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溺愛してくる王子との婚約破棄を宰相に求められたので、得意魔法《土ぼこ》で貴族令嬢は国を豊かにして価値を示す

作者: ほのぼの炎

「貴方と王子様の結婚を認めるわけにはいかない。婚約は破棄させてもらう」


 あたしに向かって、皺が目立つ初老の男性――ヘラ王国の宰相が、厳しく言い放つ。


 ヘラ王国第一王子のハンスが、あたしの肩をそっと抱き寄せてくる。


 その温かい手が、あたしの心を癒やす――金髪碧眼のすらりとした長い手足を持った男の手が。


「宰相殿、それはダメです。俺の婚約者は彼女しかいない。ルイス・ミチティムしかいないんです」


 太陽のように輝かしい目で、彼は笑う。


 宰相のベーリックはぐっと歯軋りし、あたしを睨んだ。


「ルイス・ミチティム。貴様はかつて、ローディア王国のアクヤ王子に婚約破棄されたそうだな」


「――」


 そう、あたしは将来を誓い合った男性に一度約束を反故されている。


 だから、イメージは良くないだろう。


 でも、なのに……あたしの肩を掴む手が温かい。


 あたしを強く、守ってくれている。


「宰相殿、俺の婚約者は彼女以外にいません」


「ぐぬぬ……ハンス王子、この私めが是非ともその女の尻尾を掴んでみせます! おかしな噂だらけのその女の正体を、白日のものにしてます! ご覧下さい!」


 宰相ベーリックは指差した。その方向には、ローブを羽織った怪しげな男が。


「……予言します」


 予言? よく見れば、水晶を持っている。


 ということは占い師らしい。


「いわれ無き噂をする者は、いつか土下座するでしょう」


 占い師の言葉を聞いた宰相は大笑いした。


「はっはっは、聞きましたかな? ルイス・ミチティム! お前は莫大な魔力を持つとか近衛騎士隊長より強いとかおかしな噂を祖国ローディア王国で流したらしいが……お前のような若娘がそんなこと、できるわけがない!」


 宰相はきりっとあたしを睨み付け――とうとう、あたしと宰相の間にハンスが立った。


「お止め下さい。その噂……実は全て真実です」


「王子……洗脳されているのですね」


 宰相は涙ぐむ。


 いや、洗脳なんてあたししてない。


「その馬鹿娘に世間の厳しさを分からせてみせます! どうせ……公爵令嬢だった地位で他者に無理矢理怖い噂を流させたのでしょう」


 ハンスは、溜息した。


 金髪をかいて、彼は振り返ってあたしを見る。


「行こう、ルイス。ここにいても埒があかないし、俺は正直……宰相殿が可哀想だと思うから」


 可哀想?


 どういうことだ?


「一週間くらい、このヘラ王国を見て回ろう。それでベーリック宰相も……考えを変えてくれるさ」


 ハンスははにかみ、あたしの手を引く。


「冷たくて気持ち良いね、ルイスの手」


「もう……ハンス、女性を揶揄うんじゃありません」


 あたしは手を引かれるままに歩みを始める。


 目の前の素敵な笑顔に胸を焦がれながら、どこか楽しみを予感して。





 馬車内。


 あたしはハンスと一緒に王都近くの農場を見る。


 そこは、無惨にも荒れ果てている。


「酷いわね……」


「でしょ? これがヘラ王国だよ。ルイス姉さんのいたローディア王国より、土地が痩せてて荒れてるんだ」


 というより、干ばつ化してる場所もちらほらある。


 日照りが強く、ろくな水分もないのだろう。これでは雨が降ってもどうせ大した潤いにさえならない。


 土地が死に近づいているようだとあたしは感じた。


「つまり、『あたしの魔法』でよくすればいいのね?」


「うん。お願い」


 ハンスは首肯した。


 言質ゲット。あたし、ことルイス・ミチティムはローディア王国の公爵令嬢であった。


 そして、あたしの家で幼少期から一緒に暮らしていたハンスはヘラ王国の第一王子と最近知らされた。


 だからハンスは今でもあたしのことを姉さん、とついつい呼んでしまったりする。


 そこがどこか可愛らしい、あたしはそう思っている。


 ……王子のハンスが許可を出したなら、あたしの魔法でこの土壌を少々豊かにして良いはずだ。


「《土ぼこ》」


 ぼこ。ぼこぼこ。


 ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ。


「な、何だべ!? 一瞬で土が……ぼこって隆起したべ!」


 近くにいた農民の人があたしの魔法を見て驚いている。


 そんなに驚くだろうか?


