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斬魔の剣士  作者: 織部改
第三章 深まる闇
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EP50 デブリーフィング:前編


 ――廃工場での戦闘から三日後。


 支部長室には、特戦班と第一小隊の面々が集まっていた。


「報告ご苦労。困難な任務をよく成し遂げてくれた」


 隼人たちの報告を受けた陽子は、満足げに微笑んでそう言った。


「牛頭山猛の大剣――鏖魔神斬剣も無事、回収できた。本部には後日引き渡すことになっている。が、それまではこちらでじっくりと調べさせてもらおう……ふふふ」


「父上と私が最後まで護衛についていれば、そも奪われることは……不覚の至りだ」


「輸送小隊には本部の護衛がついていた。引き渡した時点でこっちの責任じゃない」


 悔しげに拳を握った浅江を、隼人がフォローした。


「伏魔士なんて本当にいたんだな……俺、未だに信じらんないぜ。てか、言われなきゃ分かんねーな。普通の見た目だったし」


「翔君は、伏魔士を宇宙人か何かと勘違いしてたのかな」


 数日前の戦闘を思い出した翔がしみじみとした様子で語り、圭介は苦笑した。


「猟魔部隊の奴らは、伏魔士の動向を知っていたようだったが……」


「第四支部での戦闘後、彼らを追跡していたのだろう……猟犬らしくな。生け捕りにすれば、所在を吐かせることもできたが、惜しいことをした」


「……俺、猟魔部隊の奴らと同じことはしたくありません」


「俺もだ。あんなのと同じことをしろって言われたら、反吐が出るぜ」


 隼人の言葉に翔が同調すると、陽子は眉をぴくりと跳ね上げた。


「じゃあ出せ」


「えぇ……」


 陽子に突き放すような口調で言われた翔は、思わず仰け反った。


「冗談はともかく、不本意な命令も遂行しなくちゃいけないときだってあるんだ。それは二人も分かっているだろう」


「そりゃ、まぁ……」


「……はい」


 圭介に諫められた翔と隼人は、渋々といった様子で肯定した。そうして隼人は、思い詰めたように右手に視線を落として沈黙する。


「……」


「長峰、体はもう大丈夫なのか」


「え……あ、はい、大丈夫です」


 唐突に一希に尋ねられた隼人は、一瞬、言葉に詰まりながら返答した。


「支部に着いた途端、いきなりぶっ倒れたからな。びびったぜ」


「突然、倒れられた時はどうしようかと……」


「ふゆみん、めっちゃ悲鳴上げてたもんな」


「ま、松樹さん! 茶化さないでください。本当に心配したんですから……」


 翔にからかわれた美鶴は、困り顔をしながら横目で軽く睨んだ。


「安心したら、気が抜けた……すまない」


「ふむ、しかし今回は早めに退院できて幸いだな」


「あ、ああ……そうだな」


 右腕を使っていないからだ、という推測が隼人の脳裏をよぎった。入院にしても、意識を失っていた時間は半日ほどであり、残りは検査とその結果を待つために費やされたのだ。


「無事でよかった」


 そう言ったのは、ずっと黙っていた志穂だった。


「志穂、助かったよ。僕はまだ本調子じゃなかったから……」


「問題ない。師匠の分まで私が頑張る」


 力強く両手でぐっと拳を作った志穂を見て、隼人はふっと微笑んだ。


「頼もしい弟子だな、秋山さん」


「うん。これならいつ引退しても大丈夫かな」


 寂しげな表情でそう言った圭介を、隼人たちは思わず凝視した。


「え……」


「あ……あははは、冗談だよ、冗談。本気にしないでよ」


「秋山さんが言うと冗談に聞こえないんだよな……」


 笑って誤魔化した圭介を、隼人は横目で見た。


