咲く花散る花 8
それから一週間が経過し、決戦の日が来た。
身体中がどくどくと脈を打ち、全身の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出して止まらない。これほどまでに緊張するのは入試の期間以来だろうか。陶香は少しでも気持ちを落ち着けたい一心で大きく深呼吸をした。
4時50分になったところで、控室を出る。後ろ手にドアを閉ざす際に考えていたのは、次この部屋に戻って来るときには既に勝負がついているのだということ。
短い廊下を渡った先、観音開きの扉を開けると一面に広がっているのは、戦が行われるアリーナである。
広い。想像以上に広い。ホームページの写真では見たことがあったが、生で見ると迫力が違う。
全体としてはドーム型の建物になっており、楕円形のフィールドを観客席がぐるりと取り囲んでいる。三百人は優に収容できるようになっていて、この学園の生徒なら自由に観覧できるらしいが、今は誰もいない。見上げると、天井はガラス張りで夕日が燦々と差しこんでいる。
陶香は少し気後れしながら、一人ぽつんと立っていた。
フィールドの広さに比べたら陶香の存在感などちっぽけなものである。かろうじて、身に纏った戦用の戦闘服だけが迫力を醸し出しているだけで。
一人一着ずつ用意された戦闘服は特殊な素材で作られており、相手の攻撃を受けるたびにダメージが身体に与えられる仕組みになっているらしい。そのダメージというのも服を着ている間だけらしく、人体の健康を害するものではないのだという。
とはいえども、まだ陶香は戦というものを知らない。受けるダメージがどの程度のものなのか予想もつかない。
(大丈夫)
怖気付きそうになった自身を奮い立たせるように強く言い聞かせる。
こんなところで負けるわけにはいかない。
鷲が翼を広げるように、向かい側の扉がゆっくりと開いていく。固唾を飲んで見守っていると、扉の奥から今回の対戦相手である千波凪が姿を現した。
(凪……なのよね?)
一瞬、別人なのかと思い、目を擦る。
陶香の前に現れた凪であろう少女は今まで見たことのないような攻撃的な形相を湛えていた。
(本気だ……あの子、本気の目をしてる……)
思わず唾を飲む。びりりと迸る殺気を前にして、陶香はただただ慄いていた。