゃねぇか。あんまりだ!!」


泣きそうな顔をしながら、ベルトを緩め始める。

言い聞かせて分かる奴じゃない。ため息を吐いてから、部屋の隅で身を寄せ合う女どもを指さした。


「後でもう一人、首を刎ねてやる。だから、言うことを聞け」

「ズダンさん! 俺、感動だ! いっぺんに二人もくれるなんて! いっつも殺しちゃならねぇ、ばっかりなのに」


奇怪な顔に満面の笑み。慣れれば、これはこれで可愛い。

首のない女をデッズが肩に担いだ。


「俺、すぐに行ってくる。これは、持っていくだけ。愉しむのは後。ちゃんと分かってる」

「頼んだ。それと、もし何か変わったことがあれば、伝えに戻ってこい」

「……それ、今でもいいか?」

「何があった?」

「さっき聞いたんだ。森の中に、見たことない白いエマシン。こっちに向かっているから、ズダンさんへ知らせるようにって」

「……早く言えッ!」

「言おうと思ってた。でも、これがあったから……」

「他には!? 聞いたことを全部、伝えるんだ」

「もう全部、言った。聞いたのは、それだけ」

「憶えているのが、だろう!? クソッ、エマシンに乗れ。迎え撃つ」

「敵なのか?」


知能の低さに唖然とする。

仲間のエマシンは五十二体。白いエマシンは一体もいなかった。

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