EP18 合流
隼人と圭介は駆けこむように事務所に入ると、一直線に監視室を目指す。二人が戻ってきたことに気付いた美鶴は部屋を出て出迎えたが、彼らの表情を見て危機を改めて危機を悟った。美鶴を認めた圭介は急ぎ足で彼女に近づくと、焦りを一切隠さずに退避を促した。
「魔獣の群れが来る。早く逃げるんだ」
「えっ……!」
「どうやら君の念信に誘き寄せられてるみたいだ。まさかこんなことになるなんてね……」
苦虫を嚙み潰したような顔で告げる圭介の言葉に、美鶴の顔がみるみる青ざめていく。
「ごめんなさい、私が、私のせいで――」
「助かった」
「……え?」
「冬木のおかげで助かった。ありがとう」
震える声で謝った美鶴の言葉を遮るように、隼人が律儀に頭を下げて礼を言った。
突然のことに驚き慌てた美鶴が、頭を下げたままの隼人を見つめる。
「え……あの、そんな、顔を上げてください」
圭介が目を丸くして隼人に視線を注ぐ。普段、ぶっきらぼうな彼が頭を下げて礼を言うなど全くの予想外だった。
驚きのあまり、美鶴に対しての文句が喉の奥に引っ込んでしまう。
「隼人君……」
「秋山さん。冬木が念信を使うことになったのは、俺のせいだ」
「それに魔獣どもがここに集まって来るなら、余所に被害が出なくて済むだろう。順序は違ったかもしれないが、結果は同じだったはず。問題があるなら、俺を責めてくれ」
隼人は顔を上げると、圭介に向き直ってその顔をしっかりと見据えた。美鶴も隼人に倣うように圭介に向き直り、不安そうな表情のまま彼をじっと見つめる。
「秋山さん……長峰さんは悪くありません。私が、いけないんです」
二人にじっと見つめられた圭介は、額に手を当てて軽くため息を吐く。
「ああ、もう。参ったな、僕が悪者みたいじゃないか」
「……分かった、分かったよ。僕が悪かった。とにかく、今は奴らの襲撃に備えないと……」
「この事務所は対魔獣戦闘も考慮されてるけど、これほどの大群となると長くは保たない。美鶴ちゃんには増援が来るまでの間、倉庫の地下にあるシェルターに隠れていてもらいたい」
壁に貼られた敷地内の見取図を圭介が指差す。地下シェルターのある倉庫に向かうには、事務所から出て、駐車場や物資搬出用の通路を横切る必要があるようだ。
「ここなら、魔獣の群れが来ても対処できる」
「秋山さんと長峰さんは、どうするんですか?」
「僕らは葬魔士としての使命を果たす。奴らを倒し切るのは難しいだろうけど……時間稼ぎはできる」
「たった二人で戦うんですか……? 無茶ですよ、そんな」
不安そうに顔を曇らせる美鶴を見た圭介は、元気づけるように微笑むが、その笑みには作り物のような不自然さがあった。
「大丈夫、僕らがきっとなんとかする。そうだろう? 隼人君」
「ああ、任せておけ」
力強く答えた隼人の言葉に励まされたのか、圭介の微笑みからぎこちなさが消えた。やはりこの男も不安だったのだ、と美鶴は悟った。
「偽装拠点の敷地にもう相当量の瘴気が入り込んできている。ここに餓鬼が来るのも時間の問題だろう……その前に移動しよう。僕と隼人君で美鶴ちゃんを守りながら、瘴気の中を強行突破する」
金属の擦れる音を鳴らして、圭介は銃を背負い直す。音に釣られた隼人はその背中に視線を送ると、先の戦いで弾薬を消耗したことを思い出した。
「弾は足りるのか?」
「いや、補充が必要だ。隼人君も装備を整えないと、その刀だけじゃ戦えないでしょ?」
鞘からわずかに刀を抜いた隼人は、険しい表情を作る。柄を握った感触だけですぐに分かるほどにこの刀は傷みが生じていた。この具合では、後に控えている激戦にはとても持ち堪えられないだろう。
「そうだな。こいつだけじゃとても持たない」
「急いで装備を整えてまたここに集合しよう……三分だ。それ以上は待てない」
「分かった」
「美鶴ちゃん、僕についてきて。弾薬の補充を手伝ってほしい。もちろん、手順は説明するから心配しないで」
「はい、分かりました」
「それじゃ、また会おう、隼人君」
「ああ、すぐにな」
まるで明日会う約束をするような気軽さで、二人の葬魔士は踵を返す。銃と剣、互いに各々の装備を整えるため、二手に分かれた。