「志穂ちゃん、助けに来てくれてありがとうね。それと……ごめんなさい」


「……なんで謝るの?」


 美鶴に謝られた理由が分からない志穂は、きょとんとした顔で覗き込んだ。


「私が捕まったせいで、あなたに銃を撃たせてしまったから……」


「ふゆみんは悪くないだろ。こいつが悪い」


「ぐっ……ああ、そうだ。俺が悪い」


 翔に指を差された隼人は、気まずそうに肯定した。


「違う。美鶴に手を出したあいつが悪い。今度会ったら頭を撃つ」


「し、志穂ちゃん……」


 有無を言わせぬ口調の志穂に、美鶴は動揺した。


「師匠ならそうした」


「まぁ、僕だったらね」


「秋山さんまで……」


 志穂に同調した圭介に、美鶴は非難の目を向けた。


「元部下の教育不足は、私にも非があるな」


「そっか、金倉智己は竹見隊長の部下だったね」


「それってつまり……」


「ああ、私は元猟魔部隊だ」


「――!」


 事情を知らなかった美鶴は、驚愕に目を見開いた。


「金倉の前任で副隊長を務めていた」


「どうして第三支部に……?」


「命令違反で除隊処分になってな。暇を持て余していたところを支部長にスカウトされた」


「……」


 一瞬、一希の視線が隼人の方を向いたが、彼はそれに合わせようとしなかった。


「些事にこだわってお前のような貴重な戦力を手放すなんて私には信じられん」


「隊長が命令違反って……なぁ、この場合、どっちが正しいんだ」


「少なくとも私は後悔をしていない」


 腕を組んで頷いた一希を見て、陽子は呆れ顔を作った。


「竹見、お前は悪い隊長だな」


「恐縮です」


「私は褒めてないぞ」


 陽子は深い溜め息を吐き出して、一希に生暖かい視線を送った。


「なぁ、ふゆみん。俺さ……頑張ったよな?」


「は、はい。松樹さんのおかげで助かりました」


 ぐいと迫ってきた翔から距離を取りながら美鶴は答えた。


「じゃあさ、今夜……」


「駄目」


 美鶴と翔の間を割り込むように志穂が口を挟んだ。


「梅、なんでお前が出てくんだよ!」


「駄目だ」


 翔の後ろから隼人が突き刺すような口調で言った。


「隼人、お前もかよ!」


 志穂と隼人に続けて遮られた翔は、支部長の前であることを忘れて怒鳴り散らした。


「松樹、私の前でいい度胸だな」


「あ……す、すみません――!」


 陽子の鋭い眼光で睨まれた翔は、堪らず深々と頭を下げた。


「まぁいい。今日くらいは大目に見てやる」


「あれ……? 妙に優しいっすね」


 下げた頭をわずかに起こした翔は、陽子の顔色を恐る恐る窺った。


「ほう、そんなに罰が欲しいのか?」


「いやいや、そんな……俺が欲しいのは金と休みですよ」


「松樹、お主な……少しは遠慮というものをだな……」


 浅江は呆れ返った様子で翔に苦言を呈した。


「前者はともかく後者はくれてもいいぞ」


「へ……?」


 思いもしなかった言葉を耳にした翔は、呆気に取られた。


「ま、まさか首とか言わないっすよね……?」


「ふっ……」


 翔の言葉に笑みを浮かべた陽子だったが、すぐさまその表情を引き締めた。


「特戦班並びに第一小隊総員に告げる――」


 支部長である陽子の一言で、全員がその場で姿勢を正す。


「お前たちには明日から一週間の休暇を与える」


「お? おお……よっしゃ! 言ってみるもんだな! こうなったら遊び倒してやるぜ!」


 数秒の間を置いて陽子の言ったことが吞み込めた翔は、歓喜の声を上げた。


「ふむ……久々に茶屋に行くか」


「家に帰れるかな……あの夜からそのままだからお掃除したいな」


「美鶴の家、私も行きたい」


 予定をあれこれと口に出す翔たちを見て、隼人は額に手を当てた。


