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斬魔の剣士  作者: 織部改
第三章 深まる闇
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EP37 SixcaliburⅡ

 武器を構えて睨み合う葬魔士と伏魔士。戦況は再び停滞していた。


「今度は、こちらから仕掛ける」


 対魔刀を持ち替えた隼人は、その刃を峰側から口で咥え、空いた諸手で両腿の短剣を抜いて逆手に持つ。そうして両腕を眼前で交差させ、片足を引いた。


『タイミングは任せる。準備ができたら、念信を放ってくれ』


 後方にいる美鶴に、隼人は振り返らずに念信で伝えた。


「分かりました」


 深呼吸をした美鶴は、祈るように指を組み、目を閉じた。


「ぬぅ……」


 美鶴が念信を使おうとしていることに気付いた誠太は、彼女を警戒した。だが、彼女の波長を捉えていないため、適切な対抗手段が見出せずにいた。


「また突っ込んでくるつもり? 芸が無いわね」


 両脚に力を込めて前傾姿勢で構えた隼人を見て、その意図を読んだ優季は、鼻で笑った。


「ああ、俺にはこれしかないんでな――!」


 隼人はそう言うと、交差した腕を振り抜いて両手の短剣を同時に投擲した。


 伏魔士の少女に向かって一直線に飛ぶ二本の短剣。その進路上には、老朽化のため崩落していた天井の隙間から差す小さな日溜まりがあった。


 そうして一瞬、日溜まりを通り抜けた凶器は、日光を反射して目を眩ませるほどに白く輝いた。


 弾丸じみた高速投擲。だが、飛翔する短剣は、速度こそ速いものの、日光を反射したせいでその弾道を読むことは容易だった。


「そんなの、当たると思う? ……え?」


 余裕の表情でひらりと右方に身を躱した優季は、すぐさま異常に気付いた。彼女の間近を通り過ぎるはずの短剣が、一本しか通り過ぎなかったのだ。


「いや、当てるつもりはない」


 短剣に視線が釘付けになった瞬間、そんな声が優季の背後から聞こえた。


「――!」


 その声は、優季が背にした柱の方から届いた。そこには柱を蹴って優季に迫る隼人がいた。


「投げた短剣より速く動いたか……!」


 信じられない光景を目にした誠太は、驚愕を声に出した。投げた短剣の片方を空中で掴み取った隼人が、優季の背後に回り込んでいたのだ。そのあまりの早業は、状況を俯瞰していた誠太でさえ、見逃してしまっていた。


「けど――!」


 素早く振り返った彼女は、後頭部目掛けて振り下ろされた短剣の柄頭を、交差させた穿刃剣で防いだ。


「残念でした」


 背後からの奇襲を、優季は知っていたかのように正確に防いでいた。


 目で追ったわけではなく、これから放たれる攻撃に遅れまいとする動き。それを見て、隼人はある確信を得た。


「やっと分かった。お前が読んでるのは、俺の太刀筋じゃない。俺の行動だな」


 対魔刀を振り下ろし、さらなる追撃を放つも易々と躱された隼人は、彼から距離を取った伏魔士の少女を見据えて指摘した。


「ちょっと違うわね。正確には、あんたの心よ」


「読心だと……!」


 優季の言葉を聞いた隼人は、額から冷たい汗を垂らした。


「そう。私の念信は、相手の心を読む読心の特性よ」


「道理で見えてないのに防げるわけだ」


「分かった? いくらやってもあんたの攻撃は無駄なの」


 ふふん、と自慢げな表情を浮かべた優季は、人差し指をぴんと立てて振ってみせる。


「そうか……なら、これも防いでみろ」


 挑発的な口調でそう言った隼人は、驚異的な加速で一気に距離を詰めた。剣を担ぐように構えて突進するその動きは、斬魔一閃のそれだ。


 だが、彼は今、左手に短剣、右手に対魔刀という両手に異なる得物を握っている。


 そして彼が放つ気迫は、触れれば切れる刃のように、鋭く研ぎ澄まされていた。その威圧感は、これまでの剣技の比ではない。


「二刀流――」


 隼人の心を読んだ優季は、その後に告げられる剣技の名を知った。そして同時にその剣技は、自身の技量では、到底防ぎきれないことを理解した。


『やばっ、権田さん――!』


 音よりも速い思念の声で、優季は危機を伝えた。


『守壁顕現!』


 響き渡る思念の声。その命に従い、半透明の壁が二人を遮るように具現化する。それはまさに隼人の剣技が放たれる直前だった。


「斬魔六門殲――!」


 倍の手数で放たれる超高速六連続斬撃。それは精度を放棄した荒れ狂う斬撃の嵐だった。あまりに短い間隔で振るわれるその剣速は、一二の斬撃音が一つに繋がって聞こえるほどだった。