「すんごいべ。これやった方はきっと神様に違いないべ!」


 農民の人が驚きすぎてて、あたしはくすりと笑ってしまう。


「ハンス、神様だって。普通にただ《土ぼこ》っていう土魔法の初級をやっただけなのにね」


 あたしの言葉で、ハンスは顔が引き攣る。


 え、何? あたし何かおかしいこと言った?


「……ルイス姉さん。普通の土ぼこで、こんなことにはならない」


「まぁ、多少は普通より魔力は多いわね」


「多少、じゃない」


 ハンスの顔がさらに引き攣る。


 全く、これじゃあたしの魔力がパワフルみたいじゃないの。


 あたしはか弱い女なのよ。


 失礼しちゃうわ。


「まぁ、これでこの土地を耕す人達が笑顔になってくれたらいいわね」


「……そうだね」


 ハンスは苦笑する。


「あ、もうすぐ……この辺りの有力者の家に着く。気難しい農園管理者なんだけど、気をつけてね」


「分かった。怖くなったらハンスの後ろに行くわ」


「うん。まぁ……農場でルイス姉さんが俺より弱いってことは無いだろうけど」


「……」


 それは、言わないで……。






 農場周辺にある大きな民家。


 そこをあたしとハンスは訪問する。


「こんにちは。第一王子のハンスです。こちらにカルチ様はいますか?」


「おう、俺だ」


 ごっつい男だった。筋骨隆々で禿頭。日焼けした肌。


 まさに、力仕事って感じ、怖い。


「何か用か?」


「えっと……この辺りで荒れた農場があれば、是非無料で耕すのでお借りしたいのですが」


「何だと!? 農業、舐めてんのか!?」


「……舐めてません」


 ハンスは首を横に振る。


 カルチという人は舌打ち、王子に舌打ちするなんて……。


「畑仕事は大変なんだよ! 何だ、その綺麗な貴族服は! 上質のシルクに綺麗な金や銀の刺繍、そんななりで畑耕すなんて、舐めてんだよ!」


 言ってることはもっともだった。


 ……そうだよね。うん、そうだ。


 しかし、ハンスはにっこり笑って指差す。指差した方向には、荒れた農場……というか干ばつ地帯が。


「あれ、昔農場でしたよね?」


「あぁ、それがどうした?」


「あそこを耕してもいいですか?」


 カルチは今にも暴れ出しそうなくらい、ぷっつりと怒り皺が出てきた。


 煽られている、舐められていると感じたのだろう。


「やれるもんならやって見ろよ……お貴族様よぉ!」


 カルチは扉を閉めて、玄関を離れて行く足音が聞こえた。


 どうやら、嫌われてしまったらしい。


 はぁ、あたしの結婚生活はこんな日々が続くのだろうか?