「正月や盆でもないのに……いいのか?」


「長峰、嫌ならいいんだぞ」


「はい、支部長。私、休み欲しいです」


 勢いよく手を上げた志穂は、目を輝かせてそう言った。


「ふっ……梅里は素直だな。いいことだ」


「やった。褒められた」


「隼人、せっかくの休みだぜ。ありがたくいただこうじゃねぇか」


「む……それもそうだな。鍛錬するか」


「おい、せっかくの休みがそれでいいのか……」


 隼人の言葉に翔は困惑した。


「お前たち……予定は外で立ててくれ。ほら、解散だ」


 そう言うと、陽子は隼人たちを追い出すようにひらひらと手を振った。


「よーし、じゃあ今夜はふゆみんの歓迎会だ!」


「え……?」


 翔の言葉に、美鶴は目を瞬かせた。


「だって、やってないだろ。歓迎会。みんな揃ってるし、ちょうどいいじゃねーか」


「そっか、まだだったね。美鶴ちゃんの歓迎会」


「もしかしてさっきのは……」


「おうよ。歓迎会をやろうって話よ」


「本当か……?」


「ふむ、怪しいな」


「信じてくれよぉ……」


 隼人と浅江に疑いの眼差しを向けられた翔は、がっくりと肩を落とす。


「いいんじゃないかな。ですよね、支部長?」


「ああ、私も参加しよう」


「おっと支部長のお墨付きか! こりゃ男、松樹翔、気合入れて仕切らせてもらいますぜ!」


 圭介の問いに首肯した陽子を見て、翔は俄然張り切った様子で自分の胸を叩いた。


「羽目を外し過ぎるなよ、松樹」


「了解です!」


「ははは……」


 忠告をまるで聞いていない翔に、一希は苦笑いした。


「あの、いいんですか……歓迎会だなんて」


「もちろんだ。なぁ、隼人?」


「ああ」


 翔に視線を向けられた隼人は、はっきりと頷いた。


「……美鶴は嫌なの?」


「え、そんなことは……」


「私、美鶴が来てくれて嬉しいよ。お姉ちゃんが増えたみたいで嬉しかった」


「志穂ちゃん……」


 素直に心情を吐露した志穂に、美鶴の心は揺れた。


「冬木はもう、第三支部の一員だ。今回だって隼人はお主に助けられたのだろう?」


「そうだな。冬木に助けられなかったら、俺はここにいない」


「御堂さん、長峰さん……」


 浅江と隼人の言葉を聞いて、美鶴の胸に熱いものが込み上げる。


「そういうことだ。俺たちは冬木を歓迎する」


「はい……!」


 隼人たち特戦班と第一小隊、そして陽子の温かい視線を一身に受けた美鶴は、涙で目を潤ませながら返事をした。


「そうと決まればさっさと食堂に行こうぜ! 今日は貸し切りだ!」


「え、そんな勝手に……」


「大丈夫だって。虎西さんたち、いい人だから」


「虎西さん……? どこかで聞いたような……?」


「美鶴、早く」


「あ、ちょっと引っ張らないで……!」


 支部長室から出ていく翔に、志穂と美鶴。そして浅江と隼人がその後に続いて部屋を出ようとしたが、圭介が足を止めたままであることに気付いて、隼人は振り返った。


「秋山さん……? 行かないのか」


「僕と竹見隊長は、支部長と話があってね。後から合流するよ」


 圭介が隣にいる一希に視線を送ると、彼はゆっくりと頷いた。


「長峰、すまないが松樹の奴が暴走しないよう、監視を頼む」


「承知しました。それでは失礼します」


 軽く礼をした隼人は、浅江とともに外に出ると、支部長室の扉を閉めた。



斬魔の剣士をご愛読いただき、ありがとうございます。作者の織部です。

長くなってしまいましたが、第三章はあと残り一話です。

なるべく間を開けずに投稿しますので、どうぞよろしくお願いします。

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