 常人では防御ごと切り崩される速度と手数、そして威力。


 それらを以てしてもなお、半透明の壁は健在であり、衝撃を余さず受け止めたことで地鳴りじみた激しい振動を引き起こした。


「ちっ……もっと威力がないと、この壁は突破できないか」


 表面にわずかな傷が入っただけで未だ屹立する半透明の壁を睨んだ隼人は、思わず舌打ちをした。


 そうして突進を遮られ、攻撃を防がれた彼を狙って左方から黒い矢が飛来する。


「っ……! 油断も隙もない」


 半透明の壁を蹴って後方に宙返りした隼人は、空中で身を捻って着地した。


「私に構ってばかりでいいの?」


 優季の言葉が終わると同時に、先と同じ方向から二の矢が飛来する。その標的は、念信を使おうと集中力を高めている美鶴だった。


「させるか――!」


 そう叫んだ隼人は、振り向きざまに左手に握った短剣を投擲し、黒い矢にぶつけて弾道を変えた。


「なっ……!」


 顔の間近で金属音を耳にした美鶴は、驚いて目を開けてしまった。


「冬木、大丈夫だ。何があっても念信に集中してくれ」


「は、はい……!」


 緊張した声で答えた美鶴は、再び集中力を高めようと、目を瞑った。


「女の前だからってかっこつけちゃってさぁ――!」


 無防備な隼人の頭部を狙って、優季は両手の穿刃剣を振りかぶった。


 隼人は迫りくる刃を意に介さず、立ち止まったまま振り向く。そうして優季と視線の合った彼の目は、どこか拗ねた子どものような目をしていた。


「あんたが防御するのは知ってるわよ!」


 心を読んで隼人の行動を先読みした優季は、獰猛な笑みを浮かべて双剣を振り下ろす。防御を崩し、無防備になった彼に止めの一撃を叩き込む。それが彼女の策だった。


 ここぞとばかりに放たれる双刃双砕。餓鬼の頭蓋を容易く砕くその一撃を、隼人は左腕で受け止めた。


「は……?」


 手の平を優季に向け、わざと腕の内側を斬らせたことで、裂けた動脈から鮮血が噴き出す。まさか刀ではなく生身の左腕で防御すると思っていなかった優季は、思考が白紙になる。


「ぐっ……」


 奥歯を噛んで激痛を耐えた隼人は、鮮血の滴る左腕を大きく振るい、優季の目に血液を飛ばした。


「なっ、血で目潰しなんて……!」


「防ぐことは読めていても、その先は読めなかったようだな! 自身の能力を過信して油断する。それがお前の弱点だ!」


 腕組みをするように、彼女の左腕に自身の左腕を絡めた隼人は、力任せに放り投げた。


「これじゃ、受け身が……」


「いかん……」


 目が見えなくなり、受け身をまともに取れないであろう優季を、誠太は慌てて受け止めた。


「長峰さん!」


 後方から美鶴の叫ぶ声が聞こえた。念信の準備が整ったのだ、と彼は理解した。


「頼む!」


 誠太たちを援護するためか。再び飛来した黒い矢を刀で弾きながら、隼人は叫んで返した。


「……」


 左手を首元のチョーカーに添えた美鶴は、右手を前方に突き出して、意識を集中させた。


『我が目を欺きし者、その姿を現しなさい』


 そして放たれる思念の声。凛とした響きが、吹き渡る風のように空間を駆け抜ける。すると、先ほどまで誰もいなかった場所に、弓を持った一人の男が姿を現した。それは果たしてあの黒い矢――禁門の矢が飛来した方向と一致していた。


「なっ、俺の隠蔽の念信が打ち消された……!?」


 隠蔽の念信によって姿を隠していた安治部修は、突如自身の念信が打ち消され、その姿が露わになったことに動揺した。


 伏魔士の少女は目を封じられ、誠太は彼女を受け止めたことで動けない。そして狙撃手は、泡を食っている。その好機を捉えて、疾風のように隼人が駆ける。


「やっと見つけた。今までの借りを返してやる」


 左腕から真っ赤な血を撒き散らしながら、突っ込んでくる隼人の姿は、まさしく修羅のそれであった。


「ひっ……!」


 恐怖に震える手で弓を構えた修は、まともに狙いを定めずに矢を連射する。その悉くを対魔刀で弾いた隼人は、突進の勢いのまま、飛び蹴りを放った。


「がはっ……」


 驚異的な加速を生み出す脚力から繰り出される超高速の飛び蹴り。それをまともに胸部に叩き込まれた修は、彼の遥か後方にあった柱まで吹っ飛ばされた。




いつも斬魔の剣士をご愛読いただきありがとうございます。

更新が遅くて申し訳ありません。

さて、今回のタイトルはある洋楽から拝借しています。この場をお借りして御礼申し上げます。

なんでいきなりⅡなの? と思われるかもしれませんが、二刀流で六門殲を使ったからです。

通常の六門殲なら、Ⅱは付きません。

技名って結構難しいですよね……これ、いいじゃん! って思っても既にあったり……

実は六門殲の英語名を考えていて、検索してヒットしたのが、その洋楽だったりします。がっくし。

でも、アガるいい曲を知ることができたので、結果オーライです。

ちなみに四重葬は、カルテットスラッシュです。被りが怖くて検索できません。

ところで、今後の展開ですが、まだバトルが続きます。バトル後はどこまでを三章にするかちょっと悩んでいます。

まとまったら、また投稿しますので、気長にお待ちいただけると幸いです。

それでは失礼します。

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