「ルイス姉さん」


「何?」


「あれ、お願い」


「じゃあ、移動しましょう」


 あたしとハンスは再び馬車に乗り込み、干ばつ地帯まで移動。


 あたしは、驚く。


「……ちょっと水分、なさ過ぎね」


「分かった。《水流弾》!」


 ハンスが水の魔法で干ばつ地帯を少し潤す。まぁこのくらいあれば、いけるかな。


「《土ぼこ》」


 ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ。


 干ばつ地帯は、一瞬で耕された。


 良し、これで大丈夫だろう。


 あたしの《土ボコ》は少々他の人と違う。


 まず規模と量。


 普通の土ボコは精々小石くらいのぼこっとした隆起を作るが、あたしは二メートルくらいの高さまでいける。


 さらに、あたしは一万の土ボコくらいまでなら一秒で作ることが可能だ。


 普通の人は一秒で一つ、作れるかどうか。


 さらに土ぼこが初級魔法とは言え、魔力を使う。人の魔力量の限界はある。


 普通の人が土ボコをするなら、一日数百回が限界だろう。


 あたしは一万土ボコを一万回やって漸くへとへとになる。


 ……さらにもう一つ、あたしの土ぼこはどうやら土の品質を良くするらしいのだ。


 黒い土になる。


 この土がなんなのかはよく知らない。


「よし、これで終わりね」


 あたしは一仕事終えたとばかりにハンスに笑いかける。


「お疲れ様、ルイス姉さん」


 あたしとハンスは笑い合う。


 ずーっとこの時間が、続けばいいな。


 と思ったら、


「は、ハンス王子~!」


 馬を使ってかけてくる筋骨隆々の男が、叫びながらやってきた。


「ハンス王子! 大きな音がして急いで来てみれば……その、これは何です!? なんか、干ばつ地帯が黒い土になって……全て耕されているではありませんか!」


 ハンスはカルチへにっこりと微笑む。


「えぇ。これはルイスの力です」


「ひ、姫様の?」


 ひ、姫様!? まだ婚約中だ!


 ちょっと恥ずかしいな。


 あたしは微笑む。


 カルチはびくっとなり、あたしの耕した大地へと近付き――、その土を食べた。


 えぇえええ!? 食べるの!?


「……ハンス王子、ルイス姫、俺は長年農業をやってきた。この土は、凄いな」


 何が凄いのだろう?


 土を食べて良いかどうか判断する方が余程凄い気がするが……。


「この土、全部チェルノーザムですね」


「何、それ?」


「……土作りがいらない土です。この土なら落ち葉を落としたり肥料を撒く必要がないでしょう」


 えぇえええええ!?


 いらないの? そんな凄い土だったの?


「カルチ、お願いがあるんだが」


 カルチは畑からハンスへと振り返り、敬礼した。先ほどまでとは偉い違いだな。


「俺とルイスの婚約を支持してくれないか? あと……他の村に、俺達を支持するように推薦状を書いて欲しい」


「お、お安いご用です!」


 カルチは笑顔になって、ハンスに向かって跪いた。


「この村……いえ、全ての農民がハンス王子とルイス姫に忠誠を誓うとお約束します!」






 馬車内。


「まさか、あんなに評価されるなんてね」


「ルイス姉さん……姉さんはまだ自分の《土ぼこ》が異常だと思ってないのかい?」


「普通よ」


「普通じゃ無い。その《土ぼこ》は……世界を救うことになるかもしれないほどの力だ」


「……あたしは救世主でも戦士でもない。ただのか弱い、乙女だから」


「……こんな大それた力を持ってるっていうのに、謙虚なのか意地っぱりなのか……」


 くっくと目の前の元義弟かつ王子は笑う。


 そして、優しく手を抱きしめてくる。


「――」


「ルイス、好きだ」


 金髪が軽く揺れて、その間から真剣な眼差しの碧眼があたしを捉えて放さない。


「――」


 ドクン。


 心臓が揺れる。


 あたしの心がどんどん揺さぶられていく。


「君を評価しなかったローディア王国は間違ってる」


「……きっと相応の評価よ」


「ヘラ王国で、君の価値を証明する。一週間、俺と一緒に農場を回ってくれ。君の《土ぼこ》で君の価値を証明する」


「えぇ」


 あたしは頷く。そう、この力は……国を豊かにするだろう。


 あたしはきっとそれをすれば、目の前のハンスにだって認めて貰えるはず。


 ふと、彼が近づいてきて……あたしの唇を、彼の唇が塞ぐ。


「――」


 それは一瞬のことだった。


 あたしは何も考えることができなくなり、あたふたと馬車の中で恥ずかしがる。


「……ハンス」


「ルイス。言っておきたいんだが」


「……何?」


 あたしが彼の方を向くと、太陽のように輝く碧眼と目が合う。


 恥ずかしいけど、見る。


「俺はね、ルイスが土ボコを使えなくても……王妃にしたいと思ったと思う」


「何でよ」


「面白いから」


「……?」


「努力するくせに、努力してない。女であることを捨てたような魔力と騎士の修練の日々を送るくせに、女だと言い張る。そんなルイスが面白い」


「えー、なんかその理由嫌ー!」


 嘘だ。本当は言われて嬉しい。


 確かに……一日十六時間、魔法剣の修行をした時もあった。


 滝に打たれながら、落ちてくる丸太に向かって土ボコをした日々は……女を捨てていたかもしれない。


 だがそんなあたしのか弱く見られたい、という心に目の前の男は付き合ってくれるのだ。


 王宮でどれだけ居場所がなくても、あたしの居場所になってくれる。


 そんな目の前の人が、好きなのだ。


 くっくとハンスは笑い、あたしは微笑む。


「ハンス、あたしもハンスのこと好きよ」


 すると目の前の男が慌てふためき、顔が紅潮する。


「……言われると、ちょっと恥ずかしいな」


 いや、ハンス……貴方、あたしに結構言ってるけどね。


 好きって。


「ハンスの顔、いつもより赤くなってる」


「えー、恥ずかしい!」


 ハンスは顔を両手で隠す。


 ……いつも凜としてる彼がこういう反応するのはなんか新鮮だ。


 偶には揶揄うのもいいな。


「……ハンス、あたしをヘラ王国に連れて来てくれてありがと。これから二人で、頑張ろうね」


「――うん!」


 あたし達は笑顔で王城に戻るのだった。






 一週間後。


 王城の大広間で、あたしとハンスは再び大臣と対面した。


 一週間で土ボコを繰り返し、あたしはかなり農民に感謝されて署名が集まってる。


 これなら少しは、認めて貰えるはずだ。


 婚約破棄。


 それを破棄してくれるかもしれない。


 婚約破棄を破棄ってややこしいな。


 ハンスは真剣な面持ちで、農民から貰った署名をベーリック宰相に渡す。


「宰相殿、これが……民意です。農民に関しては、多くの者がルイス・ミチティムを支持してくれると言ってくれてます」


「ふむ……」


 ぺらりぺらりと宰相は署名を読んで行く。


「本物のようですな」


「はい。俺達の婚約を認めて下さい。俺は……ルイスが好きなんです」


「……一つ言わせて下さい」


「何ですか?」


 ゴン! と大きな音がした。


 宰相が手を床につき、土下座をした。


 頭が床に当たって大きな音がなったのだ。


「ハンス王子、ルイス様、すみませんでしたぁああああ!」


 ざわざわと他の貴族が驚きながら宰相を見ている。


 どういうことだろう?


 悪いものでも食べたのだろうか?


 宰相は土下座をしたまま、話し始めた。


「ルイス様は……ドラゴン並みの魔力とか、近衛騎士より強いとか色んな噂があり……私ことベーリックはそれを全て虚言と言いふらしてきました」


 ……いや、それはありがたい。


 あたしはか弱い乙女に憧れる。


 病室でこほこほと咳をして、イケメンに溺愛されて生きるのがあたしの憧れだ。


 近衛騎士より強かったりドラゴン並みの魔力であって溜まるか。


 だが現実は押し寄せてくる。


 目の前の、宰相だ。


「《土ぼこ》……見事な手際でした。これでこの国の食糧自給率は大幅改善……食料を輸入国から輸出国への転換が出来るかのような凄まじい変革です」


 宰相はばっと顔を上げる。


 その額からは血が流れ、目からは大粒の涙を流している。


「ルイス様、どうかハンス王子と結婚して下さい! 私の浅はかな考えが……貴方のような最高の女性を罵倒したとは、恥ずかしいことこの上ない!」


 ……最高の女性?


 あはは。


 それは、良い響きね。


 近衛騎士を倒した時、ローディア王国のアクヤ王子は「女のくせに男より強いなんて生意気な」とか言ってきたけど、このヘラ王国では違うのかしら?


 《土ボコ》で領地の畑を耕したら「女のくせに農場で働くなんて下品ですわ」と侍女長や政敵の娘に笑われたけど、このヘラ王国では違うのかしら・


 嬉しい。


 褒めてくれるなら……《土ぼこ》、頑張ろうかな?


「その……ルイス様、よろしければ我が領地の半分以上をお譲りします」


 流石に領地割譲は驚く。この宰相は、本気で言っているのだろうか?


「どうか、ヘラ王国を……嫌わないで下さい! もしも貴方が嫌いになって出て行けば……私は先祖にも子孫にも国民にも顔向けできません!」


「ベーリック宰相、顔を上げて下さい。領地の件はじっくり話し合いましょう。あたしは……貴方を許しますわ」


 ベーリック宰相はさらに望陀の涙を流す。


 泣き止んでくれると思ったのだが……。


「な、なんとお心の深い……ルイス様。私は貴方とハンス王子に一生の忠誠を誓います。子孫一同、感謝を……」


 ベーリック宰相は再び、あたしに向かって土下座をする。


 うーん。どうしたものか。


 あたしは困り顔でハンスを見ると、彼は肩をすくめてはにかむ。


 ……まぁ、認めてくれたから良しとしよう。


 こうして、あたしとハンスの婚約破棄が、破棄されることが決まった。


 そして突然、あたしの近くに、水晶を持ったローブを羽織る男性が現れた。


 宰相のすぐ傍にたったその男には見覚えがあった。


「あ、貴方……一週間前の」


 彼はローブをめくった。けっこうなイケメンの黒髪男性だった。


「いわれ無き噂をする者は、いつか土下座するでしょう……いわれ無き噂をしたベーリック宰相は、貴方に土下座した」


 ニヤリ、と彼は笑う。


「俺の予言は当たる」


 それを言いたかっただけなのだろう。彼はすたすたと帰っていった。


 ……確かに、予言は当たってはいる。


 ハンス王子がくっくと笑う。


 あたしが彼の方を見ると、実に嬉しそうだった。


「……ベーリック宰相。聞きましたよ? 俺とルイスの婚約、支持して下さいね? 可能なら……結婚後も」


「は、はい!」


 ベーリックは即答。


 そしてあたしとハンスは再び馬車で《土ぼこ》外遊に向かうのだった。





 馬車内。


「ハンス」


「何、ルイス姉さん」


「何で貴方……あたしを好きになってくれたの?」


「優秀な人、好きだから。姉さんは努力するし、困った人を助けるお人好し。好きにならないわけがない」


「でもあたし……女らしくないとこある」


「そこに悩むのは、女性だからだよ。本当に女らしくなければ、そこに悩まないはずだ」


 くすり、と目の前の男は笑う。


 その笑顔が、胸をくすぐる。


 ドクン。


 心臓が、彼の笑顔を喜んでいる。


 ……あたしの心は、もう決まってるようだ。


「ハンス」


「何?」


「あたしを好きになってくれたのがハンスで良かった」


「――」


 目の前のくっくと笑った顔が、恥ずかしそうに赤らむ。


 そこがとても可愛い。


 ……この人が義弟だったというのは、良い思い出だ。


「ルイス姉さん」


「何?」


 彼は恥ずかしそうに、照れながら俯いて言う。


「あまり、揶揄わないで」


「やだ。これから沢山……ハンスのこと、揶揄ってやるんだから。覚悟してね?」


「……」


 彼は顔を赤らめて、無言。恥ずかしい、と言うのが伝わってくる。


 だけどその感じが、どこか心地良い。


 あたしはくすくすと笑う。


 中天に達した太陽が、あたし達の行く先を照らす。


 ……目の前の彼の為に、《土ぼこ》でこの国を、豊かにしよう。


 あたしは内心、そう思うのだった。

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